凍結して収穫不能となったフランスのトウモロコシ
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記録にない地球規模の農作物被害
先週のメルマガのタイトルは、「深刻な食糧危機の予兆の中で思い出す「メシ喰うな」あるいは「喰わせろ」」というもので、後半の「メシ云々」という部分は個人的な話と関係することなので、どうでもいいのですが、この前半の、
「深刻な食糧危機」
が、いよいよ表面化しつつあります。
そのメルマガを書いた後になり、世界各地で深刻な農業被害が起きていることを、アメリカのメディアが特集していまして、その記事のすべてに報道へのリンクがつけられていましたので、今回はそこで取り上げられていた「世界各地の農業被害」についてご紹介させていただこうと思います。
最初に書いておきますと、その破壊の規模は「すさまじい」ものです。
取り上げられていた国は、
・フランス
・オーストラリア
・イタリア
・メキシコ
・北朝鮮
・アメリカ
・アルゼンチン
です。北朝鮮は別として、他の国はどの国も「果実を含む農作物を大規模に輸出している農業大国」となるわけで、それらの国で、このようにいっせいに大規模な農業被害が発生するというのは、記録にもないのではないでしょうか。
穀物の大輸出国であるオーストラリアなどは、今年は、「穀物を輸入する」事態となったほどです。
長くなるかもしれないですので、始めたいと思います。
フランス 記録的な寒波で農作物に甚大な影響
まず、フランスの状況からです。
フランスという国は、トウモロコシの輸入で世界第3位であることを始め、ブドウ生産などを含めた農業大国ですが、そのフランスで、トウモロコシとブドウ畑が、異常といっていい寒波の中で甚大な影響を受けています。
以下が報道です。
フランスで寒波が続く中、種まきがさらに遅れる
electroverse.net 2019/05/17
フランスでのトウモロコシの種まきは今週(5月第3週)も再び停滞している。
中央ヨーロッパ諸国は、気温が低い状態が続いているために、多くの国や地域で農作物の種まきが遅れている。
フランスでは通常、4月下旬から 5月上旬は、植栽と種まきが始まる重要な時期だが、今年は残酷なほどの寒波がとどまり、多くの地域で農作業が始められていない。
フランスは世界第 3位のトウモロコシ輸出国であるため、この収穫の遅れや、おそらくは収穫量も大幅に減少するであろうことは、フランス国内の問題に止まらず、世界市場に大きな影響を与えることになるだろう。
フランスでは、ここ 4週間ほどの間、広い範囲で深刻な霜が広がっており、農家は霜の被害を受けやすい作物を保護するために、定期的に畑や果樹園で大規模な焚き火をおこなっている。
5月6日には、フランスで 1979年以来最も寒い 5月の朝となり、気温は平均 2.5℃だった。
この中央ヨーロッパの低い気温は、今週やや落ち着くが、来週(5月の第4週)には、冷たい大気が中央ヨーロッパに降りてくると予想されており、この異様に低い気温は、5月いっぱい続くと見られている。
ここまでです。
ここにあります、
>定期的に畑や果樹園で大規模な焚き火をおこなっている。
という「焚き火」は、フランスのぶどう園などで、寒波の際に行われることがあり、最近では、 2017年におこなわれていたはずですが、「焚き火」というのんびりとした響きとは違い、大変な大規模なものです。
作物を霜の被害から守るためのフランスでの大規模な焚き火
このように農地全体で火が焚かれ、そして、火が焚かれるのは、気温が下がる夜間であるために、フランスの農業地帯では「大地が燃え上がる」ような状態が続いています。
オーストラリア 穀物の一大輸出国が輸入に転じる
オーストラリアが十数年ぶりに海外から穀物を輸入する事態に
ABC News 2019/05/15
オーストラリアの農業省は、カナダからの小麦の輸入許可を承認した。これによって、2007年以来の外国産の穀物の輸入に踏み切ることになる。
オーストラリアの卸売り業者マニドラ・グループは、加工品にカナダの小麦粉を使用すると発表した。同社によると、オーストラリアでの 116年ぶりの最悪の干ばつにより、オーストラリア産の高タンパクの小麦が不足しており、小麦製品の加工を続けるには、カナダ産の小麦を使用するしかないという。
オーストラリアの農業大臣は、「小麦の輸入はこれが初めてではなく、以前にも干ばつで穀物を輸入したことがある」と説明するが、小麦輸入に反対の立場を取る人たちからは以下のような発言がある。
「オーストラリアのような巨大な農業国が穀物を輸入するという事実をすべてのオーストラリア人は懸念すべきだ」
極端な干ばつがオーストラリアの東海岸の収穫を荒廃させ、穀物の国内価格を押し上げたために、輸入についての憶測は、この数カ月間繰り返されていた。当局のスポークスマンによれば、オーストラリアでは、1994 – 95年、2002 – 03年、および2006 – 07年にも、数カ国からの穀物の輸入を承認したことがあるのだという。
今回の輸入の許可は、キャノーラ、小麦、トウモロコシに適用される。
イタリア ほぼ全土的に雹と洪水で農業は壊滅的な状態
次はイタリアの話ですが、昨年以来、地中海の周囲の国では非常に気象が荒い状態が繰り返して起きていまして、今の季節の段階で、このような雹や洪水の影響を受けているということは、気象が本格的に荒れるシーズンとなるこれからは、さらに同じような事態が発生していく可能性は高いと思われます。
それは、トルコやギリシャなどを含めて、地中海周辺の農業国すべてに当てはまることのようにも考えます。
イタリア:洪水、雹、そして悪天候が果樹園や農作物に影響を与えている
freshplaza.com 2019/05/14
5月12日にイタリアのバジリカータ州とプーリア州で激しい雹嵐が記録され、その後、雹と雨とが混ざった「水爆弾」が、同じ地域に影響を与えた。この悪天候による果樹園の果物や、スイカ、ブドウなどの被害の拡大が懸念されている。
翌日には、エミリア・ロマーニャ州のいくつかの地域が、非常に激しい雨に見舞われ、河川の氾濫により洪水が発生し、桃、アプリコット、ネクタリンを含む果物が浸水により腐敗し、出荷できる状態ではなくなった。
これらの雹や洪水などにより地域の果物の 70%以上が失われたと考えられる。この地域の経済の礎石が農業であることを考えると、驚くべき被害といえる。
さらには、イタリアのプーリア州も大雨により、サクランボなどで最大で 50%の収穫が失われ、チェゼーナ州でも洪水で農作物の多くが失われた。
ラヴェンナ県も大雨により河川の氾濫が発生し、農作地が被害を受け、また、桃の木が長く水没してしていて、桃の木が枯死する地域が出る可能性があるという。
メキシコ 干ばつでユカタン半島のほぼすべての作物が消失
続いて、メキシコです。
これまでは、寒波や洪水による被害でしたが、メキシコでは、記録的な干ばつが進行しています。
メキシコのユカタン州における壊滅的な干ばつ。雨不足のために収穫の大部分が失われた
freshplaza.com 2019/05/17
ユカタン州での干ばつが厳しさを増している。同州には灌漑インフラがないために、3,000人以上の農業生産者たちが作物の収穫をすることができなくなった。
この干ばつに対して、メキシコ農地開発省から公的な支援がなかったために、状況はさらに悪化している。
これまでのところ、当局は、農業生産者たちに経済的補助や肥料、種子、電気資源などの重要な手段を提供していない。
生産者の代表は、当局による公的支援の欠如がユカタン州での生産者たちの破滅を引き起こしていると述べ、この壊滅的な干ばつに対して、農地開発省に対して、作物と果物の被害に対しての公的な支援を要求すると述べた。
ユカタン州農業連盟の代表は、現在の干ばつが長引いた場合、ユカタン州の収穫のほとんどが失われてしまい、農業州であるユカタン州が、他の地域から食糧を輸入しなければならないことになるだろうと述べている。
この「干ばつ」ですが、フィリピンでも、干ばつが続いていまして、特にひどかった 3月には、100万世帯が断水となったという以下のような記事もありました。
・フィリピン、深刻な水不足 100万世帯が3カ月断水に
日本経済新聞 2016/03/16
次は北朝鮮の干ばつによる食糧危機です。
北朝鮮 1000万人以上が食糧不足に
北朝鮮の農業の状態と日本の食糧事情が関連するわけではないですが、これをご紹介する意味は、今の北朝鮮は、海外からの食糧支援を受けないと立ち行かない状態なのに対して、今回取り上げていますような「世界の農業大国の極端な農作の不振」が拡大しますと、
「食糧支援どころではない」
ということになる可能性が高まるように思うのです。
現在の北朝鮮では、1000万人の人たちが「即刻の食糧支援を必要としている」と国連は述べていますが、今年の収穫期などに、世界は、この 1000万人分というような食糧支援が出来る状態にあるのかどうかということですね。
その状況次第では、北朝鮮の国内状況がとても厳しいことになったり、あるいは政治的な混乱が発生する可能性もあるかもしれません。
そうなりますと、食糧という範疇の問題を超えて、政治的な意味での日本への影響が出てくる可能性があるかもしれないということが問題となりそうです。
北朝鮮 「過去37年間で最悪の干ばつ」 食糧不足が深刻化
BBC 2019/05/16
北朝鮮が干ばつに見舞われ、食糧不足が深刻化している。国営メディアは 1982年以降最悪の干ばつだとし、国民に農作物の不作と闘うよう呼びかけている。
北朝鮮の食糧事情については、最大 1000万人が「緊急の食糧支援を必要としている」と国連が指摘している。今年に入ってからは、同国民は1日300グラムの食べ物で暮らしていると報告している。
国営朝鮮中央通信によると、北朝鮮の今年 1~ 5月の降水量は計 54.4ミリメートルで、過去 37年間で最も少ない。
国連の世界食糧計画(WFP)と食糧農業機関(FAO)が先月公表した共同報告書では、北朝鮮の昨年の農作物の生産量は 2008年以降で最低レベルだったとされる。
また、全人口の 40%に当たる 1000万人が食糧不足に直面していると記した上で、「 5~ 9月の収穫が少ない時期に状況は悪化する恐れがある」と警告している。
次はアメリカです。
アメリカ 寒波と洪水で農作開始の目処が立たず
現在のアメリカは、
「記録に残る中で、このように春の農作業の開始が遅れた年はない」
という状態となっているようです。
寒波と洪水によるものですが、特に、トウモロコシと大豆が甚大な影響を受けていまして、このふたつは、農業分野でも非常に重要なものですので、先行きが懸念されます……というか、春の作付けができないままシーズンに入りましたので、好転する可能性はないと思われます。
アメリカの食糧危機 : アメリカの一部地域で春の記録的な遅れの到来が食品業界に壊滅的な影響を与えている
strangesounds.org 2019/05/17
アメリカの気象当局のデータによると、カンザス州とオクラホマ州の一部では、春の到来が 38年ぶりに遅い中での記録的な寒さが続いている。
また、サウスダコタ州、ネブラスカ州、さらにはオクラホマ州でも春の到来が遅れており、それらの州で、今年のように春が訪れないのは 10年に 1度もない。そのために、多くの農業分野が停滞しており、種まき等も壊滅的に遅れている。
1981年までさかのぼることのできるデータを使用すると、カンザス州とオクラホマ州の一部、そしてワシントン州とオレゴン州の一部、さらには、サウスダコタ州、ネブラスカ州、さらにはオクラホマ州などで記録的に春の到来が遅くなっている。
これは、3月と 4月の大半にわたって、アメリカ北西部、平野部、中西部の一部でジェット気流が南向きに落ち込んだためで、そのため、これらの地域に異常ともいえる寒波が停滞し続けた。
平野部と中西部の気温の低い地域では、同時に非常に降水量が多かった。この寒さと大雨の組合せが、農業に深刻な影響を与えている。
また、融雪と豪雨は 3月にアメリカ平野部と中西部の一部に重大な洪水をもたらし、これにより、同地域で多くの農業分野が壊滅的な被害を受け、今年は種まきや植樹ができなくなっている。
特に同地域のトウモロコシ被害は甚大で、5月12日までに、アメリカでのトウモロコシ栽培は、作付面積の 30%しか植えられておらず、5年平均より 36ポイント遅れている。イリノイ州でのトウモロコシの植栽は、記録が残る中で、最も遅いものとなっている。
大豆の作付けも予定より遅れており、5月12日の時点で、アメリカ農務省(USDA)は、アメリカの大豆作付面積はわずか 9%しか進んでいなと発表した。これは 5年平均と比較すると、20ポイント遅れている。
このアメリカの農作の不振の影響は、世界的なものとして強く出てきそうですね。
アルゼンチン 洪水で広大な農地が放棄される
最後は、アルゼンチンですが、アルゼンチンも農業大国であり、ここでも、トウモロコシや大豆が大きな被害を受けています。
アルゼンチンで洪水の影響で60万ヘクタールの農場が被害を受けている
Telam 2019/05/13
サンティアゴの南東地域が洪水に見舞われ、農作地が大きな被害を受けた。
この洪水で、現地の農業従事者 700人が避難し、農地は洪水で水に覆われた。アルゼンチンの農業技術研究所は、推定として 600,000ヘクタールの土地のトウモロコシやアルファルファの栽培が不可能になったと報告した。
洪水は、いくつかの地域で、水深 40cm に達しているが、農作の被害の他、畜産関係の牛や家禽類が、いまだに洪水の地域に閉じ込められたままとなっている。
ここまでです。
アメリカのメディア記事で紹介されていたのは以上ですが、ここに、先日もふれました「中国の豚コレラ」についての報道も一部載せておきます。
中国での今年の豚の殺処分の数が「最大で 2億頭になる」という内容です。
世界の豚肉価格が跳ね上がる? 中国、アフリカ豚コレラの影響で約2億頭を処分へ
businessinsider.jp 2019/05/17
中国は2019年、アフリカ豚コレラの大流行により、国内で飼育されている豚の 3分の 1を殺処分すると見られていて、世界の豚肉価格を跳ね上がらせそうだ。
中国農業農村部が 2018年 8月に遼寧省北部での最初の流行を確認して以来、アフリカ豚コレラは中国本土のほぼ全ての地域に拡大している。
豚にとっては致命的だが、人に感染することはないこの家畜伝染病は、国連食糧農業機関(FAO)によると、モンゴルやベトナム、カンボジアでも確認されている。
感染拡大を防ぐため、中国ではこれまでに約 102万頭の豚が処分されたと、農業農村部は4月に報告している。
オランダのラボバンクは 4月、2019年の中国の豚肉の生産量は、アフリカ豚コレラの影響により、25~35%減になるだろうとの見方を示した。これは頭数にして、1億5000万~ 2億頭だ。
国内の生産量の減少は、世界の豚肉の需要を押し上げ、供給不足と国際価格の上昇につながるだろう。
中国政府はすでに、生産量の減少に備えて冷凍の豚肉を備蓄していると、ニューヨーク・タイムズは報じている。
ここまでです。
それにしましても、この一連の流れは何だかすごいです。
世界中の農業輸出大国が、次々とその主要農産品を気象に破壊されているわけで、それが各地で同時に起きていると。
豚コレラは別として、他は気象の問題によるものですが、今後、残る農業大国の中国やロシア、カナダあたりに農作の問題が発生した場合、場合によっては、
「地球規模の食糧危機が起きる」
という可能性もないではないかもしれないです。
もちろん、それが本格的になるとしても、収穫期を過ぎたころになるのでしょうけれど、多くの食糧を輸入に頼る国では、やはり場合によっては、深刻な状態になる可能性は高そうです。
食糧価格が高騰するだけならともかく、「そもそも入手できない」というような作物も出てくるかもしれません。
今回の一連の農業被害に「小麦」があまり含まれていないのは、ある程度幸いなのかもしれないですが、小麦やコメなど主食級の作物に問題が発生し始めると、なかなか大変なことになりそうです。
状況に応じてでしょうけれど、今からある程度の準備というのか、心構えを持っていてもいいのかもしれません。