In Deep

地球最期のニュースと資料

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バクテリアが人類に勝利した日:「最終救済薬コリスチン」を含めた「すべての抗生物質が無効」のウルトラ耐性菌が猛スピードで全世界に拡大している

      2015/12/08

2015年12月7日の報道より

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抗生物質「終焉の日」

In Deep の前身ブログ、クレアなひとときの「スーパーバクテリアの登場」という記事で、抗生物質に耐性を持つスーパー耐性菌のことを取り上げたアメリカのロイターの記事をご紹介したのは 2010年8月のことでした。それから、すでに、それから5年以上経とうとしています。

その時は、最強クラスの抗生物質などに対しても耐性を持つ細菌を作り出す「 NDM-1 」と呼ばれる遺伝子の登場のことをご紹介しました。

その記事では、カナダのカルガリー大学のヨハン・ピッタウト氏という医学者が、

「もし、この新しく出現した衛生上の脅威を無視したなら、遅かれ早かれ、医学界はカルバペネム系抗生物質に耐性をもつ細菌との対決に晒される。それらは、様々な感染症を引き起こし、結果として、医療コストの膨大な増加によって治療不能の状態に導かれる可能性がある」

と、医学誌ランセットに記したことが取り上げられていました。

今回の記事は、この、

> 遅かれ早かれ、医学界は抗生物質に耐性をもつ細菌との対決に晒される

という戦いに「医学界が負けた」ということに関しての報道です。

また、上の医学者の言葉にあります、

> 結果として、治療不能の状態に導かれる可能性

という表現は、簡単にいえば、「近代医療の崩壊」と同義ともいえますが、この兆しを感じさせるものでもあります。

たとえば、手術やさまざまな外科的治療が簡単に行えているのも、抗生物質のお陰であることに他ならないわけで、抗生物質の登場前は、どんな簡単な手術でも、その後の感染症などで危険に陥ることもよくあったと思われます。

日本の手術などで、いつから抗生物質が使われるようになったのか、はっきりとした年代はわからないですが、少なくとも戦後のように思います。

そして、これはたとえばの例ですが、戦前の昭和 11年から、戦後の昭和 36年までの 25年間の「帝王切開」1238例の母親と赤ちゃんの予後を比べた「最近25年間における帝王切開分娩時の母, 児死亡率, 術後合併症の変遷」という資料があり、それによれば、以下のようになります。

帝王切開の母体の死亡率の変遷

・戦前の昭和 11年〜 16年の 6年間の母体死亡率 9.52%

・戦後の昭和 31年〜 36年の 6年間の母体死亡率 1.47%

と、戦前から戦後で、著しく安全性が増したことが読み取れます。

もちろん、母体が亡くなってしまう理由は抗生物質と関係しているものだけではないことは確かでしょうが、戦前の期間の母体死亡率は、戦後の期間の、「6倍以上」というのは、かなりのものではないでしょうか。

ちなみに、今現在の死亡率に関しては、はっきりとした数字は見いだせませんが、出産全体に際しての母体の死亡率に関しては、ユニセフの2005年の資料では、日本の妊娠・出産での死亡率は「 6000人に 1人」となっていまして、これは、率にすると、約 0.0017%です。

帝王切開 – Wikipedia には、

> 手術方法の完成により、帝王切開そのもので死亡する妊婦はほとんどないが、それでも母体死亡率は経膣分娩の4倍から10倍とされている。

とありますので、この最大の 10倍だとしても、

・現在の日本の帝王切開での母体の死亡率は 0.017%

と、昭和 30年代の「 80倍」安全になっていて、昭和10年代と比較しますと、実に「 950倍」安全になったということもいえるかと思います。

これは言い方を変えますと、以下のようになります。

10000人が帝王切開を受けたとした場合に何人が亡くなる計算か

・昭和 10年代は 952人が亡くなった

・昭和 30年代は 147人が亡くなった

・現在は 1人、あるいは最大で 2名が亡くなる

ということで、この例だけ見ても、日本の外科的な医学施術の安全性は、信じられないほど向上したということが言えます。

 

しかし・・・。

 

帝王切開はともかとくして、このような近代医療の「細菌との戦い」において、感染症などの安全性の根幹を支えているものは、ほぼ「抗生物質だけ」だったわけです。

つまり、近代医療というものは、抗生剤が効かない時代には崩壊するものであることは疑いのない部分はあるように思います。

そして、先ほどの、カルガリー大学の医学者が、

「遅かれ早かれ、医学界は耐性菌との対決に晒される」

と言ってから5年経った今、この「耐性菌」の問題はどうなっているのか。

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新しい耐性菌は登場するたびに強くなって現れる

耐性菌の問題のニュースは最近は頻繁に報じられるようになり、つい最近も、NHK のクローズアップ現代で取り上げられていました。

治る病気が治らない!? ~抗生物質クライシス~

クローズアップ現代 2015/11/17

細菌感染の治療に欠かせない抗生物質。新薬の開発が滞る中、「最後の切り札」的存在の抗生物質まで効かない耐性菌が登場し、使える薬がなくなるという危機感が高まっている。

中耳炎では、耐性菌により治りにくい患者が増加。NICUでは、母親が知らずに持っていた耐性菌が母子感染し、新生児が亡くなるケースも起きている。

特に警戒されているのが、CREという腸内細菌の耐性菌。腸内に保菌しているだけでは無害だが、血液中に入って炎症を起こすと、使える薬がほとんどなく、世界中で死者が出ている。日本には少ないと考えられていたが、初めての全国調査により、この1年で1700人以上の感染者がいたことが明らかになった。

というもので、2014年には WHO は、

「このままでは近代医療が成り立たなくなる」

と警告したことは、

「数千万人の死」という言葉に違和感を感じないアメリカという国のイメージ。そして、戦争や耐性菌の蔓延にさえ思う「犠牲」というキーワード
 2014/05/02

という記事で取り上げたことがありました。

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▲ その報告が発表された2014年4月30日の WHO ウェブサイトより。

 

スーパー耐性菌 NDM-1 が登場して5年にして、今、「近代医療の崩壊」という言葉が、まったく絵空事でも何でもないところにまで来ているようです。

実際、WHO は、「 2050年までに、全世界で、累積 1,000万人が、耐性菌によって死亡する」と予測しています。

下は、2050年の1年間だけの耐性菌による死者数の推測です。

who-antimicrobias薬剤耐性菌 世界で拡大

 

この 2050年あたりですと、日本も含めて、主要国は、どこかしこも「超少子高齢化」の上に「超認知症率の高い時代」となっていることが確実視されていまして、それに加えて、世界中で「抗生物質の効かない細菌が蔓延する」ということもプラスされた未来になりそうです。

 

そして、ついに登場した「近代医学史上最強の MCR-1」

そんな中、スーパー耐性菌「 MCR-1 」というものが登場したのであります。

それは冒頭のように、「黙示録的なスーパー耐性菌」という表現で示されているようなもので、「現在最強の抗生剤」を含め、あらゆる抗生物質に耐性を持ちます。

今回は、冒頭の記事をご紹介したいと思います。

なお、この「 MCR-1 」のスゴさは、その強力さだけではなく、「拡散の早さ」にもあります。

ほんの数週間ほど前に、はじめて中国で見つかったのですが、その後すぐに、デンマークで発見されました。

そして、ドイツから輸入された家禽類からも見つかっているあたり、ヨーロッパには、すでにこの MCR-1 が定着している可能性が強いのです。

下は、中国で見つかった時の THP の記事です。

最強の抗生物質でも殺せない細菌、中国で発見される 世界に広まるのか

THP 2015/12/04

コリスチンは、毒性の強い大腸菌と肺炎菌を殺すための「最後の砦」と言われる強力な抗生物質だ。ところが、このコリスチンに対して耐性を持つ細菌が発見された。

イギリスの医学雑誌「The Lancet Infectious Diseases(ランセット・感染症)」に11月19日に掲載されたレポートによれば、これは突然変異した細菌で「MCR-1」という遺伝子を持つ。初めに中国の養豚場で発見され、その後、生肉(豚)と人間からも発見された。

現在MCR-1は中国国内でしか発見されていないが、コリスチンの使い過ぎを止めなけれはどんどん広まるだろうと科学者たちは警告している。

「我々をこの問題を訴え続け、政府が動きを起こすよう働きかけなければいけません。さもなくば、増え続ける患者に対して『申し訳ありませんが、あなたの感染症を治療する薬はありません』と言わなければならなくなるでしょう」

ここに出てくる「コリスチン」というものは、動物への抗生物質として、長く使われていたのですが、今年になり、人間にも、「抗生物質の最終救済薬」として発売されました。

つまり、「最後の砦」の効果も破られた可能性が高いのです。

下は、今年5月の日経メディカルの記事からです。

オルドレブ:既薬無効な感染症への最終救済薬

日経メディカル 215/05/08

【新薬】コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム

2015年3月26日、ポリペプチド系抗菌薬コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(商品名オルドレブ点滴静注用150mg)の製造販売が承認された。(略)

本製剤は、既存の薬剤では期待できない感染症に対する最終救済薬と評価されている。

しかし、副作用の発現など過去の経緯などから、薬剤使用に関しては適応する感染症や患者の選択、さらに投与中の患者の状態観察を定期的に行う必要がある。

この「最終」救済薬も、登場から8ヶ月で無力化してしまったことになります。

今や耐性菌の進化のスピードは、人間の開発能力を完全に凌駕しているようです。

そして、5年前のクレアを書いた時に、「これは実はかなりまずいことが進行しているのでは」とは思っていましたが、予想以上の破壊力を持って、事態は進んでいるようです。

 

でも、個人的には、このことに対処する術がない「とは思いません」

耐性菌に勝つという意味ではなく、そのお世話にならない方法は考え得ると思えています。

人間の細菌感染の仕組み(白血球の働き)を理解すれば、完全には無理にしても、多少の部分では防御できるのではないかとも思います。そのことについては、多少筋道の通ったことが書ければ、いつかは書いてみたいです。

今回は、とりあえず、「耐性菌はいくところまで行って、ついに西洋医学界は方策を失った」ということをご紹介したいと思った次第です。

それでは、冒頭のオーストラリア news.com.au の記事をご紹介します。


Bacteria containing mcr-1 gene resistant to all known antibiotics found in Denmark
news.com.au 2015/11/07

すべての既知の抗生物質に耐性を持つ MCR-1 遺伝子を含む細菌がデンマークで発見される

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治療に使われるすべての既知の抗生物質に耐性を持つ耐性菌は、ほんの数週間前に中国で発見されたが、今、それがデンマークで見つかった。さらに悪いことに、それは、2012年からそこにありつづけていた。

先週のデンマーク工科大学の発表によれば、研究者たちは、ヒトと食べ物から採取された大腸菌の細菌サンプルから、恐れていた「不死身の遺伝子」を発見した。

科学者たちは 2009年から撮影した 3000の異なる大腸菌サンプルの遺伝子データベースの見直しを行ってきた。

具体的には、彼らは突然変異した「 MCR-1 」という遺伝子を求めていた。この MCR-1 は、細菌に恐ろしいほどの耐性を与えることのできるもので、たとえば、抗生物質の最後の砦といわれているコリスチンにも耐性を持つのだ。

医学誌ランセットに掲載された研究の中のプレスへの声明によると、今年初めに、血液感染症に罹患した患者が、このスーパー耐性菌を持っていたことが明らかにされた。

食品から採取したサンプルのうち、2012年から 2014年の間に輸入したサンプルからも、MCR-1遺伝子を含む5つの細菌が発見された。

デンマークの研究者たちは、治療することが不可能なこのスーパー細菌たちが、今、着実にヨーロッパに根を下ろしていることを恐れている。

スーパー耐性菌が見つかった血液感染症の患者は、国外に出ていなかった。

さらに、スーパー耐性菌に汚染された輸入食品は、ドイツから輸入された家禽類だったのだ。

MCR-1 を含有する細菌は、先月初めに、中国の豚や人々の間で発見された。

この MCR-1 の脅威は、すべての既知の抗生物質に対する免疫を持っていることだけではない。これは、速く広がる可能性を持っている。

MCR-1 は、プラスミド(細胞内で複製され、分配される染色体以外のDNA分子)内に存在することが見出された、 DNA の小さな移動する束だ。そして、これは複製され、異なる細菌の間を転送する力を持つ。