地球の最期のときに

毒として著名な原子番号33の「ヒ素」が「優れた抗ガン剤」になるまで。そして、マスタードガスに続きヒ素も環境中に流出していく世界へと



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5月30日の米国の医学系メディアの記事より


Medical Xpress

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ふと最近の過去記事を読み返してみると、この春からいくつか「抗ガン剤」についての記事を書いていました。

まあ最近、周囲で抗ガン剤のようなものを服用するような生活となっている人が増えたこともありますし、私などもトシもトシですし、そのうちガンにはなるでしょうけれど、普通に考えると、抗ガン剤への社会的な客観的評価はともかくとして、あくまで私自身は、ということですと、今の時点ではガンになろうが何だろうが「絶対に抗ガン剤治療は受けない」ということにはなるわけです。

どうあがいても、これは動きようがないものでもあります。

というのも、現実として抗ガン剤の治癒率とかそういうものを別にして、「私自身が抗ガン剤の《体を治癒させる作用》を心の底から信じていない」ということがありまして、こうなりますと、仮に抗ガン剤が「いいもの」であったとして、自分の心理が徹底して拒否している限りは効果があるわけがないのです。

もちろん、抗ガン剤によってガンが寛解したり治った人たちはたくさんいるわけですけれど、それは現実としては「抗ガン剤を信じる気持ちで治った」と考えるのが妥当で、他の理由(抗がん剤が治療に効果があった等)はあまりなさそうな気はします。理性的に考えれば、病気の治療に使うには抗がん剤は現実としての毒性が強すぎます。

しかし、そういう話はともかくとして、私自身、よく考えてみると、

「抗ガン剤というものがどのような考えの中で作られているのか」

ということをまったく知らないことに気づきます。

いわゆる「抗がん剤の起源」というのなら、以下の過去記事に書きました毒ガスとして著名なマスタードガスが抗ガン剤開発のキッカケになったという歴史的な事実はあります。

https://indeep.jp/going-extinction-now-with-anti-cancer-drugs/

しかし、最近の抗ガン剤にはまた別の視点があるはずだと思うのです。

ちなみに、上の記事での要点は、抗ガン剤の起源がマスタードガスに原因があるというほうの話が主題ではなく、「そのような毒性のあるものが、人の排泄を経由して多量に環境に流出している」ことの将来的な影響についてのものでした。

これは上の記事にもあります立花隆さんの雑誌での発言に、

「抗ガン剤を投与された患者が体外に排泄するもの一切に抗ガン剤の毒が出る」

というものがありまして、それを読んだ瞬間に、マスタードガスの兵器的特徴を思い出し、「そういうものが排泄と共に環境に拡散していっているかもしれない」と思い、やや慄然としたのでありました。

というのも、マスタードガスの兵器的な特性には「生物の細胞分裂の阻害を引き起こす」という効用があり、これが環境にバラまかれれば、「生き物の赤ちゃんが生まれない」という事態に結びつく可能性があります(人間を含めて、母体内の赤ちゃんの成長は最も活溌な細胞分裂そのものです。これは抗ガン剤が最もターゲットにするもの)。

そして、今でも多くの抗ガン剤が同じような、つまり「活発な分裂をしている細胞をターゲットにして、その増殖を食い止める」という働きを持つものがほとんどです。

おそらく今現在、おびただしい量のそのような作用を持つ化学物質が、投与されている患者の方々の排泄と共に自然環境の中に流出している。

上の記事はそういうようなことを書いたものでした。

今回の記事は何かといいますと、最近、アメリカのノースウェスタン大学の化学者が、「ヒ素を抗ガン剤として成立させた」ことについての医学関係のメディア記事を読みました。

ヒ素は毒として有名な部分がありますが、そのヒ素です。

この記事を読んでいますと、抗ガン剤の本質というものは、やはり「毒」であることがわかりますが、その毒を「どれだけ身体そのものに損傷を与えず、ガン腫瘍だけに効果的に作用させるか」という研究の競い合いであることもわかります。

今回この記事を読みまして、「なるほど、このように抗ガン剤は開発されるのだな」と知りました。

それは確かに大変な化学と生物学の知識と実験の集大成ではあります。実際の臨床でどうなるかはともかくとして、理論的には、毒としてのヒ素を抗ガン剤に使い、身体には影響を与えないという方法を開発するということを読みました。

その記事をご紹介しようと思います。

この内容そのものには、私個人の賛否はなく、むしろいろいろな意味で感心したのですれど、それでも今後、この技術を基本とした抗ガン剤が実用化された時には、今度は、「自然環境の中に人間の排泄と共に大量のヒ素がばらまかれる」という新しい段階が始まるのかもしれません。

ここから翻訳です。


Fighting cancer with a famous poison
medicalxpress.com 2018/05/30

あの有名な毒でガンと戦う

化学者トム・オ=ハロラン(Tom O’Halloran)氏は、無機化合物、特に金属化合物が体内でどのように機能するかについての世界的に有名な専門家だ。彼は、ある種の無機元素と化合物がより広範にガンを殺すために使用できると考えている。

それはたとえばヒ素だ。

ヒ素は、抗ガン剤としてより、毒として使用されることについて、より多くのことが知られている。ヒ素中毒は、ナポレオン・ボナパルトとサイモン・ボリバルを殺したと言われていることでも有名だ。

そして、(抗ガン剤として使われていることとは)逆説的に、ヒ素への暴露はガンのリスク上昇と関連していることも事実だ。

しかし、低用量の三酸化二(さんさんかに)ヒ素は、血液ガンの一種である急性前骨髄球性白血病(APL)において 95%の寛解率(※寛解とは治癒したのと同義のような状態)を示す。

ヒ素は他のガンの成長も止めることができるとオ=ハロラン氏は述べているが、従来のヒ素の送達方法では、乳ガン、肺ガン、卵巣ガンなどの固形腫瘍では成功してはいない。

「ヒ素の広範なガンへの適用を制限するものは、その毒性です」とオ=ハロラン氏は語る。

「ですので、私たちはその毒性をコントロールすることができるかどうかについて、その破壊的効果がガン細胞に対してだけ現れるにはどうしたらいいかを問うていたるのです」

毒の再利用

これを行うために、オ=ハロラン氏とその研究チームは、人間の髪の毛の幅の約 1/100の脂肪の小滴であるリポソームに、不溶性のヒ素粒子を入れ、「ナノビン (nanobin)」と呼ばれるものを作り出した。

これらのナノビンが血流に注入されると、ヒ素はガン細胞にだけにしか到達しないのだ。健康な細胞は無傷のままとなる。

それをどのような方法で行ったのか。

オ=ハロラン氏は、ナノビンの働きを理解するためには、ガン腫瘍の生物学を理解する必要があると言う。

ガン細胞は、生き残り成長するために酸素と栄養源を集める必要がある。血管新生と呼ばれる過程を経て、腫瘍は血管を刺激し、腫瘍内および、その周囲に成長するためのシグナルを送り出す(新しい血管を作り出す)。

体内の他の普通の血管とは違い、新しい血管には「漏れる部分」がある。そこには直径が数百ナノメートル( nm / 1ナノメートルは10億分の1メートル)の穴があるのだ。これらの新しい血管の穴は、赤血球を流出させるには小さすぎるが、先ほどの「ナノビン」は、その穴を通ってガン腫瘍内に集まる可能性がある。

「ガン腫瘍は正常な組織ではできないような方法でナノビンを収集し始め、これらの腫瘍のリポソーム内のヒ素の負荷の濃度を高めるのです」とオ=ハロラン氏は述べている。

しかし、ナノビンが腫瘍に集まると、どのようにヒ素が出てくるのだろうか。これについても、オ=ハロラン氏はガンの生物学を有効に利用している。

ガン細胞は栄養素を処理してエネルギーを生成するため、正常細胞よりもわずかに酸性である。その酸は、ナノビン内部のヒ素粒子を溶解させ、ガン腫瘍内の活性薬物を放出するのに役立つのだ。

「腫瘍の酸性特性は、それが成長し増殖するのを助けるのです」とオ=ハロラン氏は言う。

そして、オ=ハロラン氏はガン腫瘍の独特の特徴を利用して、ヒ素を直接、ガン細胞に密入させる方法を発見した。新しく作られた血管からの漏出によって、ナノビンがガン腫瘍に集まるのを助け、腫瘍の酸性内部がヒ素を取り除くのだ。

彼のチームは、ノースウェスタン大学にあるロバート・H・ルーリー総合がんセンター(Robert H. Lurie Comprehensive Cancer Center)と協力し、ナノビンの注射が乳ガンや卵巣ガン、そして肺ガン細胞を効果的に殺すことを動物モデルで示した。

オ=ハロラン氏と彼の共同研究者たちは、他の薬物(抗ガン剤)療養とは異なり、ナノビン治療は、ガンを殺しながら生殖能力を維持することを示した。

「これは薬物送達と開発にとって非常に重要だと思います」とオ=ハロラン氏は言う。 「不妊の問題と、心臓への毒性は抗ガン剤に共通しており、これは薬の開発の後期になるまで取り扱わないことがしばしばあります。ナノビンのような送達の機構は、ガン治療に伴うこれらのような害、あるいは他の副作用から守ることができるようにする可能性につながるのです」

「ガンの増殖を停止させるためには、まったく新しい方法が必要であることは十分に明らかです」とオ=ハロラン氏は言う。

「私たちの研究が、脳腫瘍、乳ガンおよびその他の非常に抵抗性の高いガンのための新しい治療法の道を開くことができるかもしれないということについては、非常に興奮しています」


 

ここまでです。

この方法は、簡単に書きますと、

普通の血管には流出する部分などないのに、ガン細胞が作る新しい血管には、小さな小さな穴があると。それを利用して、ヒ素をガン腫瘍にだけ入り込ませる

ということになると理解しています。

この部分に関しては、本当によく生体学について研究しているものだなあと感心します。何百万分の1メートルとかの血管の穴の流出を見出して、そこに着目する。

ちなみに、このヒ素というものは「このもの自体が WHO によって最高ランクの発ガン物質」とされています。

ヒ素 – Wikipedia より

単体ヒ素およびほとんどのヒ素化合物は、人体に対して非常に有害である。特に化合物は毒性の強い物が多い。また、単体ヒ素はかつては無毒もしくは弱毒とされていたが、現在ではかなりの猛毒であることが確認されている。

ヒ素およびヒ素化合物は WHOの下部機関IRACより発癌性がある(Type1)と勧告されている

こういうように、まあ身体に対して毒素ではあるのですが、同時にガン細胞に対しても毒素であると。

なお、ここに、

> 発癌性がある(Type1)

というように「タイプ1」とありますが、これは日本語では「グループ1」と呼ばれ、WHO の国際がん研究機関 (IARC) による「発がん性が完全に認められる」というもののグループです。一覧は、IARC発がん性リスク一覧というページにあります。

この「グループ1」には、数多くの抗ガン剤や抗腫瘍剤が上げられていまして、抗ガン剤というもののいくつかは実際的なガンの誘発剤でもあるということは、WHO 自体が認めているところでもあるという部分もあります。

ちなみに、ちょっと過去のニュースを調べてみますと、この「ヒ素」自体は、血液のガンのひとつである「急性前骨髄球性白血病」にはずいぶん以前から使われていたようです。

11年前の 2007年の医学記事に「三酸化ヒ素、急性前骨髄球性白血病患者の生存率を著しく改善(2007 /06/05 日経メディカル オンライン)というものがありました。

ただ、ここには、

> 全生存率は三酸化ヒ素の投与群が86%だったのに対し、非投与群が79%

という、つまり「投与したグループとしないグループの差はこの程度」ということを意味する微妙な数値も出ていますが、これでも「効果あり」ということらしいです。

もちろん治った人たちがたくさんいるわけですけれど、それでも、要するにヒ素を投与されているのですから、いろいろと苦しかっただろうなあとは思います。

1ヶ月ほど前の過去記事「なぜ抗ガン剤で頭髪が抜けるのか…」という記事で、抗ガン剤を服用した際には、体の中では「細胞の自死」(アポトーシス)が起こり、髪が抜ける原因もそこにあるようなのですが、アポトーシスという意味自体が、

「身体を健康的な状態に保つために細胞が自ら死を選択する」

というもので、「アポトーシスは人間の体が持つ自衛メカニズム」のひとつだと私は思っているのですけれど、これがあるので、抗ガン剤での「患者の全滅」を免れているのだとも思っています。

 

しかし、やはり最も大きな問題は、

ほぼすべての医薬品が、人間の排泄から自然環境に流出し続けている。

ことだと思います。

その薬効が大きければ大きいほど、自然に対しての影響も大きく、「自然環境の生物たちの状況を変貌させてしまう力」があると考えています。

というか、もうそれは起きています。

そのひとつの例が過去記事、

完全絶滅プロトコル : 魚たちが次々と「男性から女性へと変化」しているその原因が判明。そこから気づいた「人間から水循環システムの中へ排出されている薬たちによる皆殺し」

にありますけれど、これからさまざまな新しい薬が開発され、「今よりさらに強力な抗生物質」が開発されたりする可能性もあるのかもしれないですが、そういうものも、すべて「人間の排泄を経て自然界に入って」いきます。

自然はさらに大きく変わっていくと考えざるを得ません。

なお、これは余談ですが、ヒ素というのは「原子番号 33」で、元素の中で唯一 、33 という数字を持つものです。