ベンゾジアゼピンの話題再び
先日、多くの人たちが参集なさった、ある会合というのかパーティというのか、そういうものに参加してきました。
人が多く集まるところに赴いたのは実に久しぶりで、「大人数恐怖症」のケがある私には、やや緊張の場ではありましたが、その会場で、ある男性が私に声をかけてくださいました。
その方 「オカさんですよね」
わたし 「はい」
その方 「私はオカさんのブログを読ませていただいているのですけれど、実は私は長期のベンゾジアゼピン服用者なんです」
わたし 「ああ、そうなんですか」
その方 「それで、ブログでオカさんも長期のベンゾジアゼピン服用者で、その後、断薬された記事を読んだんです」
わたし 「ええ。連用ではないですけれど、30年近く服用してきて、7、8年くらい前に断薬を始めて」
その方 「時間はかかりましたか?」
わたし 「これに関しては、時間をかけないと危険らしいんです。3年くらいかけたと思います」
このような話になりました。
その方は、「ブレインフォグみたいな状態が続いていまして…」と述べていましたが、それを聞いて、「ああ、ブレインフォグ!」と思った次第です。
ブレインフォグは、コロナのときに出てきた表現で、「脳に霧がかかったような状態になる」ことからつけられた名称だと思われます。私にもそれがあったのですが、それは、断薬をする前ではなく、
「断薬を始めてから起こった」
ことでした。
ベンゾジアゼピンをやめ始めたころ、さまざまな症状に悩まされるようになったのですが、その中に、まさにブレインフォグと表現してかまわないような状態を何度も経験しました。
脳に霧がかかったというより、「脳が空っぽになったような状態」ですかね。まあ…ふだんから空っぽだろ、と言われればそれまでですが、なかなかキツいものではありました。
ベンゾジアゼピンのことは、過去に何度か記していますが、ベンゾジアゼピンは、服用し続けている中で起きる問題もありますが、「断薬」の時の問題が非常に大きく取り上げられるようになっています。
以下の記事で、米コロラド大学の研究ものたちの論文についての記事「ベンゾジアゼピンの使用は脳損傷、失業、自殺と関連している」というものをご紹介しています。
・ベンゾジアゼピンの使用と「断薬」が、脳損傷、自殺念慮と関連していることが過去最大の調査研究で判明
In Deep 2023年7月2日
以下のような状態が、「断薬してからも長く続く」ようなのです。
論文「ベンゾジアゼピン誘発性神経機能障害の長期的な影響: 調査」より
結果
調査では 23の具体的な症状について質問し、活力低下、注意力散漫、記憶喪失、神経過敏、不安などの症状を経験した回答者の半数以上が、これらの症状が 1年以上続いたと回答した。
これらの症状は新たに報告されることが多く、ベンゾジアゼピンが最初に処方された症状とは異なる。回答者の一部は、ベンゾジアゼピンを 1年以上中止した後でも症状が続いたと述べた。人生への悪影響も多くの回答者によって報告された。
主に以下のような症状が、断薬後 1年以上、人により、もっと続くことがわかったというものです。
ベンゾジアゼピンによる影響のいくつか
・エネルギーの低下
・集中力の難しさ
・記憶喪失
・不安
・不眠
・光や音に対する過敏
・消化器系の問題
・食べ物や飲み物によって引き起こされる症状
・筋力低下
・体の痛み
私は、不眠はなかったですが(毎晩お酒を飲んで眠るので)、他は全部あったかもしれません。しかもかなり長く続きました。
このコロラド大学の論文の主筆である医学博士は、自分自身が、ベンゾジアゼピンの長期連用者であり、取材に対して、
「私自身もその患者の一人です。処方通りに薬を服用していたにもかかわらず、ベンゾジアゼピンを断薬して 4年が経った今でも、毎日症状が続いています」
と述べていました。
ここでのポイントは、「処方通りに薬を服用していた」という部分かもしれません。
ベンゾジアゼピン系の薬は、種類により異なるとはいえ、一般的に 1日 1回から 3回くらいの服用となっていて、処方通りにこれを長く続けていれば、誰でも長期の連用者となってしまいます。
そして、この研究では、ベンゾジアゼピン使用者に対しての調査の中では、
「回答者の 91% が処方箋どおりにベンゾジアゼピンを服用していた」
ことがわかっています。
ほぼ 9割が、医師による処方箋の通りに、長期の連用者となっていたのです。
これに関しては、私は少し違いました。
「あくまで頓服として」30年以上ベンゾジアゼピンを保持し続けていた感じです。
その理由としては、30年以上前に薬のことなど知るわけもなかったのですが、初めて服用したときに「効果が劇的」だったことによります。
本当に効いたのです。
ベンゾジアゼピンという薬は、種類や相性によりますが、それが合ったときには、ものすごい効果があります(これによりベンゾジアゼピンへの精神的依存も始まります)。
私が服用を始めたのは 23歳くらいのときだったと思いますが、診断としては、パニック障害だったり、その頃の時代は「不安神経症」といわれるようなカテゴリーでしたが、私の場合、どちらかというと、「頭にその強迫観念みたいなものがこびりつく」のですね。
四六時中それが頭から離れないのです。
その不安なり恐怖が、ときにパニックにつながる。
そして、最初、レキソタンという比較的強いベンゾジアゼピンを処方されたのですが、初めてそれを飲んだときに、
「その強迫観念が頭からきれいに消えた」
のです。
感動的でさえありました。
そして、この劇的な効果にむしろビビりまして、「これは毎日飲んではいけないものだ」と思ったのですね。それで状況の悪い時だけ服用するということを数十年続けたのですけれど、まあ、処方どおり飲んでいたら、その後の私はどうなっていたかわからないです。
今も頭はおかしいですが、本当におかしくなっていたかもしれない。
しかし、薬の影響の最悪時が、「薬をやめてから来る」ということは、当時は当然知りませんでした。
あと、ベンゾジアゼピンは「激しく認知症を増大させる」ことも、はっきりとわかっています。以下は、2014年の医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載された論文の一部です。
ベンゾジアゼピン系の薬を投与されている高齢者は、そうでない高齢者と比べて、43~ 51%ほどもアルツハイマー型認知症になりやすい。
また、ベンゾジアゼピン系の使用量が多く、使用歴が長いほど、アルツハイマー型認知症になるリスクが高くなる。
アルツハイマー病が 50%も増加するというのは驚異的ですが、長く飲めば飲むほど、この影響は高まると思われます。
まあ……脳に起きた異変は、部分的には不可逆的かもしれず、私もある程度は覚悟しなければならないのかもしれないですけれど。
いずれにしても、数年、十数年とベンゾジアゼピンを長期で服用されている方の場合、いつかは断薬に踏み切ることは必要だとは思います。
それが難しいことは本当に私自身がよくわかるのですけれど、ベンゾジアゼピンは、ある種の麻薬と同じで、強烈な「精神的依存」も伴いますので、長期で服用されている方では「お守り」のように持ち歩いている方も多いと思います。
最初に出てきた男性の方に「どうやめていけばいいでしょうかね」ときかれたのですが、方法論はともかくとして、
「時間をかける」
ということはリスクを回避する上で非常に重要だと思います。
ベンゾジアゼピンの断薬について体系的に書かれているものとして、英ニューカッスル大学神経科学研究所名誉教授で、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱を専門とする診療所で多くの人たちを減薬、断薬させたヘザー・アシュトン博士という方の書いた文書があります。
これは日本語にも訳されていて、以下にあります。
・ベンゾジアゼピン - それはどのように作用し、 離脱するにはどうすればよいか - ベンゾジアゼピン離脱治療のための手順書
114ページもある長い文書ですが、断薬に興味のある方はお読みいただくのもいいかと思います。
これは私も参考にした文書ですが、この中で、「ゆっくりと断薬する」ことにふれていた部分を抜粋します。
「ベンゾジアゼピン離脱治療のための手順書」 48ページより
用量の漸減
ベンゾジアゼピン長期服用から離脱する場合、誰でも用量をゆっくりと減らさなければいけないことに、疑いの余地は全くありません。
突然の断薬や速過ぎる離脱は、特に高用量からの場合、重篤な症状(痙攣発作、精神病性反応、急性不安状態)を引き起こすことがあり、また遷延性の離脱症状のリスクを増大させます。
緩徐な離脱とは、徐々に用量を漸減していくことであり、通常、数ヶ月の期間をかけて行ないます。その目的は、ベンゾジアゼピンの血中濃度、組織内濃度を安定させてスムーズにゆっくりと低下させることにあり、そうすることによって、脳内の機能が本来の正常な状態を取り戻すことが可能となるのです。
ベンゾジアゼピンの長期服用は、神経伝達物質 GABA が媒介する生体本来の鎮静機能の多くを支配します。結果として脳内 GABA 受容体は数を減らし、GABA 機能は低下します。
ベンゾジアゼピンから突然離脱すると、脳は GABA 活動性低下状態のままであり、その結果、神経系統の過興奮が引き起こされます。この過興奮が次章で論じる離脱症状のほとんどの根本原因となっています。
しかしながら、身体が十分にゆっくりとスムーズにベンゾジアゼピンから離脱することにより、ベンゾジアゼピンの介在によって抑え込まれていた機能をコントロールする力を、本来のシステムが取り戻します。
脳機能が元に回復するまで長期間を要することは科学的に立証されています。ベンゾジアゼピン長期服用後の脳の回復は、大きな外科的手術からの回復とよく似ています。体や心の回復はゆっくりとしたプロセスなのです。
最適の離脱(減薬)速度とは個人によって異なり、多くのファクターに左右されます。それらは、使用されたベンゾジアゼピンの用量および種類、服用期間、パーソナリティ、ライフスタイル、過去の経験、特異的な脆弱性、あなた自身の回復システムの速度(これは、おそらく遺伝的に決まっている)などです。
通常、最適な判断が出来るのは、あなた自身です。
あなた自身が離脱を管理し、あなたに無理のないペースで進めていかなければいけません。あなたは、急速な離脱をさせようとする他者(クリニックや医師)からの説得に抵抗する必要があるかもしれません。
多くのクリニックや医師たちがこれまで標準として採用してきた 6週間という離脱(減薬)期間は、多くの長期服用者にとって、かなり急速過ぎます。
実際は、十分にゆっくりとしたものである限り、離脱速度(漸減期間)は決定的に重要なことではありません。
もしあなたが、およそ数年間ベンゾジアゼピンを服用しているなら、漸減に 6ヶ月かかろうが、12ヶ月あるいは 18ヶ月かかろうが、そういう期間の違いはほとんど意味のないことです。
時に、ベンゾジアゼピンからの離脱に非常にゆっくりと時間をかけるのは、“単に苦痛を長引かせる”だけで可能な限り早く終わらせた方が良い、という主張があります。しかしながら、ほとんどの患者の経験によると、ゆっくりとした離脱が非常に好ましいのです。
ここまでです。
ここに、
> もしあなたが、およそ数年間ベンゾジアゼピンを服用しているなら、漸減に 6ヶ月かかろうが…
とありますが、私は、数年どころか 30年クラスの大物でしたので、「まあ、3年は必要だろうな」という感じで始めました。
ミトコンドリアの損傷
今回このような記事を書きましたのは、最初にふれました、先日お話した男性の話に触発された部分もありますし、また、最近、
「慢性疾患の 90%がミトコンドリアの不均衡が関係している」
という医学関係の記事を読みまして、この記事はまた別の機会にご紹介させていただこうと思いますが、ミトコンドリアに損傷を与える薬剤のひとつにベンゾジアゼピンが含まれているのです。
海外の「ミトコンドリアにダメージを与える薬」という記事には、さまざまな薬が出ていますが、一般的な薬として、以下のようなものが挙げられています。抗不安薬にあるのがベンゾジアゼピンです。他のほとんどのベンゾジアゼピンも同様にミトコンドリアにダメージを与えると見られます。
「ミトコンドリアにダメージを与える薬」より抜粋
・抗炎症薬および鎮痛剤 / アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク(日本名:ボルタレン)、フェノプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンなど
・抗精神病薬/気分安定剤 / クロルプロマジン(日本名:ウインタミン)、フルフェナジン(日本名:フルメジン)、ハロペリドール(日本名:セレネース)、リスペリドンなど
・抗不安薬 / アルプラゾラム (日本名:ソラナックス)、ジアゼパム (日本名:セルシン、ホリゾン)など
そして、「ミトコンドリアの機能障害は、精神疾患の原因」でもあることがわかっています。以下の記事で取り上げています。
・精神疾患の根本原因は「ミトコンドリアの機能障害」という説を知り、今の生活環境は、それをもたらすものばかりであることに愕然とする
2023年7月6日
ベンゾジアゼピン系の抗不安剤を飲めば飲むほど、それはむしろ精神疾患の下地を作っていることにもなってしまう可能性があります。
メンタル疾患の治療のために飲むメンタル薬が、新たなメンタル疾患を作り出すというのは、もう、ひどいパラドックスですが、現在の医学の現実のひとつでもあります。
今後いろいろと激しい時代になっていくことが予想されますが、そういう時代だからこそ、長期で服用されている方々には、少しでもベンゾジアゼピンからの離脱をお勧めしたいと思います。
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