砂漠の国オマーンに出現した「美しき緑の森と湖」
サハラ砂漠に見る環境の激変の歴史
最近、ロシア・トゥディで下のような「サハラ砂漠の地下に古代の巨大な川があることが確認される」というような記事がありました。
今回はこの記事をご紹介したいと思います。
▲ 2015年11月11日の RT より。
サハラ砂漠にかつて大河が流れていて、生態系に満ち溢れた水と緑の大地だったことは以前からの研究でわかっていて、たとえば、下は 2011年10月のニューズウィークの記事からの抜粋です。
温暖化で緑化が進む?常識を覆す楽観論が登場
Newsweek 2011/10/11
数千年前、現在スーダンがある辺りのサハラ砂漠には大河が流れていた。魚やワニ、カバが生息しており、農業を営む人々の暮らしを支えていた。
やがてアフリカ北部は乾燥し、草原はサハラ砂漠と化してしまった。この大河も1年の大半は干上がっている。原因は気候変動だ。
ドイツのケルン大学の地質学者シュテファン・クレペリンが行った6000年前のデータなどに基づく研究によれば、気温が下がるにつれてサハラ砂漠は拡大していった。世界的な寒冷化に伴い、大気中の飽和水蒸気量が減少して降雨量が減り、乾燥地域が増えたのだ。
だが今、逆転現象が起きている。気温が上昇するにつれて、サハラ砂漠などの乾燥地域の周縁部で緑化が進行しているのだ。
以前は砂漠だった場所に草や低木、アカシアの木が生えていると、クレペリンは言う。こうした変化は、30年に及ぶ現地調査で彼が撮り続けてきた写真や、衛星画像からも明らかだ。
ということで、
・サハラ砂漠はかつて大きな川が流れ、緑豊かな場所だった
・現在は不毛なサハラ砂漠が再び緑化している
ということがあります。
今回ご紹介するロシア・トゥディの記事は、「川が流れていた証拠と、その位置を確認した」というものです。
調査したのはフランスの科学者たちを主体としたチームですが、使われたハイテク機器は、日本の「 PALSAR 」という人工衛星に搭載されたマイクロ波センサーで、地球の地形構造を宇宙から詳細に検出できるというスグレものです。
たとえば、下は富士山付近の地形ですが、地形だけを正確にピックアップできるセンサーのようです。
PALSARのセンサーによる富士山から伊豆半島にかけての全体図
・ALOS
この日本のハイテクセンサーのお陰で、ついに「サハラ砂漠にかつてあった巨大な川」の痕跡を見出すことができたのでした。
川の位置は下のようになります。
2つの山脈が水源だったようですが、5000年前には干上がってしまったと考えられています。
川の長さは 500キロメートルあったそうで、日本列島の本州の長さは 1500キロメートルですので、本州の3分の1の長さの川が「消えた」と。
地球の歴史ですよね。
地球の気候が大きく変転していけば、どれほどの大河であろあと、それは未来永劫の存在ではないことがよくわかります。
そして・・・どうも、こう、いろいろと気候の変転というのが訪れているような気もするのです。
アフリカから中東地域の異常
サハラ砂漠というのは、大ざっぱに言ってしまえば、アフリカ大陸の上半分ということになり、膨大な広さをもつのですが、それ以外にも、アフリカからアラビア半島近辺などの中東に至るまでの地域は「基本的には砂漠か、砂漠に準じる」場所であるのですが、最近は明らかにおかしいのです。
10月の終わりには、それこそ、サハラ砂漠で「大洪水」が発生していて、
・サハラ砂漠で数十年見られたことのない豪雨による洪水が発生。難民キャンプが大きな被害を受け、国連と赤十字が緊急援助要請
地球の記録 2015/10/23
という記事に書いたことがありますが、過去 40年以上は降ったことはない豪雨での洪水でした。
洪水被害を受けたサハラ難民キャンプ
下はご紹介した記事からの抜粋です。
サハラ砂漠での大洪水。イラクとイエメンの大洪水
サハラ砂漠で発生した過去 40年間で最大の集中豪雨は、アルジェリアのティンドーフにあるサハラ難民キャンプに大規模な洪水を引き起こした。
このような雨が降ったことのないこの地では、16万8000人の人々が暮らす脆弱な家屋に壊滅的な被害が出ている。少なくとも 1200軒の家屋が洪水で破壊された。
少し前は、やはり基本は砂漠のイラクで、大規模な洪水が発生し、非常事態宣言が発令されています。
▲ 2015年11月01日のインターナショナル・ビジネス・タイムズより。
そして、11月3日には、観測史上でサイクロンの上陸の記録がない中東のイエメンにサイクロンが上陸。
基本的に極めて雨の少ない国であるイエメンにとっては、想像を絶する雨となり、報道の表現では、「2日間に5年分の雨が降る」という事態になりました。
これに関しましても、
・まさに異常:観測史上初めてサイクロンが上陸した砂漠のイエメンで2日間に「5年分の雨」が降る
地球の記録 2015/11/05
という記事に記しましたが、これだけでも十分に異常なのに、何と、その5日後、「またもサイクロンが上陸」したのです。
イエメンのソコトラ島、1週間でサイクロン2つ直撃 住民パニック
AFP 2015/11/09
アラビア海に浮かぶイエメンのソコトラ島に8日、大型サイクロン「メグ」が上陸し、同国政府筋によると少なくとも2人が死亡、数十人が負傷した。ソコトラ島は先週にもサイクロンの直撃を受けたばかりで、上陸に先立ち島民の間にはパニックが起きた。
島民によると「メグ」は暴風雨をもたらし、広域で鉄砲水の被害が出ている。ソコトラ島出身のファハド・カファーイン漁業資源相は、国連(UN)と近隣国オマーンに島民の救助を緊急要請した。
アラビア半島にサイクロンが上陸するのは非常にまれ。1週間に2つというのは「間違いなく異常な出来事だ」と、世界気象機関(WMO)のクレア・ヌリス報道官は指摘している。
いろいろと大変なことになってきてはいるのですが、確かに、これら起きていることは「普通」ではないですが、そこから思うこともあります。
私たちに水を与えてくれるもの。そして、水は災害の側面からだけ見るべきではないこと
冒頭に貼らせていただきました「緑豊かな砂漠」の写真は、このイエメンの隣のオマーンという国の「サララ」あるいは、サラーラというエリアの写真です、
衛星写真で見ましても、ふだんは砂漠でしかない場所でもあります。
このサララの「緑化」は、実は異常なことではなく、毎年6月と9月にインド洋からのモンスーンが訪れることで、
「季節的に緑化する」
のだそうです。
それも、「この場所だけ」。
まあ、不思議といえば不思議なんですが、オマーンもイエメンも他の場所は、基本的に年中砂漠だと思いますが、このようなことを考えますと、イラクにしても、イエメンにしても、確かに洪水は大変なことであるのですが、しかし、気候が次第に大きく変わっていくようなことがあって、ついには、「雨が降ることが、次第に普通のことになってくる」ということになれば、そこには確実に「緑」が芽生えます。
そうすると、たとえば、世界で最も乾燥したアタカマ砂漠でも、
・2015年のハロウィンの日に : ベルギーで原子炉が爆発し、ロシア機が空中爆発。コロンビアでは川が血の赤に変色し、世界一乾燥するアカタマ砂漠は色とりどりの花に取り囲まれて
2015/11/02
という記事に書きましたように、一時的にせよ、何にせよ「緑化する」わけです。
水というものを災害の側面からだけではなく、もっと大きな視点から見れば、その地域に「新しい生命を運んでくる」ということにもなります。
それにしても、
「雨」
というものは、確かにものすごい存在で、あるいは、
「川」
というものもそうです。
川の水源は一般的に、山脈などの地下水などが主流だと思いますが、一方、当たり前ですが、「雨は空から降ってくる」ものです。
水がなければ、地球の生態系は保てないわけですが、それは、
・地球の中から来る水(川など)
・空から来る水(雨など)
というコラボの中から生まれてくるという、まあ、当たり前といえば当たり前なのですが、その壮絶に精妙なシステムに感服したりした次第です。ちなみに、雲は宇宙船によって作られるということが正しければ、雨を降らせるのは雲ですので、雨は、
・宇宙が作り出す水
といってもいいのかもしれません。
[参考記事]「銀河からの宇宙線が直接地球の天候を変化させている」 : デンマーク工科大学での実験で確定しつつある宇宙線と雲の関係 (2013/09/05)
海の水も地球の生態系には極めて大事なものですが、人間は、そのままでは、海の水を飲むことはできませんし、陸上の植物も、海の水では育つことができません。
「真水」が必要なんです。
しかし、最近のように、洪水や大雨が多くなっているとはいえ、
・地球の3分の1の地下水源が枯渇しようとしている
地球の記録 2015/07/13
という記事に書いたことがありますが、
「地球の 37カ所の主要な地下水流のうちの3分の1が枯渇に瀕している」
ことが NASA から発表されていて、どちらにしても「水の変化」は起きているのが現状です。
日本がどちらに転ぶのかはわからないですが、今のところは
「雨が降ったら感謝する」
「台風が接近したら感謝する」
という考え方でそれほど間違ってはいないような気がします。
いろいろと長くなってしまいましたが、ロシア・トゥディの記事です。
Vast underground river system discovered in once-vibrant Western Sahara
RT 2015/11/11
かつて活気に満ちた土地だったサハラ砂漠で発見された広大な地下の河川システム
魅惑に満ちたミステリーが西サハラで展開されている。
科学者たちが、人工衛星画像を用いて、サハラ砂漠で大規模な古代の地下河川システムを検出したのだ。これにより、約 5000年前のサハラ砂漠は非常に活気の満ちた場所だったことが確認された。
モーリタニアの砂漠を含むアフリカ地域の広さは、大ざっぱにいえば、アメリカ合衆国の半分の広さで、そして、それはアフリカ大陸の半分を占める。
もし、この川の状態が持続していた場合、現在のアルジェリアにあるアトラス山脈とホガール山地を水源地とした長さ 500キロメートルの川となり、世界第 12位の川となることを意味する。
フランス人科学者主導の研究チームは、陸域観測のハイテク機器である日本の陸域観測技術衛星「 PALSAR 」のセンサーシステムを使用した。 PALSAR のセンサーシステムは、宇宙からの詳細な地下の撮像が可能だ。
川は、海岸に近づくと、古代の地下渓谷のシステムを介して重要なミネラルや栄養素を運ぶとチームは考えている。これらは多様な植物に供給され、これらの植物は、海洋生物のための食糧として、この地域とモーリタニア沖に豊富に存在した。
そのため、この海域は、その環境を維持する数多くの生物たちと共に、信じられないほど豊かな生態系を持っていた。
この植物や微生物、海洋生物などに住みやすい環境が持続していれば、それは人間が繁栄できる条件となるため、この地域全体が活気づいただろう。
これらの活動のすべては、24万5000年前の湿気の多い時代に起きた。
そして、計算によれば、この地がそのような活気に満ちた土地だった最後は、5000年前ほどだと考えられるという。
その後、気候の急激な変化が、この土地をほぼ完全に干上がらせたのだ。
幅 2.5キロメートルで、キロメートル単位の深さを持つ、この主要水路はモーリタニア沖まで続き、そこで終わる。
古代の地下の棚の下で見つかった地下の土砂や河川骨粒子は、アフリカ内陸部との関係を確立している。
この峡谷の 3Dマップの作成を手伝うサザンプトン国立海洋学センターのラッセル・ウィン( Russell Wynn )氏は、以下のように英国ガーディアンに語った。
「これは壮大な地質調査ストーリーであり、そして、私たちが予想していたものを、ほぼ直接的に確認することができたのです。これは、過去にこの峡谷に水を供給していた非常に大きな河川系があった証拠です」
ウィン氏は、現在の調査チームの一員ではないが、研究者として、発見されたこの知見はについて、「西アフリカにおける陸源堆積物の記録の解釈のための新たな洞察を提供すると思います」と述べる。
そして、サハラ砂漠の古代水文学( paleohydrological )の歴史の理解のために、重要な意味を持つ。
ウィン氏によれば、これはまた、気候変動がそのように迅速に発生することを疑う人たちには、その一例(あっという間に気候環境が変化してしまったこと)として、提供できるストーリーとなるはずだという。
西サハラ砂漠の領域は、湿度の高い豊かな土地から、乾燥した不毛な土地へと、数千年という時間の間に変化してしまったのだ。
この研究は、科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載される。
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