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ジカウイルスが胎児に小頭症を引き起こすことが研究で初めて証明される。そして、大人に対しても神経疾患「ギラン・バレー症候群」と「急性散在性脳脊髄炎」を引き起こしている可能性が濃厚に

   

2016年4月11日の米国アトランティックの記事より

zika-could-be-a-CatastropheThe Atlantic

 

ジカウイルスに関しては、先日、「当初に予想していたよりもアメリカ国内で悪い状況になる可能性がある」ことをホワイトハウスが発表したということなどもあり、最近は冒頭のアトランティックの記事のように、報道姿勢も次第に「重大」感が増してきていますが、最近のジカウイルスについてのことについて少し書いておきたいと思います。

 

ジカウイルスが小頭症を引き起こすことが初めて証明される

まずは、

「ジカウイルスが胎児の脳細胞と脳神経細胞に影響を与えていることが初めて実験で証明」

されたことについて、昨日報道がありましたので、その記事を先にご紹介しておきます。これは「ジカウイルスが小頭症の直接の原因である」ことを証明したという言い方でも構わないと思われます。

これまで、ジカウイルスと小頭症の関係性については、「非常に疑われる」という共通認識はあったのですが、科学的実験ではまだ証明されていなかったものが、はじめて証明されたということになると思います。

研究はサイエンス電子版に 4月11日に発表されました。

それに関しての記事を感染症対策専門メディアのインフェクション・コントロール・トゥディからご紹介します。

記事の中に、

「脳オルガノイド」

という聞き慣れない言葉が出てきますが、これは、 2013年8月29日の「オーストリア研究所など、ヒトの大脳立体組織をiPS細胞から作製」という日刊工業新聞の記事に、

> 大脳の立体的な組織構造体(オルガノイド=原形質類器官)を作り出す培養システムを開発した。

とありますので、「人工的に作った脳」にジカウイルスを感染させて調べたのだと思われます。

後で少しふれますが、善悪の判断は微妙とはいえ、「人間の脳の完全な複製」はすでに作ることに成功しているのです。

とりあえず、ここから記事です。


Zika Virus Induces Cell Death and Malformations in Human Neurospheres and Brain Organoids
Infection Control Today 2016/04/12

ジカウイルスは、ヒトの神経球と脳オルガノイド中の細胞死と細胞奇形を誘導する

cell-infected-with-zika-virus▲ ジカウイルス(赤)に感染した培養神経前駆細胞の顕微鏡画像。細胞核は青で示されている。

ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学にあるドール研究所(IDOR)は、ヒトの細胞と神経幹細胞、そして脳オルガノイドにおけるジカウイルスの有害な影響を初めて実証し、研究結果は 2016年4月10日に科学誌サイエンス(電子版)に公開した。

この研究結果は、ブラジルで最近、急激に増加している小頭症の病因について、脳の中枢神経系に対してジカウイルスが奇形の直接の原因として働きかけることを解明したことになる。

スティーブンス・レーヘン博士(Dr. Stevens Rehen)率いる科学者たちのチームは、神経幹細胞にヒトの人工多能性幹(iPS)細胞を分化し、さらに、ニューロスフェア(neurospheres / 球状の細胞の塊)と脳オルガノイドとして知られている三次元構造に分化させた。

ニューロスフェアと脳オルガノイドは、発達する神経の病理を調査するための優れたモデルを表すもので、胎児の脳形成のいくつかの特徴を概説することができる。

本研究で、チームは、ジカウイルスがヒト由来の iPS 神経細胞に感染することが観察され、また、ニューロスフェアと脳オルガノイドに対しての細胞死や細胞の奇形を引き起こすことが確認され、脳の成長が 40%減少することもわかった。

研究では、同じ方法の実験がデング熱ウイルスでもおこなわれたが、デング熱ウイルスでは、神経細胞もニューロスフェア、脳オルガノイドも損傷を受けることはなかった。


 

ここまでです。

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それにしても、この「脳オルガノイド」という聞き慣れない言葉にはやはり違和感があるのですが、

「基本的に人間(特に胎内の胎児)の脳とまったく同じもの」

だと考えていいはずです。

なぜなら、昨年、「ほぼ完全な人間の脳」の培養が成功しているのです。

2015年8月15日の英国ガーディアンの報道より

fully-formed-human-brain-cellFirst almost fully-formed human brain grown in lab, researchers claim

 

米オハイオ州立大学の研究者が行ったもので、ここで作られたのは「5週目の胎児と同じほどの脳」だそうで(それ以上のものは、培養液だけでは保持できないようです)、「人間の脳を完全に複製して作る」ということについての、コトの善し悪しは何とも言えないですが、しかし、今回のジカウイルスの研究のように、成長中の赤ちゃんの脳への影響が、おそらく、これと類似した技術で「脳オルガノイド」を使うことで解明したことも事実ではあります。

それはともかく、先ほどの記事からわかるのは、ジカウイルスが、妊娠初期の胎内の赤ちゃんの脳細胞を破壊して減少させるということですが、2月に書きました地球ブログの「アメリカ合衆国で新たに確認されたジカウイルス感染者の数は147人に」という記事で、アメリカで2月までに感染が確認された9人の妊娠中の女性の経過が CNN の記事に書かれてあったものをまとめたのですが、抜粋しますと、以下のようになります。

妊娠初期に感染した女性(6人) → 2人が流産、2人が妊娠継続を断念、1人が小頭症の赤ちゃんを出産、もう1人の経過は不明

妊娠中期に感染した女性(2人) → 1人が健康な赤ちゃんを出産、もう1人は経過良好のまま妊娠継続中

妊娠後期に感染した女性(1人) → 健康な赤ちゃんを出産

となっていて、少ないサンプルではありますが、「妊娠初期」にジカウイルスに感染した場合に影響が大きいことは言えそうに思います。

今回実験に使われた「脳オルガノイド」も、サイエンスそのものを読んだわけではないですので、正確なところはわからないですが、おそらく、妊娠5週目くらいまでの胎児の脳を想定しているように思えます。

そして、その場合に、

・脳神経細胞の破壊
・脳の40%の減少

が見られるということで、おそらくですが、妊娠初期であればあるほど(これは、自分が妊娠しているかどうか気づかないほどの初期も含めて)リスクが高いのだと判断できるような気がします。

ですので、今言われているような、「妊娠している方は流行地に行かないようにする」というよりも、さらに、

「妊娠する可能性のある女性(新婚さんなど)こそ十分に気をつけるべき」

ではないかと思います。

3月のブラジルの研究発表に関する報道では、ジカウイルスに感染した妊婦さんが生んだ赤ちゃんのうち「3割」に異常が認められたとあり、低い率ではありません。

しかし、ここには「妊娠初期で感染したか、中期後期に感染したか」の区別がないため、やはりおそらくとしか言いようがないですが、「妊娠初期に感染した場合は、異常が現れるリスクが高まる」ようにも思います。

 

大人の脳の病気とも関連することが明らかに

ジカウイルスに関しては、最近、胎児だけではなく、「成人がジカウイルスに感染した後に、後遺症として脳や神経に重大な影響を与える可能性がさらに判明しつつある」という報道もありました。

2016年4月11日の英国スターより

zika-brain-issueZika virus may be tied to second serious brain issue in adults, study finds

 

これは確定した研究ではないのですが、これまで、ジカウイルスがギラン・バレー症候群という、運動神経などに障害が起きる病気につながることは知られていたのですが、それに加えて、「急性散在性脳脊髄炎(ADEM)」という病気を引き起こしている可能性がブラジルの例で見出されているのです。

「急性散在性脳脊髄炎」というのは聞いたことがないですが、Wikipedia によれば、ウイルス感染後やワクチン接種後に生じるアレルギー性の神経疾患のことを指すようで、症状も経過も様々のようですが、麻痺、半盲、失語、痙攣、意識障害、運動失調などに至るようなものでもあるようです。

ブラジルでは、ジカウイルスに感染した後に、この診断を受けた人たちが続発していることがわかったとのことです。

というわけで、これまでジカウイルスの症状……というより、後遺症として、

・赤ちゃんに小頭症を引き起こす
・ギラン・バレー症候群の原因となっている可能性
・急性散在性脳脊髄炎を引き起こす原因となる可能性

がわかってきたということになりそうです。

そのすべてが深刻なものとしか言いようがないですが、そして、これから暖かくなっていくアメリカ合衆国では、懸念が高まっているようです。

これまで、すでに、アメリカ国内の 30州でジカウイルスの感染が確認されています。

ほとんどが南米などジカ熱の流行地への旅行で感染した人たちですが、性感染した人たちも少なからずいます。

先日、CDC (アメリカ疾病管理予防センター)は、アメリカにジカウイルスが蔓延する場合のシミュレーション地図として、

・ネッタイシマカがジカウイルスを媒介する場合
・ヒトスジシマカがジカウイルスを媒介した場合

の地図を発表しました。

CDCによるアメリカのジカウイルス感染地域予想マップ

zika-us-Aedes-aegypti-albopictusCDC

 

ヒトスジシマカがジカウイルスを媒介するかどうかはよくわかっていないようですが、ヒトスジシマカがジカウイルスを媒介した場合は、この蚊は、日本にもどこにでもいる蚊(北海道以外はほとんどいるのでは)ですから、同じような地域的リスクとなるのかもしれません。

締めとして、冒頭の「ハリケーン・カトリーナ」(2005年にアメリカを襲ったハリケーン。死者 1836人 / 行方不明者 705人)とジカウイルスを比較しているタイトルを載せたアトランティックの記事をご紹介したいと思います。

何か世界の運が良ければ、大した問題にならずに済むのかもしれないですし、そうはいかずに、大きな問題となるのかもしれないですし、今は何ともわかりません。


A Zika Catastrophe Could Rival Hurricane Katrina
The Atlantic 2016/04/11

ジカウイルスによる大災害は、ハリケーン・カトリーナに匹敵するものとなるかもしれない

アメリカの保健当局は、蚊が媒介するこの病気は、単に医学的な問題にとどまるものではなく、これは社会経済的な問題だと警告する

 

蚊に刺されること自体は本来なら大した問題ではない。

しかし今、ジカのような深刻な先天性欠損症を引き起こすと言われている病気が蚊によって媒介されており、特に、住宅環境の問題で、貧困層の人たちに大きなリスクを与えている。

テキサス小児病院の小児科医であり微生物学者のピーター・ホテツ(Peter Hotez)医師は、「貧しい地域では、収集されていないゴミや、水たまりなどが多いため、特定の昆虫たちが大発生しやすい環境にある」と医学誌に書いた。

ブラジルでは、一部地域でジカウイルスが大流行しているが、流行している地域の多くが貧しい人々が多い地域で、家屋の窓に蚊を遮る網戸がない。これはこの地域ではごく普通のことだ。そのため、ブラジルはアメリカでよりも感染拡大がしやすい環境ではあるのかもしれない。

アメリカ合衆国内では、今のところ、蚊が媒介したと見られるジカウイルスの感染例はない。

しかし、保健当局は、アメリカ国内でこの夏にジカウイルスが流行する可能性について、高いリスクがある地域や都市を特定して発表した。(※ さきほどの地図です)これは、都市の人口密度やジカウイルスを媒介する蚊の生息状況、そして、気温などから、その地域で蚊によってジカウイルスが広がる可能性を示したものだ。

CDCによれば、マイアミ、オーランド、ヒューストンなどの場所は、暖かい天候、生息する蚊の種類(ネッタイシマカ)などからリスクが高いと考えられている。ネッタイシマカは、他にも黄熱病、デング熱などの深刻な感染症の原因となる。
ホテツ医師はまた、テキサス州沿岸、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州、フロリダ州南部などの最も貧しい都市部でのリスクを指摘し、ニューヨーク・タイムズの意見欄に以下のように書いた。

「これらの地域でのジカウイルスの流行は、ハリケーン・カトリーナや、他の最近のカタストロフに匹敵するような、特に貧困層の人々に大きな影響を与える大惨事となる可能性があるのです」

これは、科学者たちや医学者たちが、公衆衛生の危機の可能性に対して計画書をまとめる当局者であるだけではいけないということを示している。

ジカウイルスのワクチンが、今年の蚊のシーズンに間に合って開発される可能性はない。

関係者たちは、積極的な蚊のコントロールと環境浄化を、特に貧しい人々が住む都市部において緊急に実行する必要があるとホテツ医師は述べる。