エネルギーは記録上最大のキャリントン嵐の10倍以上
昨日、スペースウェザーで大変興味深い記事を読みました。
それは、
「年輪の同位体分析から過去の超巨大な太陽嵐の発生の歴史を突き止める」
というものでした。
しかも、これは今から 10年以上前に見出されたもので、そして、発見したのは、日本人の科学者でした(発見した当時は学生さんでした)。
とてもおもしろい記事ですので、今回はまず、その記事を最初にご紹介しようと思います。なお、その科学者のお名前は、スペースウェザーには「フサ・ミヤケ (Fusa Miyake)」とあり、調べますと、日本学術振興会特別研究員の三宅芙沙さんという方のようです。しかし、なぜか日本語の Wikipedia には項目がなく、英語の Wikipedia にのみありました。
Fusa Miyake
三宅芙沙氏は名古屋大学の宇宙線物理学者で、同位体存在比の測定研究により、いわゆる「ミヤケ事象 (Miyake event)」の認識につながった。これにより、文献や氷床コア、樹木の年輪などの資料による年代の相違が調整された。
つまり、この三宅さんが、「年輪からの過去の強力な太陽嵐の解析」を確立された方ということのようで、そのお名前からつけられた「ミヤケ事象」についても、これも英語のWikipedia のみにあり、定義は以下のようなものだそうです。ここでは、ミヤケ事象としていますが、そのまま日本語にすれば、ミヤケイベント、となります。
> ミヤケ事象は、宇宙線による宇宙線同位体の生成が急激に増加することが観測される現象である。これは、放射性炭素同位体の濃度の急上昇によって特徴付けられる。 Miyake event
間違っていたら申し訳ないですが、以下の女性の方が三宅芙沙さんだと思います。
名古屋大学ウェブページより
学術研究・産学官連携推進本部
ここからスペースウェザーの記事です。おもしろいです。
木々からの警告
A WARNING FROM THE TREES
spaceweather.com 2025/01/31
太陽嵐はどれほどひどいものになり得るのだろうか?
それは「木」に聞いてみてほしい。遡ることができるのが何百年という人間の記録とは異なり、木は何千年も太陽嵐を記憶することができる。
名古屋大学で、当時、博士課程の学生だった三宅芙沙氏は 2012年、樹齢 1900年の杉の切り株の年輪を研究中にこの発見をした。
特に 1つの年輪が彼女の注意を引いた。
西暦 774年から 775年に生育したその木には、放射性炭素14(14C)が 12%増加していた。これは宇宙放射線による通常の変動の約 20倍だ。他の研究チームもドイツ、ロシア、米国、フィンランド、ニュージーランドの木材でこの急増を確認した。その時に何が起こったにせよ、世界中の木がそれを経験したことになる。
研究者の多くは 774年の事象は異常な太陽嵐だったと考えている。
私たちはしばしば、1859年のキャリントン事象(※ 記録されている中での最大の太陽嵐。参考記事)を太陽嵐の最悪のシナリオとして指摘するが、しかし、西暦 774年から 775年の嵐は少なくともその 10倍強力であり、もし現在の社会で起きた場合、現代のテクノロジーは機能しなくなるだろう。
三宅氏の最初の発見以来、彼女と他の研究者たちは、さらに 5つの強力な事例を確認している。
・紀元前 12,450年
・紀元前 7176年
・紀元前 5259年
・紀元前 664年から 663年
・紀元後 993年
研究者たちはこれを「ミヤケ事象」と呼んでいる。
すべてのミヤケ事象が太陽によって引き起こされるかどうかは明らかではない。
超新星爆発やガンマ線バーストも炭素 14 の上昇を発生させる。しかし、証拠は太陽嵐に傾いている。
確認されたミヤケ事象のそれぞれについて、研究者たちは氷床コアで一致する 10Be (ベリリウム10)と 36Cl (塩素36)の上昇を発見した。
これらの同位体は、強い太陽活動の痕跡であることが知られている。さらに、西暦 774~ 775年のミヤケ事象には当時の目撃者がおり、オーロラの歴史的報告は、その頃太陽活動が非常に活発だったことを示唆している。
ミヤケ事象は、年輪年代学者(樹木年輪を研究する科学者)を宇宙天気研究の中心に据えた。2012年に三宅氏が初めて、これを発見して以来、国際年輪研究コミュニティは太陽の巨大嵐の証拠を探すために協力し始めた。
彼らの協力は「 COSMIC イニシアチブ」と呼ばれている。
2018年版のネイチャー誌に発表された最初の結果は、西暦 774~ 775年と 993年のミヤケ事象が確かに地球規模であったことを裏付けている。地球の五大陸の木々で炭素濃度の急上昇が記録された。
●■ と ●■ が、年輪から西暦774~775年と993年のミヤケ事象が確認された場所。
「完新世 (最終氷期が終わる約 1万年前から現在まで)を通じて、ミヤケ事象がさらに起こっていた可能性があります」とアリゾナ大学年輪研究室の COSMIC イニシアチブのメンバーであるイリーナ・パニュシュキナ氏は言う。
「重要な新しいデータ源は、ユーラシア大陸と五大湖地域の浮遊樹木の年輪記録です。これらは非常に古い年輪で、15,000年前まで遡って 14C の上昇を捉えている可能性があります。最終的には、その期間全体にわたるミヤケ事象の完全な記録が得られると思います」
最近、ミヤケ事象の候補地として、さらに以下の 4つが特定された。
・紀元前 5628年
・紀元前 5410年
・1052年
・1279年
確認には、多くの大陸の木を調べ、氷床コアで一致する 10Be と 36Cl の急上昇を見つける必要がある。これはすべて、放射性炭素による樹木年輪研究の「ゆっくりとした体系的なプロセス」の一部だとパニュシュキナ博士は述べる。
ミヤケ事象の完全な調査により、太陽のスーパーストームがどのくらいの頻度で発生するか、太陽がテクノロジー社会にどのくらいの危険をもたらすかがわかるのだ。
ここまでです。
興味深かったのは、以下の部分でした。
> 西暦 774~ 775年と 993年のミヤケ事象が確かに地球規模であったことを裏付けている。地球の五大陸の木々で炭素濃度の急上昇が記録された。
少なくとも、このふたつの太陽嵐は(必ずしも太陽嵐と断定することはできないにしても)、
「全地球規模で影響を受けた」
ということに興味を持ったのです。
非常に強い太陽フレアなどが起きた場合、CME (コロナ質量放出)が発生することが多く、太陽から噴出したこれらが、太陽嵐となって地球に達するわけですけれど、CME の噴出時間にもよりますが(噴出時間が長いほうが、長時間、地球が影響を受ける)、私は、それでも、「太陽嵐の直撃の影響を受けるのは、地球の部分的な場所」だと思っていました。
しかし、西暦 774~ 775年と 993年のような…まあ、どの程度の太陽嵐だったのかはわからないですが、とにかく超強力な事象の場合、
「地球のすべてが太陽嵐の影響を受ける」
と。
つまり、
「地球全体の電気インフラや通信インフラがシャットダウンする可能性がある」
と。
しかも、そのようなスーパーフレアの「威力」は、キャリントンの嵐の 10倍以上……。
キャリントンの嵐というのは、記録されている中で最大の1859年の太陽嵐のことですが、昨年 5月、そのキャリントンの時と同じほどのサイズの巨大な黒点が出現したことがありました。
2024年5月9日の太陽黒点群 AR3664
spaceweather.com
この時は結果的に、さほど大きな太陽フレアは発生しなかったのですが、内心ヒヤヒヤしたものでした。
これについては、「記録上最大の1859年の太陽嵐を引き起こしたキャリントン事象を超えるサイズに黒点が成長中」という記事で書きました。
そして、先ほどのような歴史上で起きていたような強力な事象がどのくらいの頻度で起きるのかということについては、今のところ発見されたミヤケ事象(年輪)の件数が少ないために何ともいえないですが、先ほどの Wikipediaには、
> ミヤケ事象がどのくらいの頻度で発生するかは不明だが、入手可能なデータから、400年から 2,400年ごとであると推定されている。
とあります。
先ほどのスペースウェザーの記事に出てきた、ミヤケ事象が確認された年代は以下となります。
・紀元前 12,450年
・紀元前 7176年
・紀元前 5259年
・紀元前 664年から 663年
・紀元前 5628年
・紀元前 5410年
・1052年
・1279年
・993年
・774年から 775年
ただし、その原因となる現象は、ガンマ線バーストなど他にもあるようで、これらすべてが太陽のスーパーフレアが原因であるかどうかはわかりません。
以前、「太陽のような恒星は、約 100年に 1回スーパーフレアを発生させる」というサイエンス誌に掲載された研究について、以下で取り上げたことがありました。
・太陽のような恒星は、超スーパーフレアを100年に1度は発生させていることを突き止めた大規模研究。現在は前回から165年目
In Deep 2024年12月15日
ともかく、非常にいろいろと勉強をさせてもらえたスペースウェザーの記事でした。
三宅芙沙さんという日本人の方が、この素晴らしい研究を確立させる礎を築き上げたことを今まで知らなかったことも、個人的に驚きです。
今回のことのようなことを知ったことが嬉しくて、何となく「ありがとう、三宅ちゃん」と呟きましたが、そういう軽い呼び方をしてはいけない方です。
同時に思うのは、過去に少なくとも複数回あった「地球全体を包む超絶スーパー太陽フレア」の次の発生はいつなのかなあ…というようなことも思います。
それが 1000年後なのか、400年後なのか、100年後なのか、あるいは、2年後なのか、今年なのか。それは誰にもわかりません。
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