収益性が崩壊しているAI業界
昨日、金融というのか市場というのか、あるいは景気というのか、やや懸念の方向性が出てきていることについて以下の記事を書かせていただきました。
・怒濤の狂乱の中でカタストロフに向かう天井が垣間見え
In Deep 2025年10月6日
現在、アメリカでも日本でも、株価などを盛り上げている最大の要因は AI 関連で、仮にこの AI バブルが崩壊したら、何が起きるのかということは、なかなか壮絶な様相を想像させるものがありますが、
「どうも、このバブルは危うい状態」
のようなのです。
マーケットウォッチという金融メディアのグローバルマクロ経済担当であるスティーブン・ゴールドスタイン氏という方が、最近、AI バブルに関連した、いくつかの記事を書いていまして、それを読みますと、結構暗澹とした現実がそこにあることを知ります。
まず、わかりやすい問題として、
「 AI は全然収益を上げていないし、かかった費用を回収できる目処もない」
ことがあります。
スティーブン・ゴールドスタイン氏は、ヘッジファンドの創業者である人の記事を引用して以下のように書いています。抜粋です。
スティーブン・ゴールドスタイン氏の記事より
ヘッジファンドのプレトリアン・キャピタル創業者、ハリス・クッパーマン氏が今夏に行ったざっくりとした計算では、企業はデータセンター支出の現状水準を満たすだけでも 4,800億ドル (約72兆円)の収益が必要であり、来年の支出を満たすには 1兆ドル (約 150兆円)以上の収益が必要であるという。
その見解によって、彼はデータセンターの関係者(設計者、所有者、貸し手)と話をするようになり、自分が重大な間違いを犯したことを確信した。
結局、クッパーマン氏は計算ミスを犯していたことが判明したのだ。それはハイパースケーラー (※ 膨大なコンピューティングリソースとサービスを提供するクラウドプロバイダーの総称)にとって不利なものだった。彼は 10年の減価償却期間を想定していたのだ。
「ここ 1ヶ月間の会話に基づくと、物理的なデータセンターの耐用年数はせいぜい 3年から 10年だ」と彼は新しいブログ記事で述べている。さらに以下のように言う。
「冷却システム、チップとラックの設計、電力システム、そして全体的なレイアウトの変更は、建物自体の減価償却もかなり急速に進んでいる可能性が高いことを意味する。さらに、1~ 2年ごとに登場しているように見える新しい GPU (※ 数学的計算を高速に実行できる電子回路)のイテレーション (※ 短い開発サイクルを繰り返し、段階的に製品やプロジェクトを改良していく手法)が、実質的に以前のモデルを時代遅れにしていることを考慮すると、資本構造全体でもっと速い減価償却曲線を採用すべきだったことに気付くだろう」
クッパーマン氏の計算によると、業界は毎月約 300億ドル (約 4兆5000億円)を支出し、10億ドル (約 1500億円)の収益を得ている。
「このミスマッチは驚くべきもので、2026年には無数のデータセンターが新たに建設されるが、その存在を正当化するためには追加収益が必要となるという事実を無視している」とクッパーマン氏は言う。
いろいろと複雑なことが書かれていますが、つまり、今の AI 業界は、
> 毎月 4兆5000億円を支出し、約 1500億円の収益を得ている。
という状態なのです。まったく収益になっていない。回収できる見込みもほとんどない。
しかも、AI の場合、他のさまざまなものとは違い、
「型遅れのもの(前世代の AI モデルなど)はまったく無用になる」
わけです。
そして、開発の速度は驚くほど速く、次から次へと型遅れの遺物だけが残っていく。
「減価償却」という言葉がありますが、まったく、その言葉を適用できないまま突き進んでいるのが、今の AI 業界の実態のようです。
実は、私自身も「 AI 企業って、どうやって収益を得てるんだ?」とは思ってましたけれど、こういう数字が現実のようです。
今は GDP における AI の割合も大きいです。ゴールドスタイン氏は以下のように述べています。
クッパーマン氏の推計では、AI の実際の成長は今年の GDP の約 1.5%を占め、乗数効果を加えると合計で 2%に達する可能性がある。
富裕効果と合わせると、今年の経済成長のすべてを AI が担っていることは想像に難くない。経済の他の分野が景気後退にあると考えると、AIの貢献度はさらに高まる可能性がある。
AI バブルが崩壊すると、2001年のドットコムバブル(ITバブル)の崩壊や、2008年の金融危機(リーマンショック)などを上回るショックとなる可能性があるようなのです。
そして、この AI バブルは上で示したような「収益性の異常」が改善されない限りは、当然「いつかは弾けるバブル」のはずです。
逆に、
「 AI バブルは必ず弾ける」
と言ってもいいものだとさえ思える「理想と現実に、異常な乖離が見られる」ものなのですね。
マーケットウォッチのスティーブン・ゴールドスタイン氏は、AI バブルに関して他の記事も書いていて、それをご紹介します。わりと難しい言葉が使われている部分が多く、適度に説明を入れています。
AI に依存する今の世界は、結構危うい状況にあることがわかります。
AIバブルはドットコムバブルの17倍、サブプライムバブルの4倍の規模だとアナリストは言う
The AI bubble is 17 times the size of the dot-com frenzy — and four times the subprime bubble, analyst says
marketwatch.com 2025/10/03
調査会社によると、人為的に低く抑えられた金利がAIへの投資を刺激し、AIの規模は限界に達しているという。
現在の市場における唯一の主要な議論は、AI がバブル状態にあるかどうか、あるいは実際には AI が革命的な移行期の初期段階であるかどうかであるように思われる。
さて、明らかに悲観的な見方からの見解をご紹介する。
220の機関投資家にアドバイスを提供する独立系調査会社マクロストラテジー・パートナーシップが、UBS のコモディティ戦略チームをかつて率いていたジュリアン・ガラン氏を含むアナリストらによって執筆したレポートだ。
まず、最も大胆な主張から始めよう。AI は単にバブルであるというだけでなく、その規模はドットコム・バブル (※ 日本ではインターネット・バブル。2001年にバブルは崩壊)の 17 倍、さらには 2008年の世界的な不動産バブル (※ 日本ではリーマンショックと呼ばれる金融危機により不動産バブルが崩壊)の 4倍にも達するバブルだということだ。
この数字を導き出すには、19世紀のスウェーデンの経済学者クヌート・ヴィクセルにまで遡る必要がある。ヴィクセルの洞察は、平均的な企業借り手の負債コストが名目 GDP を 2%ポイント上回ったときに資本が効率的に配分されるというものだった。
FRBによる 10年間の量的緩和によって社債スプレッドが低下した後、ようやくこの数値はプラスになった。
次にアナリストは、ヴィクセル赤字を計算した。これは AI 関連支出だけでなく、住宅やオフィス不動産、NFT、ベンチャーキャピタルも含む。こうして、この不適正配分に関するグラフが生まれた。
多くの変数があるが、人為的に低い金利によって GDP の不適正配分が促進されていると考えてほしい。
しかし、アナリストは、大規模言語モデル(LLM / AIモデル)自体にも批判の矛先を向けた。
例えば、あるソフトウェア企業におけるタスク完了率が 1.5%から 34%の範囲にあり、34%完了したタスクでさえ、その完了レベルに一貫して達することができなかったことを示す研究を強調した。
経済学者トルステン・スロック氏が商務省のデータに基づいて以前に公表した別のグラフは、大企業における AI 導入率が現在低下傾向にあることを示している。アナリストはまた、画像作成で白が勝つひとつ前のチェス盤の画像を作成するように指示するなど、実際のテスト結果もいくつか示したが、白が勝つには程遠かった。
LLM はすでにスケーリングの限界に達しているとアナリストは以下のように主張する。
言語の統計的複雑性を測る指標がないため、LLM がいつ収穫逓減 (※ ある要素を一定のままにして他の要素を追加していくと、追加した要素の増加量に比例して生産量や効果が増加しなくなり、やがてその増加分が小さくなる)の危機に直面するかは正確には分からない。壁にぶつかったかどうかを知るには、LLM 開発者の動向を観察する必要がある。
もし彼らが、以前のモデルよりも 10倍のコスト、おそらく 20倍の計算量を必要とするモデルをリリースし、それが既存のモデルと大差ないのであれば、壁にぶつかったと言えるだろう。
そして、実際にそうなった。ChatGPT-3 は 5,000万ドル、ChatGPT-4 は 5億ドル、そして 50億ドルかかった ChatGPT-5 は開発が遅れ、リリース時には前バージョンと比べて目立った改善も見られなかった。競合他社が追いつくのも容易だ。
報告書はこのように言う。
まとめると、商業価値のあるアプリを作ることはできない。なぜなら、汎用アプリ(ゲームなど)は売れない、あるいはパブリックドメインのアプリ(宿題)をそのまま再利用したアプリ、あるいは著作権の問題を抱えているアプリだからだ。
効果的な広告を出すのは難しく、LLM は世代ごとに学習させるコストが指数関数的に増大し、精度の向上は急速に減少する。モデルには堀がないため、価格決定力はほとんどない。そして、LLM を最も多く利用する人々は、開発者にとって月額サブスクリプションよりも多くのコストがかかるコンピューティングリソースにアクセスするために LLM を利用しているのだ。
アナリストの結論は非常に厳しいものだ。
それは、データセンター効果と資産効果の両方が停滞するにつれ、すでに失速状態にある経済が不況に陥るというだけでなく、2001年のドットコムバブルのときのように、その両方が逆転するということだ。
危険なのは、投資クロックのゾーン4のデフレ崩壊に陥るだけでなく、FRB とトランプ政権が景気刺激策でそこから脱却するのが難しくなることだ。
これは、1990年代初頭の S&L危機 (※ 米国で多くの貯蓄貸付組合が破綻した金融危機)後に見られたような、はるかに長期にわたるリフレ政策の実施を意味する。トランプ政権は雇用創出のために米ドルを切り下げようとしているため、おそらく特別な措置も講じられるだろう。
アナリストたちの投資推奨は、資源と新興国市場(特にインドとベトナム)をオーバーウェイトとし、AI およびプラットフォーム関連企業をアンダーウェイトとすることだ。また、金関連株のロングウェイトも推奨している。
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