昆虫がいない世界
サイエンス誌に「アメリカ本土の蝶の数が劇的に減少している」ことを調査した研究の論文が掲載されていました。以下の論文です。
21世紀にアメリカ全土で蝶の数が急激に減少
Rapid butterfly declines across the United States during the 21st century
いろいろなメディアで報じられていますが、どの記事でも、その原因として、
・農薬
・殺虫剤
・気候変動
などを挙げています。
今回ご紹介する報道もそのような感じですが、気候変動というのはともかくとして、「農薬」と「殺虫剤」については、何となく納得される場合も多いかと思います。
しかし、「ミツバチの減少」の事例、あるいは「昆虫そのものの著しい減少」のことを思い出しますと、原因はそれほど単純なものではないとも思うのです、
世界の昆虫の劇的な減少については、以下の記事で取り上げたことがあります。
・この世の昆虫の数は回復不能なレベルで減少していた : 羽を持つすべて昆虫類の生息量が過去27年間で75パーセント以上減っていたことが判明
In Deep 2017年10月20日
このことは体感的にも感じ続けていまして、2017年の「ふと気づくと「虫がいない世界」に生きている」などでも書いたことがあります。
東京のほうに昆虫がいないのは理解できるとして、この記事を書いた当時、実家のある北海道に帰省した際に、子どもに「虫取りをさせてあげよう」と、自然がたくさんある野原に行ったのですが、
「まったく虫がいない」
ことに気づいたのでした。夏の北海道の大草原での話です。
場所としては、まさに大自然といえるようなところですが、何にもいないのです。
私の子どもの頃には、いくらでもそのあたりを無数に飛び回っていたトノサマバッタもまったくいません。以前なら、夏の間は、うるさくて仕方なかったキリギリスやアブラゼミの鳴き声もまったく聞こえません。
まるで「死の空間」のように、動くものもいなければ、音を発する生き物も見られないのでした。
「北海道の田舎でこれでは、都市部にいないのも当然だよなあ」と思いましたけれど、しかし、自然が昔同様に残っている場所に虫がいないということは不思議な感じでもありました。
ミツバチの事例を振り返る
今回は蝶の話ですが、特定の種の減少としては、ミツバチの大量死や大幅な個体数の減少について、以前よく報じられていました。
これは世界中どこでも起きていたことで、韓国、ブラジル、ロシアなどでは、この数年のうちに「年間で億単位」などの膨大な数のミツバチの大量死が起きています。
その中で、韓国では、2024年5月に「ネオニコチノイド系農薬を禁止する法律」が制定されました(記事)。
その翌年の今年、韓国のミツバチの大量死がおさまったかどうかは今はまだわからないですが、推定としては、
「大量死はおさまっていないはず」
と見られます。
なぜなら、前例があるからです。
やはりミツバチの大量死に苛まれていたフランスは 2018年にネオニコチノイド系農薬5種の使用を完全に禁じました。
ネオニコチノイド系農薬を禁じたフランスはその後どうなったか?
結果としては、
「さらにひどいミツバチの大量死にされされた」
のでした。
ネオニコチノイド系農薬を許可している国々よりも、ひどい状況となってしまった始末でした。これについては、以下の記事にあります。
・いったい何が世界中のミツバチを殺している? ロシア、アメリカ、ヨーロッパ … 全世界でミツバチの黙示録的な大量死と大量消失の拡大が止まらない
In Deep 2019年7月29日
実際、ネオニコチノイド系農薬の販売が始まった年(1995年)までにもすでに蝶も他の昆虫類も大幅に減少していました。
以下は、米国イェール大学の 2016年の研究にあるグラフです。
1970年からの蝶と昆虫の存在量の推移
yale.edu
もちろん、当然のことながら、農薬や殺虫剤が悪くないと言っているのではないです。使わないほうが、昆虫にとって良い環境であることは、あまりにも明白ですが、「それだけを要因とするには無理がある」と、当時思ったのです。
原因が「地球の磁場の弱体化」だと確信する理由
オランダのラドバウド大学の生物学者たちによって 2017年に書かれた、ドイツの昆虫量の推移に関する論文には以下のようにありました。
オランダの研究より
研究チームは、これらの地域で、羽を持つ昆虫のバイオマスがわずか 27年間で 76%(夏期は 82%)にまで減少したことを発見した。
この調査では、特定の種類だけではなく、羽を持つ昆虫の全体的なバイオマスが大きな減少を起こしていることがわかり、事態の深刻さを示している。
研究者たちは、この劇的な減少は、生息地に関係なく明らかであるとしており、天候や、土地の利用状況、および生息地の特性の変化などの要因では、全体的な減少を説明することはできないことも判明した。
この減少は、大規模な要因が関与しなければ説明がつかないことを研究者たちは示唆しており、今後の研究では、昆虫のバイオマスに潜在的に影響を与える可能性のある全範囲をさらに調査すべきだとしている。
「生息地に関係なく」昆虫の減少が起きていることが示されたわけで、農薬も殺虫剤も使用されていない地域でも、同じように減少していたのです。
研究者たちは、
> 大規模な要因が関与しなければ説明がつかない
としていますが、では、「大規模な要因」と考えられるものはあるのかというと、私は「ある」と考えています。
それは「地球の磁場の弱体化」です。
以下の記事は、もう 10年前の記事となるのですが、非常に興味深いものにふれた記事ですので、お読みいただければ幸いです。
・おそらく人間を含めた「全生物」は磁場により生きている:ハトや蝶が持つ光受容体がヒトにも存在していること。そして、そのハトや蝶が「全滅」に向かっていること
In Deep 2015年11月23日
この研究の時点で、オオカバマダラという蝶は、21年間で 80%減少していて、ハトは、35年間で 90%減少していました。
上の記事の内容は、ネイチャー誌に掲載された研究で、昆虫の眼の中(網膜)にある「クリプトクロムというタンパク質の特性」を突き止めたものですが、このタンパク質は、
「正確に磁気に反応する」
ことがわかったのです。
そして、この眼の中のタンパク質は、蝶(というか、すべての昆虫類)にも鳥にもあることがわかりました。
コンパスのように正確に磁気に対して整列する網膜にあるタンパク質の複合体
nature
すなわち、蝶やハトは、風景を見て移動しているのではなく、
「磁場を見て移動している」
ことがわかったのです。
彼らの移動や行動は、完全に磁場に導かれていたわけです。
もっといえば、
「これらの生き物は磁場がなければ生きられない」
といえるのです。
そして、地球の磁場は一貫して「弱体化」し続けています。
1880年から2000年までの地球の地磁気の強度の変化
indeep.jp
その中で、ミツバチが減り、蝶が減り、あるいはすべての昆虫が劇的に減っています。
鳥もまた、劇的に減っています。2019年のアメリカでの調査では、「過去50年間で北アメリカで30億羽の鳥が消えていた」ことがわかり、ヨーロッパでも「全体の3分の1の鳥が消滅の危機に」と報じられていたことがあります。
ここまで私が書いているのは、私個人の考え方でしかなく、共通の認識があるわけではないですが、
「地球の磁場の弱体化が、地球上の生物を死滅に追いやっている」
と、先ほどの 10年前の記事を書いたときから確信しています。
そして、このクリプトクロムという磁気に反応するタンパク質は、「人間も持っている」のです。
人間もまた、適切な地磁気環境の中でなければ生きられない生物です。
以前、欧州宇宙機関とロシア医学生物学研究所などが協力して開始された「火星有人飛行の研究」のトップ研究者だったロシア人科学者による、
「人間は地球の磁気圏の外では生存できないことがわかった」
という研究が発表されたことがありました。こちらの記事で、そのロシア人科学者のインタビューを翻訳しています。
地球の磁気圏から遠く離れると(宇宙ステーションなどがあるような低い場所ではなく、もっと遠い宇宙圏)、内臓の温度が上昇し、脳に強い影響が加わり、長時間生きていることはできないようです。
そのため、「人間が火星に行くこと(生きて帰ってくること)は不可能」と断定されました。もっと言えば、この博士は「月にも誰も行っていないはずだ」として以下のように述べていました。
「結局、地球の磁場圏を超えて、月に飛んだ人類は一人もいません」
「地球の大気と磁気圏の外側では、生きている細胞は死滅します」
これらの話は今回のことと関係ない話でしたが、仮に将来的に、地球の磁場や磁気圏の状態に非常に大きな「変化」が現れた場合、他の動物同様、人間も生きることはできなくなるのです。
磁場の非常に大きな変化が起きるような事象はあまり考えられないですが、「地球の磁極の急速な反転」などがあれば、ないでもないことかもしれません。
いずれにしても、蝶の減少にしても、他のあらゆる動物たちの減少にしても、それは地球の磁気圏の変化を示している可能性もあり、そして、地球の磁場が弱まり続けていることから、長いスパンではあるだろうにしても、私たち人間も含めて、大きな環境の変化の渦中にあるとはいえそうです。
他の生物たちの減少や絶滅の中に、私たち人間の将来の状況が多少は示されているかもしれません。
ずいぶんと話が逸れたりしてしまいましたが、蝶の減少に関しての CTV ニュースの報道です。
初の全国分析で、アメリカの蝶が「壊滅的な」速度で消滅していることが判明
First national analysis finds America's butterflies are disappearing at 'catastrophic' rate
CTV NEWS 2025/03/07
アメリカの蝶は殺虫剤、気候変動、生息地の消失により姿を消しつつある。2000年以降、美しい蝶の数は 22%減少していることが新たな研究で分かった。
蝶の個体数を全国規模で初めて体系的に分析した結果、アメリカ本土 48州の蝶の数は今世紀に入ってから平均して年間 1.3%減少しており、114種で大幅な減少が見られ、増加したのはわずか 9種であることが科学誌サイエンスに掲載された研究で分かった。
「蝶の数は過去 20年間減少し続けています」とミシガン州立大学の昆虫学者で研究共著者のニック・ハッダッド氏は言う。「そして、それが終わる兆しは見られないのです」
科学者チームは、35のモニタリングプログラムから得た 76,957件の調査結果を統合し、それらを同一条件で比較した結果、数十年間で 1,260万匹の蝶を数えた。
先月、連邦政府当局が絶滅危惧種リストに載せる予定のオオカバマダラだけを対象とした年次調査では、1997年の 120万匹から 1万匹未満に減少し、ほぼ過去最低を記録した。
減少している種の多くは 40%以上減少していた。
時間の経過とともに「壊滅的で悲しい」損失
コネチカット大学の昆虫学者デビッド・ワグナー氏は、年間の減少率は大したことではないように思えるかもしれないが、時間が経つにつれてそれが積み重なれば「壊滅的で悲しい」ことだと述べた。
「わずか 30~ 40年で、北米大陸全体の蝶(およびその他の昆虫)の半分が失われることになるのです」とワグナー氏は電子メールで述べた。「生命の木は前例のない速さで枯れつつあります」
米国には 650種の蝶がいるが、96種は数が少ないためデータに現れず、さらに 212種は傾向を計算するのに十分な数が見つからなかったと、ワシントン州魚類野生生物局の生態学者でデータ科学者でもある研究主執筆者のコリン・エドワーズ氏は述べた。
「非常に珍しいため分析にさえ含められなかった種のことを最も心配しています」とウィスコンシン大学マディソン校の昆虫学者カレン・オーバーハウザー氏は言う。
希少な蝶を専門とするハッダッド氏は、近年、ノースカロライナ州フォートブラッグの爆撃演習場にのみ生息する絶滅危惧種のセントフランシスサテュロス蝶をわずか 2匹しか見たことがないため、「絶滅している可能性があります」と語った。
よく知られている蝶の中には、個体数が大きく減少した種もいくつかある。
非常に穏やかで人の上に止まるアゲハチョウは 44%減少し、後ろの羽に 2つの大きな眼状紋があるアメリカナミチョウは 58%減少したとエドワーズ氏は語った。
ハダッド氏によれば、「世界の多くの環境に適応した種」である外来種のモンシロチョウでさえ 50%減少した。
蝶の減少は人類への警告サイン
コーネル大学の蝶の専門家アヌラグ・アグラワル氏は、最も心配しているのは別の種、つまり人類の将来だと語った。
「蝶、オウム、イルカの減少は、私たちにとって、私たちが必要とする生態系、私たちが楽しむ自然にとって、間違いなく悪い兆候です」と、アグラワル氏は電子メールで述べた。
「それらは、私たちの大陸の健康状態があまり良くないことを物語っています...蝶は自然の美しさ、脆さ、種の相互依存性の大使です。彼らは私たちに何かを教えてくれます」
ワグナー氏は、米国の蝶に起きていることは、おそらく大陸や世界中のあまり研究されていない他の昆虫にも起きているだろうと述べた。
同氏は、これは蝶に関する研究としては最も包括的なものであるだけでなく、昆虫に関する研究としては最もデータが豊富なものだと述べた。
ハダッド氏によると、蝶もミツバチほどではないものの、花粉を媒介する存在であり、テキサスの綿花の受粉の主要な源となっているという。
蝶の減少が最も大きかったのは南西部(アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州、オクラホマ州)で、20年間で蝶の数は半分以上減少した。
「乾燥した暖かい地域に生息する蝶は特に不調のようです」とエドワーズ氏は言う。「南西部の多くの地域にそれが当てはまります」
エドワーズ氏は、より暑い南部とより涼しい北部の両方に生息する蝶の種を調べたところ、より涼しい地域に生息する蝶のほうがよりよく生息していたと述べた。
エドワーズ氏とハッダッド氏は、気候変動、生息地の喪失、殺虫剤が相まって蝶の個体数を減少させる傾向があると述べた。
米国中西部での過去の研究に基づくと、この 3つのうち、殺虫剤が最大の原因であるようだとハッダッド氏は述べた。
「我々の研究が始まって以来、殺虫剤の使用は劇的に変化しているので、これは当然です」とハッダッド氏は語った。
生息地は回復可能であり、蝶も回復できるため、希望はあるとハダッド氏は語った。「あなたの家の裏庭や近所、州で変化を起こすことは可能です」とハダッド氏は言う。「そうすれば、多くの種の状況が本当に改善されるかもしれません」
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