地球の最期のときに

2024年5月の太陽フレアによる地磁気嵐により「アメリカの農業分野で、たった2日間で700億円以上の被害が出ていた」ことを知る。その理由は?



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現在のアメリカの農業は、ほぼGPSで制御されている

昨年 2024年は、X フレアが非常に多い年でした。特に、2024年5月5日から 10日にかけて、信じられないような太陽フレアの連続発生が起こり、その結果、サイクル25(第25太陽活動周期)で最大の地磁気嵐が発生しました。

この際、アメリカ政府は、電気や通信に関しての勧告を発令しました。以下の記事にあります。

過去20年で最大のG5の地磁気嵐の影響について米国政府が勧告を発令。そして、今後の電気、通信に関するCNNの見解
In Deep 2024年5月11日

その後、 2日間にわたり、以下のように最強の G5 の地磁気嵐が発生し続けました。

2024年5月10日〜12日の地磁気の撹乱指数の推移

NOAA

しかし、結果として、携帯通信に一部影響が出た以外は、電力網や一般的な通信網、そして人工衛星群には特別な影響がないまま、約 2日間の最強地磁気嵐は収束しました

想定されていたような被害はなかったのです。

ところが、先日、科学メディアのライブサイエンス誌で、

「この 2日間に、アメリカの農業が受けた被害額は 5億ドル(約 720億円)以上だった」

という研究論文が紹介されていました。

「電気網に致命的なダメージを受けなかったのに、なぜ?」と思いましたら、現在のアメリカの大型農業というのは、

「ほとんどの農業機器を GPS で制御している」

のだそうで、GPS が乱れると、農作が行えなくなるのです。

記事に出てきたカンザス州立大学の農業経済学教授は以下のように述べています。

「現在、アメリカの植え付け面積の約 70%は、GPS 自動誘導装置を使って畑に直線の平行線を引く装置に頼っています。もはや物理的な道路標識さえなく、装置は大型化しており、GPS が使えなくなると作業が不可能になるので​​す」

なるほどなあ、と思いました。

巨大な太陽嵐に見舞われた場合、電気通信の問題だけではなく、GPS 制御の問題が出てくるのだなあと。

これは、農業機器だけの問題ではなく、

「 GPS で制御されているすべての機器に問題が生じる可能性」

を示しています。

それにしても、たった 2日間で約 700億円の被害…。

これが、たとえば、複数の X フレアが連続して発生したりした場合に、数日とか 1週間とか G5級の地磁気嵐が吹き荒れた場合、大変な被害となり得ることがわかります。

まあ、今現在は太陽は穏やかですので、そういうことはしばらくは起こりようがないでしょうが、何年後かはわからなくとも、いつかは起こることです。

 

近代史上で最も巨大な太陽フレアが発生したのは 1859年のことで(キャリントンの嵐)、つまり 160年以上前です。

当然、その頃は、農業は GPS 制御されていなかったですし、携帯もなければ、そもそも、電気そのものがそれほど発達していなかった。日本のように、電気などまだなかった国がほとんどです。

そういうこともあり、それほど重大な影響はありませんでした(アメリカ全土の電報システムがクラッシュしたくらい)。

しかし、現代は違います。何もかもが電気制御、無線制御されていて、そして過大な携帯通信網の中で私たちは生きています。ですので、強大な太陽嵐が深刻なダメージを与えた場合の影響は非常に計り知れないもので、しかも、太陽嵐は防ぐ方法がないものです。

なお、 2024年5月に、そのキャリントンの嵐の時とほぼ同じサイズの黒点が出現して、世界が緊張したことがありました。

2024年5月9日に出現した黒点

indeep.jp

これも幸い、それほど巨大な太陽フレアを発生させることなく消滅しましたけれど、そのとき、

「いつかは必ずキャリントン・クラスのは起こるんだよなあ」

と再認識した次第です。

いつ起きるかわからないだけで、それが必ず起きることは確率論的に確実なのです。

そんなわけで、2024年5月の地磁気嵐による農業被害についてのライブサイエンスの記事です。

記事に論文の著者のひとりである日本人だと思われる方が出てくるのですが(ボストン大学のこちらの准教授だと思います)、正確な漢字がわかりませんので、トシ・ニシムラとさせていただいています。

なお、記事に、ギャノン太陽嵐という聞き慣れない言葉が出てきますが、亡くなった宇宙天気学者の名前にちなんでいるそうです。




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2024年5月の太陽嵐で農家に5億ドルの損害、新たな研究で明らかに

May 2024 solar storm cost $500 million in damages to farmers, new study reveals
ivescience.com 2025/07/04

新たな研究によると、2024年5月のギャノン太陽嵐の際、最大2日間続いた混乱により GPS の位置が最大約70メートルもずれていたことが明らかになった。

昨年 5月のギャノン太陽嵐の際、GPS 衛星から地球に送信される位置情報信号は数百フィートも誤差が生じ 、米国の一部地域では最大 2日間にわたって混乱が続いたことが、新たな研究で明らかになった。この混乱は農業分野全体に壊滅的な被害をもたらし、5億ドル (約 720億円)以上の損失を被った。

昨年 5月初旬、強力な太陽活動が相次ぎ、地球を襲った太陽嵐としては過去 20年で最大規模となった。

後に故人となった宇宙天気学者ジェニファー・ギャノン氏にちなんで命名されたこの太陽嵐は、メキシコ、ポルトガル、スペインといった南方でも観測可能な、息を呑むようなオーロラを生み出した。また、GPS は数日間にわたり誤作動を起こし続けた。

当時、植え付けシーズンのピークを迎えていたアメリカ中西部の農家は、太陽嵐の最中、GPS 誘導式トラクターがまるで「憑りつかれた」かのように動いたと報告していたという。

新たな研究により、嵐の最中だけでなく、オーロラが長引いて GPS 信号を歪め続けた嵐の後も、これらの GPS 誤差がどれほど大きかったかが数値化された。

 

ボストン大学の研究チームは、全米各地に点在する約 100基の高精度固定 GPS 受信機のデータを使用した。

これらの受信機は、プレート運動を測定する地震研究ネットワークを構成している。このネットワークは、地球の電離層(地上 48キロメートル上空に存在する帯電した空気層)における宇宙天気の影響を研究するのにも最適であることが判明した。太陽嵐が電離層に及ぼす影響は、 GPS 受信機の測定値に影響を及ぼす可能性がある。

「 GPS 受信機は、電離層のプラズマ密度が均一であるという仮定に基づいて動作します」と、ボストン大学の宇宙物理学研究者で、この論文の筆頭著者であるワカール・ユナス氏は Space.com に語った。「しかし、太陽嵐は電離層に不規則性を生み出し、信号が電離層を通過するにつれて誤差が増大します」

太陽嵐が発生すると、太陽から運ばれてきた荷電粒子が加熱され、電離層を乱す。GPS(全地球測位衛星)からの微弱な信号は、この突然の乱流領域を通過する際に、軌道から外れてしまうのだ。

研究ネットワークの固定 GPS 受信機は地面にしっかりと固定されているため、位置データの変化は電離層の乱れによるものとしか考えられない。この科学 GPS ネットワークによる測定により、これらの誤差の規模が非常に正確に明らかになり、研究者たちは太陽嵐の際に電離層で何が起こっていたかを再現することができた。

「信号の乱れを計測することで、上層大気のプラズマの構造を知ることができます」と、宇宙物理学教授で今回の研究の共著者であるトシ・ニシムラ氏は Space.com に語った。

このデータの分析により、太陽嵐が北米大陸を横断する「電離層プラズマの壁」を作り出したことが明らかになった。この壁は、アメリカ中部諸州で GPS 信号の誤差を最大 70メートルまで拡大させ、南西部では最大 20メートルの誤差が報告された。

研究によると、ピーク時の混乱は 2024年5月10日に約 6時間続いたが、その後最大 2日間不安定な状態が続いた。

揺れた電離層が静まり始めると、嵐によって引き起こされたオーロラが、宇宙からの荷電粒子が乱れた磁力線に沿って大気中を流れ込み、 GPS にさらなる混乱を引き起こした。これらのオーロラの持続期間中、GPS 受信機ネットワークは最大 10メートルの誤差を示した。

 

カンザス州立大学の農業経済学教授テリー・グリフィン氏によると、ギャノン太陽嵐によって引き起こされた GPS 誘導式農業機械の不安定な動作により、米国中西部の農家は 5億ドル以上の損害を被ったという。

「あの太陽嵐の影響で、トウモロコシの植え付けが遅れました。植え付け機がほとんど動かなかったからです」とグリフィン氏は語った。

「現在、アメリカの植え付け面積の約 70%は、GPS 自動誘導装置を使って畑に直線の平行線を引く装置に頼っています。もはや物理的な道路標識さえなく、装置は大型化しており、GPS が使えなくなると作業が不可能になるので​​す」

しかし、宇宙天気による GPS の混乱の犠牲になったのは農業だけではない。航空機は GPS を航路の追跡だけでなく、特に着陸時の正確な高度を知るために頼りにしている。ニシムラ氏によると、最大 4メートルまでの誤差は補正可能だという。

しかし、昨年 5月10日と 11日の GPS の混乱は「その許容範囲をはるかに超えていました」とニシムラ氏は述べた。

 

2024年の ギャノン太陽嵐は過去 20年間で最大規模だったかもしれないが、しかし、これは太陽の潜在能力を垣間見せたに過ぎない。

頻繁に議論される最悪のシナリオは、いわゆる「キャリントン・イベント」と呼ばれるものだ。これは 1859年に地球を襲い、世界中の電信サービスを停止させた太陽嵐だ。

今日、これほどの強さの嵐が発生すれば、間違いなく世界中に広範囲にわたる影響を及ぼすだろう。

「ギャノン嵐の際、アメリカ中部地域で最も激しい影響が見られました」とニシムラ氏は述べた。「しかし、キャリントン規模の嵐であれば、アメリカ大陸全土で混乱が生じ、信号が使えなくなるほどのエラーが発生するはずです」

この研究は 6月9日に JGR-Space Physics 誌に掲載された。