今度はマンモス痘(苦笑)
英テレグラフ紙が、WHO 主導による「致死的な新たな感染症のパンデミック」についてのシミュレーション演習が行われたことを、独占記事として報じていました。
「またかよ」
と思う他はないですが、おもしろかったのは、そのシミュレーションで取りあげられたウイルスは、架空のウイルスなのですが、
「凍結した数万年前のマンモスの死骸が解凍され、そこから発生した」
というものなのです。
想像力の豊かさには呆れるばかりですが、まあ、シベリアの凍結した土壌の中に古代の多くの微生物が眠っていることは事実でしょうし、微生物によっては「解凍と共に生き返る」こともあるでしょうが、「なんでマンモス?」という話です。
動物に感染していなくとも、土壌の凍結が溶解するだけで、復活したウイルスは十分にウイルスとして機能するわけで、マンモスだなんだのは関係ありません。
10年近く前のことですが、
「炭疽菌が永久凍土が溶けたシベリアの土の中から噴出して、非常事態宣言が出された」
という出来事がありました。以下の記事にあります。
・生物兵器の主は死なない : 無治療では致死率90%の「炭疽菌」が永久凍土が溶けたシベリアの土の中から噴出し被害が拡大。該当地域は非常事態宣言の渦中
In Deep 2016年8月2日
あるいは、やはり 2016年のことですが、ロシアの科学者たちが、
「シベリアの永久凍土の融解により、天然痘が再び拡大する可能性」
を述べていました (参考記事)。
だったら、別に炭疽菌のパンデミックだとかのシミュレーションにすればいいじゃないの、という気にもなりますが、それがなされないのは、「炭疽菌だと、WHO のパンデミック対策や新型コロナの際のような緊急事態対策がまったく役に立たないから」だと思われます (コロナのときに役立たなかったというのとは異なる意味で)。
炭疽菌のパンデミックなんて、(おそらくは)手の打ちようがない。
なので、「マンモス痘」なんていう、想像のしようもない微生物の名称を挙げての演習だったのではないのかなと。
ウイルスではないですが、「数万年間凍っていた生物が生き返った例」はありまして、たとえば、昨年のテレグラフ紙に、「科学者が解凍した4万6000年前の線虫が生き返った」という記事があり、そこには、
> シベリアの永久凍土から発掘された石器時代の線虫は、4万6000年の仮死状態から蘇り、これまで存在した生物として知られている最古の生物となった。
とあります。
それはともかくとして、新型コロナの際にも、中国で最初の患者(だと公式には言われている)が報告された 1カ月ほど前に、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターと世界経済フォーラム、そしてビル・ゲイツ氏らによって行われた「新たなコロナウイルスによるパンデミックのシミュレーション」を公開したイベント201を思い出します。
詳細は、以下の 2020年1月の記事にあります。WHO がパンデミック宣言を行う 2カ月ほど前のもので、まだ、新型コロナウイルスとはどんなものか、ということがまったくわかっていなかった頃です。
・武漢ウイルスが出現する2ヵ月前、アメリカの科学者が「次に発生するコロナウイルスのパンデミックは《地球上の6500万人を殺す》」というシミュレーションを公表していた
In Deep 2020年1月27日
そういえば、少し前のメルマガ (2025年4月4日号)で、「 21世紀に入ってから行われたさまざまなパンデミックのシミュレーション」について簡単に取りあげたことがあります。
以下のようなものが行われてきました。説明はごく簡単にしています。
過去20年間のさまざまな演習や計画
アトランティック・ストーム(2003年、2005年)
米国と欧州の軍、諜報機関、医療関係者によって組織されたもので、健康上の緊急事態の際の医療や統制、検閲などについての議論。グローバルマーキュリー(2003年)
テロリストによる天然痘拡散のシミュレーション。SCLシミュレーション(2005年)
英国の心理作戦会社による偽情報とロックダウン順守の推進計画。ロック・ステップ・シミュレーション(2010年)
パンデミックの制御には、厳格な監視と中央集権的な権力が必要であると位置付けたロックフェラー財団のシミュレーション。SPARSパンデミックシナリオ(2017年)
2025年から2028年にかけてのコロナウイルスの発生のシミュレーション。検閲、強制的なワクチン接種キャンペーンに重点を置く。クレイドX(2018年)
軍事的対応、検閲、ワクチンの優先付けを強調。イベント201(2019年10月)
ビル・ゲイツ氏が主導した世界的なコロナウイルスのパンデミックのシミュレーション。検閲、プロパガンダ、強制ワクチン接種戦略に焦点を当てた。クリムゾン・コンテイジョン(2019年)
中国発の呼吸器系のパンデミックをシミュレーションした。積極的な社会的距離の確保と連邦政府の権限拡大を主張した。それぞれの詳細は、Operation Lock Step という海外の記事にあります。
そんなわけで、これらの机上演習やシミュレーションの中に、今回のマンモス痘シミュレーションも加わったようです。
テレグラフ紙の報道をご紹介します。
なお、記事にもありますが、今回のシミュレーションには、アメリカも中国も参加しませんでした。そして、このシミュレーションでは、ワクチン戦略にまでは至らなかったようです。
独占:WHO、北極の「マンモス痘」流行でパンデミック対応を演習
WHO tests pandemic response with Arctic ‘mammothpox’ outbreak
telegraph.co.uk 2025/04/15
ジュネーブで行われたポラリス演習は、15カ国を対象に致死的なアウトブレイクへの対応をテストしたが、一部の国では放任主義的な結果となった。
WHOのパンデミック対策演習で架空の「マンモスポックス」発生を引き起こした古生物学的発掘現場のデジタルイラスト。
このシミュレーション上のアウトブレイクは、科学者とドキュメンタリー映画製作者からなるチームが、凍った北極ツンドラでケナガマンモスの遺骸を発掘したときに始まった。
数週間のうちに、集中治療室は「パンク状態」となり、医療システムは対応に追われた。一部の国では接触者追跡と「強制隔離」が導入されたが、他の国ではより自由放任主義的な対応が取られ、危険な新たな感染症の「制御不能な蔓延」を目の当たりにした。
これは、世界 15カ国の大臣たちが先週、次のパンデミックへの備えをテストするために集まった際に直面した、あまりにもありふれたシナリオだ。
この机上演習はジュネーブにある世界保健機関 (WHO)本部から主導され、WHO の保健緊急事態プログラムの厳格なディレクターであるマイク・ライアン博士が監督した。
このシミュレーションは、致死性だが架空のオルソポックス属(※ 天然痘やサル痘などが含まれる属)のウイルスである「マンモスポックス (マンモス痘)」の発生をシミュレーションしたもので、天然痘や、その危険な変種である MPOX (サル痘)に似ている。
テレグラフ紙が入手したこの演習の文書は、新たなパンデミックが発生した場合に WHO とその加盟国がどのように反応し、連携するかについて貴重な洞察を与えている。
描かれた病気は架空のものだが、演習は実際の科学に基づいており、永久凍土に閉じ込められたマンモスやサーベルタイガー、その他の絶滅した生物の古生物学的発掘がひどい失敗に終わることを想定している。
「科学的研究により、古代のウイルスは永久凍土の中で数千年も生存できることが実証されている」と WHO のブリーフィング資料には記されている。
「気候変動による永久凍土の融解により、現代医学ではこれまで知られていなかった病原体が放出される可能性に対する懸念が高まっている」
参加した保健当局者たちは、このウイルスは潜在的に致命的であり、急速に広がると告げられた。
「マンモス痘は重篤で、死亡率はサル痘と天然痘の中間である」と論文は述べている。
天然痘は根絶される前に感染者の約 30%を死に至らしめた。
サル痘は致死率ははるかに低いものの、現在、特にアフリカの幼い子どもたちに甚大な被害をもたらしている。
「マンモス痘感染力は中程度で、無症状の感染拡大も最小限であるため、制御可能だ」と研究者たちは付け加えたが、それは「 SARS や MPOX と同様に、効果的な協調対応」が条件となると述べた。
集まった関係者全員に、今回の発生の背後には「多国籍の科学者チーム」と「撮影クルー」がいると告げられた。彼らは北極圏に赴き、永久凍土の後退によって露出したマンモスの遺骸を発見したという。
映画「ジュラシック・パーク」の冒頭を彷彿とさせるシーンで、研究チームは「驚くほど保存状態の良い」標本を発見し、現場で組織のサンプルを解凍して分析した。
その後、彼らはそれぞれの国に帰国したが、その後すぐに発病し、「水痘のような症状を呈した」。
北極の永久凍土には1000万頭以上のマンモスが埋まっていると考えられている 。
2日間のシミュレーションの参加者の中には、デンマーク、ソマリア、カタール、ドイツ、サウジアラビア、ウクライナの代表者がいた。
米国と中国は参加しなかった。
各国には「パズルの小さなピース」が与えられ、ウイルスの拡散を抑えるためにどれだけうまく情報を共有し、協力できるかが試された。
新型コロナウイルスのパンデミックと似て、(シミュレーション上で)ある国では、症状のある北極研究者が乗客 2,450人と乗組員 980人を乗せたクルーズ船に乗船していたとの報告があった。
この船は事実上、科学者たちにとってのペトリ皿となり、ウイルスがキャビンからキャビンへと移動するにつれてデータを収集し、ウイルスの増殖率、つまり R数 (1人の患者が平均して何人に感染を広げる可能性があるかの指標)を 1.6から 2.3と計算することができた。
カタールでは、ウイルスは大規模な社交の場や職場を通じて広がっていると報告され、一方ウガンダでは 22件の症例すべてが「家庭内感染」によるものとされた。
机上演習は 2日間にわたって実施され、感染拡大の最初の 3週間をシミュレーションした。
演習の 2日目、参加者たちは、ウイルスの抑制に向けた進展が政治と各州間の汚染対策の相違によって妨げられていることを知らされた。
入手した演習の文書によると、一部の国は「厳格な国境管理を実施し、すべての国際入国を禁止し、国内の移動を制限した」。
しかし、他の国は「最小限の制限で国境を開放し、代わりに「接触者追跡、隔離、検疫措置に頼った」。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、シンガポール、韓国、ニュージーランド、台湾といった国々は、港湾や空港を第一防衛線として機能させ、ウイルスの侵入を完全に阻止しようと努めた。
しかし、英国を含む他の国々は、国境をほぼ開放したままにしていたことで批判を受けた。
シミュレーション中、参加各国の保健当局者はズーム会議に参加し、それぞれの町や都市での感染拡大の状況を詳細に共有し、対応方法を議論した。
「一部の国は国境管理を非常に厳格に行っている一方で、非常に近い隣国では非常に緩い場合もあったため、電話会議では、こうした取り組みをいかに調和させることができるかについて議論することができた」と WHO の上級顧問スコット・ダウェル博士は述べた。
WHO の保健緊急事態プログラムのディレクターであるネドレット・エミログル博士は、マンモス痘のシナリオは「世界中に広がる可能性を伴った現実的なもの」として設計されたと述べた。
しかし、この病気は「各国が協力すれば制御可能」になるよう設計されているとエミログル博士はテレグラフ紙に語った。
ポラリス演習が行われている間、WHO では新たな「パンデミック条約」に関する交渉が継続されていた。
関係筋はテレグラフに対し、医薬品やワクチンの配布計画をめぐる意見の相違など 3年間の困難な交渉を経て、早ければ 4月15日にも条約合意に達する可能性があると語った。
マンモス痘演習に参加した国々は最終的にはウイルスを封じ込めるために団結することができたものの、実際の流行ははるかに複雑になるだろうと WHO は認めた。
例えば、ワクチン戦略をどう実行するかという問題は、架空の予行演習では扱われなかった。また、WHO への最大の資金提供国である米国は WHO から脱退しようとしている。
一方、シベリアの永久凍土では本格的な発掘が続けられており、氷の減少により科学者や象牙採取者の間でゴールドラッシュが巻き起こっている。
2023年、NASA の研究者は、凍ったマンモスやオオカミの遺体と一緒に発見された、人間にとって致命的となる 4万8500年前の「ゾンビウイルス」を解凍した。
そして先月、ニューヨーク・タイムズ紙は、シベリアの象牙ハンターたちが、偶然遭遇するかもしれない古代の病原菌に対する懸念や予防措置なしに、マンモスの遺骨を漁っていたことを暴露した。
北極の永久凍土には合計 1,000万頭以上のマンモスが埋まっていると考えられている。
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