1日の戦闘としてはレバノンで過去34年で最大の被害
9月17日から 18日にかけてレバノンで連続して発生したポケベルやトランシーバーの爆発事象について、先日の「新しい戦争への扉…」という記事で取り上げました。
そこでご紹介した軍事メディアの記事には以下のようにあり、「これは全面的な攻撃を開始する準備である可能性がある」としていました。
軍事メディアの記事より
過去 2日の攻撃は、イスラエルがヒズボラに対して大規模な作戦を開始する準備ができていることを示唆している可能性もある。これらの爆発はヒズボラの主要人物を戦闘から排除するのに役立つだけでなく、ヒズボラのコミュニケーション能力と指揮系統の維持能力を大幅に低下させる。
…このような手段は、前述のように敵を弱体化させるために大規模な軍事作戦の前か開始時に利用されるだろう。現在イスラエルがまさにそのような作戦を開始しようとしている兆候がある。
WARZONE 2024/09/18
まさにその通りだったようで、9月23日の現地早朝、イスラエルは、レバノンに対して、今回の戦争の中で最大の被害となるレバノン全土に対しての空爆での攻撃を行いました。
現時点で、少なくとも 492人が死亡したと報告されています。死者のうち 35人が子ども、58人が女性と報告されており、ほぼ民間への無差別攻撃だったことが示されます。この 492人という死者数は、レバノンでの 1日での戦闘での死者数としては、1990年に終結したレバノン内戦以来の数字だそうです。
まず、その 23日のイスラエル軍の攻撃について、イラン国営のプレス TV の報道をご紹介します。
レバノン全土のイスラエル空爆で少なくとも492人が死亡、1645人が負傷
At least 492 killed, 1645 wounded in Israeli airstrikes across Lebanon
Press TV 2024/09/23
イスラエル政権の戦闘機はレバノン全土の町や村に対して大規模な空爆を実施し、少なくとも492人が死亡した。
レバノン保健省は 9月23日に死者数を発表し、犠牲者には子ども 35人と女性 58人が含まれていると述べた。
同省は、同日早朝に同地域を狙った攻撃で少なくとも 1,645人が負傷したと発表した。
レバノンのアビアド保健相は、保健省はイスラエルの攻撃で負傷した人々が必要な医療を受けられるように取り組んでいると述べた。
保健相は、レバノン南部からの負傷者を受け入れるため、病院に対し通常の軽症患者の受け入れを停止するよう要請したと述べた。
「我々は、救急センターを負傷者を受け入れる場所に変えるよう指示する作業を進めている。ガン、腎不全、その他の慢性疾患を患っている避難民については、別の医療センターで治療を継続する計画がある」と保健相は語った。
同国のメディアは、航空機が南部国境沿いの町や村とその周辺を全て爆撃したと報じた。
イスラエルの戦闘機はベカー高原やバールベックを含むレバノン東部地域も標的にしたと伝えられている。
レバノンの情報筋によると、空爆は攻撃中にレバノン国内の計 40以上の地域を標的としたという。
一方、イスラエルのメディアは、攻撃はレバノン領土内 125キロまで及んだ場所を襲ったと主張した。
イスラエル軍報道官ダニエ・ハガリ氏は、「イスラエルはレバノンに対して、より大規模かつ正確な攻撃を行う」と述べ、攻撃は「近い将来も続くだろう」と付け加えた。
レバノンのヒズボラは 9月22日、昨年 10月以来最も広範囲に及ぶ攻撃をイスラエルの地域に対して実施し、ハイファ市の南東 20キロにあるラマト・ダビド空軍基地と、同市北部のゼブルン地区にあるラファエル兵器製造施設にロケット弾数十発を発射した。
ヒズボラは、この施設への攻撃を、9月17日と 18日にレバノン全土で少なくとも 39人が死亡、3,000人が負傷したイスラエル政権による爆弾を仕掛けたポケベルやトランシーバー数千台の爆発に対する「最初の対応」と表現した。
また 22日、ヒズボラのシェイク・ナイム・カセム副書記長は、同運動が政権との戦いにおいて「新たな段階」にあると述べた。
「脅威は我々を止めることはできない…我々はあらゆる軍事的可能性に立ち向かう準備ができている」と副書記長は指摘した。
カセム氏は、同グループの上級指揮官の一人であるイブラヒム・アキル氏の葬儀に参列した際にこの発言をした。
アキル氏は、9月20日にレバノンの首都ベイルートの南郊にある住宅ビルに対するイスラエル軍の攻撃で、子ども 3人と女性 7人を含む 37人とともに殉教した。
ここまでです。
衝突が一気に激化する間際にある感じですが、現時点では、「衝突」というより、イスラエル側の一方的な攻撃が際立つ形になっています。
南部レバノンからは、以下のように数多くの住民たちが避難している様子が撮影されています。
| URGENTE: Miles de personas intentan ahora huir de Líbano. pic.twitter.com/LDMumHu4sJ
— Alerta News 24 (@AlertaNews24) September 23, 2024
周辺諸国の緊張
このような事態を受けて、周辺国でもさまざまな動きが起きており、イラクの抵抗運動勢力は、
「イスラエルがレバノンに地上侵攻した場合、我々はイスラエルと直接対決する」
ことを表明しました。
以下の記事で翻訳しています。
・イラクの抵抗勢力が、レバノンへの地上侵攻があった場合、イスラエルと直接対決することを決定
BDW 2024年9月24日
イラクの反テロ戦闘員連合であるイスラム抵抗運動を構成する主要グループは、イスラエルがレバノンに地上侵攻した場合には、イスラエル政権に「直接対決」するため、レバノンのヒズボラ抵抗運動に加わることを決定した。
presstv.ir 2024/09/23
さらには、イスラエル自身も、事実上の戒厳令とも理解できる「特別事態」という緊急事態を国内に宣言しています。
報道より
複数のメディアの報道によると、内閣はイスラエル国内の「特別事態」を承認した。
「特別事態」とは、緊急事態の際に使用される法律用語で、当局に民間人に対するより大きな管轄権を与え、住民保護の取り組みを効率化するものだ。
閣僚が延長しない限り、48時間有効となる。
> 当局に民間人に対するより大きな管轄権を与え…
というのは、事実上の戒厳令と考えていいと思われます。
どうやら、イスラエル側は「完全な地域戦争体制」に入ったようです。
しかし、それと同時に、イスラエルは「ある計画」を検討していることが報じられています。それは、
「ガザからの完全なパレスチナ人の追放」
です。
ガザの民族浄化の仕上げ
昨年 10月、イスラエル情報省から流出した書類により、
「ガザ戦争の目的はイスラエルによるガザの民族浄化計画」
だということが判明したことを、こちらの記事で取り上げたことがあります。
当時約 230万人いたガザの住民を「すべて永久に追放する」という計画でした。
それから、ほぼ 1年経過しようとしている現在、イスラエルは、この計画を「完全に」遂行しようとしているようです。
ガザ北部にいるすべてのパレスチナ人を完全に追放することを検討していることが報じられています。
その報道をご紹介します。
イスラエルはガザ北部から30万人のパレスチナ人を封鎖し追放する計画を検討中
Israel considers plan to impose siege, expel 300,000 Palestinians from northern Gaza
The Cradle 2024/09/23
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は議員たちに対し、ガザ地区北部を完全包囲し、パレスチナ人住民全員を追放するという計画を検討していると語ったとタイムズ・オブ・イスラエルが 9月23日に報じた。
退役したイスラエルのジオラ・アイランド少将は先週この計画を発表した際、この計画がガザの現地の「現実を変える」だろうと主張した。
「北ガザの住民に対し、1週間以内にこの地域から避難するよう伝えなければならない。その後、この地域は軍事地域となり、あらゆる人物が標的となり、最も重要なことは、この地域にいかなる物資も流入させないということだ」
計画によれば、残りのハマス戦闘員は降伏するか飢え死にするかを迫られることになる。
アイランド元少将は元国家安全保障会議議長であり、イスラエル国防軍の元計画局長でもある。
イスラエル国営放送局カンは 9月22日、ネタニヤフ首相がクネセト外交防衛委員会との非公開会議で、この計画は「非常に理にかなっている」と述べたと報じた。
アイランド氏は、約 30万人のパレスチナ人が今も暮らすパレスチナ北部の民族浄化と包囲は、効果的な軍事戦術であるだけでなく、国際法にも準拠していると主張した。
「ハマス指導者ヤヒヤ・シンワル氏にとって重要なのは土地と尊厳であり、この策略で土地と尊厳の両方を奪うことになる」と同氏は語った。
アイランド氏は、ガザ地区のハマス軍事部門とパレスチナ民間人に対する戦争におけるイスラエルの現在の戦略を批判し、パレスチナ住民に対する厳しさが十分ではないと述べている。「ガザがこのような状況にある限り、戦争に勝つことはできない」として、は以下のように語った。
「『軍事的圧力だけが勝利をもたらす』というスローガンには何の根拠もない。21世紀の戦争は別のものに基づいている。最も重要なパラメータは人口であり、人口を制御できる者が戦争に勝つのだ」
11月、アイランド氏はガザでの病気の蔓延はイスラエルにとって良いことだと述べた。
「結局のところ、ガザ南部の深刻な伝染病は勝利を近づけ、イスラエル国防軍兵士の死亡者を減らすだろう」と同氏はイスラエル紙に書いた。
同委員会メンバーのリクード議員アミット・ハレヴィ氏は、アイランド計画はガザにおけるイスラエルの政策にとって「正しい方向」を示していると述べた。
「ハマスを倒すには、土地と住民を支配しなければならない。勝利への道は他にない」と彼はタイムズ・オブ・イスラエルに語った。
この計画の支持者の一人は CNN に対し、パレスチナ人がガザ北部に帰還できるかどうかは明らかにされていないと語った。
10月、イスラエル情報省が発行した流出文書は、ガザ地区の住民 230万人をエジプトのシナイ半島に完全移送し、帰還できないようにすることを勧告した。
この文書は、イスラエルが戦争中にガザ地区の住民をシナイ半島に避難させ、追放された住民を収容するためにシナイ半島北部にテント村や新都市を建設し、その後エジプト国内に数キロにわたる閉鎖された安全地帯を設けることを勧告している。追放されたパレスチナ人はイスラエル国境付近のいかなる地域にも戻ることは許されない。
11月、イスラエルのロン・ダーマー大臣は、 ガザ地区の住民を「間引いて」、陸路でエジプトへ、あるいは船でアフリカやヨーロッパの他の地域へ避難させる計画を提案した。
多くのイスラエル人はガザを征服し破壊して、パレスチナ人を民族浄化し、ユダヤ人のための入植地を建設することを望んでいる。
ここまでです。
この記事に出てくるイスラエル側の言葉の節々に「パレスチナ人を人間とは思っていない」感情が素直に出ていますが、これについては、昨年 10月の以下の記事でふれています。
(記事)宗教民族の対立を超えて「人類そのものを破滅に向かわせる」選民思想。そして数十年ぶりにふれたサブヒューマンという言葉
In Deep 2023年10月12日
戦争が始まったときのイスラエルの国防大臣の発言を取り上げたものです。
国防大臣は相手を「人間以下(subhuman / サブヒューマン)」として以下のように呼んでいました。獣同様という意味です。
イスラエル国防大臣ヨブ・ギャラン氏:「私はガザ地区の完全封鎖を宣言する。電気も食料も燃料もなくなり、あらゆるものが途絶えてしまう。しかし、私たちは人間以下と戦争状態にあるわけで、それに応じて行動しているだけだ」
ともかく、この 1年間、結局は「すべてイスラエルの計画通りに進んでいる」ことになり、それどころか、レバノンなどを相手とした本格的な地域戦争へ突入しようとしているようにも見えます。
ガザでの食糧や医療設備の破壊、ポケベル爆発などの無差別攻撃、そしてレバノンへの無差別攻撃は、どれも戦争犯罪そのものにも見えるのですが、「止められる人も組織もいない」のが現状です。
ガザでは「戦争でガザの子どもたちの言語障害が著しく増加している」という物悲しい国連の報告もあります。仮設キャンプによっては、「キャンプの子ども 10人中 6人が言語障害に苦しんでいる」と報告されています。そして、イスラエルは今度はガザからのパレスチナ人の永久追放を計画しています。
レバノンへの大規模攻撃もまだ続けられる公算が高く、それもまた無差別攻撃になりかねない。
イスラエルを止められるのは誰なのか? あるいは何なのか? それとも止められないまま次の段階に世界は進んでいくのでしょうか。
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