今の中国は
ジェームズ・リカード氏という弁護士であり経済学者であり、アメリカでさまざまな要職を歴任してきた方がいるのですが、その方が、今回のタイトルにした通りの、
「中国:台頭する国か、それとも落ち目の大国なのか?」
という記事を寄稿していました。
かなり長い記事で、全部ご紹介するというようなものではないですが、その中に、以下の文言があったことに注目しました。
「台湾侵攻? あり得ない」
最後に、アナリストたちは中国共産党による台湾侵攻の問題について膨大な時間を費やしている。しかし、それは起こり得ない。
中国の艦船が衝突し、米国が台湾側に立っている状況で、実戦経験のない部隊が 100万人規模の上陸作戦で Dデイのような台湾侵攻を行うなど、全く馬鹿げている。
中国は深刻な国内問題を抱えている。海峡両岸侵攻でさらに大きな問題を作り出しても、これらの問題は解決しないだろう。
半年ほど前に、 19FortyFive (1945)というアメリカの防衛と国家安全保障に特化したメディアの記事をご紹介したことがあり、そのタイトルは、「中国は数ヶ月以内に台湾侵攻を開始するだろう」というものでした。
以下の記事に翻訳があります。
・あれも戦争、これも戦争。複雑化する世界大戦の中、「中国の台湾侵攻が6カ月以内に起きる」という情報筋の話
In Deep 2025年4月9日
これから、そろそろ 6カ月ほど経つわけですが、当然ながら、中国共産党による台湾への侵攻などは起きていません。
この記事でご紹介した 1945誌の記事には以下のようにありました。
「中国は数ヶ月以内に台湾侵攻を開始するだろう」より抜粋
2025年3月4日、ドナルド・トランプ米大統領の政権は中国に一連の関税を課したが、米国はこれを、中国が米国が定義する公平かつ公正な貿易に戻るためのインセンティブであると主張した。
これを受けて、中国大使は、中国は米国とのいかなる「戦争」にも備えているという半ば曖昧な脅しをかけた。
この大使の発言は、中国政府が米国との直接衝突の第一弾として台湾に対する攻撃を開始する機が熟したと判断したと解釈されている。
この件について、私たちが話を聞いた情報筋は、中国がまさにそれを実行しようとする事態は 6ヶ月以内に起こると考えていると述べている。
同じ情報筋はさらに、「今から 6カ月後」という時間枠は、中国共産党の上級指導部が、ワシントンの米国政権は中国共産党とその軍事部門である人民解放軍による侵攻を阻止する意志がない、あるいは阻止できないだろうと確信していることから促されていると述べている。
こういうことはこの数ヶ月の時間軸の中では起きなかったわけですが、同時に、この記事には、
> 中国による台湾島の占領は、「起こるかどうかではなく、いつ起こるか」という問題としてますます考えられるようになっている。
ともありますが、果たして、それは起きるのだろうか? と最近薄々とは思ってはいました。
先ほどのジェームズ・リカード氏の「中国:台頭する国か、それとも落ち目の大国なのか?」に、いくつかの理由が書かれていますが、まず、
「今の中国にはロシアのように自給自足できる能力がない」
ということがあるそうです。自給自足能力が、戦争による他国との対立や孤立の中で非常に重要であることは、日本の太平洋戦争の際の国民と兵士たちの惨状を振り返ればわかります。
自給自足能力のない国は長期の戦争には決して勝てません。
その戦時中より日本の自給自足能力はさらに大幅に下がっているわけではありますが、日本のことは置いておいて、ロシアには自給自足の能力がある。だから、長い外国からの経済制裁の中でも生き延びました。
話を中国に戻しますと、最大の問題は「経済が崩壊寸前にある」ということも関係していそうです。
中国の経済状態が実際にはどうなのかを知ることは、ほぼ不可能ですが、ジェームズ・リカード氏は以下のように書いています。
「経済崩壊寸前の状態」
中国の GDP 成長率(年率5%)は幻想だ。
この数字には、ゴーストタウンや、どんな標準的な会計基準でも即座に減額されるような、使われていない高級プロジェクトを含む固定資産への投資が含まれている。
不良債権は無視されている。銀行は中央銀行からのドル建て融資で支えられており、これが中国の外貨準備高を減少させている。中国の債務負担は米国債よりも深刻で、更なる成長を阻害している。
いわゆる「景気刺激策」は繰り返し失敗している。中国の株式市場(特にハイテクセクター)はバブル状態にある。
人民元は人民元買いのためのドル介入によって支えられており、一人当たり GDP は 13,687ドルと報告されているが、これは少数の超富裕層に大きく偏った所得分配によって歪められている。その結果、一般の中国国民の一人当たりの所得ははるかに低い。
要するに、中国経済はおそらく景気後退に陥っている。若者の失業率は 30%に迫っており、システム全体が崩壊寸前だ。
実際、中国の、特に若者の失業率は大変な高さになっていて、2023年7月の時点で、16歳から 24歳の若者の失業率は過去最大の 21.3%に上昇していました。
2018年〜2023年7月までの中国の若者の失業率の推移

BDW
この後、2023年8月に中国当局は、「現役学生を統計の調査対象から外す」と発表しました。
それでも、今年 8月の中国の 16〜24歳の失業率は 18.9%と過去最悪レベルのままです。
中国の全体の失業率は、最新の統計で 5.3%とされていますが、これもあまり信憑性のあるものとは思えない面もあります。
それと、
「どうやら、習近平国家主席はクーデターを軍に起こされた」
ようです。
ジェームズ・リカード氏は以下のように書いています。
「習近平へのクーデター」
さらに悪いことに、中国の政治体制は軍事クーデターに見舞われた。習近平国家主席が、人民解放軍最高指導者が率いる新委員会の傘下へと降格されたのだ。
胡錦濤前国家主席と江沢民前国家主席に忠誠を誓う派閥は、潜伏状態から脱し、再び政治活動を活発化させている。
これは、中国の王朝が権力を握り、そして崩壊していく中で、極端な中央集権化とそれに続く地方分権化、そして派閥抗争という、中国千年来のパターンを踏襲している。
…紀元前 2070年の夏王朝にまで遡る中国の歴史を深く理解していれば、習近平の失脚と中国共産党に代表される農民王朝の崩壊は容易に予測できた。その崩壊は今、ゆっくりと進行している。それが加速するかどうかは、今日の重要な政治課題の一つである。
こういうこともあり、少なくとも、習近平氏とその一派は、「今は台湾侵攻どころではない」という政治と経済の状況にあるようです。
それと共に、刮目したのは、
「中国軍には実戦経験がない」
ということでした。
「未検証の中国軍」
中国は 204万人の兵力を擁し、世界最大の軍事力を有している。ロシアは 110万人、米国は 130万人だ。
中国の軍事的最大の欠陥は、兵士たちが実戦経験不足であるということだ。
米国は 1991年以降、イラク、アフガニスタン、クウェートで大規模な戦争を繰り広げ、シリア北部でも 20年間戦闘を続けている。ロシアは 2000年以降、チェチェン、ジョージア、シリア、ウクライナで大規模な戦争を繰り広げてきた。
しかし、中国は 1950年以降、大規模な戦争を経験しておらず、ベトナムやインドとの小競り合いを経験したのみである。
中国は 75年間、いかなる敵とも接触していない。実戦において中国軍がどのように機能するかを評価する術はまったくないのだ。
戦争ばかりやっているアメリカとは違い、中国は「長く戦争をまったくしていない国」となっているのです。
そういう意味では、「中国は一番平和な大国」とも言えなくもないですが、実戦経験の乏しさは戦争には不利に働くはずです。
では、台湾…というより、中国を最大の敵と見るアメリカのほうはどうなっているのか。
アメリカにはアメリカの「弱い現実」がある
まず、
「今のアメリカ軍は史上最も弱い」
ということが確認されています。
2022年の以下の記事で、アメリカの保守系シンクタンクである「ヘリテージ財団」が、米軍に史上初の「弱い」総合評価を与えたことを以下の記事でご紹介しています。
・現在の米軍が「史上最弱」であることが判明している中で近づく世界戦争と経済破綻の中をどう生きる
In Deep 2022年10月25日
ヘリテージ財団の米軍の強度指数の報告書より
・陸軍:最低限 (ここから落ちると「弱い」に分類)
・海軍:弱い
・海兵隊:強い
・空軍:非常に弱い
・宇宙軍:弱い
・核能力:強い
さらに、ヘリテージ財団は、報告書に以下のように書いています。
米国の部隊にとっての課題をさらに悪化させているのは、インフレと予算削減であり、2018年から 2023年までの間に 590億ドル (当時で約 8兆8000億円)の資金が失われ、アメリカの同盟国が私たちの共通の安全保障上の利益に貢献できる支援が限られていることによって悪化している。
一方、米国の主要な敵対国である中国、ロシア、イラン、北朝鮮は、軍事力を強化し、米国のパートナーを脅かしている。これは、ロシアによる一方的なウクライナへの侵略とあるいは、中国、北朝鮮による台湾、日本、韓国などの近隣諸国への継続的な脅迫に見ることができる。
これが、2022年の話で、現在はさらに、特に米海軍は規模が縮小されることになっています。
これにより、2027年には、
・米軍の軍艦の数 280隻
・中国軍の軍艦の数 400隻
となることが予測されています。
先ほどのアメリカの国防メディアである 1945は、最近の記事で、以下のようなタイトルの記事を掲載していました。
「アメリカ海軍は縮小し、中国海軍は爆発的に増加している。これは大きな問題だ」
記事の内容はこのタイトルの通りですが、アメリカと中国の兵力には、どんどん差が出てきています。
また、先ほど、中国が「深刻な不況と経済崩壊に直面している」ということにふれましたけれど、アメリカはどうなのか?
アメリカといえば、まずは「債務」で、公式にはアメリカの債務は、37兆ドル(5500兆円くらい)とされていまして、この数値も何だかものすごいのですけれど、実際の債務額は、
「日本円で 2京円を超えている」
ようです。
これは、連邦政府が適切な会計基準を自らに課した場合、この数字になるのだそうです。以下の記事の後半で、それを説明した文書を取り上げています。
・約80年周期の社会の激変サイクルの渦中にいる私たち。そして、アメリカの実質的な国家負債が、日本円で「2京円」を超えているという事実
In Deep 2025年8月4日
記事の作者は、
> 歴史を振り返ると、これは米国政府の債務不履行に終わるだろう。
と書いていますが、いわゆるデフォルトではなく、おびただしい額のお金を刷って債務を返済するしかないだろうという意味らしいですが、そうした場合は、結果として、著しい物価上昇や超インフレとなっていくことと見られます。
アメリカの債務問題がどうなるのかはよくわからないですが、放っておいて、どうにかなるというものでもなさそうです。
それでは、失業率はどうなのか? というと、アメリカの公式の失業率は、4.3%前後で推移していますが、最近、「真の失業率」ということが報じられていまして、それによれば、
「アメリカの真の失業率は 24%超」
だとアメリカの経済研究所が発表しています。
これは、「機能的失業者」という定義を失業率に取り入れたもので、フォーブス日本語版でも詳しく報じられています。
> ルードヴィヒ共有経済繁栄研究所が 2025年5月に公開した調査によると、米国における「真の失業率」は 24.3%で、数百万人のアメリカ人が「機能的失業者」(訳注:実質的失業者、事実上の失業者とも)だという。
これはつまり、アメリカ人の 4人に 1人が機能的失業者だということです。
アメリカ政府の失業率のデータでは、「過去 2週間に 1時間でも働いたことがあれば、就業者としてカウントされる」のだそうで、アメリカの公式失業率は、中国の公式失業率と同様に、
「実態とは関係していない」
ものです。
「そういえば、日本ってどうなんだろう」と見てみますと、以下のようになっていました。
日本の失業者の定義
15歳以上の者で、 調査週において仕事がなく、 すぐに就業が可能で、 調査週を含む過去 1か月間に求職活動や事業を始める準備をしていた者(過去の求職活動の結果を待っている者を含む)
過去 1か月間に求職活動をしていない人は、失業者にも当てはまらないということなんですね。単に仕事がない人の率ではないようです。
こう考えると、失業率というのもいい加減な感じですが、しかし、日本でも、先ほどの「機能的失業」の失業率を計算すると、大変な数になっているのかもしれません。
それはともかく、中国とアメリカを比較していますと、
「どっちもどっちだなあ」
としか思えません。
それでも、アメリカは今でも戦争を行い続けていて(アメリカは今度は、ベネズエラを爆撃する準備中だそう)、中国はいまだに戦争を行う気配はありません。
こんなような中国の現状から、台湾侵攻というのは本当に単なる私たちの幻想なのかもしれないなとも思います。
しかし、仮に中国で軍がクーデターを起こしていたとして、その軍部が台湾侵攻に対して、どのような立場を持っているのかは不明ですし、今後のことは何ともわからないのかもしれません。
今は、ストラウス・ハウ世代理論による約 80年周期の大転換期でもあり、今年を含めて今後数年にどんなことが起きても不思議ではない時期です。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ ご登録へ進む
