小惑星リュウグウは地球と接触していないため、地球汚染の可能性は極めて低い
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウから回収して地球に持ち帰った試料から、ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニンの 5種のすべての核酸塩基(DNA や RNA を構成する)が発見されました。
論文は、科学誌ネイチャーの以下にあります。
炭素質小惑星(162173)リュウグウにおける標準的な核酸塩基の完全なセット
A complete set of canonical nucleobases in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu
nature.com 2026/03/16
これに関して、2022年にも、日本の研究チームが隕石から 5種のすべての核酸塩基を発見したということがありました。
以下の記事でふれています。
・地球の生命は宇宙から来たことが確定か:北海道大学やNASAによる国際研究で、最新分析法により「隕石から5種類すべてのDNA・RNAの塩基」が世界で初めて発見される
In Deep 2022年5月2日
これも非常に大きな発見だったのですが、今回の発見がこのときと違うのは、
・2022年の際に調査したのは「地球に衝突した隕石」であること
つまり、大気圏内に入り、地球上に衝突したものであり、地球の大気や土壌から(地球上の微生物などにより)汚染されている可能性を完全にはゼロにはできなかったということがあります。
それで、
・今回の発見は、地球に接触した経歴がないと思われる完全に宇宙空間に存在している小惑星から検出された
ということで、地球汚染の可能性がほぼないのです。
つまり、完全に汚染の可能性を排除するわけではないにしても、
「宇宙空間に存在している小惑星から、生命の素材である 5種類のすべての核酸塩基が発見された」
ということになり、地球の生命の「宇宙由来説」が、さらに高まったといえます。
今回の発見について、九州大学の奈良岡 浩教授が、リリースを出していました。以下です。
小惑星リュウグウ試料から5種すべての核酸塩基を発見
~炭素質小惑星にはDNA/RNAの素材が普遍的に存在~
ポイント
・小惑星リュウグウからDNAおよびRNAを構成する5種すべての核酸塩基(プリン塩基:アデニン・グアニン、ピリミジン塩基:シトシン・チミン・ウラシル)を発見した。
・小惑星リュウグウのプリン塩基とピリミジン塩基の存在比は、核酸塩基の生成経路を反映することを示した。プリン/ピリミジン比とアンモニア量には、明瞭な相関性を有することから、非生命的な核酸塩基の分子進化指標を提唱した。
・2つの炭素質小惑星リュウグウおよびベヌーに5種すべての核酸塩基が存在する観測事実は、遺伝物質の構成要素が太陽系形成過程において普遍的に生成されていたことを意味し、化学進化に関する重要な一次情報を確証した。
概要
小惑星リュウグウ試料を用いた初期分析では、RNAに含まれるピリミジン塩基であるウラシルが検出されていましたが、試料量の制約により、他の核酸塩基の網羅的な探索は、未踏の科学課題として残されていました。そこで本研究では、JAXAの国際公募(AO3)で採択・分配されたリュウグウ試料を用い、同試料に含まれる核酸塩基の精密な評価を行いました。
その結果、リュウグウ試料には、DNAおよびRNAを構成する5種すべての核酸塩基(プリン塩基:アデニン、グアニン、ピリミジン塩基:シトシン、チミン、ウラシル)が、存在することを明らかにしました(図1)。

図1 リュウグウ試料を用いた国際公募研究(AO3)に提案し、採択・分配された試料(A0480およびC0370)の顕微鏡写真
これら5種の核酸塩基の存在確定と分子多様性の評価は、初めての報告です。本成果は、炭素質小惑星には、水―鉱物―有機物の相互作用により、多様な核酸塩基分子群を内在させること、生命誕生以前には、遺伝物質の基本構成要素がすでに存在していたこと、を示す一次情報を提示します。
ここまでです。
やや難しいところもありますけれど、最後のほうの、
> 生命誕生以前には、遺伝物質の基本構成要素がすでに存在していた
と明確に書かれているあたりがポイントでしょうか。
宇宙は生命の要素に満ちている
もちろん、このように「生命のすべての素材」を含有している隕石や小惑星は、リュウグウだけではなく、それこそ星の数ほどあると推定されるわけで、
「宇宙は生命の要素に満ちている」
ということが、今回の研究で明らかになったのだと思います。
ここまでの研究の進歩の過程は結構早く、NASA が、「DNA が宇宙で生産されている証拠を発見した」と発表したのが 2011年8月(それについての当時の In Deep の記事)、そして、米カリフォルニア大学が、「宇宙全体に DNA ブロックが散らばっている可能性を示唆する論文」を発表したのが、2013年3月(それについての当時の In Deep の記事)でした。
その後、先ほど書きました日本の研究者たちと NASA が、隕石からすべての核酸塩基を発見したと発表したのが、2022年4月。
それから、今回の宇宙の小惑星からすべての核酸塩基を発見したと発表があったわけでした。
ちなみに、リュウグウの分析はずっと続いていたのですが、2023年頃の分析では、5種のうち「ウラシル」というものだけが発見されていました。そこで、今回はより多くの試料を使って全 5種を明確に確認したということのようです。
ちなみに、5種の塩基以外に発見されたものとしては、以下のようなものがあったようで、これらも、「生命の前駆体」としての相互作用が小惑星の中で起きていたことを裏付けるもののようです。実際には難しくて私にはよくわからないですが、発見されたものを挙げておきます。
リュウグウから発見された他の物質
・ヒポキサンチンとキサンチン
これらは、DNA や RNA の核酸塩基のうち、アデニン、グアニン(プリン塩基と呼ばれます)の骨格となる化合物の「生合成中間体」ということだそうで、難しいことはともかく、「生命の化学進化の橋渡し」のような役割を持っているようです。
・6-メチルウラシル
これは、地球の生物ではほとんど見られないため、リュウグウが地球での汚染にさらされていない証拠にもなり得るようです。
・ビタミンB3(ニコチン酸) ← 代謝に不可欠な化合物。
・アミノ酸、尿素、エタノールアミン などの含窒素有機分子
これは、小惑星リュウグウの有機物が、従来考えられていたより多様性が高いことを示しています(小惑星はもっと無機的なものと考えられていました)。他にも、以前の報告で、アミノ酸 20種以上、PAHs(多環芳香族炭化水素)、各種アミン、カルボン酸などが報告されています。
要するに、宇宙の隕石や小惑星というのは、「わりと生き物っぽい素材で満ちている」という感じでしょうか。
もちろん、これは厳密にはパンスペルミアとはまた異なることですが(パンスペルミア説は、ウイルスや細菌などの生命そのものが宇宙から地球に飛来しているという説)、少なくとも「宇宙は生命の素材に満ちあふれている」という概念が確立しそうなことが今回の研究で明らかになったようです。
もはや、宇宙空間は何も存在しない無機質な空間、という概念は消え去ろうとしています。
そう考えますと、「宇宙空間全体が生命の提供の場」だとも言え、考え方としては、ロマンのあるものにはなり得ます。
もちろん、これだけで、地球の生命はすべて宇宙由来だと断定することはできないにしても、この分野の日本の研究は突出して素晴らしいものであるといえますので、今後のさらなる研究が期待されます。
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