メンタル疾患の著しい増加の理由
ロシアの RT 紙が、最近ランセット誌に発表された論文について、「精神疾患は過去30年間でほぼ倍増し、世界全体で7人に1人が罹患している」というタイトルの長い記事を掲載していました。
全世界で 7人に 1人が精神疾患だというのは、ただごとではない率ですが、RT 紙は、実際に精神疾患が増加している現実と共に、「過剰診断」と、「無駄な薬剤の投与」についても警告しています。
過剰診断というのは、たとえば、昔なら小学校などの授業中に落ち着いてじっとしていられないような子どもがいた場合でも、「精神疾患」とは見なされなかったわけですが、今は ADHD(注意欠陥・多動症)などと診断され、薬剤を投与される(主にコンサータなどの中枢神経刺激薬)ことも多いです。
あるいは、人間は生きている限り、「誰でもつらい時はある」のが現実で、病気ではなくとも死ぬほど落ち込む時など誰にでも何度かはあります。そういう、ひどく落ち込んだり焦燥している時に、何となく神経内科などに行って、うつ病とか適応障害とか、さまざまな名称の病名をつけられることも今は多いような気がします。そして、やはり薬剤を投与される(おおむね、ベンゾジアゼピンや SSRI )。それにより良くなることもあるでしょうが、悪化することも多い。病気ではなかったのに、だんだん「本当の病人」のようになっていく。
また、メンタル薬は製薬会社のドル箱でもあり、RT 紙の記事では「 SSRI の売り上げを上げるため」に以下のようなことが行われていたことも報じています。
> 製薬会社は、自社製品(この場合はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬))の効果を証明するための研究に資金を提供し、医師にはこれらの薬剤を処方するよう促した。
とか、
> グラクソ・スミスクライン、フォレスト・ラボラトリーズ、武田薬品工業など複数の企業が、抗うつ剤の処方を増やす見返りに医師にリベートを提供したとして訴えられている。
とか、いろいろなことをしていたわけですが、このようなダーティな企業努力の成果により、今では SSRI (あるいは SNRI / セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などは、メンタル薬の花形となっています。私は企業努力を非難するつもりはないですが、その対象が「生身の人間である」ということには、あまり良い感情を持ちません。
なお、SSRI については、これまで何度も書かせていただいていますが、一番の問題としては、「副作用としての自死念慮」と、「副作用としての他者への暴力衝動」があります。以下の記事にあります。
・SSRI抗うつ薬のあまりに深刻な副作用と離脱症状を数字から知る。そして、銃乱射等の暴力犯罪が若者の間に増加していることとの相互関係
In Deep 2026年2月12日
そういう問題は確かにあるとはいえ、実際に精神疾患が増加していることも事実のようです。
なぜ、精神疾患は「2021年」から突然増加したのか?
RT 紙の記事にあるグラフを見ますと、実数として多いのは、うつ病と不安障害ですが、他に、いわゆる「知的障害」も増えています。
この知的障害については、以前、フィンランドの事例を取りあげたことがありますが、
「 1歳未満の知的障害が、2021年から 1100%増加した」
ことが報告されています。
フィンランドの知的障害の推定診断数(2018-2025年)

nofia.net
この「2021年」という年に何があったかということについては、話がややこしくなるので、ここではふれません。
あと、スイスの調査で、
「 2021年から、十代の少女の精神疾患が前年比で 52%増加した」
という報道も以下で取りあげたことがあります。
・スイスの歴史で前例がない「うつ病と精神疾患の増加」の報道から思い出す、スパイクタンパク質とヒトヘルペスウイルスの再活性化の関係、そして MAO との関係
In Deep 2022年12月13日
自然感染でもワクチンでも、ここでは、どちらでも同じだとしておいて(本当は違いますが)、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は、「脳のバリアである血液脳関門を突破して脳に入る」のですね(こちらの In Deep 記事にそのことが確認されたドイツの研究をご紹介しています)。
そのため、人によって、脳に微細なダメージが与えられる可能性が高く、それも関係している可能性はあり得ます。この観点からも、2021年に、精神疾患の増加は予測されていました。
あと、「スパイクタンパク質は ヒトヘルペスウイルス-6 というものを再活性化させる」ことがわかっていて、このヒトヘルペスウイルス-6 (HHV-6)というのは、様々な疾患と関係していますが、
「多くの精神疾患とも関係している」
のです。詳しく書くと長くなってしまいますが、それについては、2021年の以下の記事にあります。
・数年後の社会 : 双極性障害、大うつ病性障害、統合失調症、アルツハイマー病… HHV-6の再活性化が及ぼす広い影響に戸惑うばかり
In Deep 2021年9月16日
このタイトルにある「数年後の社会」というのが、今回ご紹介するランセット誌に発表された「現在の社会」の姿だと実感します。
以下は RT 紙に掲載されたグラフに「 2021年」のラインを引いたものです。2021年が増加の起点になっていることがおわかりかと思います。
英国のメンタルヘルス関連疾患の診断数の推移

RT
2020年から 2021年の減少は、この年、病院があまり機能していなかったこともあるでしょうが、「 2020年のロックダウンよりも大きな要因が 2021年にあった」とも考えられます。
RT 紙の記事は結構長いですので、そろそろ入りたいと思います。
なお、RT 紙は、論文のリンクを示していないですので、こちらで探したものをリンクしておきます。 RT 紙が取りあげたランセットの論文は以下です。昨日 (5月23日)発表された論文です。間違っていないと思いますが、違っていたら申し訳ないです。
1990年から2023年までの世界の精神疾患の有病率と負担に関する最新の動向:世界疾病負担研究2023のための体系的分析
Updated trends in the global prevalence and burden of mental disorders, 1990–2023: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2023
THE LANCET 2026/05/23
ここから記事です。
医学誌「ランセット」が最も蔓延している病気を挙げている。これは私たちも心配すべきことなのか?
The Lancet names the most widespread illness: Should you be worried?
RT 2026/05/22
精神疾患は過去30年間でほぼ倍増し、世界中で7人に1人が罹患している。
医学誌「ランセット」に掲載された新たな研究によると、最も蔓延し、脅威となっている病気は、エボラ出血熱やハンタウイルス感染症ではなく、精神疾患だという。10億人以上が影響を受けているという現状を鑑みて、私たちも心配すべきだろうか?
木曜日 (5月22日)に発表されたこの研究によると、2023年には世界中で約 12億人が精神疾患を抱えており、これは 1990年以降 95%の増加であることが明らかになった。
調査対象となった 12の疾患のうち、不安障害と大うつ病性障害の増加率が最も高く、それぞれ 158%と 131%増加した。これら 2つの疾患は現在、世界で最も蔓延している精神疾患となっている。
どのような精神疾患が研究対象となったのか?
研究著者らは、最も一般的な12種類の精神疾患の罹患率を記録し、その結果は以下の通りであることが判明した。
・不安障害
・大うつ病性障害
・気分変調症(慢性ではあるが軽度のうつ病)
・双極性障害
・統合失調症
・自閉症スペクトラム障害
・行為障害
・注意欠陥多動性障害(ADHD)
・神経性食欲不振症
・神経性過食症
・特発性発達性知的障害(IDID、または原因不明の知的障害)
・その他の精神障害の残存カテゴリー
誰が危険にさらされているのか?
ADHD と IDID はそれぞれ 1.8%と 16.4%減少したが、それ以外の障害はすべて有病率が増加している。
ただし、増加は均等に分布しているわけではない。12の疾患のほとんどは女性に多く見られ、うつ病、不安障害、双極性障害、拒食症、過食症はいずれも女性に多く発症する。一方、ADHD、自閉症、そして攻撃性や不服従として現れる行為障害は、いずれも男性に多く見られる。
今回の調査によると、精神疾患は 15歳から 19歳の人々に最も多く見られ、この年齢層が精神衛生上の負担を最も大きく負っていることが明らかになったのは今回が初めてである。
204の国と地域で調査が行われ、世界中で増加傾向が見られるものの、欧米諸国が最も影響を受けていることが明らかになった。
研究者らは、精神疾患の「生年数」を測定したところ、例えばオランダでは 10万人あたり 3,555人、ベトナムでは 1,302人という精神疾患罹患率が判明した。
中発展国全体の精神疾患罹患率は平均で 10万人あたり約 1,853人であったのに対し、高度発展国では 10万人あたり約 2,184人であった。
なぜ精神疾患を抱える人が増えているのか?
「ここには多くの要因が絡み合っており、それらをすべて切り分けるのは難しい」と、主任研究者のダミアン・サントマウロ博士は CNN に語った。しかし、サントマウロ博士の同僚であるロバート・トレストマン博士は、重要な要因の一つとして、「精神疾患に対する偏見が大幅に軽減され、人々は黙って苦しむよりも、はるかに気軽に相談できるようになった」と指摘した。
トレストマン氏は増加の原因を偏見の緩和にあるとしているが、精神疾患の過剰診断を指摘する人もいる。
過剰診断
2013年から 2025年の間に、イングランドの国民保健サービス(NHS)が扱う精神疾患の症例数は、2013年の 400万件弱から 2025年には 900万件へと倍増した。
自閉症と ADHD の罹患率が増加の主要因となっていることから、ウェス・ストリーティング保健相はこれらの疾患の「過剰診断」があると主張し、昨年12月に政府による調査を命じた。
イングランド国民保健サービス(NHS):メンタルヘルス
2013年~2025年:3,856,953件 → 9,148,265件(年間6.5%増)

当時、BBC は 750人の英国人医師にストリーティング氏の発言に賛成するかどうかを尋ねた。442人が賛成と答え、精神疾患が過小診断されていると答えたのはわずか 81人だった。
「社会全体として、人生は辛いものだということを忘れてしまっているようだ。失恋や悲しみは苦痛であり、ごく自然なことであり、私たちはそれに対処する方法を学ばなければならない」と、ある医師は BBC に語った。
2022年の研究で、オーストラリアの研究者たちは「概念の拡大」が過剰診断の主な要因であると指摘した。彼らは、医師や精神科医が一部の障害の定義を広げることで、かつては正常だった行動を病理化してしまったと主張した。例えば、学校でじっと座っていることを拒否する男の子は、1990年当時よりも現在の方が ADHD と診断される可能性が高くなっている。
大手製薬会社が利益を上げている
BBC の取材に応じた医師の一人は、「抗うつ剤に頼ってしまうことがよくあるが、それは一時的な効果しかなく、再発を防ぐのに役立たないことは分かっている」と語った。
製薬専門誌によると、2022年時点でイングランドの人口の約 14.7%が抗うつ剤を処方されており、5歳から 12歳の子どもの抗うつ剤服用者数は 2015年から 2021年の間に 41%増加した。
EUでは 2000年から 2020年の間に抗うつ剤の使用が 147%急増し、米国では同時期に 65%増加した。
これらの数字はすべて、製薬業界にとって莫大な利益につながる。
フォーチュン誌によると、世界の抗うつ剤市場は 2027年には 183億ドル (約 2兆2000億円)に成長すると予測されている。フォーチュン誌は、大手製薬会社が診断を通じてこれらの数字を押し上げようとしており、「営利団体や政府が一般の人々の間で様々な精神疾患に対する意識を高めるために活動している」ことが「市場の成長可能性を後押ししている」と指摘している。
1980年代に入ると、製薬会社はアメリカ精神医学会に対し、うつ病を一時的な現象から投薬を必要とする長期的な「疾患」へと再分類するよう働きかけた。
そして製薬会社は、自社製品(この場合はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬))の効果を証明するための研究に資金を提供し、医師にはこれらの薬剤を処方するよう促した。
近年の研究により、初期の SSRI 臨床試験の多くは業界によって不正操作されていたことが明らかになっており、グラクソ・スミスクライン、フォレスト・ラボラトリーズ、武田薬品工業など複数の企業が、抗うつ剤の処方を増やす見返りに医師にリベートを提供したとして訴えられている。
2012年の和解では、グラクソ・スミスクラインは、パキシルとウェルブトリン (SSRI系と NDRI系の抗うつ剤)を処方した医師に食事や宿泊を提供するなど、違法に販売促進を行ったとして、30億ドルの損害賠償を支払った。
ランセット誌の研究で言及されている疾患は、行為障害を除いてすべて処方薬で治療されるため、製薬業界にはこれらの疾患の診断を促進する方針が内在している。
現代社会は私たちの健康に悪影響を及ぼす
精神疾患の蔓延を説明する上で、過剰診断や製薬業界の貪欲さが大きく影響していることは確かだが、現代社会そのものが私たちを病気にさせていると考える科学者もいる。
精神科医のアレックス・カーミ博士が昨年ガーディアン紙で説明したように、人類は化学物質まみれの食品を摂取し、悲惨や暴力のニュースに晒されながら都市で孤立した定住生活を送るのではなく、伝統、儀式、精神的な意味合いに富んだコミュニティで、密接な狩猟採集民の集団で生活し、手作業を行うように進化してきたのだ。
「現代人は、過食、栄養失調、運動不足、日光不足、睡眠不足、社会的孤立といった問題を抱える傾向が強まっている」と、 2012年に発表された「うつ病は現代社会の病」と題された研究論文は述べている。同論文はまた、「国の 1人当たり GDP と生涯における気分障害のリスクとの間に正の相関関係がある」とも指摘している。
医学誌「ランセット」に掲載された研究によると、Covid-19 のパンデミック後、精神疾患の罹患率が急上昇したことが明らかになった。パンデミックは、世界中で数億人がロックダウン、孤立、失業、ストレスに苦しんだ時期だった (※ その論文はこちらです)。
現代生活の特定の要素は、私たちの精神的健康に明確かつ十分に立証された悪影響を及ぼしている。143件以上の査読済み研究の結果、ソーシャルメディアの利用は、特に 10代の若者の間で、うつ病、不安症、そして拒食症や過食症といった摂食障害と関連しているという認識が広まりつつある。
アメリカ公衆衛生局長官は、ランセット誌の研究で精神疾患の増加率が最も高かった青少年層が、1日に3時間以上ソーシャルメディアを利用すると、不安やうつ病を発症するリスクが 2倍になるという公式見解を示した。
米ピュー・リサーチ・センターが昨年実施した調査によると、米国の 10代の若者の半数弱が、ソーシャルメディアの利用は精神衛生に「概ねマイナス」の影響を与えていると感じている。
私たちは心配するべきだろうか?
簡潔に答えるなら、「場合による」ということになる。精神疾患のリスクは国の GDP とともに増加するように見えるが、最も裕福で発展した国々は製薬業界にとって最大の市場でもあるため、国民が過剰診断や過剰投薬を受ける可能性が高くなることを念頭に置いておく必要がある。
より広く言えば、解決策は明白なものもある。スクリーンタイムやソーシャルメディアの使用を制限すること、バランスの取れた食事と運動、良好な人間関係の構築、瞑想や祈りなどは、科学的にも常識的にも、良好な精神状態を維持するのに役立つと認識されている。
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