国際研究チームの声明発表を記事にした2016年3月11日のサイエンスアラート
今日、偶然見た医学記事が上のタイトルのもので、そのかなり強い主張に軽く衝撃を受けまして、それをご紹介しようと思います。
これは簡単に書けば、「アルツハイマー病の原因は微生物」だということを、31人からなるアルツハイマー病の国際研究チームが、「声明」として発表したというもので、おそらく、医学の世界的にはそれなりの大きな話なのかもしれません。
正確には、1種類のウイルスと2種類のバクテリアがアルツハイマー病の発症原因となる可能性についての「仮説」なんですが、今回は、あまりいろいろと前置きは書きたくないですので、すぐに、その科学ニュースをご紹介しようと思いますが、結局、この仮説が正しいとした場合に出てくる問題としては、本文記事にもありますけれど、
「アルツハイマー病がウイルスやバクテリアによる原因で発症するものだったとすると、アルツハイマー病が《人から人へと感染していくもの》という可能性が出てきてしまうことになってしまう」
ということだと思います。
いろいろな意味で、これは確かに問題のある視点となる可能性はあります。
ただ、たまに取り上げますけれど、ここ数年、あるいは10年、20年などのアルツハイマー病の増え方は、その原因をどんな側面から考えても理解しがたいほど「急激」としか思えないことも事実です。一般的な理由はもはや何も当てはまらないほどだと思います。
過去記事の、
・「認知症は20代から脳内で進行している」…
2016/02/18
・アルツハイマー病の発症を「最大17年間遅らせる」ことができる遺伝子が…
2015/12/02
などに載せました下のそれぞれのグラフ・・・。
日本の認知症患者の推移(青がアルツハイマー病)
2013-2050年までの世界の認知症の推移の予測
・The Global Impact of Dementia 2013–2050
何を理由としたら、こんなに急激な増え方を示すことができるのかと。
今、「何を理由としたら」と書いたのですが、似たような曲線を示す可能性のあるものが「感染症の患者数の増加」なんです。少なくとも、グラフでは、とてもよく似た曲線を描きます。
少し前に、
・開き続けるパンドラの箱:アメリカ国立感染症研究所の感染症マップが示す、この30年間が「異常な病気の出現の時代」であったこと…
2016/02/15
という記事で、「この 30年間は感染症の時代だった」ことを書いたのですが、それら感染症の中での「世界的に広がっていったいくつかの病気」の増加のグラフと何となく似ているのです。
でもまあ、「アルツハイマー病はウイルスやバクテリアが拡散しているかもしれない」なんてことは、素人の私に書けることでもなく、ふれることはなかったのですが、今回、専門家たちの声明を見つけましてご紹介しようと思った次第です。
そしてまあ・・・。
そんなことは絶対にないと思うのですが、何となく、
「人類は、アルツハイマー病のパンデミックという事態に直面したりする時代を迎えるような可能性もあったりするのだろうか」
というような考えも頭の中に出てきてしまったりしまして、また何とも複雑な寂しさが思われる次第です。
そんなばかげたことはあり得ないとして(ほんとに)、ともかく、国際研究チームの声明についてのサイエンスアラートの記事をご紹介します。
その専門家などの主張する治療法などついて、内容的に違和感のある部分(殺菌や抗菌で対処しようとするようなことが書かれていますが、それはさすがに無意味だと思うのです)もあるのですが、そういことに関しましては、今後の記事で、最近覚えました「殺菌の真実」というものと共に書いてみたいと思っています。
これに関しては、夏井睦さんとい外科医のお医者様の著作などでも知ったことですが、特に、『傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学』という本の Amazon のレビューを読んでいただいても、「私たちは傷と細菌について、とんでもない勘違いをして長い間生きていたこと」がわかると思います。
私が昔から疑問だった「殺菌に関しての疑問」について納得したものでしたが、それを書きますと話が逸れすぎますので、今回は、純粋に「アルツハイマー病の原因についての仮説のひとつ」をご紹介したいと思います。
Scientists identify a virus and two bacteria that could be causing Alzheimer's
Science Alert 2016/03/11
科学者たちは、アルツハイマー病の原因となる可能性のある1種類のウイルスと2種類のバクテリアを同定した
「私たちはこの証拠を無視し続けることができないのです」
31人のアルツハイマー病研究者からなる国際的な研究グループは、アルツハイマー病の原因について、従来の医学の世界の通説を覆す主張を含む声明を発表した。
そのメッセージは明確だ —— 医学界はこの 10年間、アルツハイマー病の治療と予防に失敗し続けたが、今、アルツハイマー病が微生物によって拡散されていることを示す証拠を再評価する時に来ているというものだ。
今回の声明では、具体的にはヘルペスウイルスが関与していることと共に、すでにアルツハイマー病との関連が指摘されている2種類のバクテリア(細菌)について言及している。
科学者たちが、ウイルスやバクテリアがアルツハイマー病の原因となる役割を持っていることを疑ったのはこれが初めてのことではない。以前の研究では、アルツハイマー病を持つ人々は、他の人たちよりも、真菌を含む微生物に感染しやすい傾向が示されていた。
しかし、これらの微生物とアルツハイマー病の関係を見極めるための試みは失敗してきた。
そして今、アルツハイマー病の発症に関しての有力な仮説は、脳内の粘着性のアミロイド斑と、タウタンパク質(神経細胞で発現している微小管随伴タンパク質)の蓄積によって引き起こされ、ニューロンと伝達システムの間の通信を阻害し、記憶喪失や認知機能の低下を招き、そして最終的には死に至るというものになっている。
声明では、今こそ、特定のウイルスやバクテリアが脳内に最初のこれらのプラークの蓄積を誘発しているという考えを真剣に検討するべき時が来ていると主張する。
そして、抗菌薬が脳内のプラークの蓄積を止めるのに役立つ可能性があるかどうかを調査する時だと。
研究者たちは、調査する必要がある最初の微生物は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)であると言う。これは、クラミジア菌、及びスピロヘータと呼ばれるスパイラル状の細菌の種類だ。
声明文の執筆者のひとりである英国マンチェスター大学の生化学者、ダグラス・ケル(Douglas Kell)氏は以下のように述べる。
「アルツハイマー病は、活動を休止している微生物によるものだという証拠に疑いの余地はないと私たちは今まさに言っているのです。このすべての証拠を無視し続けることは、私たちにはできないのです」
声明によると、公開された医学論文には、単純ヘルペスウイルス1型とアルツハイマー病の関係を示したものが約 100 見出されるという。
もし、微生物がアルツハイマー病の原因となる役割を果たしていることが確認された場合、アルツハイマー病が手術や輸血を介して拡散する可能性があることを示唆する証拠を強化する説明が可能となる。
微生物が病気の起源であるというこの説明は、たとえば、胃潰瘍や、いくつかのガンが微生物の感染症によって引き起こされるなど、他のいくつかの疾患についての最近の理解にも寄り添うものだと思われる。
では、どのような仕組みでウイルスやバクテリアがアルツハイマー病を引き起こす可能性が考えられるのだろうか。
ここが問題なのだ。
私たち科学者は、いまだにこの部分がわからない。それが、微生物とアルツハイマー病との関係を調べる領域の研究が失速した理由のひとつだ。
しかし、ヘルペスウイルスは、すでに神経系に損傷を与えることが知られており、そして微生物への感染は、身体周りに炎症を起こすことが知られており、これは、アルツハイマー病の特徴でもある。
今なお、多くの研究者や助成団体は、ウイルスやバクテリアとアルツハイマー病の間の関係には議論の余地がある、あるいは、根拠がないとする態度を持つ。
その代わりに、アルツハイマー病の原因をウイルスやバクテリア以外に求めることを選択した。
ロンドン大学の神経科学者、ジョン・ハーディ(John Hardy)氏もそういうひとりだ。氏は以下のように述べる。
「アルツハイマー病の原因がウイルスやバクテリアと関係しているという主張は、あくまで少数意見でしかありません。私たち研究者は常に様々な意見に心を開く必要はあるかもしれませんが、この声明は、ほとんどのアルツハイマー病の研究者たちの考えを反映しているものではありません」
確かにハーディ氏の意見は十分に公正なものだが、過去 10年間で、仮説を立てることに失敗し続けた 400例以上にものぼるアルツハイマー病の発症原因の研究が存在する。
この 10年間で、アルツハイマー病に関しては、何の解決策も進んでいない。
声明の著者たちは、医学誌「アルツハイマー病ジャーナル(the Journal of Alzheimer's Disease)」に次のように書いた。
「アルツハイマー病はウイルスやバクテリアと関係するという主張に基づく治療が、アルツハイマー病の進行を減速させたり、あるいは進行を停止させる可能性があるにも関わらず、アルツハイマー病疾患の1つの特定の態様が無視されてきたことに対しての私たちの懸念を表明するために声明を出したのだ」
「私たちは、アルツハイマー病の原因と、感染性病原体の役割について、その更なる研究と、抗菌薬治療の期待に対しての試験が正当化されることを提唱する」
英国アルツハイマー協会のジェームズ・ピケット(James Pickett)研究部長は、次のように述べる。
「これらの観察は興味深く、さらなる研究が保証されているとはいえ、アルツハイマー病の大半の原因が、微生物によって引き起こされているということを私たちに伝えるには、現状ではその証拠は不十分だと考えます」
「アルツハイマー病が伝染性であったり、あるいはウイルスのように人から人へ伝播していく可能性があるということについて、今のところは説得力のある証拠はないということを私は人々に伝えて、安心させてあげたいです」
同時にピケット氏は以下のように言った。
「そして、全世界で急速にアルツハイマー病の問題が大きくなっている中で、これはフォローアップする以上の価値を持つ仮説でもあるかもしれません。なぜなら、アルツハイマー病がなぜ発生するかの理解へ近づくためには、原因ではないものも絞り込む必要があるからです」
「今後 10年間で、認知症の研究には 1億ポンド(160億円)が投じられますが、私たちは、すべての可能性についての研究を歓迎します。それは、認知症の原因を完全に理解し、状態の診断と治療、そして予防の方法を改善するためです」
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