あのフィジーが
フィジー政府が HIV 感染者が爆発的に急増していることを受けて、政府が緊急事態を宣言したことについては、少し前に取り上げたことがありました。
HIV というと、性感染症のイメージが強いですが、フィジーの場合、違法ドラッグ、特にメタンフェタミン(いわゆる覚醒剤)の蔓延が原因のようで、
・薬物を摂取する際に注射針や注射器を仲間内で共有する
ということや、
・他人の血液が混ざった注射器を用いる
というようなことが普通になっていために、それで HIV の感染が爆発的に拡大したようです。
中には、「薬物を打った人の血液を自分に打つ(相手の血液中の薬物をわけてもらう)」という、かなり無茶なことも行われていると報道には書かれてあります。
その報道を見た時には、
「あのフィジーで?」
と奇妙な気持ちになったものです。
というのも、私は 30数年前にフィジーに行ったことがあるのです。人口 90万人程度の島国です。
フィジーの場所。日本から大体9時間くらい

marinediving.com
なぜ行ったかというと、もちろん、きれいな海を見て過ごすのもいいなと思ったこともありますが、知人が、「世界で最も治安の良い国」として、フィジーを挙げていたからでした(30数年前の話です)。
私自身は、どちらかというと治安のいい国に行きたい人ではないですが、興味として「世界一治安のいい場所ってどんなところなんだ?」というのはありまして、行った次第でした。
その結果、本当にその通りというか、とにかく「のどかな島」であり、緊張感がまるでない国ではありました。
着いた翌日だったか、ホテルから外出した後、忘れ物をしたので、部屋に戻った際に、ドアが開けっぱなしになっていました。部屋の中を見ると、お若い黒人女性 3人がベッドに寝っ転がっておしゃべりしている。
「ん?」と思い、部屋に入ると、それは清掃の女性たちで、「ちょっと疲れたからここで休んでいる」と言って笑っていました。
私は、「ああ、そうですか。どうぞごゆっくり」と、また部屋を出たのですが、全体的にそういう「ゆるさ」が支配している感じでした。
タクシーで街に出た時に、「なんか食べたいのですが」と運転手さんに言うと、レストランに連れて行ってくれたのですが、私がビールを飲んでいると、運手手さんも「オレにも一杯」というような感じでグラスを出してきまして、
「いや…あの、まだ運転があるのでは…」
と私が言っても、「それがどうしましたか?」という感じで、美味しそうにビールを飲み、タクシーへ戻っていきました(30年以上前の話です)。
そんな国が今、HIV による国家非常事態宣言の渦中にある。
「何があったんだろうなあ」と思って、その後、少し調べていたのですが、「 2020年(コロナのパンデミック)からの、たった 5年ですべてが変わってしまった」ことがわかりました。
ドイツ DW 紙やファーストポスト紙の報道などでは、こういうことだったようです。
フィジーでHIVが蔓延するに至った理由
・もともと違法薬物と無縁だったフィジーだが、2000年代に入り、国際的な麻薬密売組織が、南米やアジアからオーストラリアなどの巨大な市場へ薬物を運ぶための中継地点としてフィジーが使われ出した。
・しかし、この時点では、フィジーは単なる中継地点であり、フィジーの人々に薬物が行き渡ることはなかった(それでも少しずつ蔓延しつつあったようですが)。
・決定的となったのは、2020年のコロナのパンデミックで各国の国境が封鎖されたことによる。麻薬密売組織は行き場がなくなり、フィジーに大量のメタンフェタミンが滞留した。
・仕方ないので、密売人たちは、滞留したドラッグを現金化するために、フィジー国内の人々に向けて非常に安価な価格で投げ売りを始めた。それにより、若者などの間で一気に依存症が増加。(国連報告)
・それまでのフィジーの人々は基本的に薬物とは無縁で、知識がなかったために、注射の使い回しなどが日常的になり(1本の注射で仲間たちと回し打ちするのが普通だった模様)、それと共に、HIV も爆発的に蔓延した。
これにより、2019年には年間 100件程度だった HIV の新規感染者数が、2025年には 1600%上昇するという事態になりました。そして、今回の国家非常事態宣言に至ったという流れです。
また、先ほど書きましたように、30年以上前のフィジーでは、少なくとも観光客相手の凶悪犯罪というのは本当に少なかったようなのですが、今は治安状況も変わってしまったようです。
フィジーは今でも、アメリカやカナダなどの人たちにはハネムーン旅行先として人気のある場所ですが、カナダ政府の旅行アドバイスサイトには、以下のようにありました。
カナダ政府の旅行アドバイスサイトより
軽犯罪
スリやひったくりなどの軽犯罪は、特にスバとナンディのダウンタウンで頻繁に発生しています。泥棒は観光客を狙っています。凶悪犯罪
暴力犯罪が時折発生し、特にスバ市街地、デナラウ島、コロ・イ・スバ森林公園で多く見られます。武装強盗や性的暴行が含まれます。女性の安全
一人旅の女性は、特にスバのダウンタウンでは、何らかの嫌がらせを受ける可能性があります。特に一人旅の際は、十分注意してください。外国人女性を含む被害者に対する性的暴行事件が発生しています。
性暴力の被害に遭われた場合は、直ちに医療機関を受診し、最寄りのカナダ政府機関および警察に通報してください。
今では「夜間の一人歩きは非常に危険」と各国政府のウェブサイトで述べられるような国となっています。
「こんな国になってしまったのか」と、改めて驚きますが、今では治安維持のためにフィジー政府は「軍」も投入しているとありました。
こうなった最大の原因は麻薬密売組織や組織犯罪の台頭ではあるわけですが、パンデミック(もう少し正確には国家的なロックダウン)が事態を一家に悪化させたようです。
国家が崩壊していく理由は、国によって様々でしょうが、のどかな国も何かが流入していくることで、こういう状況になるのだなあと。
今回の国家非常事態宣言に関してのアメリカの報道です。
人気のハネムーン旅行先が、HIV感染者の急増を受け国家非常事態を宣言
Popular honeymoon destination declares national emergency over massive HIV surge
FOX 2026/09/19
成人の60人に1人がウイルスと共に生活しており、メタンフェタミン使用と注射針の共有が感染拡大を招いている。

フィジー・パラダイス諸島のサンゴ礁とビーチは、新婚旅行で訪れるアメリカ人に人気がある。
アメリカ人に人気のハネムーン旅行先であるフィジーは、南太平洋の島国である同国で成人の 60人に 1人が HIV に感染しているというデータを受けて、国家的な HIV 緊急事態を正式に宣言した。
AP通信によると、フィジー政府は、新規感染者の急増に対処するため、検査と治療を緊急に拡大している。国連エイズ合同計画(UNAIDS)は、過去 15年間で新規感染者数が 12倍に増加したと指摘している。
ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、危機が急速に深刻化していることを浮き彫りにするように、フィジーでは 2025年だけで 2000件以上の新規感染例が記録され、2019年と比較して驚異的な 16倍の増加となった。
人口 100万人未満の国にとって、この感染症の規模は非常に大きい。
UNAIDS の推計によると、2025年時点でフィジーでは約 9000人が HIV に感染して生活している。わずか 5年前は成人 167人に 1人だった感染率は、その後 60人に 1人にまで上昇し、現在では妊婦の 50人に 1人が感染していると AP 通信は報じた。
人的被害はすでに拡大している。AP 通信とロイター通信によると、 2025年には 59人の乳児がウイルスに感染して生まれ、18人が 1歳の誕生日を迎える前に死亡した。
保健当局は、注射薬物使用の蔓延が主な原因であると指摘している。
フィジーがオーストラリアやニュージーランドへ向かう違法薬物の中継地としての役割をますます強めるにつれ、メタンフェタミンなどの薬物の現地市場が活況を呈している。
AP通信によると、今回の緊急事態は、高リスクのメタンフェタミン使用の急増に起因しており、薬物使用者間での注射針の共有が感染率急上昇の主な要因となっている。
フィジーの保健大臣アトニオ・ララバラブ氏は、2025年1月に流行とされていたこの状況は、現在では政府全体による包括的な対応が必要であると発表した。
政府は無料検査を拡大し、薬物使用者向けに清潔な注射針を提供し、抗レトロウイルス治療を無料で提供することで、患者のわずか 39%しか自身の感染状況を把握しておらず、治療を受けているのはわずか 22%に過ぎないという現状を踏まえ、深刻な問題に対処している。
地域保健当局はまた、フィジーは主要な交通・観光拠点として機能しているため、政府、地域社会、宗教指導者が迅速かつ偏見を軽減する対策を講じなければ、この危機は他の南太平洋諸国に容易に広がる可能性があると警告した。
「Bluetoothトレンド」は、薬物を購入する余裕がない人々が、酩酊状態の人の血液を注射してハイになるという行為の蔓延も影響を与えている。
こうした行為は、フィジーで薬物を注射する人々を HIV 感染のリスクにさらす可能性がある。
最も蔓延していた薬物は結晶メタンフェタミンで、調査の結果、インタビュー参加者の 50%が汚染されている可能性のある注射器で自己注射していたことが判明した。
当時、国連開発計画の代表であるムンクトゥヤ・アルタンゲレル氏は、今回の評価結果は警鐘であると述べた。
「フィジーにおける HIV の流行は、単なる健康問題ではありません。人々の命、地域社会、そして進歩を脅かす、開発と人権に関わる課題です」と、アルタンゲレル氏は声明の中で述べた。
ここまでです。
ブータンなどもそうですね。
このブータンは「世界一幸せな国」と言われるようなこともありましたけれど、今では、麻薬の使用と市販医薬品のオーバードーズが若者たちの間で蔓延していて、そして、インターネットと SNS と拡大で、西洋社会の生活を知った若者たちの幸福を感じる指数が急減しているとも報じられています。
インターネットも SNS も世界を結びつけてはいますけれど、それがなければ、妙な絶望感(ブータンでは、主に西洋との物質的な差異を知り、絶望する若者が多いようです)を持たずに済んだものが、もともと幸せだったと呼ばれる国を絶望に追い込んでいる。そういう「知らなければ済んでいた」国や地域は他にも多いような気はします。
薬物もそうですが、スマートフォンや SNS など、グローバルになるべきではないものはたくさんあると実感します。
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