ポケベル爆発で搬送される負傷者。dailywrap.uk
イスラエルから仕掛けたエスカレーション
イスラエルとの紛争が続いているレバノンで、「通信用のポケベル数千台が、ほぼ同時に爆発し、3000人近くが負傷した」というニュースは、今朝の日本でも大きく報じられていました。
これが事故ではなく、一種のサイバー攻撃であることは、同時多発からもわかるのですが、攻撃を実行したのがイスラエルであることも、すぐに公式に報道されています。
台湾製のポケベル 5000個に、レバノン到着前にイスラエルの情報機関が「爆発物を埋め込んだ」というヒズボラの見解を、ロイターが報じていました。以下のようにも伝えられています(爆発したポケベルが、この写真と同タイプかどうかは不明)。
この件について説明を受けた当局者によると、今日レバノンで爆発し、数千人のヒズボラメンバーが死亡または重傷を負った数千台の暗号化ポケベルは、台湾に拠点を置くポケベル会社、ゴールドアポロ社によってレバノンに輸入された。
ポケベルはレバノンに到着する前にイスラエルの工作員によって爆発物が仕掛けられ、約 1~ 2オンスの爆発物が遠隔起爆用のトリガーの横に、機器のバッテリーの隣に置かれた。
本日午後3時30分、ポケベルはヒズボラの上級指導部から発信されたと思われるメッセージを受信し、装置内の爆発物が起動した。ポケベルは爆発する前に数回「ビープ音」を鳴らすようにプログラムされていた。
爆発したポケベル
mondoweiss.net
ちなみに、なぜポケベルなのかというと、ヒズボラは、傍受を防ぐために「あえてローテクの通信機器を使用する」ことが多いそうです。
被害状況は、媒体によりまちまちですが、おおむね以下のようになっているようです。
・負傷者 約 3000人
・死亡 9名(子どもを含む)
・重体 約 200人
これが、イスラエルとレバノンの間の本格的な戦争の契機になる可能性を各メディアが伝えています。そうなった場合、大きな地域戦争に発展する可能性もありそうです。
まず、世界各社の報道機関の報道をまとめていた米ゼロヘッジの報道をご紹介します。
時系列で報じていまして、上から情報が新しくなっています。
イスラエルのヒズボラへのポケベル攻撃で9人が死亡、2700人以上が負傷、戦争準備が進む
War Preparations Build After 9 Killed, 2700+ Wounded In Israel's Pager Attack On Hezbollah
ZeroHedge 2024/09/18
民間人がたくさんいる市場でポケベルのひとつが爆発した際の静止画。
更新(1445 米国東部時間) : レバノン保健省の公式統計によると、同時のポケベル爆発で少女を含む 9人が死亡、約 2,750 人が負傷した。レバノン政府は「イスラエルの侵略」が攻撃の背後にあると特定し、ヒズボラもイスラエルに「全責任がある」としている。
イスラエルはまだ公式コメントを出していないが、この地域からは戦争準備が進んでいるという報告が複数ある。夕方、イスラエルがレバノン南部のヒズボラの拠点を砲撃したとの報告がある。
イスラエルのチャンネル14は、「イスラエル軍高官たちは、ほぼ即時に開始される見込みのヒズボラとの第三次戦争に備えている」と報じている。アメリカ国務省は、米国は「この作戦を知らず、攻撃にも関与していない」としている。バイデン政権は「まだ情報収集中」としている。
ウォールストリート・ジャーナルは、レバノンとアラブ諸国が大規模な「テロ攻撃」と非難しているこの高度な攻撃について、初期の詳細をいくつか提供した。
「関係筋によると、影響を受けたポケベルは、このグループが最近受け取った新しい荷物からのものだ」とウォールストリート・ジャーナルは書いている。
「ヒズボラの関係者は、何百人もの戦闘員がそのような機器を持っており、マルウェアが機器の爆発を引き起こしたのではないかと推測していると語った。関係者によると、ポケベルが熱くなるのを感じた人がいて、破裂する前に処分した人たちもいたという」
さらに、「ヒズボラは、午後3時30分にメンバーが所持していたポケベル数台が同時に爆発したと発表した。爆発はヒズボラが勢力を強めている国内の複数の地域で発生したが、原因はすぐには特定できなかった」
タイム・オブ・イスラエルは、モサドが 5か月前に輸入された貨物のポケベルの電池を不正に操作したとして以下のように報じている。
イスラエルの情報機関は、爆発性の高い物質である PETN (ペンスリットという高性能爆薬)を装置のバッテリーに大量に置き、遠くからバッテリーの温度を上げて爆発させたと情報筋は語っている。
戦争計画に関する報道が増える中、欧州の航空会社がレバノンとイスラエルへのフライトをキャンセルし始めたという初期報告がある。レバノンの学校や大学は明日、広範囲に渡って閉鎖すると発表している。アメリカ政府はその間、何もせずに傍観しているようだ。
専門家は以下のように伸べており、戦争は差し迫っているようだ。
イスラエルが南レバノンに侵攻を開始する可能性は高い…タイミングが重要で、ヒズボラは少なくともいくらかの力を回復するのに数週間かかるだろう。もう1つの理由は、50日後に米国選挙があり、ガザ戦争がバイデンに打撃を与え、レバノン戦争がカマラに打撃を与える可能性があることだ。
更新(1050米国東部時間) :目撃者はアルジャジーラにこう語った。
「ここには 400人以上の男たちがいます。彼らが通信に使っているポケベルが爆発しました」
エルサレム・ポストは、レバノンの保健当局の話として、4000人以上のヒズボラ工作員が負傷したと報じている。
ロイター通信は、イランのメフル通信の報道に基づき、レバノン駐在イラン大使モジタバ・アマニ氏が一連のポケベル爆発による負傷者の一人であることを確認した。その後の報道によると、同氏は軽傷だったという。
報道によると、爆発の一部はシリアでも発生した。ベイルートでは子どもを含む民間人の死亡が報告されている。爆発の一部は家の中で発生し、ポケベルは棚やベッドサイドに置いてあった。
アルジャジーラは、「病院に運ばれたこのヒズボラのメンバーは数百人いる。腕や足、顔にまで傷を負ったビデオがネット上に投稿されている」と書いている。
レバノン保健省は、医師や看護師が不足する中、ベイルート南部の病院に急行するよう要請している。ロイターは、死亡が確認された人の中には武装勢力の一員だったヒズボラの国会議員の息子も含まれていると報じている。
最近の報道によると、以下の被害が報じられている。
・保健大臣:ポケベル爆発で 8人が死亡、2,750人が負傷
・保健省:200人が重体
イスラエルメディアが引用したヒズボラの情報源は以下のように伝えているという。
メディアに話す権限がないため匿名を条件に語った当局者は、爆発は「装置を標的とした治安作戦」の結果であると述べた。
「この治安事件の背後には敵(イスラエル)がいる」と当局者は詳細にふれずに述べた。
さらに、ヒズボラのメンバーが持っていた新しいポケベルにはリチウム電池が搭載されており、それが爆発したようだと付け加えた。
これは、より大規模な反ヒズボラ作戦の始まりを告げるものだろうか。
どうやら、そのようだ。
そしてヒズボラ側は間違いなくエスカレートすると予想される。これは、2006年の戦争よりも規模の大きい、新たなレバノン戦争の始まりとなるかもしれない。
多くの人がこう疑問に思うだろう。「なぜポケベルだったのか?」 地域特派員のある人物はこう説明する。
軍事アナリストのイライジャ・マグニエ氏はアルジャジーラに対し、ヒズボラはイスラエルによる構成員の通信傍受を避けるために、いわゆるポケベルに大きく依存していると語った。
また、これらの装置はヒズボラの構成員に配布される前に事前に改ざんされていた可能性もあると示唆した。
「これは新しいシステムではない。過去にも使われてきた」と同氏は語った。「そのため今回の事件では、遠隔操作で爆発を起こすためにアクセスを許可するために第三者が関与していた」と同氏は語った。
ロイターは、治安当局筋の話として、「レバノンの武装組織ヒズボラの戦闘員や医療従事者を含む数百名が 17日、通信に使用していたポケベルが爆発し重傷を負った」と報じている。アルジャジーラは目撃者の話として、病院 1つだけで 400名以上の被害者が出たと伝えている。
イスラエル諜報機関がヒズボラの通信システムに侵入できた正確な方法は、ポケベルに小型爆弾が仕掛けられたのか、あるいは大規模なサイバーハッキングの結果なのか、まだ不明だ。しかし、爆弾が遠隔操作で爆発したことは明らかになっている。
ロイターは匿名で、ヒズボラ関係者の発言を引用し、この事件はイスラエルとのほぼ 1年に及ぶ紛争が始まって以来、ヒズボラが直面した「最大のセキュリティ侵害」だと述べた。
ヒズボラのようなグループは、諜報機関が傍受しやすい携帯電話を通信手段として頻繁にローテク機器を使用している。
「住民は最初の爆発から 30分経っても爆発が続いていたと話していた」と報告書は目撃者の証言を引用してさらに述べている。また、多数の死傷者が出たと思われる事件であることから、人々は緊急に献血を呼びかけている。
ここまでです。
しかし別の話として、この事案で思ったことは、「どんな小さな携帯用ディバイスにも殺傷能力を持つほどの爆発物を仕掛けられるのだなあ」ということでした。
これは、5000台という規模で爆発物を仕込んだものですけれど、現代の「誰でもスマートフォンを携帯している時代」なら、いろいろな軍事的用途が考えられそうです。
地域戦争に発展した場合の影響
昨年、フィンランド・ヘルシンキ大学の経済学准教授であるトゥオマス・マリネン氏という方の文章「イスラエル・パレスチナ戦争の経済的な最悪のシナリオ」をご紹介したことがあります。
(記事)イスラエル・パレスチナ戦争による全世界への「経済と市場のカタストロフ」がもたらす劇的な「終末の時代」に突入した可能性
In Deep 2023年10月15日
しかし、この 1年間、このマリネン准教授が予測していたようなことは、ほぼ起こりませんでした。
マリネン准教授は、イスラエルとハマスの紛争が「地域戦争にエスカレートした場合」として、以下を挙げていました。
1. 紛争は地域戦争にまでエスカレートし、米国も直接関与することになる。
2. OPECは石油禁輸で対抗。
3. イランがホルムズ海峡を封鎖。
4. 原油価格は 1バレルあたり 300ドルに達する。
5. ヨーロッパは LNG 不足により本格的なエネルギー危機に陥る。
6. エネルギー価格の大幅な高騰はインフレを再活性化し、中央銀行もそれに応じて対応する。
7. 金融市場と世界の銀行セクターは崩壊する。
8. 米国は債務危機に見舞われ、連邦準備制度はさらなる金融市場救済策の制定を余儀なくされる。
9. オイルダラー貿易は崩壊する。
10. ハイパーインフレが発生する。
今回もこれまで同様に、このような事態に至るような混乱が避けられるのか、そうではないのかはわからないですが、イスラエル側からのエスカレーションによって、そのリスクは高まっているようです。
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