地球の最期のときに

放射線を食べて生きる生物の発見から始まった、科学者たちによる「宇宙線を食糧にして生きる地球外生命体」の存在についてのシミュレーション



投稿日:2016年10月11日 更新日:

2016年10月7日のサイエンスより

Science




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放射線を食べて生きる生物が示す生命存在の無限の可能性

少し前の、

アメリカの北緯37度線を巡るエイリアンの実相。そして「北緯33度線上の唯一の火山」が日本にあるという意味
 2016/10/08

という記事の後半で少しふれたのですけれど、今回は、サイエンスに掲載されていた「宇宙線を食糧として生きる生物の存在の可能性」についての論文に関しての記事をご紹介します。

これは、数年前に南アフリカで見つかった細菌が、「完全な無機物をエネルギー源としている生命だとわかった」のだそうで、これは要するに、

「放射線を食べて生きている」

というような生物なのです。

その細菌の名前が記事には何度か出てきまして、これがまた学術名 Desulforudis audaxviator という、とんでもない長いもので、日本語明記がネットなどにもどこにもないですので、ここでは「デスルフォルディス・アウダクスヴィトール」という読みで表記しています。これで正しいかどうかはわかりませんが、英語のままですと暗号めいてしまいますので。まあ、日本語にしても長いですが。

Wikipedia では以下のように説明されています。

Desulforudis audaxviator – Wikipedia

D. audaxviator はフィルミクテス門ペプトコッカス科に属する真正細菌の1種である。

D. audaxviator のエネルギー源は、周辺に存在する岩石や液体に含まれる以下の無機物を体内に取り込み、エネルギー源としたり有機物を合成する素としている。

これらの無機物は鉱物同士の化学反応や放射線による物理的な作用で生じており、生物は一切関与していない

「周辺に存在する岩石や液体に含まれる以下の無機物」とは、たとえば、放射性物質の放射性崩壊の作用によって水から分離した水素イオンなどで、放射性物質があってこそ生きられる生物でもありそうです。

信じられないような生態を持つ生命が次々と地球上で見つかり続けていることについては、かつて何度か記事にしているのですが、宇宙線好きの私がこのサイエンスの記事に特に感銘を受けたのが、

「宇宙線をエネルギー源として生きる生命の可能性」

という響きです。

私は宇宙線を過大評価している人でもありまして、地球のエネルギー現象(たとえば、地震や噴火、雲や天候、あるいは植物や動物の成長など)に宇宙線が大きく関与していると確信しています。根拠は雲以外は別にないですが、科学者なわけでもないですので「好きなものは好き」という部分を崩していないだけというようなものではあります。

過去記事としましては、以下のようなものがあります。

宇宙線に関しての過去記事(一部)

[宇宙線と雲] スベンマルク博士の異常な愛情が今ここに結実 :「雲の生成は宇宙線によるもの」という説が25年にわたる観測の末に「結論」づけられる (2016/08/29)

[宇宙線と天候]「銀河からの宇宙線が直接地球の天候を変化させている」 : デンマーク工科大学での実験で確定しつつある宇宙線と雲の関係 (2013/09/05)

[宇宙線と地震]ネパール大地震での上層大気圏に変化から見る「地震の原因は宇宙にある」こと… (2015/05/03)

[宇宙線と植物]放射線の中で生き返った植物(2011/04/22)

[宇宙線と人類]私たち人類も他のあらゆる生命たちも「宇宙線にコントロールされている可能性」を感じて(2012/06/13)

今年は夏以降、どうも雲が多い日が続いていますが、この「雲」という存在には、ほぼ間違いなく宇宙線の作用が関係しています。

しかし「宇宙線が生物の食糧になっている」ということだけはないだろうと思っていましたけれど、あるかもしれないのです。そして、その可能性は高そうでもあります。なにしろ、同じ放射線を食べて生きている細菌がいたのですから。

 

この南アフリカの生物のどこが驚くべくことかといいますと、地球の生命は基本的には、

1. 太陽光と水で生きる(光合成)

2. 他の生物(有機物)を食べて生きる

という2種類のプロセスのどちらかで生きていて(その絡みは複雑でしょうが、基本的にはという意味です)、人間だと「2」ということになりますが、南アフリカの細菌はそのどちらも否定しているのです。

「まったく太陽の光が届かない、酸素もない、有機物もない中で生きている」

という響きは、この「生きられる糧となりそうなものが何も周囲にない」という語感が最もよく合う環境というのは「宇宙空間」なんですね。

かつて、「極限環境微生物」というものに関して多く記したことがあります。それらの中でも、

・酸素を必要としない多細胞生物 (参考記事
・宇宙空間で生き続けたバクテリア (参考記事
・使用済み核燃料の中で成長する生物 (参考記事

などを記事にしたこともありますが、今回の記事の内容は魅力的ですので、あまり前振りで色々と長引かせたくないですので、本題に入りたいと思います。

とにかく、今の時代は、様々な生物が存在する可能性がどんどんと大きく拡大しています。それを発見し続けている面に関しては、科学は大したものだと感心します。あとは、その結果を私たち人類がどのように受け締めて理解するかということなんだとも思います。

ちなみに、「宇宙線を食べて生きる生物」が存在するのなら、その生物は永久に食糧を失う可能性はありません。

宇宙がなくならない限りは。

それでは、サイエンスの記事をご紹介いたします。




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Alien life could feed on cosmic rays
Science 2016/10/07

地球外生命体は宇宙線を食べているのかもしれない

南アフリカで発見された放射性ウランからエネルギーを得る微生物は、宇宙生物学者たちに、「宇宙線を食料にしている宇宙の微生物が存在する可能性があるのではないだろうか」という考えをもたらしている。

理論的には、高エネルギーの宇宙線は、たとえば、南アフリカのムポネン金鉱(Mponeng gold mine)の地下3キロメートルから発見された真正細菌「デスルフォルディス・アウダクスヴィトール(Desulforudis audaxviator)」と同じ種類の生物が生き続けられる理由となり得る。

この南アフリカのデスルフォルディス・アウダクスヴィトールは、鉱物同士の化学反応や放射線による物理的な作用で生じる無機物を取り込み生きているのだ。

この事実が示すところは、この宇宙にあるいかなる惑星であろうと、そこが宇宙線からの防御が弱いのなら、デスルフォルディス・アウダクスヴィトールのいとこのような生命が存在する可能性があるということになる。

いや、惑星ということとではなくとも、この宇宙空間自体のどこでもその可能性があることになるのだ。

 

デスルフォルディス・アウダクスヴィトール

南アフリカの金鉱山の深い地下で見つかったこの奇妙な微生物は、生命に関して、これまでにないひとつのモデルを提供する可能性がある。

それは「生命」というものに関しての考えを覆すということで、つまり、これまでの考えで「そこは生命が生きていける環境ではない」と考えられていた場所で生命が生きていくことができるという可能性についてのことだ。

デスルフォルディス・アウダクスヴィトールは棒状の細菌で、南アフリカの地下 2.8キロメートルの、生命維持にとってすべてが欠乏しているような場所で繁栄している。

そこには生命に必要とされる、太陽光、酸素、炭素が一切ない。

その代わりに、この「金鉱虫(gold mine bug)」は、鉱山の奥の放射性ウランからエネルギーを得ているのだ。

そして今、科学者たちはこのように予測し始めた。

「この宇宙の他の場所でもまた、南アフリカの金鉱と同じように、放射線、特に宇宙から降り注ぐ宇宙放射線を食糧にして生きる生命たちが存在するのではないか」と。

 

「南アフリカのその細菌が完全に放射性物質だけで生きていることに私は強い関心を抱いたのです」と、ワシントン州シアトルのブルーマーブル宇宙科学研究所(Blue Marble Space Institute of Science)の地球物理学者ディミトラ・アトリ(Dimitra Atri)氏は述べる。

「宇宙の他の世界で同じことを他の生物がしていないと誰が言えるでしょうか」

基本的に、地球の表面上に生きるすべての生命は2つのプロセスのうちの1つを介して必要なエネルギーを取り込んでいる。

植物といくつかの細菌や、その他の特定の生物たちは「光合成」と呼ばれるプロセスを通じて、太陽光からエネルギーを集めている。

その中で、彼らは、光からのエネルギーを炭化水素と呼ばれる、より複雑でエネルギッシュな分子に変換する。それは、酸化と呼ばれるプロセスを介して分子を分解し、後で回収することができるようにエネルギーを蓄える。

また、動物および他の生物は、単純に植物や他の生物を食糧とする。それは、すでに生物に蓄積されたエネルギーを体内に取り込むためだ。

南アフリカのデスルフォルディス・アウダクスヴィトールは、そのどちらにも属さない。つまり、第3のプロセスで生きている — それは、無機物であるウランの放射線からエネルギーを得ているのだ。

放射性崩壊したウランからの放射線は、岩の中で硫黄と水の分子にわかれる。そして、内部エネルギーで励起された硫酸や過酸化水素などの分子の破片を産生する。その微生物は、その後に、これらの分子を自らに取り込み、そこからエネルギーを吸い上げ、そして吐き出し元に戻す。

このプロセスの力から生産されるエネルギーの大部分は、その微生物の繁殖と内部プロセスの原動力となり、また、このエネルギーは、放射線からの損傷を修復する部分としても使われるのだ。

アトリ氏は、地球外生命体が同様のエネルギー産生システムを利用することは容易にできる可能性があると考えている。

他の惑星では、地球のように大地自身からの放射性物質が来るわけではないこともあり、むしろ、宇宙からの銀河宇宙線(GCRS)を利用するだろうと。

銀河宇宙線は、超新星爆発の外に投げ出された後、宇宙を通って疾走する高エネルギーの粒子のことだ。

宇宙線は地球上のどこにでも降り注いでいるが、地球の磁場と大気が銀河宇宙線から私たち人間を保護する大きな役割を担っている。

しかし、たとえば、火星のような他の惑星の表面は気圧が薄いために、宇宙線の影響を地球以上に受けやすい。火星の場合は磁場も少ない。

アトリ氏は、火星の表面には、小さな生物たちに十分なエネルギーを供給できる程の宇宙線が到達しているだろうと言う。

これは、大気が非常に少ない他の惑星にも当てはまる。

冥王星、月、木星の衛星エウロパ、そして、土星の衛星エンケラドス、そして、私たちの太陽系の外には、理論的には数え切れないほどの惑星がある。

しかし、宇宙線は太陽のような大きなエネルギーを供給しているわけではないので、宇宙線で生きられる生命は、デスルフォルディス・アウダクスヴィトールのような非常に小さな、そして単純な生物に限られるともアトリ氏は述べている。

アトリ氏は、これらの理論が働くかどうかを見出すために、銀河宇宙線のデータから、宇宙の他の惑星でどのくらいのエネルギーが宇宙線から得られるかをシミュレートした。

シミュレートの結果は明らかだった。

宇宙線は、地球以外のすべての惑星にシンプルな生命に必要な原動力のための十分なエネルギーを供給することが示されたのだ。

アトリ氏は、この結果を、王立協会の機関誌で報告する。

「このシミュレーションの結果は、宇宙線をエネルギー源とする生命が存在する可能性を排除できないことを示します」と彼は述べる。

そして、アトリ氏は、宇宙線をエネルギー源とする生命が存在できる最良の環境を持つのは火星だと考えている。

火星の組成物は、地球のようにミネラルを豊富に含む岩であり、さらに火星には水が隠れている可能性がある。そのどちらもも宇宙線によって分解され、生命体の食糧として優れた媒体を提供するだろうという。

宇宙線をエネルギー源とする生命の可能性を考える中で、最も重要な部分は大気が薄いことだ。

これに関しては、「おかしなことです」とアトリ氏は笑う。

「なぜなら、現在の私たちは、他の惑星に生命が存在するかどうかの観点から観測する場合には大気が濃い惑星を探します。しかし、宇宙線をエネルギー源とする生命体を探す場合には、逆に大気の薄い惑星のほうが良いのですから」

将来的に、アトリ氏は、研究室に金鉱山のデスルフォルディス・アウダクスヴィトールを持ち込み、それらが、火星やエウロパ、および他の惑星と同等の宇宙放射線レベルにどのように反応するかを確認したいと考えている。

その実験で得られるデータは、この種の生物が、地球という環境を超えて生き残ることができるかどうかという議題に、より手がかりを与えるだろう。

アトリ氏は言う。

「デスルフォルディス・アウダクスヴィトールは、この世にあるほぼすべてのエネルギー源を使って生命が生きることができるということを証明しているのです」

 

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