In Deep

地球最期のニュースと資料

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海はさらに死に続けている : 拡大が止まらない米国メキシコ湾の死の海域「デッドゾーン」が過去最大の面積に。そして原油流出の年に発せられていた専門家たちの警告を思い出す

   

2017年8月2日の報道より

gulfhypoxia.net

アメリカ南部の海域に広がるメキシコ湾は、もともとは豊富な海洋生物たちのパラダイスでしたが、2010年にこのメキシコ湾で大規模な原油流出(2010年メキシコ湾原油流出事故)が発生して以来、やや状況が変わりました。

その後のメキシコ湾では、「デッドゾーン」と呼ばれる、酸素が欠乏しているために海洋生物の住めない海域がどんどん拡大する傾向にありました。

そして、今年 2017年の夏、ついに「デッドゾーンが過去最大の面積に拡大」したことが、ルイジアナ大学海洋コンソーシアム(LUMCON)の科学者たちによって発表されました。

もちろん、デッドゾーンのとどまらない拡大が、2010年の原油流出と関係があるのかどうかの因果関係は今でも語られてはいませんが、過去の資料などを振り返り、少しご紹介させていただきます。

そして、他のさまざまな海域含めて、いかに世界の海が死んできているかを再度認識したいと思いました。

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この7年間でメキシコ湾のデッドゾーンは2倍へと拡大

さて、そのメキシコ湾の現在のデッドゾーンの面積ですが、今年8月には 8,776平方マイル(約 22,800平方キロメートル)にまで拡大したと報じられています。

これがどのくらいの増加を示しているかといいますと、過去5年間の平均は、約 5,806平方マイル(約15,000平方キロメートル)ですから、大ざっぱに平方キロメートルの比較をすると「1万5000 平方km → 2万3000 平方km」という推移をしていることになります。しかし、後述しますが、2010年以前はそれよりさらにデッドゾーンの面積は小さなものでした。

メキシコ湾の現在のデッドゾーン(赤い部分が最も酸素が欠乏した海域)

gulfhypoxia.net

この場所は、アメリカ全体の地図で示しますと、下の黒で囲んだ場所になります。

・Google Map

 

このあたりは、2010年の原油流出の現場そのものでもあるのですが、その時のメキシコ湾の海面は下のような状況でした。

黒いのは海に漂う原油です。

2010年6月22日 NASAの人工衛星が撮影したメキシコ湾

・NASA

この頃には、メキシコ湾の原油流出現場で「通常の 100万倍の量のメタンガス」が測定されるということがありました。

これは、こちらの記事でご紹介したことがありましたが、その中に以下の記述があります。

テキサスA&M大学の海洋学教授ジョン・ケスラー博士のチームは、流出現場である BP 油井の周辺の半径8キロ内で、海の表面と深層水の両方の測定を行なった。

「そこには信じられない量のメタンがあった」と、ケスラー教授は電話での取材で記者に語った。

調査チームの12人の科学者たちは、いくつかの海域では通常の 10万倍を上回る濃度であることを発見した。「さらに、一部の海域では、通常の100万倍に迫る濃度であることも我々は確認した」と、ケスラー教授は言う。

「いくつかの水域では、自然の状態に比べて最大で30パーセントの酸素の減少が見られた。 他の水域では、酸素の減少はまったくなかった。我々はこの理由を明らかにする必要がある」

メタン自体はもともと自然の海水の中でも発生しているものだ。しかし、そのメタン濃度が極度に高くなった場合には酸素を消費する微生物が大量に発生し、他の海洋生物たちに必要である酸素を使い尽くしてしまい、海洋生物は生きられない環境となる場合がある。

 

海には高い自浄能力があるとはいえ、汚染の範囲と度合いが極めて高かったせいと、原油を分解するために撒かれた石油分解剤のコレキシット( Corexit )が、海に相当なダメージを与えたことは事実のようです。

また、その 2010年の際に、In Deep で「メキシコ湾のデッドゾーン化」は警告されていたことをご紹介したこともありました。

2010年6月29日のIn Deepより
In Deep

そのご紹介した記事の部分を抜粋しておきたいと思います。

なお、一般的にデッドゾーンが作られる原因の多くは、農業廃水が過度に海に流れ込むことにあります。つまり、原油流出が起きる前から、海へ流れ込む農業排水によるメキシコ湾のデッドゾーン化は進んでいたのですが、そこに原油流出が加わったというような感じかもしれません。

記事には、この 2010年の際のデッドゾーン面積が「 12,500 平方キロメートル 」と書かれてありますが、現在 23,000 平方キロメートルに近づいているわけですので、7年間で「倍増」したことになります。

専門家が警告するメキシコ湾の「死の海域」化

新華社 2010/06/29

ミシガン大学の水生生態学教授ドナルド・スカヴィア氏らの研究グループによると、今年のメキシコ湾の「デッドゾーン」は、通常年の平均よりかなり大きくなると予測され、また、6億 5900万ドル(約 7300億円)にのぼる米国の漁業生産を今後数十年に渡って脅かす可能性があるという。

米国立海洋大気局(NOAA)から発表された 2010年の予測によると、メキシコ湾の今年のデッドゾーンは 6,500 ~ 7,800 平方マイル( 10,500 ~ 12,500 平方キロメートル)の広さに及び、これはオンタリオ湖の面積と等しいほどとなる。

研究グループの描くもっとも可能性のあるシナリオは、メキシコ湾で酸素欠乏状態か、あるいは低酸素状態になるであろうデッドゾーンの広さは今年 6564 平方マイル(17,000平方キロメートル)となるとされ、これはメキシコ湾でのデッドゾーンの規模の記録としては10番目になるという。

数多くの要因が働いているので、原油流出が今年のメキシコ湾でのデッドゾーンのサイズにどの程度影響するのかはっきりしないと研究者たちは言う。

「今後どうなるのかよくわからない。しかし、ただひとつ明かな事実があり、それは、この夏の低酸素と有毒な原油の組み合わせは大量死を招き、魚類の産卵と魚類の健康回復に重大な影響を及ぼすだろうということだ。これにより、水産業とフィッシングなどの娯楽産業において大幅な経済の減少を招く可能性が高いと思われる」とスカヴィア氏は語る。

 

ここまでです。

これに関しては、専門家たちの懸念の予測は年を追うごとに現実化してきているようで、おそらくは、今後もデッドゾーンが減少するという可能性は、少なくとも近いうちにはあり得ないと思われます。

アメリカ周辺の海がどんどん死んでいっているという事実は、数値でも、事象(大量死の増加など)でも顕著となっています。

ちなみに、2016年くらいまでに、アメリカ周辺の海域で起きていた様々な異変については、特に大量死について、

どうやら死につつある太平洋
 2016/11/13

という記事でご紹介したことがあります。そこでは下の図を載せました。

2015年から2016年に米国周辺の海域で発生した大量死

・Google Map

 

もちろん、今回取りあげたメキシコ湾でも、デッドゾーンの拡大に伴って 2010年以来、繰り返し大規模な大量死が起きていまして、「アメリカ周辺の海域は、文字通り、死の海となりつつあるということがいえるのかもしれません。

そして、海の異常が拡大しているその根本的な原因は何であるかはわからないにしても、「世界の海はつながっている(ひとつの海域で起きたことは他の海域に影響する)」という大きな事実があります。

 

 

海は死に続けている

世界の海にはすべて小さな海流が存在し、そして「小さな海流から大きな海流」へとつながり、大ざっぱにいえば、結局はすべての海を循環していると考えて構わないと思います。

世界の海の主要な海流

海流

ですので、ひとつの海域がダメージを受けている場合、その原因にもよるだろうとはいえ、「時間をかけて世界のすべての海に多少は影響する」というようなことも言えそうな気がします。

 

現在、年を追うごとに全世界の海の問題は大きくなっていますが、ここに希望がないのは、少なくとも最近において、

「良くなっていく年がない」

ということです。

それは、生き物の状況などの推移を見ていればわかります。

たとえば、サンゴ。

世界最大の珊瑚礁があるオーストラリアのグレートバリアリーフで、サンゴたちに大規模な白化が進んでいるのは有名ですが「昨年より今年のほうが悪くなって」います。

サンゴの白化とは、その状態が改善しない場合、そのまま大量死から、「珊瑚礁が消える」ことに結びつきますが、今のところ改善していません。

そのことは、

世界最大のサンゴ礁グレート・バリア・リーフの「大規模な白化」が2年連続で発生していることが確認される
 地球の記録 2017/03/13

という記事でも書いたことがあります。

他にも、ベトナムの珊瑚礁でも大規模な白化が起きていたり、あるいは、日本最大の珊瑚礁である「石西礁湖」も9割が白化していて、全滅の危機にあります。

サンゴと海藻が全滅に向かい続ける「地球の海」の近い未来
2016/06/20

2016年8月2日のユーロニュース「日本のサンゴが死につつある」より

euronews.com

 

オーストラリア、ベトナム、そして日本は、それぞれかなり異なった場所ですが、同じような「サンゴの消滅」の危機の渦中にあります。

それぞれの白化に共通しているのは「海水温度の異常な高さ」ということでしょうが、なぜ海水温が近年異常に高くなっているのかを答えられる人はいません。これについて、今の科学と気象学では説明できないのです。

しかし、たとえば、太平洋で「海底からメタンが大量に噴出している」ことが判明していることを、

太平洋が爆発する? あるいは地球の海がデッドゾーンと化す?: 海水温度の上昇で膨大な量のメタンが太平洋の海底から噴出している
 2014/12/15

という記事でご紹介したりしたことがあったり、あるいは、海水温度の異常な上昇は「海底火山の活動が活溌化しているからだ」という理論を、今年、ペルーの科学者が発表したことを、

気候はどこまで荒れるのか…… : 「超モンスター級」エルニーニョの出現の現実化。そして、ペルーの科学者は、「エルニーニョは海底火山の活動が原因で、それは惑星と太陽からの影響に起因している」と語った
 2017/04/10

という記事でご紹介したり、と、いろいろな説や主張はあります。

いろいろある主張の中に「正しいもの」も含まれてはいるのかもしれません。

しかし、いずれの説が正しいにしても、そうでないにしても、今現在、

「海の状態の極端な変化は、ますます増大し続けていて、それを止めることは誰にもできない」

ということは言えそうなのです。

つまり、正しい科学的な説や主張があったとしても「海の死を止める手段がない」というのが現実です。

世界の海がこの先どうなるのかという予測も誰にもできないでしょうが、世界の多くの科学者たちの考えの主流は、

「今後さらに海の状態は悪化する」

という懸念のほうにあるように思われます。

今回はメキシコ湾でものすごいペースで拡大している「死の海」について取りあげましたが、これは他の多くの海域でも同じだと思います。

特に情報がブラックボックスになりやすい中国周辺などの海域は、すさまじいことになっている可能性もあります。

そして、先ほど書きましたように、地球の海流は「時間がかかっても、その影響をすべての海にくまなく伝達する役割」を持っていますから、時間はかかったとしても、世界の海すべてが、メキシコ湾のようなデッドゾーン化していく時はいつかは訪れるのではないかと。

あるいは、もうそうなりつつあるのではないかと。