論文の一方的な撤回に対して湧き上がる議論
医学界では権威のある医学雑誌とされる BMJ (イギリス医師会雑誌)が、新型コロナのパンデミックの超過死亡の原因を調査した論文を「撤回した」ことが議論になっています。
英テレグラフ紙が最初に報じたもので、この論文は、9カ月の査読を経て正式に査読済み論文として掲載されていたものですが、突然、BMJ 側から撤回されたというものでした。
悪意、データの捏造や改ざんなどの証拠が一切見つからなかったのに関わらず、一方的に撤回されたということがあり、一部の医学者や科学者たちから非難の声が上がっているようです。
まあ…新型コロナのパンデミックが始まってから(ワクチン以前)、撤回された論文というのは、わりと見てきましたが、それらはパンデミックの渦中だったということもあり、今回のように、かなり以前に過ぎた状況の検証についての論文が一方的に撤回されるというのは珍しいことかもしれません。
過去の撤回された論文については、後半で捕捉しておきます。
まず、テレグラフ紙の報道です。
BMJがワクチンによる死亡に関する論文を撤回したことで論争が勃発
Row breaks out after BMJ retracts paper on vaccine deaths
telegraph.co.uk 2026/08/15 (Archive)
編集者らは科学的誠実性を損ない、「恐ろしい」前例を作ったとして非難されている。
英国医師会誌(BMJ)は、COVID-19 ワクチンがパンデミック中の超過死亡の一部に関与していた可能性を示唆する論文を撤回したことで、科学的誠実性を損なったとして非難されている。
2024年、オランダのある研究グループは、BMJ 公衆衛生誌に論文を発表し、パンデミックによる死亡者の一部は、封じ込め措置(※ ロックダウン)やワクチン接種プログラムの間接的な影響によって引き起こされた可能性があると警告し、さらなる調査を求めた。
この論文は 9ヶ月にわたる査読を経て、英国を代表する医学誌である BMJ によって正確であると認められた。
しかし、多数の苦情と、著者 4人のうち 3人が勤務していたユトレヒトのプリンセス・マキシマ・センターによる調査を受け、今週撤回された。
調査の結果、悪意、データの捏造、改ざんの証拠は見つからなかったものの、この研究は「科学的コンセンサスを反映していない」こと、そしてワクチン接種の悪影響に偏って焦点を当てていることから、誤解を招く偏った研究であると結論づけた。
筆頭著者であるサスキア・モスタート博士はその後、プリンセス・マキシマ・センターを辞任し、論文発表後に巻き起こった「非合理的で盲目的な怒り」には全く準備ができていなかったと述べた。
BMJ 誌は、過剰死亡の可能性のある原因に関する議論に誤った情報が含まれていること、および著者らによる元の研究の限定的な性質が十分に説明されていないことを理由に、当該論文を撤回すると述べた。
しかし、オランダの専門家 3名が BMJ 編集委員会に書簡を送り、論文撤回に衝撃を受けていると述べ、決定を再考するよう求めた。
「撤回は不釣り合いであり、あなたの決定に政治的な考慮がどの程度影響したのかについて、深刻な疑問が生じる」と彼らは書いている。
「このような撤回は、すでに発表されている科学研究の信頼性を損なうだけでなく、科学者に対する政治的圧力が高まっている昨今において、非常に悪い前例となる」
アムステルダム自由大学の確率論教授で、この書簡の著者の一人であるロナルド・メースター氏は、英紙テレグラフに対し、「撤回する科学的な理由はない」と語った。
「 BMJ は何らかの圧力を受けていた可能性はあると思うが、誰から圧力を受けたのかははっきりしない」と彼は述べた。
「我々が書簡で述べたように、今回の撤回は異例であり、論文自体に何ら問題はない」
「つまり、本当の理由は政治的なものだ。科学にとって本当に悲しいことだ。編集者がこのような理由で決定を下すような状況では、もはや科学を真剣に受け止めることはできないだろう」
著者 2名のうち、ゲルトヤン・カスパース教授とミンケ・ハイバース博士は、「他者による論文の誤解釈とそれに伴う公衆衛生上のリスクへの懸念」から撤回を要請したと述べたが、論文に誤った情報が含まれているという点には同意しないと述べた。モスタート博士を含む他の 2名は、撤回に同意しなかった。
免疫学と感染症を専門とするオランダ人研究者で、BMJ 編集委員会の書簡のもう一人の著者であるジョナ・ウォーク博士は、この論文が撤回されたのはメディアの報道の仕方が原因だと主張した。
「それは科学的な理由ではなく、政治的な理由です」と彼女は X に書いた。「今回の決定により、BMJ は科学研究への政治的干渉がますます強まるこの時代に、また一つ危険な前例を作ってしまったのです」
研究によると、英国における COVID-19 ワクチンの接種によって約 45万人の命が救われた可能性があると推定されているが、2万2000人以上が、自身または家族がワクチン接種によって健康被害を受けたと考え、政府のワクチン被害補償制度(VDPS)に申請している。
最新のデータによると、政府は VDPS (ワクチン接種支援制度)に基づき 249人に約 3000万ポンド (約 65億円)を支払っており、ワクチンには現在、まれではあるが危険な副作用に関する警告が表示されている。
6月、モスタート博士は米国上院で証言を行い、ワクチンの潜在的な有害性に関する部分は当初「はるかに短かった」が、BMJ の査読者からより多くの証拠を求められたと主張した。
「証拠が存在する以上、それを盛り込みました」と彼女は書面による証言で述べた。「最初から不公平な戦いでした。根本原因の調査を求める私たちの主張は、何らかの形で検閲され、抹消されなければならなかったのです」
彼女はさらにこう付け加えた。
「はっきりさせておきたいのですが、私は政府の公式死亡統計データを公表し、継続的な超過死亡についてさらなる科学的調査を求めたことで職を失いました」
「正当な疑問を投げかけることが専門家として危険になるような状況では、科学は機能し得えません」
「科学者が職業上の破滅を恐れるようになると、一般の人々が誠実な科学的探究に触れる機会を失ってしまいます」
BMJ の広報担当者は、「出版前の査読は完璧ではなく、論文の軽微な問題も重大な問題も見落としてしまうことがあります。だからこそ、私たちは出版後の査読と、出版するすべてのものに対する精査を重視しているのです」と述べた。
「総じて、本論文は死亡原因に関する議論が偏っており、厳密さに欠け、誤った情報を含んでいると結論付けています。筆頭著者に結論を訂正する機会を与えましたが、彼女が提案した訂正は不十分であり、論文の独創性に関する問題は解決できませんでした」
「研究内容が広く報道されたことを理由に論文を撤回したわけではありません。これは撤回基準ではありません」
テレグラフ紙は現在、研究者らにコメントを求めている。
ここまでです。
論文筆頭著者の主張
どのような論文だったのかは、撤回されてしまった以上、わかりようがないですが、ただ、調べてみますと、筆頭著者のサスキア•モスタート博⼠が書いた 4ページの文書が見つかりました。
冒頭には以下のように書かれています。
サスキア•モスタート博⼠の文書より
私の名前はサスキア•モスタートです。インドネシアとケニアで、グローバルヘルスと⼩児がんのアウトリーチプログラムの研究コーディネーターとして勤務していました。
2024年、私たちのチームは BMJ 公衆衛生誌に、2020年から 2022年までの⻄側諸国の全死因死亡率データを調査した研究を発表しました。これらのデータは、主流の公衆衛⽣研究で⽇常的に使⽤されている政府報告の死亡率記録です。査読プロセスには 9か⽉以上かかりました。
私たちの研究では、⻄側 47カ国で超過死亡率が依然として⾼く、超過死亡者数は合計で 300万⼈を超えていることが明らかになりました。パンデミックの急性期が過ぎた後も、調査対象国の圧倒的多数で超過死亡率が持続していました。
私たちは、超過死亡の原因について確証を得たとは主張しませんでした。むしろ、パンデミック以前には存在しなかった3つの主要な出来事、すなわち COVID-19 感染、封じ込め措置、そして COVID-19 ワクチンに注⽬するよう求めました。さらに、⾒過ごされてきた他の要因も認識しました。私たちは、各国政府と公衆衛⽣指導者に対し、根本原因を調査し、政策を評価するよう強く求めました。
パンデミックの間、⼈命を守るという名⽬で、異例の措置が正当化されました。公務員やメディアは、COVID による死はすべて重要であり、すべての命は保護されるべきだと強調した。私は、300万⼈を超える超過死亡が発⾒されたことで、その原因の調査に同じ緊急性がもたらされるだろうと信じていました。
しかし、その後に起こったことは、私が「盲⽬的な怒り」としか⾔いようのないものとよく似ていました。
この大きな怒りは⼀体何によって説明できるのでしょうか?
そして、その下に、「パンデミック中に実際に行われたこと」が表組みされています。
簡潔に記しますと、次のように書かれています。
⼼理操作と恐怖プロパガンダ
・感情的なメッセージング:強い感情(恐怖や怒り)を呼び起こし、批判的思考を阻害する。
・繰り返し:証拠がなくても、ある考えを繰り返し述べると、無意識に浸透し、広く信じられるようになることがある。
・視覚的シンボルまたはスローガン:批判的思考を阻害する/複雑なアイデアよりも効果的に記憶される。
・分離:社会的接触を制限することは、外部の視点を制限し、恐怖⼼を増⼤させ、依存⼼を助⻑し、操作者の⽀配⼒とコントロール⼒を⾼める。
・分極:グループ間の違いを強調して分断を⽣み出す(「我々対彼ら」)。
・⾮⼈間化:個⼈や集団を根本的に異なる(劣っている∕脅威である)と認識し、⼈間としての資質が劣っていると考え、罪悪感や共感を感じることなく虐待(差別∕権利の無視)を正当化する。
さらに「検閲」などの言葉が続きます。
論文にこのようなことが書いてあったのかどうかは定かではありませんが、サスキア•モスタート博⼠は、分析から、このようなことがパンデミック中に行われ続けてきたと結論付けたようです。
確かに、上に書いてあることはすべて、当時はその通りでした。
日本でいえば、マスクや社会的距離に始まり、外出の自粛、外での飲食の自粛、検査の過度な奨励が……どのくらい続いたのですかね。
ずいぶん長く続きました。
こういうスラップスティックな時代は何十年も前にあったことではなく、ほんの数年前のことです。
でも、人々はすべてなかったように生きていて、完全に忘れている人もいるかもしれません。
「体制の問題か大衆の問題か」
というのは、2020年からずっと思い続けていたことでもあります。
いずれにしても、ああいう時代が二度と来ないことを願いますが、本当に来ないのかどうかも今となってはわかりません。
過去の撤回論文
ちなみに、パンデミック中に記事等でご紹介した後に撤回された論文は、2020年1月に(つまり WHO のパンデミック宣言の前)、インド工科大学の科学者たちが、新型コロナのウイルス中に「 HIV の挿入」を見出した論文がありました。以下にあります。
新型コロナウイルスに「HIV (エイズウイルス)」のタンパク質が挿入していることをインド工科大学の科学者たちが発見
2020年2月1日
この論文は直後に撤回されましたが、ずっと後になって、この撤回が、
「アンソニー・ファウチ氏に脅され撤回した」
と、インド工科大学の研究者が後に明かしています。こちらの記事に書いています。
2021年には、スウェーデンの研究者による論文も撤回されています。
人間には、V(D)J組換えと呼ばれる「獲得免疫の根本システム」が存在するのですが、スパイクタンパク質は、その免疫システムを阻害する、という内容でした。V(D)J組換えのことも含めて、以下の記事にあります。
免疫を失うメカニズムがまたひとつ : スウェーデンの研究が、スパイクタンパク質は V(D)J組換えと呼ばれる「獲得免疫の根本システムを阻害」することを示す
2021年11月1日
なぜ撤回されたのかは不明です。しかし、この論文自体は「撤回(RETRACTED)」と印が押されていますが、論文そのものは、そのままこちらに存在します。
いろいろなことがあったパンデミックですが、今回のサスキア•モスタート博⼠の論文の撤回例を見ましても、今も「何かが続いている」ということは言えるのかもしれません。
これははずっと続いていくのでしょうか。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ ご登録へ進む



