ブラジルの2015年までの小頭症の赤ちゃんの報告数の推移
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2015年秋から歴史上最大規模の爆発的拡大を見せるジカウイルス
先月の終わり頃に、
・世界に広がるかもしれない「誰も妊娠してはいけない」状態 : 赤ちゃんに影響を及ぼすジカウイルスでのブラジル非常事態宣言から思う来年
2015/12/26
という記事を書いたのですが、その記事を書いていて感じていた懸念は特別大げさではないことが冒頭のグラフを見るだけでもおわかりかと思います。
そして、ブラジル政府が非常事態宣言を発令したことも、不思議でも大げさでもないこともわかります。
なぜなら、昨年 12月の時点でも、なお、ブラジルでは以下のように「多ければ、これまで 140万人が罹患したかもしれない」としているのです。ブラジル国内から発信されている日本語ニュースから抜粋します。
ジカ熱患者は最低50万人=多ければ140万人罹患か
ニッケイ新聞 2015/12/10
小頭症やギラン・バレー症候群を引き起こす可能性が指摘されているジカウイルス(ジカ熱)の今年の罹患者は、ブラジル全国で最低50万人、多ければ140万人と予想されると、エスタード紙が報じた。
マルセロ・カストロ保健相は、推計患者数と小頭症児急増を「深刻な事態」と評価しているが、ジカ熱はまだ効果的な診断法が確立していない。ジカ熱の症状は発疹や痒み、目の充血、微熱、関節痛、筋肉痛、目の奥の痛み、手足のむくみ、下痢などだが、80%の患者は感染しても自覚症状がない。
「ニッケイ新聞」とありますが、日本経済新聞のほうではなく、「ブラジル国内の日系の人たちへの新聞」ということのようです。
それはともかく、ここまで大規模な感染拡大をしているということは、終息にも大変な時間がかかるとも考えられるのです。「蚊」が媒介する病気が終息するのには、通常とても長い期間がかかります。
このジカウイルスと同じ「蚊」によって感染が広がるデング熱ですが、2014年から 2015年にかけて、各国で劇的な大流行をしました。
たとえば、マレーシアでの流行の場合を、報道から時間軸で追っていきますと、
2014年09月04日の報道「マレーシアでデング熱感染が急増、死者は前年の4倍に―新型ウイルスが一因」(ウォールストリート・ジャーナル)
↓ 翌年
2015年06月25日の報道「MERSに備えるマレーシア!一方デング熱患者数が異常な増加をみせる!」(マレーシアニュース)
というように、この時は、10ヶ月などが経った後でも、状況は変わらず悪化し続けていたことがわかります。
東京医科大学病院 渡航者医療センターの 2015年 12月の記事では、マレーシアでは相変わらず患者は増えているようです。あと、タイとフィリピンでもデング熱の多い昨年でしたが、そのふたつの国もいまだに増えていると思われます。
2015年は、台湾でもかつてない大規模なデング熱の流行を見せていまして、昨年 12月の時点でも下のような報道がなされていました。
台湾のデング熱、患者数4万人を超え死者200人に迫る、患者数は現在も増加中
サーチナ 2015/12/14
台湾政府・衛星福利部疾病管制署によると、台湾を中心とする中華民国支配地域においてデング熱と確認された患者数は13日時点で、2015年になってから累計で4万2254人に達した。12月になってからも1651人の新規患者が確認されている。
2014年も「デング熱が大流行」とされたが、同年の患者数は1万5732人で、今年(15年)はさらにその2倍以上の患者数だ。今年になってからの死者は累計で197人に達した。
デング熱が多いのは台湾南部の高雄市、台南市、屏東県だ。
2014年の流行の中心は高雄市で、同市では同年8月1日に深夜に大規模なガス爆発事故が発生したため、「道路と周辺に大量の穴が残り、水がたまって蚊が大発生した」との説明もあったが、今年の場合にはその説明は成り立ちにくい。
上のサーチナの記事で注目したのは、いちばん最後の部分の、
> (2014年は)「道路と周辺に大量の穴が残り、水がたまって蚊が大発生した」との説明もあったが、今年の場合にはその説明は成り立ちにくい。
ということで、つまり、台湾においては、
「どうしてこんなに爆発的な流行になったのかは不明の部分が多い」
ということになっているようで、それはどの国でも同じようです。
そして、デング熱の感染者が増えた理由が、
・蚊が増えたからか
・蚊が増えたのではなく、ウイルスのほうが感染しやすくなったのか
のどちらかかはよくわからないはずなのです(マレーシアでは、後者の理由も存在しました)。
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異常に高い気温が続く2016年の地球
このような「唐突な爆発的な大流行」を見せているデング熱も、今、ブラジルからの脅威となりつつあるジカウイルスと同じ「蚊」が媒介するものです。
そこで、ジカウイルスの拡大の歴史を見ていただきたいのですが、下の図は以前の記事に掲載したもので、ワシントンポストに掲載されていた図に注釈を入れたものです。
以前の緩慢とした感染拡大に比べると、2015年から爆発的になっていることがおわかりでしょうか。
実は、上のワシントンポストの記事は昨年 9月のもので、「その後、一気に南米を北上している」のです。
下の図は、2015年にジカウイルスの感染が確認された国です。ブラジルとチリを除く、ほとんどすべてが、2015年のそれ以降に感染拡大しているのです。
アメリカ諸国で2015年にジカウイルスの感染が確認された国
ブラジル、チリから始まって、パラグアイ、コロンビア、ベネズエラ、フランス領ギアナ、スリナム、パナマ、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ、メキシコ、そして、プエルトリコまでの拡大にほんの2ヶ月ほどだと思います。
これは驚異的なスピードには見えないでしょうか。
そして、その昨年の南米のジカウイルスの爆発的な感染拡大は、感染拡大の頃の気温を見ますと、「気温がふだんより異常に暖かいところから始まり拡大していった」こともわかります。
下は、NOAA (アメリカ海洋大気庁)による昨年11月の平均気温との差異です。色が濃い赤になればなるほど、通常より気温が高かったことを示します。
2015年11月の世界の気温の平年差
この昨年の 11月とか 12月は、アメリカ西海岸や中東の一部、中国の一部など以外は、どこも気温が高いのですが、南米では 11月から平年よりとても気温が高かったブラジルでジカウイルスが爆発的な流行をししました。
やはり、蚊が媒介するものだと、こういうことになるのは。ある程度は自然なのですかね。
上の気温分布では、太平洋も広大な範囲で海水温度が高いですが、その太平洋の高温エリアにあるハワイでは、デング熱が流行しています。
米ハワイでデング熱の感染拡大、9月以降180件
CNN 2015/12/26
米ハワイ州の保健衛生当局は26日までに、蚊が媒介するデング熱の感染が州内で増え続け、今月24日の段階で計180件を記録したと報告した。
感染が目立つのはハワイ島となっている。ただ、衛生当局は人々の懸念は理解出来るとしながらも、同島や州の他の島は安全であり、訪問するのに問題はないとも強調した。
180件には、今年9月11日から12月13日にかけて発症した172人が含まれ、この分については感染拡大の恐れはもうないと見ている。しかし、今月13日以降に新たに発症した8人については感染増大に通じる可能性もあると判断している。
関係ないことですが、このハワイ島では、ハワイで「レイ」に伝統的に使われる「オヒアの花」の木が「謎の外来菌によって枯れ続けている」という、別の意味でも不思議なことも起きています。
このことについては、
・ハワイの象徴の消滅 : レイに使われる花をつけるオヒアの木が「突如出現した謎の真菌」のために大量死を起こしており、「全滅」を危惧する声も
地球の記録 2015/12/30
という記事に書きましたので、ご参照いただくと幸いです。
話を「蚊」に戻しますと、デング熱においては、インドでも過去5年で最悪の爆発的流行となっていることが、CNNの「インド首都のデング熱、近年で最悪の被害 治療後手で死者相次ぐ」という記事などで報道されていました。
しかし、デング熱は確かに症状は激烈にしても、死亡率を含めて、「人命や人類存在そのもの」にまで干渉する部分は少ないような気がするのですが、今、ブラジルで大流行しているジカウイルスはちょっと事情が違うように思えるのです。
ジカウイルスがもたらしているものは赤ちゃんの「小頭症」ですが、小頭症は、これは非常に極端にいえば、多くの場合、その赤ちゃんが長く生きることはできません。
つまり、今起きていることは、「新しい子どもの誕生を阻むこと」でもあり、極端にいえば、「人類存在に挑戦するようなウイルスが一気に拡大しようとしている」ということも言えるように思うのです。
そして、それを媒介しているのは「蚊」なんです。
この「蚊」というのは以前から私は不思議でした。
「蚊」という1億年以上前からの存在の意味
私は以前から、蚊というものは、存在や歴史の不思議さも含めて、すごいものだと思っていまして・・・というのは、マラリアなどにしても何にしても、蚊がこれまで「地球の人類史を何度も書き換えてきている」ことは事実です。
それがもたらすものは「病気」という、人間にとっては厄介なものであっても、確かに蚊はされをずっとやり続けている。
今でもマラリアは、
「全世界ではマラリアに年間1.98億人が感染し、うち58.4万人が死亡している( Wikipedia )」
というもので、その影響は今でも重大なものです。
蚊は、発見された化石などから 1億以上年も前から地球にいると考えられています。
一方で、私たち現世人類の歴史はせいぜい十数万年。
進化論から見れば、「 1億年後に出現するかもしれないし、しないかもしれない人類という生命に特化した病気の原因となるウイルスを運搬する術を、(端から見れば意味なく) 1億年も温存し続ける意味」とは何なのだろうと誰しも思うのではないでしょうか。もはや自然選択での進化論では語ったり考えたりすることは無理な領域です。
その壮大な蚊の歴史の営みを考えると、蚊が人類社会にもたらしてきた病気の混乱には「もともと蚊が持っている何かの使命が含まれている」というようにも思うのです。
そこで私も含めて思うことは、「苦しい病気や、小頭症を増やす源を運搬することが使命?」とは思います。
確かに、そう思わざるを得ない部分はあって、ウイルスの運搬や「ウイルスの人から人への伝播」に使命や意味を見出すことは難しいですが、かつて、フレッド・ホイル博士は、『 DNA は宇宙を流れる』という著作の中で、
「ウイルスが人間に侵入しているのではなく、人間が体内に入れるウイルスを選んでいる」
のだとして、その理由について、いろいろ記しているのですが、その説明の最後に以下のように書いています。
フレッド・ホイル著『 DNA は宇宙を流れる』 第4章「進化のメカニズム」より
ちっぽけなウイルスが大きな生物を騙すのではなく、生物が自らの利益のために —– 進化するために —– 進んでウイルスを招き入れるのだ。
われわれは、免疫機構に対する考えを改めなければならない。免疫機構は、常に新参者を探しているが、それはわれわれの遺伝システムがそれを取り込むことが進化論的立場から価値があると認められるような新参のウイルスを探すためなのだ。
明らかに価値がなさそうなものは門前払いをくらい、見込みがありそうなものだけが細胞との相互作用を奨励される。
もちろん、その個体が死んでしまっては、ウイルスを感染させた意味がなくなるから、適度なところで病気を終息させる必要がある。そこで、ウイルスが感染し、目的の組織で増殖しはじめると、インターフェロンが作られはじめるのだ。
こういう考えはどうも腑に落ちないと思われる方もあるだろう。
ウイルスに感染した人は苦しい目にあうから、どうしても「ウイルス=悪者」という先入観を持ってしまうからだ。
けれども、個体の苦しみは、種の利益とは関係ない。問題になるのは、100万の失敗のほうではなく、ときどきそれがうまく行くという事実の方なのだ。
このセクションは、
・ウイルスの流入の繰り返しでDNAの進化をなし得てきた人類をサポートする「宇宙と火山」
2012/09/23
という記事に長く抜粋しています。
最後で、ホイル博士は、人道的には冷たいことを言っていますが、この、
> 問題になるのは、100万の失敗のほうではなく、ときどきそれがうまく行くという事実の方なのだ。
という言葉は、ホイル博士の最大の「意志」だと思います。
ホイル博士は、「地球の生命は、自然選択で緩慢と進化したのではなく、ウイルスが、その時代のある時ある時に突然で爆発的な進化を生命にもたらした」と考えていたと思います。人間を苦しめるだけに見えるいかなるウイルスにも「何かの進化の素材が関与している」ということも言えるのかもしれません。
そんなわけで、「蚊」という存在は大変なものだとは思い続けてはいました。
とはいえ、やはり、「赤ちゃんの命に重大な影響を与え続けている」現在のジカウイルスの流行拡大に関しては、これがあまり悲劇的な問題に発展しないようにとは願いたいです。
ただ、あまりにも感染拡大が早すぎて、どうにかなるものなのかどうなのかはよくわかりません。
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