ドイツ・カールスルーエ工科大学ニュースリリースより
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過去115年の災害被害の推移の「壮絶さ」を数字で見る
ドイツ最古の工業大学であるカールスルーエ工科大学というのがありまして、この大学は、CATDAT という「世界の自然災害に起因する社会経済的損失」に関してのデータベースを持ちます。
昨日、カールスルーエ工科大学は、このデータベースから、
「西暦 1900年から 2015年までの自然災害での経済的損失と、全死亡者数」
のデータを作成し、公開しました。
これがですね・・・。予想を上回るというのか、実際に私たちはものすごい時代に生きているということが数字として実感できるものなのです。
今回は、そのカールスルーエ工科大学のニュースリリースをご紹介しようと思いますが、まずは、とにかく、そのデータをご覧いただきたいと思います。
1900年から 2015年までの自然災害での経済的損失の推移(米ドル)
これは・・・。
たとえば、この100年ちょっとの間に「世界がどれだけ変わってしまったか」を感じるには、1900年からの 20年間と、現在の 2016年までの 20年間という2つの時代を下のように比べますと、そのすさまじさがわかります。
もう、これは「全然別の地球に生きている」というような言い方をしてもいいようなすごさで、しかも、1900年からというのは、たった 100年くらいしか経っていないのですよ。それでこれだけ地球は変わってしまった。
現生人類は十数万年の歴史を持っていますので、100年というと、比較的「瞬間」的な時間だと思うのですが、その「瞬間」の間の自然災害のすごいこと。
印象的なのは、100年前にはほとんど見られなかった、
- 森林火災(グラフの赤の部分)
- 干ばつ(グラフの黒の部分)
が、数多く起きていることです。
洪水は昔からあったもののようですけれど、最近はそこに「火」が加わっている。
まるで、先日の記事、
・「水の試練、火の試練」:アフガニスタンの大地から「同時に噴き出す水と炎」の示唆は何か
2016/04/18
に出てきた「水の試練、火の試練」という概念そのままの状況(洪水も増えて、山林火災も増えているということです)になってきているようです。
ちなみに、上のグラフは「経済的損失が増えている」ということでを示しているものであって、「自然災害の発生件数」ではないです。
たとえば、2011年にグラフの「緑の部分」が極端に多いのは、膨大な経済的損失を伴った東日本大震災があったからで、この年に地震が特に多かったというわけではないです。なので、グラフが極端に増加していることが自然災害の数の増加を示しているものではない・・・のですが、ニュースリリースの中でも書かれていますが、自然災害の発生件数自体も増えています。
たとえば、先日の記事、
・M6以上の地震が毎日起きている世界を迎えた中…
2016/04/17
という記事でもふれましたが、地震は特に 21世紀に入ってから飛躍的に増えています。
・Increase of Earthquakes in the last decade
それでは「自然災害での死者」も増えているのかというと、そうではないことが、データベースからわかるのです。
1900年から 2015年までの自然災害での死亡者数の推移
たとえば、その年に1度でも極端に大きな災害(洪水、サイクロン、地震など)が起きてしまうと、それだけでその年の死亡者数は上がるので、このグラフと自然災害の件数はリンクしません。
上のグラフでいうと、1930年に洪水(グラフの青の部分)が極端に増加していて、上に「少なくとも 250万人以上」というように書かれていますが、これは何かというと、その年に発生した中国の大洪水による死者なのです。
1931年中国大洪水 – Wikipedia
1931年中国大洪水は中華民国で起きた一連の洪水である。この洪水は記録が残る中で最悪の自然災害の一つと一般にみられており、また疫病と飢饉を除いて、20世紀最悪の自然災害であることはほぼ確実である。推定死者数は、14万5000人とするものから、370万-400万人とするものまである。
というもので、西側の統計では、最大で 400万人が亡くなったと思われる現代史で最大の大災害です。
それと、上のグラフでは、1970年にも嵐(グラフの紫の部分)での死亡者数が、とてつもなく多くなっていますが、これはその年にバングラデシュとインドを襲ったサイクロンによるものです。
1970年のボーラ・サイクロン – Wikipedia
1970年のボーラ・サイクロンとは、1970年11月12日に東パキスタンのボーラ地方(今日のバングラデシュ)とインドの西ベンガル州を襲ったサイクロンである。
もっとも控えめな見積でも20万5000人以上、最大50万人と推定される人命が失われ、サイクロンとしては史上最大級の犠牲者を出した。近代以降の自然災害全般の中でも最悪のものの一つである。
この被害が余りに激甚であったことが直接的な契機の一つとなって、以後パキスタンは内戦状態に陥り、翌年バングラデシュが独立した。
これらのような強大な災害が発生しますと、上のように、その年のグラフは飛び抜けて高い数字を示します。
そして、自然災害自体は増加し続けているのですが、それによる死者数は、世界の人口増加などを加えて考えますと、「むしろ減っている」ということになっているのです。
つまり、「自然災害による犠牲者は減っているが、社会基盤を破壊する災害の発生件数自体は劇的に増えている」ということになりそうです。
この死者数の推移のグラフと、先に示しました「経済的損失の異常なほどの増加」のグラフを合わせて見てみますと、特に、21世紀以降は、
「自然災害が地球の文明の社会基盤をどんどんと破壊し続けている」
ということが言えそうです。
過去数年、In Deep でも、地球ブログでも、世界の数多くの自然災害を扱ってきましたが、その「流れ」を思い出してみると、現在にいたる中で、次第にはっきりしてきているように感じる「あること」もあります。
それは「災害が起きる理由と目的」とも関係します。
しかしまあ、ここでそれにふれますと、ちょっと話の内容が訳がわからない方向に行ってしまう可能性があるので、今回はふれませんけれど、これからの自然災害の状況次第では、私たちは今の社会基盤に依存して生きている状況を根本から見直すというような事態に直面することもあるのかもしれません。
それでは、ここからカールスルーエ工科大学のニュースリリースです。
Natural Disasters since 1900: Over 8 Million Deaths and 7 Trillion US Dollars damage
Karlsruhe Institute of Technology ( KIT ) 2016/04/18
西暦1900年からの自然災害 : 800万人以上が死亡し、7兆ドル以上の経済的損失を受けた
カールスルーエ工科大学(KIT)のリスクエンジニアの専門家であるジェームズ・ダニエル博士(Dr. James Daniell)は、これまで収集した自然災害のデータベースから、1900年以来、自然災害により 7兆ドル(約 770兆円)の経済的損失が発生し、また、死亡した人の数は 800万人に達することを示した。
ダニエル博士の災害データベース「 CATDAT 」は、社会経済指標を調べることにより、自然災害による社会経済的損失データを評価する。
博士はオーストリアのウィーンで開催される 2016年 欧州地球科学連合総会でこのデータを発表する。
ダニエル博士は、CATDATデータベースの一環として、1900年以来起きた 35,000件の自然災害事象を収集した。
それによると、1900年から 2015年までの経済的損失の約3分の1は、洪水により引き起こされており、洪水による経済的損失の度合いは大きい。
次に大きなものが地震による損失で、自然災害の経済的損失全体の 26パーセントを占める。そして、嵐(台風やハリケーン、サイクロンなど)が 19パーセント、火山の噴火による被害は全体の 1パーセントとなっている。かつては、経済的損失の最高額を記録する自然災害は洪水だったが、1960年以来、嵐が経済的損失のうちの 30パーセントを占めるようになった。
全体として、過去 100年ほどの間の自然災害による経済的損失は絶対的に増加した。
ダニエル博士は「多くの場合、発展途上国の方が大災害に対して、より脆弱な傾向があり、自然災害での死者と経済的損失が高くなっている」と述べる。
その一般的な理由のひとつは、家屋や建物の質そのものにもあり、また、海岸に人々が働く都市部の多い地域も、自然災害に対しての生命と経済的損失に対してのリスクが高い。
自然災害の経済的損失は、ダニエル博士の計算では、ドル換算で 7兆ドルに達するが、しかし、自然災害による損失の構成要素は、多くの場合、損失の推定値などが入るため、実際とは大きく異なる。
ダニエル博士は、「経済的損失を定量化することがしばしば困難であるように、1つの災害事象の正確な損失値を取得することは、たとえば、2010年のハイチ大地震のように、損失値を計算するのが不可能な場合が多々あり、死者数も過大に評価されていることがあります」と言う。
「これまでの中で、自然災害による経済的損失が最も大きかったのは、2011年3月11日の日本の東北の震災と、ニュージーランドの大地震によるもので、3350億ドル(37兆円)の経済的損失となりました。特に、東北の地震は、地震に加えて、津波と原子力発電所の被害が重なり、単一の自然災害としては、最も高い損失を生んだものとなりました」と、博士は述べる。
地震では、1900年から 2015年の間に、全世界で 232万人の人が亡くなっており、また、地震での犠牲者の約 59パーセントは、津波や土砂崩れなどの二次的災害で亡くなっている。石造建築物の倒壊により死亡した人は、全体の 28パーセントになる。
1960年以来、地震で死亡した人は、すべての自然災害の犠牲者の 40パーセントにもあたる。
火山の噴火に関しては、1900年から 2015年の間に、火山の噴火で亡くなった人の数は 98,000人と、他の自然災害と比較すると多くはない。しかし、1900年以降は起きていないが、たとえば、1815年のタンボラ火山の噴火のような巨大な火山噴火が起きた場合、世界中の気温を下げる可能性があり、それは、世界の食料安全保障の問題につながる側面を持つ。
自然災害での死亡者数そのものは、1900年から 2015年まで、わずかに減少するか一定だが、世界の人口が増えていることから、自然災害で亡くなる人は大幅に減少していると博士は言う。
2000年以来、1度の自然災害で 10万人以上が亡くなったのは、2004年のインド洋津波(死亡者数約 23万人)、2008年のミャンマーのサイクロン(死亡者数約 14万人)の2つとなる。
そして、歴史上で最悪の自然災害は、1931年に中国で起きた、推定死者数 250万人以上と考えられている中国の大洪水である。