毒と薬
今日は日曜でもあり、適当な話題ですけれど、今日、アメリカに広く分布する「目玉のような果実を持つ植物」についての記事を地球の記録でご紹介しました。
こんな植物です。
このベインベリーという植物には全体に強い毒性があるそうで、「食べないように」とする警告が出されているという記事でしたが、同時に、ご紹介した記事には、このアメリカの有毒植物が、
「アメリカ先住民たちは、医療用として使っていた」
ことなどの説明があったことに着目しました。
ハーブ系のサイトには以下の記述がありました。
アメリカ原産のこのベインベリーは、アメリカ先住民によって、特にガラガラヘビによるヘビ咬傷に対する貴重な治療薬と考えられており、そのため、他のいくつかの植物とともに、「ガラガラヘビのハーブ」の 1つとして知られていることもある。
さらには、他のハーブ系メディアには以下のようにあります。
アメリカ先住民は、レッドベインベリーの根のお茶を月経不順、産後の痛み、出産後の下剤として使用していた。また、咳や風邪の治療にも使われていた。
メノミニー族(北米先住民のひとつ)は、少量のホワイトベインベリーの根茶を、出産の痛みや眼精疲労による頭痛の緩和に使用していた。かつては、咳、月経不順、風邪、慢性便秘に使用されており、循環器系に良いと考えられていた。
アメリカ先住民族が、このようなことに用いていたことを知ったのは誰かというのは定かではないですが、おそらく、15世紀にアメリカ大陸を発見したヨーロッパ人たちだったのではないかと思います。
たとえば、当時のアメリカで、先住民たちが医療用としてニコチアナ(タバコ)を栽培して、さまざまな病気の治療に使用していたことを見出したのは、悪名高いコロンブスでした。1492年のことです。
2004年のこちらの医学論文にあります。
論文より
15世紀、新大陸アメリカの先住民たちによるニコチアナの使用がコロンブスによって初めて発見され、この植物がヨーロッパに持ち込まれたとき、すべてのハーブには潜在的な治療効果があると考えられ、この新しい植物はさまざまな症状の治療に使用された。実際、ニコチアナは万能薬として評判が高く、「聖なるハーブ」や「神の薬」と呼ばれるほどだった。
15世紀からの 400年間くらいは、欧米においても、ニコチアナは「毒ではなく、薬」としてとらえられていたわけです。
まあ、タバコに関しては、いろいろな考えや主張がありますので、そのことにふれようとするつもりはないのですが、言いたいことは、先ほどのベインベリーと同じように、
「かつては薬で、今は毒」
という扱い方をされるものが多いなあと感じた次第です。
同時に、
「かつては毒で、今は薬」
というものも数多く存在します。
なんで、こんなことを思ったかというと、前回のブログ記事の中に、「脂質ナノ粒子の毒性」についてふれた部分がありました。
マウスへの実験で、
・10マイクログラムの脂質ナノ粒子を投与したマウスは 80%が 24時間以内に死亡した
・5マイクログラムの投与では 24時間で 20% のマウスが死亡した
・2.5マイクログラムを投与したマウスはすべて死ななかった
という実験の経緯に触れましたけれど、これは「毒性への反応が用量依存する」ことを示しています。
しかし、量によっては脂質ナノ粒子が、「毒ではなく、薬になる」ことなんてあるかなあ…と考えていまして、
「いや、そりゃないない」
としか思えない部分があったわけですが、しかし同時に、以前読んだ日本薬科大学の教授へのインタビューを思い出しました。
船山信次教授のインタビューより
毒は”怖い””恐ろしい”といったイメージが強いかもしれませんが、実は非常に身近な存在です。
そもそも毒というのは、人間の都合で命名したに過ぎません。生体に何らかの作用を及ぼす化合物の中で、私たちに芳しくない影響を与えるものを毒、都合の良い働きをする場合を薬と呼んでいるだけです。つまり、毒と薬は表裏一体で、これを私は「薬毒同源」と唱えています。
この「薬毒同源」という言葉から、さらに思い出したのは、「毒」として著名なヒ素を「抗がん剤」として成立させたという記事を読んだことでした。2018年の以下の記事に翻訳しています。
(記事)毒として著名な原子番号33の「ヒ素」が「優れた抗ガン剤」になるまで
In Deep 2018年6月10日
ご紹介した医学誌の記事の冒頭は以下のようなものでした。
2018年5月のメディカル・エクスプレスより
無機化合物が体内でどのように機能するかについての世界的に著名な専門家である化学者トム・オ=ハロラン氏は、ある種の無機元素と化合物がより広範にガンを殺すために使用できると考えている。
それはたとえばヒ素だ。ヒ素は、抗ガン剤としてより、毒として使用されることについて、より多くのことが知られている。ヒ素中毒は、ナポレオン・ボナパルトとサイモン・ボリバルを殺したと言われていることでも有名だ。
そして、(抗ガン剤として使われていることとは)逆説的に、ヒ素への暴露はガンのリスク上昇と関連していることも事実だ。しかし、低用量の三酸化二ヒ素は、血液ガンの一種である急性前骨髄球性白血病において 95%の寛解率を示す。
ヒ素は、WHO の機関により最高ランクの発ガン性がある(グループ1)とされているものです。
ヒ素を飲み込んだときの症状は以下のようにあります。
飲み込んだ際の急性症状は、消化管の刺激によって、吐き気、嘔吐、下痢、激しい腹痛などがみられ、ショック状態から死亡する。多量に摂取すると、嘔吐、腹痛、口渇、下痢、浮腫、充血、着色、角化などの症状を引き起こす。慢性症状は、剥離性の皮膚炎や過度の色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、黄疸、腎不全など。
こういうのを医療用として使う試みですけれど、現行の抗がん剤の副作用も「毒の要素が強い」わけで、それと似たようなものと言えなくもなく、さらにいえば、
「現行のすべての薬剤は、薬よりも毒の部分が抜きん出ている」
ということにも改めて気づくのですが、なぜこうなるのかなあと思います。
「服用量が毒を作る」
偉大なる医師ともいわれ、また当時の最大の異端ともいわれたパラケルスス(1493 - 1541年)は、
「すべてのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ」
と言っていたそうですが、このフレーズは、なぜか、こちらの厚生労働省の薬系技官の採用情報ページの冒頭にあります。
もっと端的に「服用量が毒を作る」とも述べていたそう。
ちなみに、このパラケルススは、本名がフィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイムという果てしなく長い名前ですが、
「存命中一度も使われていない」
ということで、本人も覚えられなかったのかもしれません。
長い名前の話はともかく、パラケルススは、ホメオパシーにも影響を与えたことが言われています。
たとえば、「ホメオパシー古典シリーズ」という本に、パラケルススの植物療法の著作が含まれていることでもわかりますが、ホメオパシーも、「同毒・同種療法」とも訳されることもあるもののようで、ある論文には以下のように書かれています。
論文「免疫学とホメオパシー(同毒・同種療法)」より
2世紀以上にわたって集められたホメオパシーのデータの莫大な量から分かるように,ホメオパシーは実験的な学問として生まれた。しかし、ホメオパシーの医学的伝統は、長い間、従来科学の学問分野から切り離されてきた。
従来の科学的な見識では,ホメオパシーは偽薬(プラセボ)以上の効果がないが、若干の臨床データと併せて溶質の極めて高い希釈剤による実験では幾つかの状況で作用する可能性があり、興味をそそる事実を暗示している。
…おそらく炎症と免疫は体の自然治癒力の伝統的な『生命力』に密接に関連があるので、施療師と患者の対話による一般的に進歩してきている 1つの領域は、その治癒力に関するものである。
一連の文書類で、我々は,ホメオパシーの歴史的起源、免疫薬理学の分野に関連する実験室と動物モデル、炎症性疾病とその作用機序に関する仮説におけるホメオパシーの賛否の臨床所見をチェックした。
最後に、我々はホメオパシー手法の特定の特徴を明確に説明する。
さあ…何を書きたくて書き始めたのか全然わからなくなってきたぞ。
そういえば…ここにある「ホメオパシーはプラセボ以上の効果はない」というのが、現在の一般的な医学の見解ですが、この「プラセボ」というものに関しての興味深い医学記事を以前読んだことがありました。
それは、腰痛の患者に対しての治療で、
「患者に、治療の前に『この治療はプラセボ(生理食塩水)です』と最初から告知してから治療を行ったにもかかわらず、患者たちの腰痛は治癒し、治癒した状態が 1年以上続いた」
という驚くべきものです。
何だかもう、ここまで話がずれ続けて進みますと、話をうまくまとめることは無理っぽいですので、その「プラセボを告知しての治療での腰痛治療」についての記事をご紹介して締めさせていただきます。
人間の治癒力は、外部からの薬(あるいは毒)だけによるものではないことが強く示されます。論文自体は、アメリカ医師会雑誌(JAMA)のこちらにあります。
プラセボ注射1回で慢性腰痛が1年間改善:研究
Single Placebo Injection Improved Chronic Back Pain for 1 Year: Study
Epoch Times 2024/09/12
研究者たちは、正直に告知されてから処方されたプラセボが慢性的な腰痛に対して、薬や手術と同等の効果を持つことを発見した。
研究者たちは、公然と患者に告知されて処方されたプラセボが慢性的な腰痛患者の緩和において処方薬、ステロイド注射、さらには手術に匹敵することを発見した。
驚くべき点は、患者はプラセボを投与されていることを知っていたにもかかわらず、プラセボが効いたということだ。
プラセボが痛みを和らげるという概念はまったく新しいものではないが、この研究は、参加者にプラセボを投与されていることを知らせるという点で画期的なものであり、この情報を隠すという一般的な慣行からの脱却であった。
2024年 9月11日に米国医師会ネットワークオープン誌に掲載されたこの試験には、慢性腰痛を抱える 21歳から 70歳までの 101人が参加した。
論文の著者たちによると、結果は、正直に告知されたプラセボ治療が、痛みの調節に関係する脳の経路を刺激することで「慢性腰痛の患者に有意義な臨床的利益をもたらすことができる」ことを示唆しているという。
参加者の半数は背中に生理食塩水を一回注射された。
生理食塩水を投与された被験者たちには、プラセボを投与したと正直に伝えられた。また、生理食塩水には健康上の利点があるかもしれないとも伝えられた。
しかし、研究の筆頭著者であるコロラド大学神経科学助教授のヨニ・アシャール氏はエポックタイムズに、「生理食塩水には健康上の利点はありません」と語った。
信念は癒しを促進する
参加者は 2017年と 2018年にコロラド州ボルダー地域から募集された。彼らは過去 6か月間、少なくとも半日以上腰痛に悩まされていた。
プラセボ群は、注射と研究チームの医師との「共感的で検証的な臨床面談」を含む治療プログラムを受けた。
会話とビデオを通じて、参加者は以下のことを通知された。
・プラセボには有効成分が含まれていなかったことを伝えた(生理食塩水のみ)
・プラセボ(生理食塩水)には強力な効果をもたらす可能性があると伝えた(本当はその効果はない)
・プラセボは、自然治癒反応を自動的に引き起こす「無意識の経路」を活性化することで、不活性状態でも効果を発揮する可能性があると伝えた(本当はそのような効果は確認されていない)
参加者の半数を含む対照群には、通常の治療を継続し、新たな治療を開始しないように指示された。彼らは研究調査チームからいかなる治療も受けなかった。
脳のメカニズムを調査するために、機能的磁気共鳴画像法(MRI)でプラセボ群と通常治療群を比較した。プラセボ群では、通常治療群と比較して、治療後 1か月で慢性腰痛の強度が減少した。
背中の痛みに対する脳の反応は、いくつかの領域において、プラセボ群で通常治療群よりも顕著だった。参加者はプラセボ注射による副作用を報告しなかった。
アシャール氏は、この研究が人間の精神の力を実証したとして、以下のように述べる。
「私たちのこの研究結果は、たとえ人々がその儀式が本質的に儀式であると知っていたとしても、治癒の儀式には力があることを示しました」
ここまでです。
腰痛の治癒については、数年前に記したことがあります。こちらの 2017年の記事などです。
その記事にグラフで示していますが、アメリカのデータとして、「原因がわかっている腰痛は、全体の 15%」で、「85%は原因がまったくわからない腰痛」なんです。
これは腰痛に特化した話ではなく、「多くの痛みに共通すること」だと私は思っています。
痛みの多くが、(心因性以外の)原因は伴わないものであると思われ、上の記事では、
「腰の手術をした『フリ』をした(つまり何もしなかった)対照群もすべて完全に治癒した」
という事例についてもご紹介しています。
心が痛みに与える影響は、果てしないものだとつくづく思います。
私も以前は痛みの多い人で、以前と比べれば、相当少なくなりましたが、そのあたりに関しては、ずいぶん以前の本とはなりますが、以下の著作をおすすめしたいと思います。
・ジョン E.サーノ 著『心はなぜ腰痛を選ぶのか』
しかし、この本に書かれてあることもですね、意地悪な言い方をすると「文字を通してのプラセボ」だとも思うんですよ。
でも、確かに効果がある。
毒と薬から始まって、何だか混乱した記事となってしまいましたが、後半のプラセボ治療の話は、通常の生活の中でも参考になるものだと思います。
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