ピエロとアメリカ人
アメリカで続いている「ピエロ騒動」ということに関しては、ご存じの方もいらっしゃるでしょうし、ご存じない方もいらっしゃると思いますが、日本語の報道から抜粋しますと、下のようなものです。
全米に広がるピエロ騒動に政府も介入
AFP 2016/10/12
全米各地で不気味なピエロの姿をした人物が出没したとの目撃情報が相次ぎ、ヒステリーが広がる中、警察や学校は事態の収拾に乗り出し、政府も介入する異例の事態となっている。
不気味なピエロの目撃情報が最初に確認されたのは8月。サウスカロライナ州でピエロの格好をした男たちが子どもを森の中に誘おうとしていたとの通報があった。
その後、同様の目撃情報が十数の州で報告され、学校や会社の外でピエロが待ち伏せしている、武器を持ったピエロが車を乗り回している、ピエロが近所をうろついているなどの通報が相次ぎ、当局は対応を迫られた。
というようなものです。
私はこのニュースに関して、「もしかすると拡大するのではないか」と、8月から事件の行方を気にしていたのですけれど、その理由は上の報道の中にもあります、
> 最初に確認されたのはサウスカロライナ州
という部分にあるのですが、サウスカロライナ州は、アメリカの北緯 33度線の東の入り口なのです・・・けれど、このこと自体は蛇足というか個人的な興味の上に、話がややこしくなりますので、今回はふれないでおきたいと思います。
それよりも、今回このピエロのことをご紹介しようと思いましたのは、アメリカ人たちが予想以上に深刻なピエロ恐怖に陥っているということを冒頭の Vox の記事で知りまして、いろいろな意味で興味深く感じたからではあります。
その Vox の冒頭の記事の内容は、アメリカ人に対しての、
「あなたが最も恐ろしいものは何ですか?」
ということに関しての米国チャップマン大学の世論調査と、Vox 独自の世論調査をもとに書かれたものですが、その結果が、予想をはるかに上回るほど「ピエロへの恐怖が強い」ことを示すものだったのです。
今回のタイトルには「1位はピエロ」と書いたのですが、実は、世論調査の1位は「政府の腐敗」というものでしたた。
その意味では今回の記事のタイトルは正しくないのですが、しかし、一般論として「恐怖は何か?」と尋ねたことに対して「政府の腐敗」という返答は何かおかしいもので、「恐怖の対象の答え」としてわかりやすいものとしては、ピエロがダントツの1位だったという個人的な理解です。
ただ、こういう調査で「政府の腐敗」という回答が多く寄せられるというあたり、アメリカも政治への信頼感がとても乏しい時期なのかもしれません。
ご紹介する記事中に図を載せていますが、世論調査による「アメリカ人の恐れるもの」の順位を文字で書きますと、以下のようになります。
世論調査:アメリカ人たちが恐れているもの(2016年10月15日〜17日に実施)
1位 政府の腐敗 61%
2位 ピエロ 42%
3位 テロリストによる攻撃 41%
4位 銃規制 38%
4位 家族の死 38%
6位 経済崩壊 37%
7位 保険医療制度改革 36%
8位 生物兵器 35%
9位 気候変動 32%
10位 高所(恐怖症) 24%
11位 自分の死 19%
12位 尖端(恐怖症) 17%
13位 配偶者の裏切り 10%
14位 幽霊 9%
アメリカでは、マクドナルドのキャラクターのピエロまで展示を自粛することになっていたりしていますが(AFP)、この Vox の記事を読みますと、現在のアメリカ人の、ちょっと異常かもしれないメンタルが垣間見えます。
その記事をまずご紹介しておきたいと思います。
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Americans are more afraid of clowns than climate change, terrorism, and … death
Vox 2016/10/21
アメリカ人たちは、気候変動やテロ、そして…「死」よりもさらに強くピエロを恐れている
私たちは何とも恐ろしい時代に住んでいる。
2016年に入り、私たちアメリカ人は国内で何千もの銃撃事件を見聞きしてきた。そして、富める者と貧しいアメリカ人のギャップが拡大する様相を見てきた。
あるいは、私たちは、ドナルド・トランプの人気の劇的な上昇を目撃もした。彼が大統領候補の指名を受けた時、我が Vox の編集長は、「アメリカ政治の歴史の中での真の恐怖である」と記した。
しかし、これらのような恐怖にうつるものよりも、今のアメリカ市民たちには身近な深刻な脅威がある —– それはピエロだ。
先週おこなわれた世論調査では、42%のアメリカ人が何らかの観点からピエロを恐れていたと答えた。
また、調査では 18歳から 29歳の年齢では、ほぼ3人に1人が、経度のコルロフォビア(Coulrophobia / 精神医学での「ピエロ恐怖症」のこと)であることを認めている。
1,999人のアメリカ人のピエロに対しての感覚
10月15日から 17日まで行われたこの調査は、アメリカが大きな「ピエロ恐怖 2016」に包まれていることを明らかにした。
アメリカでは、今年8月以来、100件以上の「ピエロに関しての不審な出来事」が起き続けている。ピエロの目撃談はアメリカ全体に及んでおり、シアトルからメイン州のバンガーまで広く報告されている。
目撃されたピエロたちは一様に不気味だ。たとえば、早朝 3時30分の暗くて人が誰もいない駐車場の中で、黒い風船を手にしたピエロがいるのなら、それは不気味で当然だ。
しかし、それらのピエロが、気候変動や経済的困難、あるいは、愛する人の死よりも恐ろしい本当の脅威となり得るのだろうか? この問いに、アメリカ人は以下のように答える。
「イエス」
私たち編集部は、最近、米国チャップマン大学がおこなった世論調査と、私たちの調査の結果を比較した。チャップマン大学の調査は、1,511人のアメリカ人たちの「最大の恐怖」を特定するために行われた。
調査の結果は、恐怖の対象として、ピエロは1位ではなかった。1位は「政府の腐敗」だった。
しかし、それを除くと、少なくともその調査では、アメリカ人たちは、テロリストの攻撃よりもピエロを恐れていることがわかる。
アメリカ人たちはテロ攻撃や気候変動、あるいは「死」よりもピエロを恐れている
彼らは、気候変動や家族の死、生物兵器、あるいはオバマ政権による医療保険制度改革のすべてよりピエロを恐れているという調査結果となった。
また、古来からある恐怖である高所恐怖、尖端恐怖、そして、幽霊なども上回った。
そして、何と、ピエロへの恐怖は「自らの死」よりも大きいのであった。
アメリカ人の3分の2がピエロに対して政府の取り締まりを要望している
実際、現在のアメリカ人たちは、ストリートをうろつき回るピエロに完全に怯えきっている。
様々な警察や政府の組織が、これらのピエロの恐怖を止める必要があるかどうかという質問に対しては、3人のうち2人が警察と政府はピエロ問題に介入するべきだと答えた。そして、36%のアメリカ人が、米連邦捜査局(FBI) に代わって、地方政治機関の行動を期待していると述べている。
さらに、3分の1の人たちは、FBI が積極的にピエロの捜査に介入するべきだと答えた。
最近の政府の議会で、ホワイトハウスの報道官ジョッシュ・アーニスト(Josh Earnest)氏は、これらの意見に同調するような以下のような発言をした。
「明らかに、これ(ピエロの問題)に関して、地方の法執行当局は、非常に真剣に取り組むべき状況です」
と彼は記者に語っている。
「彼らは徹底的に社会の安全に脅威を知覚させるものと再認識すべきです」
アメリカ人は、ほとんどすべてがピエロを恐れている
このピエロへの恐怖は、最近アメリカで起き続けている恐ろしい衣装を着た合法的なイタズラ行為に限定されるものではないことに留意すべきだ。
私たちは 1,999人のアメリカ人に様々なピエロの写真を送り、それに対して「非常に不気味」という項目から「まったく不気味ではない」という4段階となる感想を尋ねた。
回答者たちは、ほとんどの項目で過半数以上がピエロを恐ろしいと答え、特に、道をうろつくピエロは 90%以上が恐ろしいと答えた。
(訳者注/表はオリジナルでは9枚すべてが掲載されていますが、本文に説明のある5つに絞りました)
どのピエロにどの程度恐怖を感じるか
回答者たちに見てもらった9枚の画像のうち、最新のニュース映像の道をうろつくピエロの写真に関しては、「少し恐い」を含めて 91%の人が恐ろしいと答えた。
しかし、たとえば、シルク・ドゥ・ソレイユのピエロのようなクラシックなピエロのイメージにも 79%の人たちが恐ろしいと答え、ピエロのようなメークをしたオペラ歌手ルチアーノ・パヴァロッティの写真に対しても、62%が不気味と答えた。
送った写真の中で、唯一の例外はマクドナルドのピエロ・キャラクターのロナルド・マクドナルドで、これを非常に恐ろしいと答えた人は 8%だけだった
しかし、ロナルド・マクドナルド自身もまた、恐怖のピエロに免疫がなかったようで、先週、マクドナルドは、ロナルドの公共での露出をすべて休止することを決定した。
これは、ロナルドが 1963年にデビューして以来初めて起きたことだ。
ここまでです。
ちなみに、記事に例えとして、
> 早朝 3時30分の暗くて人が誰もいない駐車場の中で、黒い風船を手にしたピエロがいるのなら、それは不気味で当然だ
とありますが、これは、アメリカでピエロ騒動が始まった最初の頃、ウィスコンシン州のグリーンベイというところで、そのようなピエロが徘徊している姿が報じられたものです。下がその時の写真です。
2016年8月1日 ウィスコンシン州グリーンベイ 早朝
ピエロというより、夢遊病の歌舞伎役者とか、髪をセットし忘れたデーモン閣下のような雰囲気もありますが、要するに、こういう得体の知れないピエロの姿をした人たちが、今のアメリカ(最近はアメリカだけではないですが)全土に出没していると。
一度話題になりますと、便乗してイタズラする人たちもおそらく大勢いて、そういう例が数多く含まれていると思いますけれど、最近は何だかもうムチャクチャな状況になっているようで、下のミシガン州のものは最近のものですが、すでにピエロを超越してナマハゲとなっている様子も見てとれます。
こういうような様々なピエロ(のようなもの)が、アメリカ全土で出現していて、今年のハロウィーンなども案じられていたのですが、最近、
「今年は、アメリカ全土でピエロのコスチュームは禁止」
という通達が当局から出されたことが報じられていました。
2016年10月26日の英国ガーディアンより
ところで、記事の中に「ピエロ恐怖症(コルロフォビア)」という言葉が出てきますが、これは欧米では結構一般的な恐怖症らしく(アメリカでは7人に1人いるといわれています)、俳優のジョニー・デップさんもこのピエロ恐怖症で、「克服するためにあえて身近にピエロのグッズなどを置いている」と、道化恐怖症 – Wikipedia に記されています。
ジョニー・デップさんのことが記事になったのは、昨年 2015年4月10日の東スポですが、その記事を読みますと、今回記事にしたアメリカの「ピエロ・パニック」に通じるメンタルが漠然とですが、わかる記述もあります。
ジョニー・デップも悩まされる「ピエロ恐怖症」が欧米で拡大中(東スポ 2015/04/10)より
「『ピエロが恐ろしい』という感覚はもともとあり、道化恐怖症と呼ばれている。ピエロを見ると動悸が激しくなり、泡を吹いて倒れる、気を失って失神するなどの症状が出る人もいます。米国では7人に1人の確率でピエロが怖いと感じる人々が存在するともいわれます。欧米はサーカスが盛んで、幼年期に見たピエロの姿がトラウマとなり、何を考えているのかわからない不気味な表情に、危害を加えられるという意識につながっているとされます」(米国在住ジャーナリスト)
長くなりましたので、ここらあたりにしておきたいと思いますが、それがどんなものであろうと「恐怖」というもの自体は「恐怖と感じる自分」の方に、恐怖の原因がある・・・というのは真理ですし、私もこのあたりを乗り越えたいとは思っていますが、なかなか難しいです。
しかし、恐怖という概念は「大規模な社会コントロール」に簡単に利用されるものでもありますので、本来なら対象は関係なくすべての恐怖は問答無用に感じないほうがいいのです。
それがピエロであろうと世界最強の核兵器であろうと。