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こんなに食糧についての悪材料が重なったことはないのでは
アメリカの投資会社であるクレスカット社のポートフォリオ・マネージャーの方が、今朝、以下のようなチャートを投稿していました。日本語化しています。
この方は、アメリカにおいて、過去に、
・政府のGDPに対する債務の問題
・投機環境の問題
・インフレーションの問題
が、「同時に重なったことは一度もない」と書いていらっしゃいました。
現在、アメリカの歴史上で初めて、この「負の要因」といえるものが重なった状態にあるということのようです。
他にも「流動性の問題」なんかも過去にないほどリスキーな状態になっていると思いますけれど、こういうようないろんなグラフやチャートみたいなものを日々見ているのですけれど、日本の最近の報道を見まして、「別のいくつかチャート」を思い出しました。
日本農業新聞の以下の報道です。
・酪農家の85%が赤字 離農検討は6割
日本農業新聞 2023/03/18
日本の酪農家の 85%が赤字で、6割が「離農を検討している」という深刻なものです。
そして、酪農家の方々が、「経営を継続するために必要なこと」として以下を挙げていました。
・「飼料価格の抑制」(92%)
・「生乳販売価格の上昇」(89%)
・「子牛販売価格の上昇」(78%)
・「燃料費・光熱費の抑制」(66%)
これが改善されなければ、多くの酪農家の方々が、「継続は難しい」と述べているのです。
そして、このような中で、
「深刻な経済後退が近いのかもしれない」
という状況となっています。
史上最悪の景気後退の予兆はほぼ出尽くした
In Deep 2023年3月19日
毎日毎日、悪材料が出続けていて、昨日から今日の悪材料の流れだけでも、以下のように小爆弾が破裂しています。
・クレディ・スイス買収で合意
↓
・クレディ・スイスの一部の債権 (2兆円ほど)が無価値に(報道)
↓
・これを受けて、アジアの一部の債権市場が過去最悪となる下落 (報道)
何をやっても、「翌日は悪い結果につながる」という状況が続いています。
それはともかくとして、仮にこのまま金融危機のようなものになっていった場合、先ほどの以下はどうなるのだろうと思ったのです。
・飼料価格の抑制
・生乳販売価格の上昇
・子牛販売価格の上昇
・燃料費・光熱費の抑制
この中で、燃料費・光熱費は、もしかすると、原油等の価格が下がる可能性はありますので(不況に入った場合)、それらの経費の問題はややよくなる可能性もあるのかもしれないですが、92%の人たちが切望しているのが、
「飼料価格の抑制」
なんですが、飼料は、おおむねトウモロコシなどを含む穀物だと思われますけれど、これが下がることがあるのだろうかと。
これから経済と関係ないチャートが並びますが、まずは、「今、海で異変が起こっている」ことについてです。
スーパーエルニーニョの発生の懸念
それは何かといいますと、
「海水面温度が観測史上最高を更新した」
のです。
「海面温度が異常に高い」のですね。
1981年 – 2023年3月までの地球の海水面温度の推移
US Stormwatch
投稿した気象研究家は以下のように述べています。
> 現在の海面温度は、前回のスーパー エルニーニョが発生した 2016年を上回っています。
>
> この夏から秋にかけて、エルニーニョが発生する可能性が高く、発生した場合、非常に強力になる可能性があります。 US Stormwatch
エルニーニョというのは、南太平洋東部の海水面温度が、通常より高くなり、その状態が継続することで起こり得ますが、現在のような高い海水面温度のまま、エルニーニョが発生すると、先ほどの方が書いていましたように、
「スーパーエルニーニョ」
といわれる強い影響をもたらすものになる可能性があります。
日本の気象庁は、今年の夏から秋にエルニーニョが発生する確率は、50%だと述べていますが、欧州中期予報センターという機関の予測によれば、この春から、太平洋のこの海域の海面温度に、やや異常な数値が示されるかもしれないことが示されています。
以下のマップで黒で囲んだ部分が、エルニーニョと関係する要因となる海域です。赤やオレンジは、平年より高いことを示します。
欧州中期予報センターによるこの夏の海面温度の予測
severe-weather.eu
この予測通りになった場合、かなり高い確率で夏頃にエルニーニョ現象が始まる可能性が高くなっています。
エルニーニョの影響は「海水面温度の異常により、通常とは気圧の状態が変化する」ことで起こりますが、どうなると一概にいえるわけではないですが、傾向としては、日本の場合は、
・夏は冷夏になる
・冬は暖冬になる
とされることが多いようです。
1993年に起きた「平成の米騒動」も、その夏が、エルニーニョの影響により大冷夏だったことにより各地でコメが記録的な不作となったことで発生したものでした。
ちなみに、この「エルニーニョ」というのは、「 21世紀に向けて増大した自然現象」であるという現実があります。
以下の記事は、科学誌ネイチャーに掲載された「過去 400年間のエルニーニョ現象の発生状況の研究」についての論文にあるグラフです。
西暦 2000年を境に劇的に増加していることがわかります。
これについては、2019年の以下の記事で取り上げたことがあります。
史上初めてとなる「過去400年間のエルニーニョ現象の状況」を調査する研究で、エルニーニョはほんの過去十数年で頻度も強さも急激に上昇していたことが判明
In Deep 2019年5月8日
話を戻しますと、たとえば、2020年から続いたラニーニャ現象という、やはり海面温度の異常で起きる現象は、今年まで 3年も続きました。
ラニーニャ現象が終わらない : アメリカをはじめ世界の穀倉地帯の干ばつと異常気象がさらに厳しく継続する可能性。その先には「もはや食糧は存在しない」世界が
In Deep 2022年4月5日
この記事を書いた時は、ウクライナへの侵攻も始まったときで、食糧に関しては、個人的に、かなり絶望的な見方をしていましたが、結果として、少なくとも主要国の食糧状況は、極端には悪化しませんでした。
ただ……英語版の Wikipedia には「2022 ~ 2023年の食糧危機」という項目があり、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの一部、中東の一部では、深刻な食糧危機は起きていました。
原因はそれこそたくさんあるでしょうが、2022年から 2023年の食糧危機に関しては、
「肥料価格の天文学的な高騰」
は、相当関係していたと思います。
この状況が続くと、生産者が持ちこたえられなくなる
以下は、肥料価格の 2022年までの推移です。
西暦2000年から2022年4月までの肥料価格 (水色のライン)の推移
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS
2022年の肥料価格は、安値から 4倍、5倍になっていたんですから、世界中の農家の方々(中国とロシアを除く)はちょっとやっていられない感じだったと思います。
しかし、注目していだきたいのは、その 2022年の同じ程度に肥料価格が、急激に上昇したのが、「 2008年」だということです。「リーマンショックによる金融危機の年」です。
一概には言えないものの、この 21世紀の肥料価格の推移を見ている限り、
「金融危機下では、肥料価格は上昇しやすい」
ということも言えなくもないのかもしれません。
食料価格そのものについては、何ともいえない部分があり、例えば、「1930年代の大恐慌では、穀物価格は大幅に下落した」のです。
> 1932年には、とうもろこしの価格が4分の1になるなど食糧価格も大きく下落。その後の食糧難の原因にもなっていく。 (kodomoclinic.info)
2007年から 2008年の金融危機前後は、食料価格は「大幅に上昇」したのですが、
「リーマンショック後から大幅に下落し始めた」
ことが示されています。
2009年-2011年の食料価格の推移
archive.org
しかし、2008年の金融危機の時には「大きな戦争もなかった」ですし、今のようなインフレもありませんでした。
この 2008年というのは、生産者の方々にとってみれば、肥料は高い、作物は高くならないという、さんざんな時だったようです。
それで、先ほどの、日本の酪農家の方々の 6割が離農を検討しているという報道を見まして、「農業生産者の場合も同じなのではないか」と思った次第です。農業の方々でも、事業継続が厳しくなっている方々は潜在的にかなりいらっしゃるのではないかと。
そもそも、主要国は、人口に対しての農業生産者の数が少なすぎるのです。
以下は、アメリカのチャートですが、1840年から 2000年までの人口に対しての農業生産者の比率の推移です。
1840年から 2000年までの米国の農業生産者の比率
vox.com
これは、2000年までのチャートですが、その後はどうなっているかというと、これは、人口比ではなく、「農作地面積の推移」です。
さらに衰退し続けていることがわかります。
もちろん、農業技術は以前よりはるかに上昇したことで(遺伝子組換え作物などの登場も含みますが)、少ない人数で大規模生産はできるようになってはいます。
しかし、食物生産の現場の状況は、「もう、いろいろと限界なんじゃないだろうか」という気は、かなり前からしていました。
日本もアメリカも、農業生産者の方々の高齢化が非常に進んでいて、今のように収益性がなくなってきてしまいますと、
「赤字を抱えてまで続ける必要はないな。トシでもあるし」
と思う方々が多数いても不思議ではないです。
つまり、「生産者の数そのものが極端に減少していく時代」に直面しているということです。
こういう要素を含めて、今後、仮にですけれど、景気後退あるいは不況あるいは恐慌というようなことになっていった場合、今度は、数年のスパンで、
「本当の食料危機」
がやってきても不思議ではない気がします。
特に小さな子どもや若者において、食糧不足は本当に良くないのです。
以前書いたことがありますが、若い人たちの免疫は、「胸腺」という器官が大きく関係しています。T細胞という免疫細胞を供給する器官です。
胸腺は、特にタンパク質が失われると成長しない、あるいは萎縮することがわかっていまして、若い人たちが感染症に非常に弱くなってしまうのです。
以下のような記事の後半でも書かせていただいています。
スパイクタンパク質のターゲットが「胸腺」であることがイタリアの研究で判明。小さな子どもたちの胸腺の成長が阻害されると…
In Deep 2023年2月19日
ですので、以前からメルマガなどで書き続けたりしていますけれど、自分のお子さんでも、周囲にお子さんたちがいる状況でも、そういう場合は、自然災害対策も含めて、最低限の保存できる食料(タンパク質を含むもの)は、用意されてもいいと思います。
今回、一番最初に、アメリカで、
・政府のGDPに対する債務の問題
・投機環境の問題
・インフレーションの問題
が同時に存在したことはなかった、ということを書きました。
現在、はじめてそれが同時に表面化しているのです。
食料でいえば、
・金融危機による価格やサプライチェーンの混乱
・戦争の拡大による同じ問題
・農業生産者たちが事業を継続できない問題
・スーパーエルニーニョの発生と継続の可能性
・全体的なインフレーション
が、これほど重なったことがあったのかなと思います。
控え目にいって、2024年までに、食料の問題が「まったく起こらない」という可能性はほとんどないと思います。
もちろん「ある程度の問題」で済むのなら、それが最も良いことです。
ただ、状況としては、最近の金融問題の状況を見ましても、全体が良くない方向に進んでいる気はいたします。
ご存じのように、食料安全保障に関して本当に重大な問題が発生した場合、国家を含めて、誰も助けてはくれません。
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