火星探査機キュリオシティが、かつて撮影した画像の一枚。The Conversation
なぜ硫黄があると「そこに微生物が存在する」と断定できるのか
火星探査機のキュリオシティが、火星上で「硫黄」を発見したということが報じられています。
私たち一般人にとってみれば、硫黄なんてものは、医薬品や火薬や染料など、さまざまな分野で使用されているものという認識くらいしかないのですが、硫黄には、「もうひとつの特性」があります。
それは、そこが火山活動地域でない場合、
「硫黄は、微生物が存在する場所にのみ発生する」
という特性です。
今回ご紹介する記事にも、
> 純粋な硫黄は、硫化水素の酸化により火山地帯で自然に見つかる。しかし、キュリオシティが探査してきたこの特定の地域には、過去の火山活動の兆候は見られない。
>
> 純粋な硫黄は、微生物の活動による還元硫黄化合物の酸化によっても形成される。 gizmodo.com
とあり、そこに火山活動の兆候がない限りは、「微生物が存在する場所でしか硫黄は形成されない」ようなのです。
リンクされていた 2014年の論文には以下のようにあります。
論文「原核生物の細胞内構造」より
硫黄は、還元硫黄化合物(硫化物、ポリ硫化物、チオ硫酸塩、ポリチオン酸塩、および元素硫黄)を化学栄養性または光栄養性の硫黄酸化細菌が酸化する過程で、一時的または最終生成物として水に不溶性の球状物として蓄積することがある。
これらの生物(微生物)の一部は硫黄を細胞外に沈着させるが、他の生物は細胞壁の範囲内で硫黄球状物を形成する。つまり、硫黄は厳密な意味で細菌封入体として存在する。
よくわからない部分もありますが、「微生物の一部は硫黄を細胞外に沈着させる」ようです。これは、この世の生物で、微生物だけの働きのようです。
以下は火星探査機が撮影した写真を少し明るくしたもので、黄色いのが硫黄です。
あと、微生物と共に「植物も関係している」ようです。以下は日本語の記事です。難しい記号は略しています。
「なぜ硫黄なのか?」より
微生物や植物は硫黄同化代謝により、無機性硫黄化合物(硫化水素イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオンなど)から有機性硫黄化合物(メチオニン、システインなど)を合成できます。
一方、ヒトを含む動物はこの硫黄同化代謝を持たず有機性硫黄化合物を合成することができません。
したがって、私たちは食事を通して摂取しなければならず、ヒトは完全に微生物と植物に依存していることになります。硫黄が全生物で必須な化合物である所以です。
人間を含む生物のタンパク質の構成要素や、必須の元素のひとつを硫黄から作り出しているのが微生物であり、そして植物であるようです。
このページには、以下のような「循環の仕組」が説明されていました。
結局、人間の生存は微生物と植物に完全に依存している
「いやはや、人間とのこんな関係性が、微生物、あるいは植物との間にあったのか」と驚きますが、このことは、今回調べていて初めて知りました。
微生物や植物が私たち人間を生かせてくれていることについては、過去によく書かせていただいたことがありましたが、人間の身体に必須の元素まで微生物と植物によって与えられていることを知りました。
環境中の微生物に関しては、コロナ時代に始まった「異常な消毒社会」について、2020年からかなり書き続けていました。つまり、社会の環境中のバイキンを含む微生物と人間の正常な関係が、過剰な消毒によって壊れてしまう可能性についてです。それは何より人体に有害に働くはずです。
あの期間に行われた過剰な消毒と、そして今でも、やや残っているこの風習は、大きな観点から見て絶対に「いいことはひとつもない」と確信しています。
最近の記事は以下などでしょうか。
(記事)過剰な消毒社会も4年目になり、子どもたちの未来はますます厳しく
In Deep 2024年7月9日
植物と人間の関係に関しては、かなり古い記事の上、やや曖昧な内容のものですが、以下の記事で、それを書きました。
(記事)植物が「緑色」であり続ける理由がわかった! そして人間の生活システムの完成は「植物との完全な共生」にあるのかもしれないことも
In Deep 2015年07月06日
植物に関しては、前回の記事「二酸化炭素の増加と共に、現在の地球は著しい速度で緑化している」で取り上げましたように、植物は増えているようですが、今後も続くのですかね。
ともかく、火星の火山のないエリアで硫黄が発見されたということは、それが過去の微生物の形跡であったとしても、微生物がそこに存在している、あるいは、していたことを示しているようです。
火星での硫黄の発見についての報道です。
この火星については、過去にいくつか記事にさせていただいたこともありますので、報道をご紹介した後に、少し補足させていただきます。
まずは報道です。
NASAの火星探査車キュリオシティが火星で大量の黄色の結晶を発見
Curiosity Rover discovers trove of yellow crystals on Mars
gizmodo.com 2024/07/19
純粋な硫黄が火星で発見されたのは今回が初めてだ。
NASA の火星探査車キュリオシティは、ほぼ 10年にわたり、古代のクレーターの上にそびえる火星の高い山、シャープ山の麓を登り、その各層の謎を解明してきた。
最新の発見で、火星探査機は、火星の水の過去に貴重な手がかりを握っている可能性のある化学元素である純粋な硫黄でできた岩場に出くわした。
キュリオシティ探査車は最近、岩の上を走行しているとき、誤ってそれを割ってしまった。すると、中には光沢のある黄色い結晶があり、科学者たちは後にそれが元素硫黄であると判定したと NASA は述べた。
硫黄ベースの鉱物(硫黄と他の物質の混合物)は以前にも火星で見つかっているが、純粋な硫黄でできた岩の発見はこれが初めてだ。
火星には大量の純粋な硫黄でできた岩がある可能性があるが、科学者たちはそれらがどのように形成されたのか確信が持てていない。
NASA ジェット推進研究所のキュリオシティプロジェクト科学者アシュウィン・ヴァサバダ氏は声明で以下のように述べた。
「純粋な硫黄でできた石の塊を見つけるのは、砂漠でオアシスを見つけるように難しいことです。そこ(火星のその場所)に硫黄があるはずがないですので、これを何とか説明できなければなりません」
純粋な硫黄は無味無臭で、硫化水素の酸化により火山地帯で自然に見つかる。しかし、キュリオシティが探査してきたこの特定の地域には、過去の火山活動の兆候は見られない。
純粋な硫黄は、微生物の活動による還元硫黄化合物の酸化によっても形成される。その場合、火星での硫黄の発見は、火星での古代の微生物生命の探索に役立つ可能性がある。
キュリオシティは、約 3.2キロメートルの岩と堆積物の跡を残した古代の川によって削り出された可能性がある曲がりくねった水路、ゲディズ渓谷を探索している。
この地域を探索することで、キュリオシティは火星の古代地形の中で、火星で微生物の生命が形成されるために必要な栄養素を提供した可能性のある場所の手がかりを集めている。
しかし、キュリオシティは、これらの硫黄岩のサンプルを採取することはできなかった。小さすぎてもろかったためだ。
しかし、チームが「マンモス・レイクス」と名付けた大きな岩を近くで発見した。キュリオシティは、2メートルのロボット アームの先端に取り付けられたドリルを使用して岩に穴を開け、探査車の腹部に搭載された機器で分析できるサンプルを採取した。
「予期せぬものを発見したことが、この惑星探査をとてもエキサイティングなものにしています」とヴァサバダ氏は語った。
ここまでです。
ちなみに、火星には現在でも「微生物なら」生息できる可能性はあると見られまして、2019年には「磁場と地下の水の存在」についての研究が発表されていました。「火星は一般的に想定されている場所とは違う「生きた星」の模様」という記事でご紹介しています。
ただ、火星の大気は、95%が二酸化炭素であり、極限環境で生きられるような微生物以外が生息するのは不可能でしょうけれど。
火星の大気の組成
・二酸化炭素 95.32%
・窒素 2.7%
・アルゴン 1.6%
・酸素 0.13%
・一酸化炭素 0.07%
・水 0.03%
・一酸化窒素 0.013%
酸素は 0.13%ですし、適応できる微生物は多くはないでしょうけれど、それにしても、硫黄が存在しているということは、今はともかく、かつては微生物がいたという証明にはなりそうです。
かつて微生物がいたならば、ものすごく遠い昔のことではあっても、もう少し幅広い生態系が過去の火星に広がっていた時期もありそうです。
微生物はすべての生物の生存のための根幹なのですから。
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