悪が肥大化していく輪廻
ドラッグや麻薬について、良いか悪いかといえば、悪いに決まっているのですけれど、たとえば、最近のトランプ政権は、ベネズエラ(コカイン)に続き、メキシコの麻薬カルテルへの攻撃も開始すると発表しています。
2026年1月8日の報道です。
トランプ大統領、メキシコの麻薬カルテルへの地上攻撃を開始すると発言
ドナルド・トランプ大統領は1月8日に放送されたインタビューで、米国がメキシコの麻薬カルテルへの攻撃を開始すると発表した。
「我々は水路から流入する麻薬の97%を撲滅した。麻薬カルテルに関しては、これから陸上での攻撃を開始する」とトランプ大統領は FOX ニュースのショーン・ハニティに語った。
「メキシコは麻薬カルテルに支配されている。あの国で何が起こっているのか、見ていてとても悲しい」
「我が国では毎年 25万人も 30万人もが殺されている」
この発表は、トランプ大統領が、麻薬テロなどの罪でベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロ氏を逮捕し米国へ移送する作戦を命じてからわずか 5日後に行われた。
トランプ大統領は、ベネズエラへの米国の攻撃とマドゥロ大統領の拘束を受けて、いくつかのラテンアメリカ諸国に警告を発している。
Epoch Times 2026/01/08
ここにトランプ氏の、
「アメリカでは毎年 25万人、30万人が(麻薬で)殺されている」
という発言がありますが、これを含めて、アメリカのデイビッド・ストックマン氏という方が興味深い記事を書いています。
ストックマン氏は、ミシガン州の下院議員などを歴任し、ロナルド・レーガン大統領の下で史上最も若く行政管理予算局長を務め、その後、ウォール街で 20年間のキャリアを積んだ方です。
まずは、ストックマン氏の寄稿文をご紹介します。
2000億ドルの海軍を使ってコカイン保険料を140倍に引き上げる愚行
The Idiocy of Using a $200 Billion Navy to Enforce a 140× Cocaine Premium
David Stockman 2026/01/09
昨年、米国では 1億7,800万人がアルコールを摂取し、残念なことに 17万8,000人がアルコール関連で亡くなった。これは、アルコール使用者における 0.1%という死亡率だ。
しかし、アルコールが違法でないのは、アメリカが 100年前の禁酒法の惨禍の苦い教訓を忘れていないからだ。
対照的に、ベネズエラから輸入される違法薬物はコカインのみだ。連邦政府自身の見解では、ベネズエラからフェンタニルが米国に流入したという証拠はまったくない。
つまり、連邦政府が口にする「殺人」ドラッグとはコカインのことなのだ。しかし、ベネズエラ産コカインは、米国の年間供給量約 82万6000ポンドの生産のうちの 0%であり、コロンビアなどを経由して米国に輸送されるコカインのわずか 8%を占めているに過ぎない。
それでも、コカインは多くの人にとって違法であり、娯楽目的の刺激物として確かに懸念のあるものかもしれないが、実際にはアルコールよりも致命的ではない。
DEA(米麻薬取締局)などの政府機関によると、昨年、米国には約 500万人のコカイン使用者がおり、純粋なコカインの過剰摂取による死亡者は約 5,000人だった。
この点に関して、麻薬禁止論者がしばしば引用する年間 2万人の死亡者という高い数字は、ストリートコカインに致死性のフェンタニルが広く混入されていることを反映している。フェンタニルは 1回分0.3セント(1円以下)で、コカインの1 回分 150ドル (約 2万3000円)という 1,000倍以上と比べてはるかに安価だ。
(※ 訳者注) フェンタニルの1回分を0.3セントとしていますが、実際には、1ドル(約150円)程度のようです。それでも安価ですが。
いずれにせよ、コカイン使用者におけるコカインのみによる死亡率はわずか 0.1%で、アルコール摂取と同程度だ。
しかし、ニクソン大統領の長年にわたる誤った麻薬戦争の結果、麻薬撲滅のために毎年数十億ドルが費やされている。今やこの無駄な努力には、漁船に対する米海軍の動員さえも含まれている。
しかし、問題はここにある。400億ドル (約 6兆3000億円)もの予算を投じて空母戦闘群を投入し、コカインを輸送する高速艇を爆破するというのは、ポトマック川沿岸(※ 米国の政治のことを指していると思われます)でこれまでに考えられた中で最も愚かで非合理的な行為であり、この栄誉を争う者は間違いなく大勢いるだろう。
理由は単純明快だ。つまり、コカインの供給源の淘汰と破壊は価格を急激に押し上げるだけであり、その結果、コカインの栽培、輸送、流通といった違法ビジネスはますます利益を生むようになる。
そして同時に、コカインを流通させる違法カルテルは、法執行機関に対抗するため、そして淘汰による製品の損失を補うために、必要な資金を惜しみなく投入できるのだ。
言い換えれば、アルコールからコカイン、ヘロインに至るまで、禁酒法の背後にいる愚か者たちは、需要と供給の法則に逆らえば勝てると信じているわけだ。
しかし、絶対にそれはできない。
供給源の破壊によって実際に達成される唯一のことは、麻薬カルテルの収益を大幅に増加させ、異常に利益の多いビジネスを遂行するために、これまで以上に暴力的な工作員からなる大規模な軍隊を維持する能力を高めることなのだ。
疑いの余地を残さないために、まずは需要と供給の基本的な事実から見ていこう。現在、Grok 4 (AI)によると、米国のコカイン消費量は年間 514,000ポンドと推定されている。
推定 500万人のアクティブユーザーのうち、1人あたり年間平均約 540gを消費している。つまり、娯楽目的のユーザーの圧倒的多数は、約 540gの吸引で自殺するようなことは考えていないということだ。
それでも、2024年に米国に実際に流入したコカインは約 82万6000ポンドであり、沿岸警備隊、その他の国境管理活動、国内の法執行機関による押収量の約 31万2000ポンドは実際の使用量の 約 61%に相当する。
コカインのような娯楽用ドラッグのように価格弾力性が非常に高い製品の場合、警察が最終需要の 61%を押収すればいいだけだ。そうすれば価格は必ず急騰するわけだ。
そして、いわゆる麻薬戦争の不条理な経済状況の話に至る。
この場合、DEA (麻薬取締局)を筆頭とする数十万人の国内法執行官、数千人の沿岸警備隊やその他の国境警備隊、そして今や 400億ドル (約 6兆3000億円)規模の海軍空母戦闘群を動員して、アルコールと同程度の致死性しかない 31万2000ポンドの麻薬を追跡するというのだ。
結局のところ、アメリカ政府はあらゆるレベルで麻薬戦争に年間約 1,000億ドル (約 15兆7000億円)を費やしている。たとえそのうちのわずか 20%がコカインの密売に直接的に費やされたとしても、押収されたコカイン 1ポンドあたり約 32万ドル (約 5000万円)の利益となる。
確かに馬鹿げた話だが、それでもまだ話の半分にも満たない。警備、阻止、補給物資の破壊にこれだけの費用をかけると、価格は急騰する。
以下に示すように、コロンビアで栽培されたコカインペーストの農場出荷価格は 1ポンドあたりわずか 382 ドル(約 6万円)だが、国内での加工と出荷地点への配送でさらに 1ポンドあたり 525ドル (約 8万2000円)上昇し、さらに阻止コストが急騰する。
Grok 4によると、米国での陸揚げ価格は 1ポンドあたり約 11,320ドル (約 178万円)と推定されている。しかし、米国に到着する 82万6,000ポンドの輸送コストは、輸出港での価格上昇分である 1ポンドあたり 10,340ドル (約 163万円)とは比較にならない。
この 10倍の値上げは、法執行機関への対抗措置と、最終顧客への輸送途中で差し押さえによって失われる 61%の物資の補償にかかる高額なコストを端的に表している。
さらに、以下の表に示されているように、米国国境での不法輸入から小売価格に至るまでには、さらに約 5倍の値上がりがある。言うまでもなく、通常の合法的な商取引における標準的な輸入価格と小売価格の比率は、2列目のコーヒーの事例に示されているように、2倍だ。
コカインのコロンビアの農場出荷価格から小売価格までのマークアップ(小売り上昇分)は、小売流通される製品 1ポンドあたり 142.5倍、つまり 54,050ドル (約 850万円)だ。
対照的に、コロンビアで栽培され合法的に流通するコーヒー豆の場合、農場出荷価格と小売価格の間のマークアップは 1ポンドあたりわずか 2.86倍だ。コカインの農場出荷価格がコーヒー豆の 100倍以上高い唯一の理由は、1ポンドのペーストを作るのに十分な量のコカインの葉を生産するのに、1ポンドの醸造用コーヒーチェリーを栽培するのに必要な土地の約 500倍の土地が必要になるからだ。
したがって、コカインの取引が合法化され、農場で生産された葉ベースのペーストが 1ポンドあたり 382ドル (約 6万円)で、合法的な船会社と国内のドラッグストア販売業者によって取り扱われる場合、街頭小売価格は 1ポンドあたり約 1,100ドル (約 17万円)となり、現在の水準より 98%低くなる。
言い換えれば、禁止にかかるコストは 1ポンドあたり 53,000 ドル (約 830万円)以上になる。
法執行とコカインの小売価格の禁止にかかる 1ポンドあたり 53,000ドルの費用は、実際は何に充てられるのだろうか。
それはつまり、暴力的な犯罪組織に充てられるだけなのだ。まったく、それだけなのだ。
それでもなお、トランプは 400億ドルの海軍空母戦闘部隊を動員し、アメリカの街路、道路、そして地域社会で、まったく不必要な犯罪をさらに増やすことで、狂気をさらに増幅させている。
ここまでです。
これは、お読みになればわかる通り、筆者はコカインを許容しているのではなく、以下のことを「馬鹿げている」と述べているのです。
・海外からの流入を阻止すればするほど、末端価格は上昇し、その利益はすべて違法組織のほうに渡るだけ。
・そのために、コカイン組織はさらに規模を大きくし、強大化する。
・そんなことのために、15兆円などの政府予算を充てている。
ということです。
トランプ大統領が就任してからの、意図的なのか、それが勘違いなのかは別として、行ってきた数々のことは、アメリカ・ファーストにはまったくなっていないことが最近次々と示されています。
雇用もそうです。
トランプ氏が、2025年4月に「関税政策を発表してからのアメリカの製造業の雇用者数」は急落に次ぐ急落を続けています。以下の記事にあります。
・トランプ氏が関税政策を発表してからのアメリカの製造業の雇用の急落がものすごいことに
BDW 2026年1月10日
この雇用の方はともかくとして、トランプ氏は、ベネズエラに続いて、コロンビアやキューバなどにも脅しとも取れる発言を行っていますが、それがドラッグ戦争であるとするなら、すべてが、上でご紹介したデイビッド・ストックマン氏の述べていた理論通りの結果となり得ます。
つまり、
「ドラッグの価格はどんどん上昇し、各国の犯罪組織の財政と規模が拡大していく」
ということですね。
まあ……難しいところですが、どんなことでもそれは言えるようには思います。
どんなものでも、非合法化、アングラ化すると、それは闇に潜り、さらに実態のわからない組織によって、自由に価格設定がなされる。麻薬だけではなく、風俗や賭博の世界もそうだと思われます。
くどいようですが、麻薬を許容しているわけではありません。なければないほうがいいに決まっています。方法論にどこか間違った部分が常にあると。
日本でもそういうことはあり、今に続いています。
1瓶40円だったヒロポン。今では1グラム6万円に
終戦前後の日本には、大日本製薬が発売したヒロポンという薬剤がありました。もちろん合法の市販薬ですが、成分は今でいう覚醒剤と同じです。
以下は一般社団法人 北多摩薬剤師会のページの説明です。
終戦の頃“ポンちゅう”という言葉がありましたが、つまりヒロポン中毒のことで、覚醒剤と覚醒剤中毒の代名詞が昭和18年から25年にかけて大日本製薬が発売したヒロポンでした。
我国薬学の祖として有名な長井長義はドイツ留学の後、明治16年(1883年)の政府出資官製会社の大日本製薬の設立に技師長(のち東大教授)として参画、その後明治18年(1885年)には麻黄よりエフェドリンを単離し世界で初めてエフェドリンと命名し、その後誘導体のアンフェタミン類までも抽出合成に成功しました。
この喘息治療薬のエフェドリンの合成過程から誘導されるアンフェタミン類つまりアンフェタミンとメタンフェタミンのうちメチル基の付いているメタンフェタミンの方が薬理作用が強くこれがヒロポンで…
この価格が、昭和24年(1949年)の時点で、50錠入り 43円 (闇価格ではなく一般市販価格)でした。当時と今の価格を比べるのは難しいですが、2020年のビジネス・インサイダーの記事のタイトルに「戦後、東京では、うどん1杯30円だった」というものがありましたので、物品によりますでしょうが、今は当時の十数倍から二十倍程度と考えてみますと、50錠入り 43円のヒロポン(が今でも売っていれば)は、現在の価格だと、せいぜい 600〜 800円ということになります。現在の安価な市販薬にもよくある価格です。
しかし、現実として、今の覚醒剤の末端価格を AI にきいてみますと、以下のようなことでした。
> 日本国内における覚醒剤の末端価格は、1グラムあたりおよそ6万円から7万円前後で推移しています。
>
> したがって、単純計算で10グラムの覚醒剤の末端価格は、およそ60万円から70万円程度と考えられます。 Gemini
1グラムって、塩でいえば、親指・人差し指・中指でつまんだ、ひとつまみの量くらいですよ。それが 6万円という狂気の価格となっている。
こういうように、アングラ化すると、何でも狂気の価格帯へ突入するのはよく見られるところです。
では、どうすれば、こういう違法なものを社会からなくすことができるのかというと、それは誰にもわかりません。
それでも、トランプ氏のようなやり方は、今後もアメリカ国内での違法ドラッグの価格をつり上げることになることは確実で、そして、それは違法組織の規模のさらなる拡大に繋がります。その上、その費用のために、アメリカの債務は増えていくということになることも確実です。
世界のあり方はあまりにも複雑で、その中でトランプ氏のような単純な理論を信奉すると、どうしようもない泥沼に社会は突き進みやすいのかもしれません。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ ご登録へ進む





