時間と空間を操作する
ロシアのプラウダ紙を読んでいましたら、
「米国は時間と空間を操作する」
というタイトルの記事がありました。
「なんだ?」と思って読み始めたのですが、米ニューズウィーク誌が最初に報じたもののようで、記事を探しましたら、それがありました。
今回のこのブログ記事のタイトルと同じ「ホワイトハウスが『時間と空間を操作できる技術を持っている』と発表」というタイトルの報道です。
そのニューズウィーク誌の記事から抜粋しますと、以下のようなことが最近あったようです。
ニューズウィークの記事より抜粋
ホワイトハウスの科学顧問マイケル・クラツィオス氏が、米国の技術は「時間と空間を操作できる」と主張する演説を行った後、その発言がネット上で拡散し、憶測を呼んでいる。
ホワイトハウス科学技術政策局長のクラツィオス氏は、4月14日にテキサス州オースティンで行われたエンドレス・フロンティア・リトリートでの政策演説でこの発言をした。
クラツィオス氏はホワイトハウスの公式ウェブサイトに掲載された準備された発言の中で以下のように述べた。
「我々の技術は時間と空間を操作することを可能にする。それらは距離を消滅させ、物事を成長させ、生産性を向上させる」
この発言はおそらくテクノロジーの進歩についての希望的な言葉として意図されたものだったが、その後、ネット上で広く拡散され、そのコメントを文字通りに解釈する者もいる。
時間と空間を操作するという引用は、人工知能、航空宇宙、生産性向上ツールといった言及と並んで現れた。その文脈において、クラツィオス氏は「個人が新しい技術を生み出し、時間と空間を歪める科学的発見に身を捧げる選択」と「より少ない労力でより多くの成果を上げる」ことに言及した。
つまり、ニューズウィークは、この発言は、現代のイノベーションの可能性を捉えた「比喩」だろうと述べています。
まあ、そんなところだろうとは思うのですが、ただ、ふと思い出したのは、以前、
「アメリカ国防総省が『時間を止める装置』を開発した」
という報道を記事にしたことがあるなあ、と思い出したのです。
探しましたら、13年前の 2012年1月の以下の記事にあり、当時の AFP通信の記事をご紹介しています。
・アメリカ国防総省が『時間を止める装置』を開発
In Deep 2012年01月06日
少し抜粋します。
報道「ペンタゴン支援の研究で発明された時間を止める『タイム・クローク』」より
ペンタゴン(アメリカ国防総省)の支援を受けている科学者たちが、1月4日、ある装置を発明したと発表した。
その装置は、「少しの間、起こっている出来事を感知されなくなる」というもので、『タイム・クローク』(時間を隠すもの)と呼んでいる。
科学誌ネイチャーに発表された論文によると、研究所で開発されたこの装置は、光の流れを操作し、わずかなの間、起きていることを見えなくさせるものだ。
これは、いわゆる「透明マント」( invisibility cloak )といわれている特定の色を人間の視覚では見ることができなくする次世代のカモフラージュの開発の実験を加速させることになる。
この研究を率いる、米国コーネル大学のモティ・フリードマン教授は、「今回、私たちが得た結果は、『時間と空間を完全に覆い隠す装置』の開発への重要なステップとなる」と言う。
今回のブレークスルーは、光の周波数がわずかに異なる速度で動いているという事実を利用してもたらされた。
AFP 2012/01/04
記事は、ここから、その「理屈」について述べられているのですが、理屈は難解すぎてよくわかりません。先ほどのブログ記事には全文を訳しています。
これはアメリカ国防総省の支援を受けてのものということで、つまりは「軍事用」のものです。
なお、記事中に出てくる「透明マント」とは、以下のようなもので、物体の周囲のあらゆる波長の光を曲げることで、あらゆる物体を効果的に隠すものです。この場合は、首から下と腰の間に透明になるシートを配置しています。
透明マントの一例。背景もちゃんと透けて見えています
bigthink.com
この透明マントも、先ほどの 13年前の記事の時点では、おおむね完全に近いものが存在していましたので、今だと、実際に戦場で使うことができるレベルに達していると思われます(あるいは、実際に使われているとか)。
歴史を見れば、科学にしても医学薬学にしても、飛躍的にそのテクノロジーが進んだキッカケはおおむね戦争で、それが一般の用途にも広がってきたという感じでしょうか。
話が逸れますけれど、今回の「時間と空間を超える」ということについては、空間のほうはともかく、「時間」というのは、本来的に厄介な概念ではあり、
「そもそも、科学的に時間というのは存在しない」
という概念あたりに立脚しますと、意識の問題次第では、時間を超越することは、そんなに難しいことではないのかもしれません。
これについては、2018年の以下の記事で、アメリカの科学誌サイエンティフィック・アメリカンの「私たちは本当に時間の流れの中にいるのだろうか?」という記事を翻訳しています。サイエンティフィック・アメリカンのこの記事は、かなり興味深いものです。
・時間の流れは実際に存在するのか?: そして…実は私は「時間は人間が作りだしている」と確信していて…
In Deep 2018年11月26日
そんなわけで、今回、ホワイトハウスの科学顧問から発表された「時間と空間を操作する」ことの真相は不明ですが、それについてのロシアのプラウダの記事をご紹介して締めさせていただきます。
AI、テレポーテーション、極超音速…:米国は時間と空間を操作できると主張
ИИ, телепортация, гиперзвук: США манипулируют временем и пространством
Pravda 2025/04/17
「我々の技術は時間と空間を操作することを可能にする。それらは『距離を消し去り、物事を成長させ、生産性を高める』のだ」とホワイトハウス科学技術政策局長マイケル・クラツィオス氏は語った。
詳細が欠如しているにもかかわらず、テキサス州オースティンで行われたエンドレス・フロンティア・リトリートでの政策演説での声明はメディアやソーシャルネットワークで大きな反響を呼んだ。
誰もが何を恐れていたのか、または警告されていたのかを理解しようとしている。
クラツィオス氏の演説では、「超大国アメリカ」というセンセーショナルな言葉に加え、AI、バイオテクノロジー、半導体にも言及されていたが、「時間と空間を操作する」具体的な例は示されなかった。
メディアにはすでに、「米国が時間と空間の管理で何を意味していたか」についてのさまざまな情報があふれている。真面目な分析から陰謀論、皮肉たっぷりのコメントまで様々だ。
「強力な AI(ほぼ完全な知能)」や「極超音速」に言及する人たちもいれば、「6G、7Gテクノロジー」や「量子通信回線を備えた本格的な量子コンピュータ」について述べる人たちもいた。
あるいは、テレポーテーションや、エイリアンのテクノロジーについてコメントする人たちまでもいた。
一部の専門家たちは、人工知能の能力を比喩的に表現するために、クラツィオス氏は「時間と空間を操作する」と述べたのではないかと観測している。
もう一つの有力な仮説は、クラツィオス氏の言葉を、数分間で広大な距離を移動し、「遠距離消滅」効果を生み出すことができる極超音速兵器の開発と結び付けている。
米国はそうしたプロジェクトに積極的に取り組んでいるが、この分野ではロシアや中国に大きく遅れをとっている。
一部の専門家は、「時間操作」とは、本格的な量子コンピュータの開発、5G/6Gネットワークの遅延の大幅な削減、地理的距離を「事実上」排除する量子通信回線の開発を意味する可能性があると指摘している。
より推測的なバージョンは、理論的には「距離を消去」できる仮説的な「テレポーテーション」に関するものだ。しかし、科学者たちは、そのような技術は開発も実用化もされていないことを強調している。
(※ 訳者注)ただし、量子テレポーテーションというものについては、ずいぶんと以前から研究され、何度も成功しています。こちらの 15年前の記事などをご参照くだされば幸いです。
アナリストの多くは、クラツィオス氏の発言は米国の技術的リーダーシップを強調することを目的とした修辞的手法であると考えている。
クラツィオス氏は、第 1次トランプ政権で主席技術顧問を務めていたことを思い出してもいいだろう。2017年には「テック・リーダーシップ・サミット」を主催し、2020年には COVID-19 のパンデミック対策に AI の活用を呼び掛けた。
クラツィオス氏はアメリカの功績に注目を集めるために派手な発言をすることに慣れている人物だ。
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