地球の最期のときに

ありがとうフィラエ:静かに消えていった彗星着陸船の成果をもう一度考えながら追悼させていただきます



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時期としては、ご紹介するのが少し遅くなったのですが、今日は、私が個人的にとても感謝していて、最近ついに役目を終えて「消えて」いく彼(彼女)のことに軽くふれておきたいと思います。下はその最期のメッセージです。

彗星着陸機フィラエから送信された最期のメッセージ(2016年7月26日)

Twitter

 

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸した欧州宇宙機関の無人彗星探査機ロゼッタの「着陸機フィラエ」を覚えてらっしゃいますでしょうか。

フィラエ(イメージ)
・ESA

数多くのトラブルに見舞われながらもチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸して調査を続けていたフィラエは、今年に入ってから、完全な復旧の見込みはほぼないと見られていたのですが、そんな中、先月 7月27日に、フィラエは「最期のメッセージ」をツイッターに送信しました。それが上のメッセージです。

その翌日、スイッチが切られます。

WIRED の「さよなら、フィラエ─彗星着陸機、最期のツイート」という記事には、その時の様子について下のように記されていました。

そして協定世界時7月27日午前9時、ESSのスイッチが切られた。

ESSのスイッチオフは、ロゼッタにとってもミッション終了を意味する。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は、2015年8月13日、太陽に最接近する「近日点」に到達したあと、ロゼッタやフィラエを伴いつつ、太陽系から離れ始めた。

2016年7月末までにロゼッタは太陽から5億2,000万km離れ、1日約4Wのペースで大量の電力を失い始める。

フィラエがこのようにして宇宙に消滅してくことに何か妙に悲しくなったりしたものですが、やはり、このフィラエから得たものは、少なくとも個人的には、とても大変なものでしたし。

私にとっては、この彗星着陸探査はあまりにも偉大なミッションでした。

このフィラエに関してだけでも、過去、何度か記事にしたことかと思いますけれど、過去記事一覧を検索してみますと、十数本くらいの記事を書いていたように思います。中でも、フィラエとロゼッタによる観測結果で、最も衝撃を受けたのは、

・チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は大量の酸素に包まれている

・有機分子がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から検出されていた

という2つのことがわかったということです。

それぞれ、過去記事の、

衝撃のデータを送信してきた探査機ロゼッタ:チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は「大量の酸素」に包まれている!
 2015/10/29

「地球上の生命の素になる有機分子」がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から検出されていた!
 2014/11/20

でふれましたが、これはそれ以前から書くこともありました「彗星が宇宙の生命を運搬している」という理論を強化するものでもあり、フレッド・ホイル博士などが主張していた「パンスペルミア説」と直結するものでもあります。

もっと書けば、

「彗星は有機物と微生物の固まり」

だと私は考えています。

特に「大量の酸素があった」ということは、かなり驚くべきことで、「微量」ではなく「大量」の酸素があった。しかも、彗星の「周囲」に。

さらに、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星からは、複数の「有機分子」が検出されているのですから、この彗星は死んだ岩と氷の塊というものではなく、ほとんど「生きている天体」といっていいように思うのですけれど。

2014年11月19日のロイター

ロイター

しかも、この彗星は「水も豊富」です。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から噴出する氷とガス
・ESA

酸素が豊富で、水も豊富、多くの有機物が検出されている・・・というそろい踏みで、これで「生命の痕跡がない」というふうに考えるほうが難しいような気はするのですが・・・。

まあ、もっとも、欧州宇宙機関の科学者たちは、この彗星に酸素があるのは、生命がいるからではなく、「太古の酸素が数十億年間残っている」という考えのようです。

 

参考までに、当時のデイリーメールの記事の内容の一部をご紹介しておきます。

Daily Mail 2015/10/28

探査機ロゼッタのこれまでで最も驚くべき発見:チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が酸素に囲まれていたことを発見し、唖然とする研究者たち

2014年に着陸した欧州宇宙機関の彗星探査機は、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に豊富な酸素があることを発見した。

この驚きの発見は、太陽系の起源についての理論を考え直さざるを得ない状況をもたらす可能性がある。

ESA のロゼッタ探査機をコントロールする専門家たちは、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の周囲にある大気の中で最も一般的なものが、遊離酸素( O2 )であることを発見した。その他の成分は、水蒸気、一酸化炭素、そして二酸化炭素だ。

酸素は反応性のものであり、現在の宇宙理論から見ると、このような量が、このように独自に存在する理屈は存在しない。

地球の場合は、微生物や植物が酸素発生の大きな役割を果たしているが、今回の新たな発見は、この P67 彗星に生命が生息していることを意味するものではない。

科学者たちは、これらの酸素が非常に早い起源を持っていると確信している。それは、太陽系が形成されるより以前の段階でさえあると考える。

高エネルギーの粒子が「暗黒星雲」として知られている太陽系の寒さと濃縮した場で、氷の粒に与えた打撃が酸素を解放したと科学者たちは考える。

 

ということですが、この「高エネルギーの粒子と氷の粒が云々」という理論を通そうとすると、同じような歴史を持つ天体は限りなくあるはずですから、宇宙を飛び回る小さな天体の多くが「豊富な酸素を持つ」ことになってしまいそうです。

それはそれで魅力的な新しい理論ではありそうですが。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星には「匂いがある」ことも、ロゼッタは捕らえています。

2014年10月14日の米国ニューサイエンティストの記事

Comet stinks of rotten eggs and cat wee, finds Rosetta

探査機ロゼッタには、大気成分の分析のための「機械の鼻」がついていまして、その分析によると、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星からは、

・硫化水素
・アンモニア
・シアン化水素
・ホルムアルデヒド
・メタノール
・二酸化硫黄

のにおいの成分が検出されたそう。

これらは、ごく簡単に書けば、硫化水素は、しばしば「くさった卵のにおい」と表現されるもので、アンモニアは・・・まあ、アンモニアですね。

シアン化水素は青酸ガスのにおいなので、どんなものなのかわかりません。生きている人間で知っている人は少なそうです。

ホルムアルデヒドは、家具の塗装など、悪臭として知られるもので、メタノールはアルコール、二酸化硫黄はマッチをすった時のにおいだそう。

ようするに、全体的には「悪臭」ということになるのですが、悪臭を放つのも、有機物や生命体の特徴でもありそうです。

私がこの In Diipuu というブログ(綴り間違ってるぞ)…… In Deep というブログを書き始めた最初の頃の動機のひとつが、フレッド・ホイル博士が一生を通じて主張していた「パンスペルミア説」と「進化論の否定」と「ビッグバンの否定」ということの整合性に感動したということがあります。

私は研究者でもないし、知識もないですので、日々のニュースなどから、そういうことが少しずつ明らかになればいいなとは思って生きてきました。

これらのことについては、毎回毎回説明するというわけにはいかないですが、過去記事から、それを説明している部分を再掲したいと思います。

2014年11月の記事に記したもので、フィラエが探査を始める前です。

ここにあるのが、大体の私の宇宙観というか、そういうような感じだと思います。これらの期待をフィラエは、相当かなえてくれました。

それでは、ここからです。

全文をお読みになりたい方は、下のリンクからお願いいたします。

 


彗星の正体の判明はどうなる?… (2014/11/14)より

地球の生命は彗星が運んできた

この「地球の生命は彗星が運んできた」という説は今はそれほど特別な説ではなく、ここ数年で数多くの研究論文などが出されていまして、たとえば、米国エネルギー省が所有するローレンス・リバモア国立研究所の科学者たちは、2010年に「原始の地球に衝突した彗星がアミノ酸を生産した可能性」についての論文を発表しました。

このことは、

[彗星が地球に生命の素材を持ってきた]米国ローレンス・リバモア国立研究所でも地球の生命が宇宙から来たアミノ酸だという研究発表
2010年09月16日

という記事に、デイリーギャラクシーの記事を翻訳していますので、ご参考いただければ幸いです。

この記事には、パンスペルミア説(地球の生命は宇宙に由来するという考え方)研究の第一人者だったフレッド・ホイル博士と共に 1980年代から彗星と生命の研究を続けた人物で、現在は英国カーディフ大学の教授であり、アストロバイオロジーセンターの所長であるチャンドラ・ウィクラマシンゲ博士の以下の言葉が掲載されています。

「彗星に関しての驚くべき発見が続いているが、これらは、パンスペルミア説に対しての議論を補強している。我々は、それがどのようにして起きるのかというメカニズムも解明しつつある。土、有機分子、水 、の生命に必要な要素がすべてそこにある。数多くある彗星たちは確実に地球の生命に関与している」

2013年9月には、英国シェフィールド大学の研究チームが、「上空 25キロメートルの成層圏に気球を上げ、生物の存在の有無を確かめる」という実験をしました。上空 25キロというのは、地上から待機などで上昇される生物の存在は考えにくい高さとなります。

この実験の報道については、

パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりにおこなわれ、成層圏で宇宙から地球への「侵入者」が捕獲される
2013年09月23日

という記事を書きました。

その実験では上空 25キロメートルの成層圏で、下の写真の珪藻(ケイソウ)という単細胞生物などを回収しました。

 

この上空25キロメートルというのは、火山噴火でも、そこまで気流を浮上させるのは無理な高さで、シェフィールド大学の分子生物学者のミルトン・ウェインライト教授は、

「このような大きさの粒子が地球から成層圏まで運ばれることが可能なメカニズムは地球には存在しないため、この生物学的存在は宇宙由来であると結論付けることができます。私たちの結論は、生命が絶えず宇宙から地球に到達しているということです」

としています。

この時は上空 25キロメートルの実験ですが、実は 1960年代にはアメリカで、そして 1970年代には旧ソ連で、「さらに高い上空において微生物を回収」しています。

下の図が示しますように、地球の大気構造は下から上へは上がりにくいということを考えますと、上層大気で「生きたバクテリア」が回収されるという理由は、当時の科学的定説(宇宙から地球に生命は来ていない)では説明が難しいところです。

 

アメリカは高度 40キロメートルの上空で回収実験を行い、ソ連は高度 50キロメートルの上空で回収実験を行っていますが、そのうちのアメリカ NASA の実験について記されているフレッド・ホイル博士の著『生命(DNA)は宇宙からやってきた』から抜粋します。

『生命(DNA)は宇宙からやってきた』 第2章「地球大気へ侵入する彗星の物質たち」より

1960年代には、アメリカの科学者たちが高度 40キロメートルまで気球を飛ばして、成層圏にバクテリアがいるかどうか調査した。その結果、ごく普通のテクニックで培養できる生きたバクテリアが回収され、実験者を当惑させた。

さらに問題だったのは、バクテリアの密度分布だった。成層圏の中でも高めのところでは、1立方メートルあたり平均 0.1個のバクテリアがいて、低めのところでは 0.01しかいないという結果になったのだ。

高度が高いほど多くのバクテリアがいるという結果は、バクテリアが地上から吹き上げられたと考える人々が期待していたのとは正反対の傾向だった。不思議な結果に、研究資金を出していたNASAはこれを打ち切ってしまった。

これは、要するに、

・高度が高くなればなるほど(宇宙に近くなればなるほど)バクテリアが多く回収された

上に、

・それらは生きていた

ということを示し、今思えば、その時代の科学的概念を覆すような実験結果だったのにも関わらず、

> 不思議な結果に、研究資金を出していたNASAはこれを打ち切ってしまった。

のでした。

当時の NASA が、科学的な新しい発見よりも、「当時確立されつつあった既成観念(生命は地球の原始の海で偶然発生した)」を優先していたことがわかります。

この NASA の態度は今でも続いているように思います。

ただ、これに関しては陰謀論で語られることも多いですが、まあ、それもあるのかもしれないですけれど、私自身は、陰謀というより「保身」という面を強く感じます。 NASA に在籍している多くが科学者という「職業」を持つ人たちであり、学会的常識に逆らう結果は出したくないはずです。

まあしかし、その話はいいとして、上記した英国シェフィールド大学の高層大気圏での生物回収実験の少し前、米国カリフォルニア大学バークレー校の化学者たちが、「生命の分子などの構造は、宇宙の星間での氷の塵の中で形成された後、地球へともたらされたかもしれない」という観測結果を発表し、

「彗星は、複雑な分子の温床となりうる。そして、彗星は地球に衝突した際に、これらの分子、あるいは「生命の種」を地球にばらまいている可能性がある」

と発表しました。

カリフォルニア大学の科学者たちが「星間雲で形成され得る可能性がある物質」としたものは以下の通りです。

・メチルトリアセチレン
・アセトアミド
・シアノアレン
・プロペナール
・プロパナール
・シクロプロペノン
・メチルシアノジアセチレン
・ケテンイミン
・シアノメチレン

となり、何がどういう作用の物質だかわからないですが、これらはアミノ酸を作り出すために必要なものらしいです。

これらを含めた様々な「生命の部品」を彗星が運んでいるという学説が、最近では亜流ではなく、主流となってきているのが現実ですが、教科書が書き換えられるところにまでは至ってはいません。

それには「明確な証拠」が必要です。

今回のロゼッタのミッションはその可能性を「多少は」帯びたものだと思います。「多少は」と書いたのは、「彗星の内部深くまでは調べられないため」です。

彗星にバクテリアなどが生きた状態で存在するとすれば、凍結した上に温度変化の少ない彗星の内部でなければ無理です。基本的に微生物は、絶対零度(マイナス 273℃)などの超低温になっても死にませんし、むしろ長く保存されます。

これは、たとえば、精子の保存を考えるとわかりやすいと思います。これは動物の精子の保存についでてすが、高知大学農学部のサイトにある

細胞や組織を-196℃の液体窒素の温度に冷却すると、(略)生存させたまま半永久的に保存することができます。

という記述のように、大型生物は無理でしょうが、気温が低い中では微生物なら事実上永久に保存されます。

幸い宇宙空間はそのような極めて低い気温の場所で、「小さな生命の保存場所としては最適」の空間ですが、太陽などの近くを通る時には、彗星の表面温度が激しく変化しますので、彗星の表面は生命の居場所としては適しません。彗星内部に豊富な有機物が存在するのではないかと思われます。

そんなこともあり、表面だけの調査は、パンスペルミア説の証明にとってはそんなに意味があるわけではないというのが正直なところですが……それでも、探査機ロゼッタをチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に向かわせたミッションに、彗星と生命の関係の調査が含まれることは確かだとは思います。


 

ここまでです。

ここにもありますように、私は、ロゼッタとフィラエの調査を本当に楽しみにしていましたし、結果も素晴らしいものでした。

そして、次はそれらの探査機たちが得たデータを生かすも殺すも人間ということがあり、それに関しても期待したいです。