王様の時代
先日、アメリカの弁護士であり経済学者であるジェームズ・リッカーという方による、トランプ政権後の経済と市場についての寄稿文を以下の記事で取り上げました。
・トランプ氏の「経済戦争」により引き起こされる株式の大暴落と巨大な経済危機を専門家が解説
In Deep 2025年2月3日
このジェームズ・リッカーさんという方は、大変なトランプ支持者であり、その寄稿文の冒頭も、
> トランプ新政権は順調なスタートを切った。…私たちはトランプ大統領の経済計画に非常に楽観的だ。
と始まります。
それでも、文章の内容は、以下の3つが「短期的には」避けられないという結論になっていました。
1. 株式市場の暴落
2. 米国の景気後退
3. 通貨戦争が再燃し、貿易戦争も勃発
昨日、またトランプ氏についての興味深い記事を見ました。
ロドリゲ・トランブレイ博士という方の寄稿文で、プロフィールによれば、以下のような方です。
ロドリゲ・トランブレイ氏は、1976年から 1981年までカナダ・モントリオールの議員を務め、その後、35年以上にわたりモントリオール大学で経済学を教え、2002年以来、同大学の名誉教授を務めている。
この方がかなりシビアな文章を書かれていまして、ご紹介したいと思いました。トランブレイ博士がトランプ氏の支持者か、そうではないのかはわからないですが、書き方は辛辣です。
ちなみに、私自身は、トランプ氏やその政権に対しての是非の価値観は特にないですが、最近おこなっていることのあまりの場当たり的な急進さと、他人の感情をほとんど考えない態度はあまり好きではありません。
特に、「ガザ地区からすべてのパレスチナ人を追放し、他国に再定住させる」というような案を唐突に言い出すあたりはどうかと思います。
このトランプ氏の提案については、主要なアラブ諸国すべてから拒否され、また、ロシア政府にも拒否され、レバノンの武装組織ヒズボラやイエメンの武装組織であるフーシ派は、これを「犯罪的命令だ」と非難しています。
ともかく、ロドリゲ・トランブレイ博士の文章をご紹介したいと思うのですけれど、その中で非常に興味を持ったのが、その文章の中の「抑えの効かない大統領」というセクションでした。
抑えの効かない大統領
このセクションには、トランプ氏の「精神状態」を危ぶんでいる人たちが多くいるということが書かれてあります。臨床心理学者でトランプ氏の姪(つまりトランプ・ファミリー)であるメアリー・トランプ氏は、昨年以来、何度も「トランプ氏の精神状態について警告」していたことが報じられています。
しかも、これは今に始まったことでもないそうで、2016年11月29日に、ハーバード大学、バークレー大学、スタンフォード大学の 3人の精神医学教授が、当時のオバマ大統領に公開書簡を送っています。
以下のような公開書簡です。「次期大統領」とあるのは、トランプ氏のことで、最初の大統領就任の前のことです。
3人の精神医学教授が当時のオバマ大統領に宛てた公開書簡
2016年11月29日
オバマ大統領閣下
我々は、次期大統領の精神状態について重大な懸念を表明するためにこの手紙を書いています。
専門家としての基準では、我々が個人的に診察していない公人に対して診断を下すことは許されません。しかし、彼の精神不安定の症状は広く報告されており、誇大妄想、衝動性、軽蔑や批判に対する過敏性、空想と現実の区別がつかないことなど、彼が職務の大きな責任を果たせるかどうか疑問視しています。
我々は、これらの責任を引き受ける準備として、彼が公平な調査チームによる完全な医学的および神経精神医学的評価を受けることを強く推奨します。
ここで言われる精神的問題は、「自己愛性パーソナリティ障害」と呼ばれるもので、辞書的には以下のような精神医学的障害の一種です。
自己愛性パーソナリティ障害とは、過大な自尊心と自信、過度な賞賛の欲求、共感の欠如といった特徴を示すパーソナリティ障害の一類型である。
患者はたいてい自分が問題であるとは認識していないため、多くの場合において精神療法は困難である。
こういう気質は、政治家とか企業のトップとかに多そうな感じもしますけれど、トランプ氏の姪である臨床心理学者のメアリー・トランプ氏は、2024年2月のテレビ番組で以下のように述べていました。
「ドナルドは未治療の精神疾患を抱えており、未治療の疾患はどんなものでも、治療しないままでいる限り、時間とともに悪化します。ですから、彼のように不健康な人が、異常なストレスにさらされていると、認知能力を維持するのが難しくなるのは当然です」
前大統領のバイデン氏は、こういうのとはまた別の問題がありましたけれど、最近は、フリーメーソンの名誉会員になったりして、ストレスから解放されたせいか、以前より認知機能は元気のようですね。
ともかく、現大統領のトランプ氏は確かにやや直情的で場当たり的でもあり、そこに危険さも感じますけれど、何がどうであろうと、不安定化する米国と共に世界は進んでいくしかないのですかね。
ここからトランブレイ博士の記事です。
ドナルド・トランプ氏の米国政府は寡頭制で機能不全であり、世界経済に混乱をもたらしている
The US Government of Donald Trump Is Oligarchic, Dysfunctional and Disruptive to the Global Economy
Prof Rodrigue Tremblay 2025/02/05
不動産王ドナルド・トランプ氏の米国急進派政権は就任からわずか数週間だが、金権政治の寡頭政治家で満ちており、自分一人で世界の知識をすべて持っていると確信している、大きな欠陥のある大統領が率いている。
トランプ氏は、自国はいかなる製品の輸出入もせず、経済的に孤立した状態で生きていくべきだと考えているようだ。
抑えの効かない大統領
1月最後の 2週間は、新しく選出されたアメリカ大統領の中で最も疑わしく常軌を逸した行動が見られた時期として歴史に残るだろう。
実際、大統領執務室からこれほどの独裁的な大統領令が次々と発せられたことはかつてなかった。
その中には、米国議会が採択した既存の法律や、米国憲法の牽制と均衡の制度に違反するものもあり、まるで米国政府が突然一人の個人の手に委ねられたかのようだ。
それに加えて、トランプ氏のさまざまな話題に関する奇妙でますます扇動的になる発言やレトリックは、その大部分が証拠や研究、健全な分析に基づいていることは、ほとんどない。
経済問題に関して言えば、トランプ新政権は国際経済を安定させる意図と責任を一切放棄し、代わりに場当たり的で非合理的かつ不安定化を招く政策を推進しているという印象を受ける。
さらに、第二次世界大戦後にアメリカのリーダーシップの下で設立された多くの国、さらにはいくつかの国際機関が、ドナルド・トランプ大統領による侮辱、脅迫、扇動的な攻撃の標的となってきた。このことは多くの重要な疑問を提起している。
1. 多くの専門家が、アメリカ大統領の精神状態と、彼が将来に及ぼす破壊的な影響について懸念している
最も重要な問題はトランプ氏の精神状態だ。ドナルド・トランプ氏の精神状態と人格障害について最初に懸念を表明した人物の一人が、臨床心理学者でトランプ氏の姪であるメアリー・トランプ氏だ。
彼女は何度も、また著書の中でさえ、叔父の不安定な精神状態について米国民に警告しようとしてきた。
ハーバード大学、バークレー大学、スタンフォード大学の精神医学教授 3人は、2016年11月29日、当時の大統領バラク・オバマ氏に宛てた公開書簡の中で、ドナルド・トランプ氏の精神病の症状に関して同様の結論に達していた。
彼らの結論は、ドナルド・トランプ氏は「誇大妄想、衝動性、軽蔑や批判に対する過敏症、空想と現実の区別がつかないなど、広く報告されている精神不安定の症状」を示しており、「大統領職の大きな責任に彼が適しているかどうか疑問視する」というものだった。
他の精神専門家もそれ以来、ドナルド・トランプ氏の不安定な精神状態と人格障害(支配欲、自己重要感の過剰、良心と共感の欠如、罪悪感、恥、後悔の念の欠如など)が米国と世界にとって危険となる可能性があることについて、警鐘を鳴らし、文書化している。
さらに、元 FBI 長官のジェームズ・コミー氏によると、ドナルド・トランプ氏は悪意と邪悪さに満ちた心を持ち、個人的な利益のためならどんな法律、条約、慣習、慣例も破る覚悟ができているギャングや詐欺師のようなメンタリティも持っているようだ。
ドナルド・トランプ氏は 2024年5月30日に有罪判決を受け、ホワイトハウスに就任する前に犯罪歴を持つ唯一の人物として歴史に名を残すことになったということを覚えておくことは重要である。
トランプ氏はまた、2020年11月の大統領選挙の結果を覆すために 2021年1月6日に米国議会議事堂を襲撃した暴徒集団をはじめ、過激な信奉者による暴力を煽ったことでも知られている。
実際、2022年1月14日に米国特別検察官ジャック・スミス氏が発表した米国議会議事堂襲撃事件に関する 800ページを超える報告書は、次のように結論づけている。
ドナルド・トランプ氏は、2020年の選挙で敗北した後も権力を維持するために「前例のない犯罪行為」を行った…そしてその証拠は裁判でトランプ氏を有罪にするのに十分だっただろう。
また、トランプ氏が合衆国憲法に対する就任宣誓を軽率に裏切ったことにも気づくだろう。
実際、権力の座に復帰したトランプ氏が最初に行ったことの一つは、完全な恩赦を与え、刑期を減刑し、あるいは 1,500人以上の暴徒の事件を却下すると誓うことだった。
暴徒の中には、警察官への暴行で有罪判決を受けた者も含め、扇動陰謀罪で有罪判決を受けた者もいた。トランプ氏は、1月6日の暴動で 100人以上が負傷し、警察官数名が死亡したという事実を考慮しなかった。
2. トランプ氏による複数の国に対する不当な侮辱、脅迫、攻撃
2つ目の懸念は、ドナルド・トランプ大統領の発言がますます攻撃的になっていることだ。実際、トランプ大統領は、パナマ、メキシコ、キューバ、コロンビア、カナダ、グリーンランド、デンマーク、ヨルダン、エジプト、サウジアラビア、北朝鮮、ロシア、中国、イランなど、多数の国に対する脅迫、侮辱、そして不当な攻撃を増大させており、そのリストは日々長くなっている。
これは世界の平和と繁栄にとって極めて逆効果だ。
トランプ氏が次の世紀の帝国主義的姿勢を採用するのではなく、その大きな政治的責任をよりよく果たすことができれば、それは世界にとってはるかに有益となるだろう。
3. ドナルド・トランプ氏が大統領職から金銭的利益を得るための策略
3つ目の問題は、トランプ大統領が最近、自身の組織と近親者のために投機的なミーム暗号「通貨」を立ち上げたことに対する判断力が欠如しているように見えることだ。
Solana ブロックチェーン上では、トランプ大統領自身の記念暗号トークンが発行されただけでなく、彼の妻のメラニアトークン、さらには娘のイヴァンカのトークンも発行された。
このような暗号通貨ミームコインには、実質的な価値はない。所有者が利益を得るには、購入した価格よりも高い価格で他人に売却するしかない。これはポンジ・スキーム(投資詐欺)に等しい行為だ。
しかし、こうした手段は、理論的にはトランプ氏の支持者の信用を悪用して数百万ドルを稼ぐことができる金融投機の仕掛けだ。
大統領がその地位や政策の結果として私腹を肥やすことを禁じる米国憲法の条項に違反している可能性もある(憲法第2条第1項第7項)。
4. カナダと米国間の長年の経済・防衛協力が危機に瀕している
ドナルド・トランプ大統領はカナダとその政府に対して特別な敵意を抱いているようだ。実際、カナダは最近、トランプ大統領による侮辱、脅迫、攻撃の標的となっている。
これは意外かもしれない。なぜなら、カナダは 1949年に北大西洋条約機構(NATO)の創設メンバーとなったほか、イギリス連邦の一員でもあるからだ。
さらに、1957年以来、カナダと米国は北米航空宇宙防衛司令部 (NORAD)協定のパートナーであり、その役割は北米の航空主権を守ることだ。
さらに、カナダは 1989年に米国とカナダ・米国自由貿易協定(FTA)を締結しており、1994年には北米自由貿易協定(NAFTA)の下でメキシコも含まれるように拡大された。
この最新の協定は、第一期トランプ大統領の要請により 2019年から 2020年にかけて再交渉され、2020年米国・メキシコ・カナダ貿易協定(USMCA)として知られている。
この協定は 2020年7月1日に発効した。協定の見直しは 6年ごとに予定されており、来年の 2026年に見直しが行われる予定だ。
それにもかかわらず、トランプ大統領は、三国間の協議なしに、カナダとメキシコからの米国製品およびサービスの輸入に 25%の関税を一方的に課すと脅し、これらの国との国境は米国に入ってくる不法移民や麻薬取引(フェンタニル)に対して十分に管理されていないと主張している。(トランプ大統領はさらに踏み込み、カナダが米国に併合することを提案している!)
これらの無謀で自滅的な関税政策が適用されれば、カナダと米国間の相互に利益のある長年の産業協力が破壊されるだろう。
例えば、自動車部門では 1965年以来緊密な協力関係が築かれてきた。同じことがエネルギー部門(石油、ガス、電気)や資源部門(鉄鉱石、鋼鉄、アルミニウムなど)にも当てはまる。
ウォールストリートジャーナルの社説は、カナダとメキシコに対する貿易戦争は「史上最も愚かな貿易戦争」になるだろうと述べているが、この社説に同意しないのは難しい。しかも、それは完全な知的混乱の中でもたらされるだろう。
しかしながら、ドナルド・トランプ氏は 2月1日土曜日(国家非常事態に関する 1977年のあまり知られていない法令に依拠しながら)、まさにそれを実行し、メキシコとカナダに対し、2025年2月4日から、この 2か国からのほとんどの米国輸入品に 25%の一方的な輸入税を課すことを決めた。 これは、トランプ大統領自身が 2020年に署名した 3か国間の更新された貿易協定に違反してもいる。
しかし、物事がいかに即興的で、恣意的で、無秩序になり得るかを示す例として、トランプ氏は 2月3日、メキシコとカナダからの米国輸入品に対する関税を 30日間延期すると発表した。
しかし、このような遅延には、メキシコとカナダの企業にとって不確実性と脆弱性が続くというコストが伴う。両国の投資と輸出に悪影響を及ぼす可能性がある。
結論
ドナルド・トランプ大統領は明らかに何かがおかしいと私は懸念している。彼の行動や、気まぐれで無謀かつ妄想的な発言を考えると、彼の精神状態は疑わしい。
彼は、親しい同盟国を含む多くの国々に対して、いわれのない侮辱、脅迫、攻撃を行っており、国際貿易戦争を挑発することに何のためらいもないように思われる。
さらに、彼の発言は時が経つにつれてますます暴力的になっているように思われる。
このような宣言や脅しは、国際関係に政治的、経済的に大きな混乱をもたらす可能性がある。
これは国際貿易の低下につながり、多くの経済を深刻な不況に陥れ、経済恐慌を招いた 1929年から 1939年の政策の誤りを繰り返すことになる可能性もある。
トランプ大統領は、世界に大混乱を引き起こすことを控えた方が賢明だろう。他の主権国家や国際機関に対する侮辱、脅迫、攻撃を控えるべきだ。
核戦争の脅威がいまだに存在し、実際に非常に迫っているこの時代においては、衝動的な行動に屈し、場当たり的な政策を採用する時ではない。世界をより平和で、すべての人にとってより豊かなものにするためには、冷静な判断と合理性が優先されるべき時だ。
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