幻覚剤ベースの抗うつ剤の安全性は?
アメリカのデフィニウム・セラピューティクス社というバイオテクノロジー企業が、
「 LSD ベースの抗うつ剤の臨床試験において好成績をおさめた」
ということで、株価が急騰したことが報じられていました。
株価云々はともかく、「今度は LSD かよ」と思った次第ですが、一体、LSDベースの抗うつ剤はどうなのか?
LSD は名前は知られているかもしれないですが、以下のような強力な幻覚剤です。
埼玉県警のウェブサイトより
LSDは、合成麻薬の一種で、「麻薬及び向精神薬取締法」の規制の対象とされ、形状には、錠剤、カプセル、ゼラチン、水溶液を染み込ませた紙片等があります。
LSDを使用すると、幻視、幻聴、時間の感覚の欠如等、強烈な幻覚作用が現れます。特に幻視作用が強く、ほんのわずかな量だけで、物の形が変型、巨大化して見えたり、色とりどりの光が見えたりする状態が8~12時間程度続きます。
また、乱用を続けると、長期にわたって精神分裂等の精神障害を来すこともあります。
要するに、日本では「違法」とされている薬物ですが、それを抗うつ剤に利用した臨床試験が進んでいると。
抗うつ剤については、現在の医療現場では「 SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる薬剤が処方されるケースが多く、これについては、私は以前から「問題が多い」と考えています。
以下の記事では、「 SSRI の副作用としての暴力性と自殺念慮の増加」について書いています。
・SSRI抗うつ薬のあまりに深刻な副作用と離脱症状を数字から知る。そして、銃乱射等の暴力犯罪が若者の間に増加していることとの相互関係
In Deep 2026年2月12日
上の記事でご紹介したニュージーランドの研究 (1,829人の患者を対象とした調査)では、以下のような結果が報告されています。
・62%が性的な困難を訴える
・60%が感情の麻痺を感じる
・52%が自分らしさを感じなくなった
・47%が焦燥感を経験
・39%が他人への関心が薄れた
また、
・被験者の 10%が自殺願望を抱いた
・SSRI の服用により毎年 7.7%が双極性障害を発症した
などもあり、そして、SSRI は、薬をやめた時に「離脱症状が強く出る」ものです。
SSRI の使用を中止した患者の 56%が離脱症状を経験し、46%が重度の離脱症状を経験し、これらの離脱症状は数週間から数ヶ月続くことが示されている。
ともかく、SSRI は、最近では、その悪い面がかなり強く示されていて、アメリカでは FDA (アメリカ食品医薬品局)が、ブラックボックス警告という最も重大な警告を付文書やラベルに示すことが定められています。
ブラックボックス警告とは以下のようなものです。これは SSRI ではなく、SNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)であるサインバルタという薬剤のブラックボックス警告です。
以下のように書かれています。
警告:自殺念慮および自殺行動
・抗うつ薬を服用している小児、青年、若年成人における自殺念慮および自殺行動のリスク増加
・自殺念慮および自殺行動の悪化および出現を監視する
SSRI や SNRI といったメンタル薬にはこのような「作用」がつきまといやすいのですけれど、LSD ベースの抗うつ剤はどうなのか?
なお、報道は以下のようなものです。
LSDをベースとした抗うつ剤「デフィニウム」が後期臨床試験の目標を達成したことを受け、株価が最大50%急騰
Definium Soars As Much As 50% After LSD-Based Depression Drug Meets Late-Stage Clinical Trial Goal
zerohedge.com 2026/06/23
ロイター通信によると、デフィニウム・セラピューティクス社は、LSDをベースにした抗うつ薬 DT120 が、第2相臨床試験の主要目標を達成し、6週間後にプラセボよりも 8.1ポイント多くうつ病スコアを低下させたと発表した。
患者は 1回の投与後 1週間以内に改善を示し、その効果は 12週間後も持続した。アナリストらは、プラセボ調整後の 4~ 5ポイントの改善は優れた結果だと述べていた。
セロトニン受容体を活性化する幻覚剤である DT120 は、概して忍容性が高く、投与日に軽度の副作用がみられたものの、深刻な安全性上の懸念はなかった。
デフィニウム・セラピューティクス社の株価は月曜日 (6月22日)に一時 54%急騰し、午前中の取引で 37.90ドルに達した。投資家たちは、このバイオテクノロジー企業の研究開発パイプラインの進展と潜在的な戦略的機会に好意的に反応した。
この治験には、米国で約 2100万人の成人が罹患している重度うつ病の成人 149人が参加した。近年の米国の政策は、幻覚剤を用いた精神疾患治療法の開発を加速させるよう促している。
FDAは、深刻な精神疾患に対する幻覚剤を用いた治療法の研究を加速させるための新たな措置を発表し、トランプ大統領は、有望な新治療法へのアクセスを拡大するよう連邦機関に指示する大統領令に署名した。
これらの動きは、うつ病、PTSD、依存症、その他の治療困難な疾患を対象とした治療法の開発期間を短縮する可能性がある。
ここまでです。
4月に、トランプ大統領は、LSD などを含む幻覚剤を用いた治療へのアクセスを迅速化するための大統領令に署名していて、それ以来、この動きが加速しているようです。
しかし、身体に対しての影響はどうなのか?
副作用や依存性は?
今回の DT120 という名前の LSD ベースの薬剤の試験では、安全性について、デフィニウム・セラピューティクス社は以下のように発表しています。
・99%の有害事象が軽度〜中等度で主に投与当日にだけ発生
・重篤な安全性問題なし
・自殺念慮の増加なし
・脱落率も低く、プラセボと同等
LSD そのものの「毒性」については、2018年の論文に以下のように書かれています。
・LSDは、事故による死亡や自殺と関連していることはめったにない。
・LSDは、適度な用量で使用する場合、無毒かつ生理的に安全であることが知られている。
また、 LSD そのものの「依存性」については、2016年の論文では、以下のように説明されていて、つまり身体的依存はほぼないということのようです。
・LSD の身体的依存と離脱症状:
存在しない。耐性は急速に形成されるが、数日以内に消失し、禁断症状(離脱時の身体的不調)は報告されていない。
・心理的依存:
リスクは低い。強迫的な薬物探索行動はほとんど見られず、。多くのレビューで「非依存性」と明記されている。
死亡率や生理的害も極めて低い。
しかし、「安全」だと各文献では記されていても、どうも私たち一般人には「 LSD 」という言葉が強力に響きます。
LSD といえば、かつての映画のことを思い出します。
ザ・トリップ
ロジャー・コーマン監督の『The Trip (邦題:白昼の幻想)』という 1967年の映画がありまして、ピーター・フォンダやデニス・ホッパーさんあたりが出ている映画なんですが、これがまさに「 LSD の映画」なのです。原題の「トリップ」そのものの映画です。
私は、ロジャー・コーマンさんのドキュメンタリー映画『コーマン帝国』という作品の DVD を持っていまして、この『白昼の幻想』の脚本を書いたのが若き日のジャック・ニコルソンだと知りました。
ジャック・ニコルソン氏は以下のように述べていました。
ニコルソン:「LSDがテーマの映画を撮るには実際に LSD を体験しないと始まらないので、俺とロジャー(コーマン)の二人だけが実際に LSD を試したんだよ」
「楽しかったかって? よせよ。あれは強すぎる。娯楽目的で使うようなものじゃない。あんなものでは誰も神には近づけないさ」
それを語るジャック・ニコルソン氏

Corman's World
ちなみに、映画『白昼の幻想』は探してみたら、全編 YouTube にありました(最近は YouTube にもずいぶんと映画がありますね)。
映画のことはともかく、LSDベースの抗うつ剤の「薬剤としての有害性」については、SSRI 等と比較するとわりと良好なようには見えます。
それにしても、幻覚剤の処方…というところに引っかかる部分はないでもないのですが、そもそも、LSD は先ほど書きましたように日本では「違法」ですが、その LSD をベースとした抗うつ剤が発売された場合、日本ではどういう扱いとなるのか?
薬剤としての違法性はどうなのか?
これは大体のところ見当はつくのですが(厚生労働省が承認すれば、何でも流通します)、たとえば、リタリンやコンサータと呼ばれる、主に ADHD (注意欠陥多動性障害)に対して処方される薬剤がありますが、これらは「メチルフェニデート」と言われるもので、東京都保健医療局によれば、
> メチルフェニデートは中枢神経を刺激する向精神薬であり、日本の覚せい剤取締法では「覚醒剤原料」に指定されています。
というものです。つまり、覚醒剤です。
しかし、承認後は普通に処方薬として流通しています。コンサータは、主に子どもの ADHD に処方され、小学生くらいにも処方されます(6歳以上に処方可能)。
リタリンやコンサータについては 10年以上前の In Deep の記事にあります。
おそらく今回の LSD ベースの薬剤も、厚生労働省が販売承認を出せば、流通するのだと思われます。
そして、リタリンやコンサータと同じように以下のような扱いとなると見られます。
・承認されれば合法的な「処方箋医薬品」 になる。
・麻薬・向精神薬取締法の下で「向精神薬」として扱われ、厳格な流通管理が義務付けられる。
・登録された専門医・医療機関・薬局のみで処方・調剤が可能になり、患者登録や流通追跡システムが導入される。
そもそも「うつ病に薬剤は必要なのか?」というところに私の疑問があるところもあり、LSD が SSRI に取って替わられるとしても、すっきりとしない面もありますが、まだ先の話とはいえ、いつかは、この DT120 という抗うつ剤は市場に投入されることになると見られます。
ちなみに、これは蛇足ですが、私たちの「松果体」の中には、幻覚剤と同等の物質が存在していることが 2019年にミシガン大学医学部の医学者の研究により判明しています。DMT (ジメチルトリプタミン)という幻覚物質です。
以下の記事にあります。
・南米先住民族の伝統的な幻覚剤DMTが「私たちの脳の松果体の中に存在している」ことが判明。人間の神秘体験や臨死体験を作り出しているのは、これである可能性
In Deep 2019年12月17日
こういうものを活性化させることで、メンタルの病気に対抗したりすることはできないのかな、とか思うこともあります。
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