2019年4月26日の米国ワシントンポストより
どのように生きるか。そしてその後は
最近、アメリカの報道で、「遺体を肥料にする法案が可決」というものを見かけました。
この言葉の連なりだけですと、一種、猟奇的というのか、「ちょっとそれはアレなのではないか」というのか、そういうような「少しとんでもない考え方」的な感覚を持たれそうなのですが、冒頭のワシントンポストの記事を読みますと、そういうことではないものである可能性がある事柄であることに気づきます。
良いことか悪いことかの判断がつくものではないかもしれないのですが、まずは、ワシントンポストのこの記事をお読みいただきたいと思います。
Washington passes bill to become first state to compost human bodies
Washington Post 2019/04/26
ワシントン州で人体を堆肥化する最初の州法となる法案が可決される
もうじき、ワシントン州全域の家庭の庭で、ヒナギクやさまざまな花たちの肥料に人の遺体を使うことが合法となるかもしれない。
ワシントンの州議会は、人体を堆肥化することと、それをさまざまな用途で使用することを許可する法案を可決した。
州知事によって署名された場合、州法として成立する。
国家の歴史が古くなっていくと共に、アメリカでの葬儀の状況は変化してきた。2016年には、葬儀における火葬の割合が 50%を超え、今のアメリカでは、火葬が最も人気のある葬送として選ばれている。
国勢調査局は、2037年には 1年間で 100万人以上のアメリカ人が死去すると予測している。
人体を堆肥化する法律が進行する中で、シアトルに本拠を置く企業リコンポーズ社(Recompose)は、微生物を使って、人体の皮膚、骨、その他すべてのものを変換する「自然の有機還元」と呼ばれるサービスを申請中だ。
4月19日に超党派の支持を得て、この法案を発表したワシントン州上院議員のジャミー・ペダーセン(Jamie Pedersen)氏は、次のように述べている。
「遺体の埋葬や焼却には、重大な環境問題が含まれる」
遺体の焼却では、平均的に火葬された体はおよそ 40ポンドの炭素を放出し、 燃焼するために、およそ 30ガロンの燃料を必要とすることを示唆する。
今回の法案の成立は、ワシントン州のジェイ・インスレー知事の判断にかかる。インスレー知事は、3月に発表した知事選の主要な論点を気候変動とした人物だ。
知事の広報担当者は次のように述べる。
「この法案は、超党派の支持を得て議会を通過しました。これは環境に優しい法案だと思います。知事がこの法案にどう対処するかはまだ述べていません」
インスレー知事が法案を検討できる時間は 20日間だ。
アメリカでは、埋葬の方法については主に州の問題であり、国家としての法律ではない。今回のワシントン州の法律は、2020年1月には施行されると見られる。
人体を肥料にする方法は、苛性アルカリ溶液のような薬剤を使って、人体を液体に変えるものだ。
上院議員のペダーセン氏は、「もし知事が法案に署名しなければ、率直に言って、非常にショックだ」と述べている。
リコンポーズ社の創設者であるカトリーナ・スペード(Katrina Spade)氏は、シアトルでペダーセン氏と会ったときに、人体の堆肥化を合法化するという考えを提案したという。
リコンポーズ社の人体の堆肥化は、自然の微生物分解の強化版といえる。
スペード氏は、以下のように述べる。
「このプロセスは、木の葉や木の枝が分解して土に変わること、あるいは、小動物が分解して土に戻ることと同じです」
スペード氏は、葬儀を含む同社の人体の堆肥化サービスには、約 5,500ドル (約 60万円)の費用がかかるだろうと述べた。これは、アメリカでの通常の火葬よりも高額だが、棺が必要ないので、その分、葬儀費用は安くなる。
人体の分解に使う微生物は、高さ約 2.4メートル、幅約 1.2メートルの大きな容器の中で働き、アルファルファ、藁、そして木の破片等と一体となっている。
30日のうちに容器内の温度が 65℃に上昇すると、微生物による分解作用で、人体内のほとんどの病原体や、残留している医薬品とともに身体が分解されるという。
心臓にペースメーカーを入れている場合は、この行程の前に取り外される。また、人工関節や他のインプラントは、堆肥化された後に取り除かれる。
スペード氏は、「私たちのシステムは、一人の人体から 1メートル四方の土を作ることができます」と言う。
遺族は、その堆肥を家に持ち帰ることを許可されることになるだろう。あるいは、堆肥化された土の量が多い場合は、地域の自然保護グループに寄付することになるだろう。ただし、この遺体から作られた肥料を使うことができる場所は、土地の所有者の許可を得ている場所だけになると思われる。
ワシントン州立大学の土壌科学者であり、この方法を推薦する顧問でもあるリンネ・カーペンター・ボッグズ (Lynne Carpenter-Boggs)氏は、この人体の分解手法は、「今ではかなり一般的な手順です」と述べている。
カーペンター・ボッグズ氏は、アメリカでの鳥インフルエンザの発生時に、農家で感染の可能性のある家禽を処分する際に同様の方法を行っている。
カーペンター・ボッグズ氏は最近、リコンポーズ社による人体の堆肥化の予備調査を監督した。この際には、寄贈された 6人分の遺体が使われた。予備調査の結果はまだ公表されていないが、リコンポーズ社は、ニュースリリースで、人体の堆肥化によって作られた土壌は、ワシントン州の環境局によって設定された安全基準を満たしたと述べた。
「最終的にできたその土は本当に素晴らしいものでした」と、カーペンター・ボッグズ氏は語る。
そして、
「この土をぜひ、自分の家の庭で肥料として使いたいです」
と述べた。
米ミネソタ大学の生態学的コミュニケーションの専門家であるジョシュア・トレイ・バーネット (Joshua Trey Barnett)氏は、メディアは、このような人体の堆肥化ということについての「不快な要素」ばかりを膨らませると述べる。
実際には、人体の堆肥化について、そのような不快な感覚を持つ人はとても少ないという。
リコンポーズ社のスペード氏は、この堆肥化について、非常に多くの問い合わせが来ているという。米国内のカリフォルニア州、コロラド州、バーモント州の他、ブラジル、オランダ、オーストラリア等の海外からもメールが殺到しているという。
スペード氏は以下のように言う。
「私は、このシアトルで生活支援施設にいる友人が何人かいます。その人たちは、1980年代の中盤にこう言っていました。『私たちは生きたいように今を生きている。だから、人生の最期にどのように振る舞うかを今から気にかけている』」
ここまでです。
現在のアメリカ人の 50%以上が火葬を選んでいるということをはじめて知りましたが、いずれにしましても、私は、この記事を読んで、このプロジェクトを行っているリコンポーズ社のカトリーナ・スペードさんの考え方を気に入ってしまったのです。
記事の最後のスペードさんの言葉、
> 人生の最期にどのように振る舞うかを気にかけている
を聞いて、「そうなんだよなあ」と思ったのです。
というのも、最初、「人体を肥料に」という響きを聞いた時には、すでに亡くなった方々のことを想定、あるいは想像していたわけで、「そういうことはひどいかも」というように思っていたのですが、しかし、
「自分なら?」
ということを考えていなかったのでした。
そう考えてみますと、私自身は、
「自分が亡くなった後に肥料あるいは土になるのはいいなあ」
と正直思うのでした。
もともと、私は、小さな頃から親に「死んでも葬式はしなくていいし、お墓とかも入らないから」と言うような子どもでして、そんなことを言われた親も困るだけでしたでしょうけれど、実際、身体も弱かったですので、他の子どもよりも「死」のことは考えることはわりと多かったのですね。
書いたこともありますけれど、実際の話、今生きていることは不思議なのですよ。
そんなこともあり、子どものころから「死にまつわる儀式や存在」にはとても疑問を感じてはいました。
亡くなった故人と面識さえないような人々がたくさん集まる葬式とか、その人の存在を物質として残しておきたがる「お墓」とか、そういうものはどうも今でもダメですね。
今は大人ですから、さすがに奥さんに「自分が死んでも葬式はやらないでほしい」とは言わないですが(言われた奥さんが困るだけですので)、それでも、
「なんとかお墓に入らないで済む方法ってのはないのかねえ」
とは言うことがあります。
「どっちでもいい」のではなく、「お墓という物質存在と関わりたくない」のです。
まあ、たとえば巨大な小惑星が日本列島に衝突して、地域ごと跡形もなく消えてしまうとか、そういうことが起きれば、お墓に入らなくても住むのかもしれないですが、そんな劇的な事象なしで何とかならないかなあと今でも思います。
せっかく死が物質からの解放の瞬間を作ってくれているのに、死後もお墓という物質に囚われ続けるというのはどうも・・・。
自分が亡くなったあとには、自分に関わる物質はすべて消えるべきだと願う部分はあるのですよね。
地球の生態系というのは、基本的に「死亡した後に物質としての形態は消滅する」ということで完成しています。
骨だとか、化石だとか、DNA だとか、長く残るものもありますけれど、永遠ではないです。
私は「 DNA は永遠なのかな」と思っていましたけれど、2012年の「 DNA は永遠不滅ではなかった」という In Deep の記事で書かせていただいていますが、オーストラリアの大学での研究で、まあ計算上ですけれど、「 DNA は 680万年くらいで消滅する」ということがわかったことを思い出します。
ともあれ、私はちっちゃな頃から悪ガキで 15で不良と呼ばれたよ……ではなく、小さな頃から生ガキが好きで、15で予後不良となりまして……ではなく(いい加減にせえ)、まあ、とにかく小さな頃から、死んだものに、戒名とかお墓とかいろいろとくっつけて「この世に残させる」ということに疑問を持っていたのですね。
何しろですよ。
最大の追悼の念というのは、豪華な葬式でもなく、立派なお墓でもなく、「残された人の思いと記憶」であるわけで。
生きている時に親しかった人の「生きている者の死んだ人への想い」だけが追悼であって、それこそは尊いものでしょうし、それに比べて、知らない人たちが集うような葬式や無駄に立派な墓なんかの物質は何も示していないと思います。
そして、シュタイナーなんかも書いていますけれど、その「生きている者の死者への想い」こそが「死者の喜びである」というような考え方もあるわけで。
ああ・・・なんか話が混沌としてきましたね。
・・・混沌ついでというのもなんですが、まあ連休ですし・・・・・漫画家の大島弓子さんの作品に、とても好きな『ダリアの帯』という作品がありまして、30年以上前に読んだものですが、若いご夫婦の話で、流産をきっかけとして、奥さんが狂気に陥っていくのですね。
今でいえば、統合失調症とかそういうようなものなのでしょうが、そういう説明があるわけではなく、奥さんの狂気は深まっていき、不倫というような話も絡んで、旦那さんは混乱する(大島弓子さんの絵がかわいいので悲壮感はまったくないです)。
話はいろいろとあるのですが、最後は、旦那さんは、奥さんと一緒に田舎の畑に囲まれた小さな家で住むことにします。
そこで、どのくらいの年月かわからないですが、狂気の中のままの奥さんと長い年月を過ごして、そして、ある日、旦那さんは、畑の中で倒れて、そのまま死んでしまうのです。
それを読んだ時に、「ああ、これはあれだな。奥さんは電話で連絡とかできないし、旦那さんはこのまま畑の肥料に……」と思ったことを思い出しました。
旦那さんが倒れた時、(死んだ後に)旦那さんは花に囲まれた中で以下の台詞を思います。
黄菜(きいな)というのは狂気に陥った奥さんの名前です。
「この期に及んで気づきました。
黄菜がひとりで話を交わしていたのは、
草や木
生まれなかった子ども、旅する風、霧のつぶ、
雨のしずく
有形無形森羅万象だったことを」
話がずいぶんと逸れてしまいましたが、あともうひとつ書いておたきいことがあります。
私は、今回のワシントンポストの記事を翻訳している時から、ここに出てくる人たちのお名前が、女性のお名前であることが気にかかっていました。
それで、リコンポーズ社のウェブサイトを見てみましたら、基本的に、この会社は「女性中心の企業」であるようです。下の写真の中央が、記事に出てくるリコンポーズ社の創設者であり CEO カトリーナ・スペードさんで、左が、ワシントン州立大学のリンネ・カーペンター・ボッグズ博士です。
リコンポーズ社のウェブサイトより
女性による企業で印象的なのは、2015年の In Deep の記事、
・オランダの女性たちが発見した奇跡のエネルギー生成 : 生きた植物と生きた微生物と水のコラボレーションが生み出した驚異の発電法 - Plant-MFC
In Deep 2015年07月04日
で、「植物と微生物の作用による発電」を編み出したオランダの Plant-e 社を思い出しますが、科学者もそうですけれど、女性が主体のプロジェクトには、驚くべきものが多いです。
もちろん、これは、女性がいい、男性が悪いという話ではなく、「この世の見えている部分が女性と男性では多少ちがうのだろうな」と。
くどいようですが、良い悪いの話ではないです。「ちがう」という話です。
あとですね・・・。
まあ、どうでもいい話なのですけれど、今回の記事にも出てきましたワシントン州立大学の科学者のリンネ・カーペンター・ボッグスさんという方がいます。
この方の名前の「ボッグス」という部分が印象的なのでした。
というのも、最近、たまに、アメリカの予測ブロジェクト「ウェブボット」の 2009年の予測というものを取り上げることがあります。
このウェブボットが「 2009年にこのようになる」としていたこと(そして、実際には起きなかったこと)が、この 2019年に起きようとしていることなのかなと思っているのですけれど、その頃のウェブボットに非常に頻繁に出てきた言葉が「ボッグスライフ (bogslife)」という言葉なのでした。これはウェブボットの「造語」です。
これは、アメリカで始まるとされる新しい形の自給自足の共同体について言及していたことですが、たとえば以下のような記述です。
2008年11月30日のウェブボットより
・2009年の夏以降、経済の崩壊が進み、金融のインフラが機能を停止するため、影の政府の資金源も途絶えるようになる。
・影の政府の存在が明るみに出るにしたがって、彼らが抑圧してきた様々な知識も表面化するようになる。 それらは新しい電力に関する知識であったり、エイリアンとのコンタクトの記録だったりする。
・またこの動きに合わせて、「ボッグスライフ」と呼ばれる新しい生活スタイルの哲学が流布する。また、 新しい政権のもとで、これまでの社会秩序の変更が進む。
・ 2009年の春から夏にかけて、新しい政府は、大恐慌のときのニューディール政策を思い出させ、国民にやる気を起こさせるキャンペーンを開始する。これはいろんな理由からうまく行かないが、その予期しない効果として「ボッグスライフ」のような自給自足型のライフスタイルの思想を活性化させてしまう。
・かつてアメリカの経済的な植民地で、経済破綻の影響をもっとも受ける地域では、「ボッグスライフ」はアメリカ以上に受け入れられる。
今回はいろいろと話が混沌としてしまいました。
まあ確かに、今回ご紹介しました「人体を肥料に」というような考え方は、倫理的な意味も含めまして、賛否両論となるものだとは思います。
しかし、アメリカも、そして日本も、少し前のこちらの記事でふれさせていただきました「毎年 100万人が亡くなっていく世界」となっていくわけで、死後の「自分の処理」の多様性について私たちはいろいろと考えたほうがいい時期なのかもしれません。
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