「誰かがこれを止めることができるのだろうか」
アメリカの弁護士であり、経済学者、投資銀行家であるジェームズ・リッカーという人が、「彼らは核戦争を始めようとしているのだろうか」というタイトルの記事を寄稿していました。軍事の専門家ではなく、経済と金融の専門家の方ですが、核戦争について数十年の研究を続けていると記されています。
現在のロシアとウクライナの状況は次第にそこに近づいているということを記事で書いています。
ちょうど 2日前、プーチン大統領が、外国メディアに対して、「ロシアが核兵器を使用しないと西側諸国が想定するのは間違いだ」と述べたことが報じられていました。
ロシアが核使わないとの想定は誤りとプーチン氏、外国メディアと対話
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで外国メディアの上級編集者らと対話を行い、ロシアが核兵器を使用しないと西側諸国が想定するのは間違いだと述べ、米国とその同盟国を射程圏内に通常型ミサイルを配備することを検討していると語った。
ウクライナを巡り核戦争のリスクがあるかとロイターから問われ、「何らかの理由で、西側諸国はロシアが核兵器を使用することはないと信じている」と指摘。
「われわれには核ドクトリンがある。ロシアの主権と領土の一体性が脅かされれば、あらゆる手段を行使することが可能と考えている。これを軽々しく、表面的に受け止めるべきではない」と述べた。
プーチン氏は2021年にオンライン形式で外国メディアとの対話を行ったが、対面形式で行うのは19年以来初めて。今回の対話は、ロイターのほか、AP通信、共同通信、聯合ニュース、新華社、イラン国営通信IRNAなどが参加した。
ロイター 2024/06/06
今回ご紹介するジェームズ・リッカーさんも述べていますが、これまで西側諸国は、ウクライナを通して、さんざんロシアへの干渉をエスカレートさせてきましたが、これまでのところ、ロシアが西側諸国へ直接報復するようなことはありませんでした。
それで、西側は、
「我々がさらに一線を越えてもロシアは何もしないだろう」
と考えるようになったようですが、「そうではない」ということをプーチン大統領は述べたのだと思われます。
余談ながら過去には太陽嵐により核戦争一歩手前までいったことが
なお、これはあまり関係のないことに思われるかもしれないですが、現在、「太陽活動が極大期に向かっている」ということがあります。
この太陽嵐が、かつて、「米ソを核戦争の一歩手前までまで導いた」ことを、2016年に、アメリカ地球物理学連合がニュースリリースとして報じていたことがあります。
2016年8月9日のアメリカ地球物理学連合 ニュースより
AGU
以下の記事で全体をご紹介していますが、ひとことで書きますと、
「巨大な太陽フレアによる磁気嵐で、米軍の弾道ミサイル早期警戒システムがすべて妨害され、アメリカは、それをソ連の戦争行為と判断した」
のです。
(記事)1967年 アメリカと世界は「核戦争勃発のほんの一歩手前」にまで連れていかれた。そこに連れていったのは……太陽
In Deep 2016年8月10日
アメリカ軍は、1950年代から太陽活動について研究を進めていたこともあり、科学者たちが軍上層部に「これは妨害ではなく、太陽嵐の影響だ」と伝え、ギリギリのところで全面核戦争が回避されたのでした。
ま、かつて、そういうこともあったと。
現在の弾道ミサイル早期警戒システムは、当時よりも優秀なのかもしれないですが、巨大な太陽フレアに耐えられるものかどうかもまたわかりません。
そういう意味では、「何だかわからないまま全面核戦争に入る」という可能性はこの数十年常にありました。これからもあるのかもしれません。
もちろん、今回のジェームズ・リッカーさんの文章は、こういうこととは関係のない純粋な軍事的流れの話です。
なお、アメリカとロシアが全面核戦争に至った場合、その後の数年で、50億人が、「餓死」するという米ラトガース大学の研究を、以下の記事で書いたことがあります。核爆発の影響で亡くなるのではなく、餓死です。
(記事)大量死の時代に、アメリカのふたつの大学の「核戦争後のシミュレーション」を見直してみる
投稿日:2022年9月27日
大気中の「煤(すす)」により多くの地域の農業生産がやられてしまうことがシミュレーションで判明しています。
ともかく、核戦争はいろいろとロクなことにはならない話なのですが、その可能性は確かにやや高まっているようです。2025年あたりまでに何が起きるのかはわかりにくい状況です。
ここからジェームズ・リッカーさんの寄稿文です。
彼らは核戦争を始めようとしているのだろうか?
Are They TRYING to Start a Nuclear War?
JAMES RICKARDS 2024/06/04
第三次世界大戦への着実な道が続いている。
ロシアとの戦争におけるウクライナに対する米国と NATO の支援は長きにわたる失敗だったが、それでも彼らは新たな兵器と戦術で戦争を激化させることを止められなかった。
ロシアは、あらゆる段階で、エスカレーションに対して自らのエスカレーションで応戦してきた。西側諸国の理性的な指導者たち(もし残っているなら)は、どの時点で立ち止まり、ウクライナでの戦争は負けだと考え、エスカレーションを緩和し、戦争を終わらせるための条約を求めるのだろうか?
まだその兆候はない。
実際、すべての兆候はさらなるエスカレーションを示しており、それは確実に核戦争への道だ。エスカレーションによって何の得があるのだろうか。
西側諸国はウクライナに HIMARS 精密誘導砲(米国の高機動ロケット砲システム / ハイマース)を供給したが、ロシアが GPS 誘導システムを妨害する方法をすぐに習得したため、ミサイルはコースを外れ、ほとんどの攻撃に失敗した。
米国と NATO はウクライナにエイブラムス戦車、レオパルド戦車、チャレンジャー戦車、ブラッドレー戦闘車両も供給したが、これらは戦場で燃えたまま放置されている。
これらの戦車は徹底的なメンテナンスを必要とするが、ウクライナ軍はメンテナンスを完全には提供できない。また、これらの戦闘車両はウクライナの戦場の状況には適さないことが多い。多くのウクライナ兵士は実際に NATO 製よりもロシア製の装備を好むと表明している。
不思議な武器ではない
一方、パトリオットミサイル防衛システムはロシアの極超音速ミサイルを撃墜できず、1機 10億ドルの費用をかけて次々と破壊されてきた。
F-16 は次に期待される驚異の兵器だ。しかしロシアは世界で最も洗練された防空システムを備えている。ロシアの S-400 対空砲台やその他のシステムによって多くの航空機が撃墜されるだろう。
これらの飛行機は、NATO の在庫から退役した古い型で、耐用年数の終わりを迎えている。ウクライナのパイロットは英語をほとんど読めず(訓練マニュアルや整備マニュアルはすべて英語)、十分な訓練時間も与えられていないため、操縦すらできない。
有能な F-16 戦闘機パイロットになるには約 2年かかるが、ウクライナ人はわずか 6か月で習得したにすぎない。また、F-16 はウクライナの飛行場の条件が厳しいことが多いため適していない(離陸時に破片がエンジンに吸い込まれないように、きれいな滑走路が必要)。
これらの戦闘機は NATO の基地から運用できるが、そうなるとまた別の問題が浮上する。
NATOの最新の無謀な計画
NATO の次の突飛な計画は何だろうか?
以下が最新の例だ。米国とその同盟国は、射程距離が最大 190マイル (約 300キロメートル)の米国製 ATACMS 弾道ミサイルを使用して、ロシアの奥深くへのミサイル攻撃を承認した。
これらの攻撃は、ロシアの都市ベルゴロドなどの民間施設や、ロシアの核ミサイルレーダー警戒装置などの重要な軍事施設を襲った。どちらのタイプの攻撃も、ウクライナの電力網全体の最終的な破壊を含むロシアの厳しい対応を引き起こしている。
ロシアの早期警戒システムへの攻撃は特に挑発的だ。ウクライナは英国が供給したドローンを使って、核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイルの飛来を察知するためにロシアが使用している核ミサイルレーダー警戒装置を攻撃した。
米国とロシアはすでに「警告発射」原則を遵守している。これは、核ミサイルの飛来を察知した場合、ミサイルが目標に命中するまで待たないことを意味する。
その代わりに、ミサイルを発見したらすぐに反撃を開始する。核戦争では、使用しなければ負けてしまう。
これにより、世界は一触即発の状態になる。核防衛の一部であるレーダー施設を攻撃すると、その防衛に死角ができ、一触即発の状態がさらに敏感になり、発射されやすくなる。
ウクライナは技術的にはロシアに向けてミサイルを発射したかもしれないが、米国とその NATO 同盟国から提供された正確な標的データがなければそうすることはできなかっただろう。
たとえば、メキシコがロシアから提供された標的データを使用して米国の標的を攻撃した場合、米国はどのように反応すると思われるだろうか。それはロシアを直接的に関与させ、責任を問うことになるだろう。
ここでもう一つ疑問がある。なぜウクライナはこの核ミサイル警戒システムを攻撃したのか? ウクライナは核ミサイルを保有していないので、ロシアの核防衛を危険にさらす理由はない。このレーダーはウクライナの地上戦には影響を及ぼさない。それは飛行場でも弾薬庫でも、その他の軍事的に重要な標的でもなかった。
結局この計画は、米国と NATO による危険なエスカレーションのもう一つの例に過ぎず、世界を核戦争に一歩近づけるものでしかない。ウクライナは喜んでそれに従うだろう。
「心配は不要?」
緊張激化の支持者たちは、「我々(の攻撃)はすでに複数の『一線』を越えており、しかしロシアは我々に対して直接報復していない」と述べ、こうした懸念を否定する。
「ロシアは、ウクライナに対しては報復したかもしれないが、我々に対しては報復していない。したがって、我々はさらに一線を越えてもロシアは何もしないだろう」と。
まず第一に、これはウラジミール・プーチンが抑止力のない血に飢えた狂人ではないというさらなる証拠となる。
プーチンに抑止力があるのは明らかであり、エスカレーションの危険性をはっきりと認識している。彼は米国や NATO との戦争を望んでいない。なぜ西側はエスカレーションしているのだろうか。
第二に、そしてより重要なのは、NATO によるウクライナへの武器供給と装備は、ロシアにとって決して越えてはならない一線ではなかったということだ。
西側諸国の観測筋は、HIMARS、ATACMS、戦車の提供はロシアにとって越えてはならない一線であると単純に想定していた。しかし、ロシアはそれが越えてはならない一線であるとは明言しなかった。彼らは全体的なエスカレーションの脅威について警告したが、これらは具体的な越えてはならない一線ではなかった。
しかし、ロシア領土への直接攻撃は別の問題だ。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とプーチン大統領自身も、NATO がロシア国内での攻撃を助長することについて具体的な警告を発している。そこが違いだ。ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は次のように述べた。
ロシアは、ウクライナが使用するすべての長距離兵器は、すでに NATO 諸国の軍人によって直接管理されているとみなしている。これは軍事支援ではなく、我々に対する戦争への参加である。そして、このような行動は開戦理由となる可能性が高い。今日、紛争が最終段階に移行する可能性を否定できる者はいない。
紛争の「最終段階」という言葉が何を意味しているかは、天才でなくてもわかる。メドベージェフはしばしば挑発的な発言をしている。しかし、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官の発言に耳を傾けてみよう。外交声明としては、これ以上ないほど強い言葉遣いだ。
アメリカの指導者たちに、致命的な結果をもたらす可能性のある誤算をしないように警告したい。理由は不明だが、彼らは自分たちが受けるかもしれない拒絶の深刻さを過小評価している。
ただし、その理由は、リャブコフ外務次官が言うように不明ではない。西側諸国は、自分が何をしているのか分かっていない無能で無謀な人々によって率いられているからだ。彼らは火遊びをしていることに気づいていない。
核戦争はどのように始まるのか
私は 1969年に核戦争の戦闘について研究を始め、数十年にわたって研究を続けてきた。その研究には、核戦争に関する主要な思想家全員の概念が含まれている。専門家たちはいくつかの点で意見が異なるが、全員が 1つの点については同意している。
核戦争に至る最も可能性の高い道は、エスカレーションである。誰も朝起きて「核戦争にはいい日だ。始めよう」とは言わない。
むしろ、戦争は、一方が賭け金を上げ、他方がそれに応えてさらにエスカレートするというプロセスが次々に繰り返され、ついには一方が追い詰められ、存在をかけた対応として核兵器を使用するしかなくなるという結果となるだろう。
皮肉なことに、そのような状況では、脅威の少ない側が先制攻撃の優位を得るために実際に核戦争を始める可能性がある。その結果は壊滅だ。
第三次世界大戦だけでなく、地球上のほとんどの人類の終焉となる可能性がある。生き残った人々にしても、おそらく生き残らなければよかったと思う状況になるだろう。
これは理解できないことだが、ウクライナは、米国の地上部隊を派遣して米国を直接戦争に引きずり込もうとしている。
この無謀なエスカレーションが続けば、第三次核戦争で私たちは破滅するかもしれない。誰がこれを止めることができるのだろうか。
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