『快楽の園』《現世》面より
『快楽の園』《エデンの園》面より
『快楽の園』《地獄》面より
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鼓舞フェフェスティバル
昨日あたりから、「 covfefe 」という英単語が話題になっていました。
例えば、下は CNN の報道ですが、下のような意味で話題となっていました。
トランプ大統領が謎の投稿、「covfefe」の意味は?
CNN 2017/06/01
米国のトランプ大統領がツイッターに書き込んだ誤字と思われる単語がネットで瞬く間に広まって、最も注目されるトレンドに浮上している。
発端は、トランプ大統領が米東部時間の31日午前0時6分、何の脈絡もなくツイッターに投稿した1文だった。
「Despite the constant negative press covfefe」(相変わらず否定的なマスコミのcovfefeにもかかわらず)
ソーシャルメディアで注目を集めるトランプ大統領の能力には定評がある。そして読み手は常に、その発言の真意を探ろうとして首をひねり続ける。
というようなもので、一般的には、この covfefe は、他の単語(たとえば、coverage = 報道)をタイプミスしたものだろうというような書き方がされていたりしますが、いろいろな意味でそれは違いそうです。
covfefe は、その読み方は、日本語的に読めば「コブフェフェ」となると思いますので、普通に考えれば、「こぶ平」とか「鼓舞ヘッヘッヘッ」とか(そんな言葉ないわ)、あるいは、コンブに多くの鉄分が含まれていることは有名ですが、そのコンブから作った昆布茶(こぶちゃ)にも鉄分が比較的含まれています。
鉄分は栄養表では「 fe 」となりますので、昆布茶に多くの鉄分が含まれているという意味の「昆布 fe × 2」という解釈もできるかもしれません(そうかよ)。
さて、実際にはこんな covfefe とかいう言葉にはほとんど何の興味もなく、単に「昆布 fe × 2」と書きたかっただけなんですが、本題としてはですね。トランプ大統領が書いたこの「 covfefe 」という単語について、アメリカの SNS で、
「 covfefe とは悪魔のうちのひとつの名前だ」
という書き込みがあったのです。
下は、アメリカ最大の SNS である reddit に投稿されたものです。
昔の古書に covfefe という文字があったというような雰囲気となっていますが、結論から書きますと、これはフェイクです。
出所は、世界最大のパブリック・ドメイン(著作権などが存在していない作品)の様々な出版物や絵画、映画などをインターネットで展示している「パブリック・ドメイン・レビュー(Public Domain Review)」というサイトにある、 今から 240年前の 1775年に出版された『鬼神学と魔術の概要 (Compendium Of Demonology and Magic)』の中に出てくる悪魔的な存在の中のひとつです。
これには「ワミダル」という名称が添えられていまして、先ほどの covfefe と書かれてあるところには、実際には「 Wamidal 」とあり、その部分を画像加工したもののようです。
この『鬼神学と魔術の概要』のイラストは、なかなか興味深いもので、悪魔の種類の紹介と並んで、たとえば、下のようなものがあったりします。
切り落とした手首?…… に、いろいろ書いてあり……六芒星の中に目? ……というような、いろいろと想像させるようなことがあったりして、 covfefe から発展した行き先としては、なかなか重い感じではありました。
しかし、その後も、この『パブリック・ドメイン・レビュー』のいろいろなものを見ているうちに、ふと行き当たったものがあり、それが何だか、とても印象的でしたので、ご紹介しようと思います。
印象深いものです。
ヒエロニムス・ボス 『快楽の園』 (1504年)
その『パブリック・ドメイン・レビュー』で目についたのは、ヒエロニムス・ボスという、ルネサンス期のオランダ人画家の作品で、
『快楽の園』
というものでした。
これは、3枚のパネルから出来ている大作で、内容は、Wikipedia から抜粋しますと、以下のようなものです。
快楽の園
この作品は、向かって左のパネルに、キリストの姿を取った神がアダムにイブを娶わせている「エデンの園」があり、右のパネルに「地獄」を描き、胴体が卵の殻になっている男性、人間を丸呑みにしては、すぐ排泄してしまう怪鳥、その他何とも名づけようのない奇怪なイメージで満たされている。
中央の一番大きなパネルは「快楽の園」で、現世と考えられ、無数の裸の男女が様々な快楽に耽っている様が描かれているが、単なる群像ではなく、一種異様な雰囲気であり、背景にはやはり奇妙な、生物とも無生物ともつかない物体が配置されている。
この絵の主題についてはさまざまな解釈がある。
この絵がですね、『パブリック・ドメイン・レビュー』では、それぞれを拡大して詳細に掲載しているのです。
今から 500年以上前に書かれたものと考えると、そのシュールさは異常ともいえ、あるいは「シュールではなく、何らかのこの画家にとっての現実」なのかもしれないとも思います。
この『快楽の園』の各部を詳細に見る機会は少ないかと思いますので、ご紹介させていただこうかと思います。
詳細全部をご紹介するのは無理ですが、先ほどの Wikipedia の説明の部分から見てみますと、文字の説明の実際は以下のようになります。
> キリストの姿を取った神がアダムにイブを娶わせている「エデンの園」があり
> 胴体が卵の殻になっている男性(地獄)
> 人間を丸呑みにしては、すぐ排泄してしまう怪鳥(地獄)
> 無数の裸の男女が様々な快楽に耽っている(現世)
> 背景にはやはり奇妙な、生物とも無生物ともつかない物体が配置(エデンの園、地獄、現世共通)
というようなことになっているものなのでした。
そして、実は私がこの絵について思ったこととしては、これが 1500年代初頭にオランダで描かれたものと考えると、やや奇妙な感じにもうつる「黒い人」が描き込まれていることでした。
左の集団のひとりが黒い女性
右側のボートに黒い人物
私たちの住むこの世界には「奴隷貿易」という暗い歴史がありますが、オランダがそういうものに積極的に関わった年代(1600年代)を考えると、この絵に出てくる黒い人たちが、今でいう、いわゆる黒人と同一なのかどうか微妙です。
ということで、わりと長く見ていても飽きないこれらの絵をご紹介せていただきました。
描かれた時代を考えみても、「描いた人の中の、どういう部分から生まれてきたものなのか」ということは思います。
そういえば、この絵の「地獄」の光景の中に、私が昔やっていた舞台の、ある演目のセットとほぼ同じ光景のものがありました。
『快楽の園』(1504年) 地獄より
炎と不快な煙が噴出し続ける「どこか」で、目的のわからない作業を死ぬまで延々と続ける男たちの話でした。
self23『ゲイム』(1993年) オープニングより
「やっぱりオレは地獄作りをしていたのかなあ」と今さらながらに思います。
そんなわけで covfefe は、意外な見識をもたらしてくれた言葉ということになったのでもありました。