聖アントニウスの火
以前から、私自身はウイルスの水平感染による発症という概念(要するに「人から人にうつる」という概念)をあまり信じていないということを書くことはありました。
まあしかし、それはとりあえず置いておいて、今の日本はまさにインフルエンザの大流行といってもいい状況になっているようで、以下はさいたま市のデータですが、例年より 5週間早く「昨年の最大流行期を超える患者数」が示されています。
さいたま市インフルエンザ週報 第47週

city.saitama.lg.jp
最近、過去の比較興味深い事例を知ってですね。アメリカの「感染ではなく毒:体の治癒反応が病気のように見える理由」というタイトルの記事で、中世に起きたある出来事を知りました。
これは、西暦 900年代から起きた、当時は感染症と考えられた病気が何度も大規模に発生し、当時は「聖アントニウスの火」として恐れられていたらしいのですが、これが実は
「感染症ではなく、食べ物による中毒だった」
ことが「 700年後になって」判明するという出来事です。Wekipedia などにもありますが、先ほどの記事には、以下のように記されています。
Sayer Ji 氏の記事より
古代の謎の再考
中世ヨーロッパでは、恐ろしい疫病が周期的に地域社会を襲った。犠牲者たちは激しい灼熱痛に苦しみ、切断を懇願し、手足が壊疽して黒ずんでいくのを見守り、痙攣や幻覚に苦しみ、しばしば死に至った。
数日のうちに村全体が病に倒れることもあった。この集団感染のパターンから、医師や聖職者たちは伝染性の疫病を目撃していると確信した。彼らはこれを「聖アントニウスの火」と呼び、医学ではこれを止める力がないように思われたため、神の介入を祈った。
この真実が明らかになるまでに何世紀もかかった。判明したのは、「聖アントニオの火は全く伝染性ではなかった」ということだった。
麦角中毒、つまり湿潤な生育期にライ麦を汚染した菌類が産生する有毒アルカロイドによる中毒だった。
村全体が同時に病気にかかったのは、病気が人から人へと広がったからではなく、村の全員が同時に汚染された収穫物を食べたからだった。真の原因が特定されたのは 1695年になってからだ。それまで、何世紀にもわたって、麦角中毒はペストと誤診されていた。
このことから、不安な疑問が浮かび上がる。これまでウイルスや細菌が原因とされてきた感染症の大流行のうち、実際に共通の毒素への曝露が原因だったものはいくつあったのだろうか?
症状を具体的に書くと、
・四肢の灼熱感と激痛 → 壊疽 → 手足が黒く腐って自然脱落
・激しい痙攣発作、幻覚、錯乱、狂気
・流産、子宮収縮
などで、つまり「幻覚+痙攣+血管収縮による壊疽」が同時に起きるというような、非常に厄介な病気で、中世の時代には、これをペストのような感染症としていたのですが、しかし、これらの症状が同時に出るという感染症というのは存在しないのです。それまでにも流行があった、ペスト、癩病、天然痘などでは説明不能であり、そして、「 700年後」に、これが、ライ麦などに発生しやすい麦角菌というものによる中毒症状だとわかったのでした。
人から人に感染したものではなく、「みんなが同じ中毒になっていた」のです。
しかし、先ほどの記事では、さらに、
「本当に毒性は感染しなかったのか?」
ということに次に焦点を当てていまして、つまり、このような中毒でも「人から人に伝播する可能性」について、エクソソームとの関連を記していました。
エクソソームとは、細胞から分泌される小胞で、タンパク質や RNA などの情報を運んで細胞間のコミュニケーションを担う物質のことで、ウイルスとの区別がつきにくいですが、どちらかというと、ウイルスよりもエクソソームのほうが構造は複雑で、ウイルスが「細胞の機能を乗っ取って増殖する」のに対して、エクソソームは、
「細胞自身の活動の一部」
であり、細胞と細胞のコミュニケーションを行うのがエクソソームです。
そして、このエクソソームが、
「毒による損傷を他者に伝播する可能性」
が示された研究についてふれられています。
それは、アセトアミノフェン(カロナールなどの有効成分)の毒性実験をマウスに対して行ったもので、記事では以下のようにあります。引用された論文そのものは、こちらにあります。
ちょっと専門用語が飛び交いますが、ポイントは「損傷を他者に運んだ」という部分です。
セクション「アセトアミノフェンの物語:毒性を理解する上での転換点」より
2018年、サイエンティフィック・リポート誌に掲載された重要な研究が、このメカニズムを劇的に証明した。
研究者たちはマウスに毒性量のアセトアミノフェンを投与した。予想通り、マウスの肝臓は深刻な損傷を受けた。しかし、この実験が驚くべきものとなったのはここからだった。
科学者たちは損傷を受けたマウスの血液からエクソソームを分離し、アセトアミノフェンに曝露されたことのない健康なマウスに移植した。
結果は衝撃的だった。アセトアミノフェンを摂取したことのないマウスもまた、肝障害を発症したのだ。肝細胞は同じパターンで死に始めた。マウスの体は、元の中毒マウスに大量に放出されたのと同じ炎症性サイトカイン(TNF-αとIL-1β)を放出した。
受容体マウスの肝臓では、リン酸化JNK、アポトーシス促進性Bax、切断されたカスパーゼ3という、同じアポトーシスカスケードが活性化した。つまり、エクソソームは損傷をマウスからマウスへと運んだのである。
薬物に曝露された肝細胞は、その苦痛をエクソソームに包み込み、血流中に放出する。
そして数時間後、そのエクソソームは心臓、腎臓、脳といった遠隔細胞に侵入し、同じ死のプログラムを実行させる。毒素自体はこれらの遠隔細胞に到達しない。到達するのは、損傷というメッセージだけだ。このようにして、局所的な薬物効果が全身的な危機へと発展する。
ここでエクソソームが運んでいるのは、「毒物そのものではなく」、「毒物による損傷のシグナル」です。
つまり、細胞死などの経路を活発化させることによって、「毒性が他者に伝播されたように見える」ということですね。
結果として、
「まるでウイルスが水平感染したように見える状態」
のように周囲も同じ症状で倒れていく。
たとえば、風邪やインフルエンザなどですと、症状の強い人は、さまざまな炎症や発熱を含む「症状」を出すことがありますが、この風邪を例にとれば、ウイルスがうつるのではなく、「症状や炎症が人にうつる」というような図式でしょうか。
なお、過去の実験では、
「ウイルスそのものを他人に感染して発症させようとする試みはすべて失敗に終わっている」
という現実があります。
少し振り返ります。
感染や伝播しているものは何なのか?
昨年、以下のタイトルの記事を書いたことがありました。
・スペイン風邪の流行の要因を合理的に常識的に考えると、すべてのパンデミックの医学的「神話」は崩壊するはず
In Deep 2024年6月26日
これは、1918年から 1919年に世界的に流行したスペイン風邪(インフルエンザ)で多くの患者や犠牲者が出た理由は何なのかということについて書かれた「スペイン風邪の誤った神話を打破する」という記事をご紹介したものです。
非常に長い記事で、いろいろな項目があるのですが、その中に「インフルエンザの強制感染実験」という項目があります。今だとちょっとできない実験ですが、第一世界大戦下でパンデミックが発生したという状況下では許されたのでしょう。
以下のような実験を行ったのです。
1919年のインフルエンザの強制感染実験
最初のボランティアたちは、まず 1種類のインフルエンザ株を、スプレーと綿棒で鼻と喉に、そして目に接種された。しかし、この処置で病気が起こらなかったため、他のボランティアたちはインフルエンザ患者の喉と鼻から分離された他の細菌の混合物を接種された。
次に、ボランティアの一部がインフルエンザ患者の血液を注射された。最後に、ボランティアのうち 13名がインフルエンザ病棟に移され、それぞれ 10名のインフルエンザ患者に接触した。
各ボランティアは各患者と握手し、至近距離で会話をし、患者が顔に向かって直接咳をすることを許可した。
しかし、これらの実験に参加したボランティアの誰もインフルエンザを発症しなかった。ロゼノー博士は明らかに困惑しており、否定的な結果から結論を導き出すことに対して警告した。
「インフルエンザ患者の血液を注射された」されたり、「インフルエンザ患者の喉と鼻から分離された混合物を接種」されたりしても、誰一人としてインフルエンザを発症しなかったと。
アメリカのサンフランシスコでも、同様の「強制感染実験」が行われたましたが、それもまた「インフルエンザを発症させる」ことはできませんでした。
この記事そのものは、結論として、1918年に主要国でインフルエンザが過度に流行した理由について以下のように推測しています。
・ガス弾など第一次大戦では大量の化学物質が使われ、生物学的に(身体が)崩壊していた人たちが多かった。
・戦時下で、基本的な衛生状態が非常に悪かった。
・極端な栄養不足が蔓延していた。
・同時に、人々に極端な社会的ストレスが広がっていた
・何百万人もの兵士に対して実験的な大量予防注射を行った弊害
などで、食糧や水の不足、劣悪な衛生状態、環境中の過剰な毒素(この場合は戦闘で使われたガスや化学物質など)、そして大きな社会的ストレスの下で、何らかの疫病が流行するのは、歴史的な事実だと結論付けています。
それで、ここに先ほどの「エクソソームが損傷を運搬する」ということを思い出しますと、そういう劣悪な社会環境では、
「様々な損傷や炎症が人から人にエクソソームを介して運ばれる可能性がある」
と考えることは、それほど荒唐無稽な考えではないのかなと。
ある意味で、これは「水平感染」なんですけれど、ウイルスや病原体そのものの水平伝播ではなく、「損傷と炎症」の伝播です。
あと、昨年のメルマガ(2023年2月3日のメルマガ 第232号)で、1927年の論文(つまり、100年ほど前の論文)をご紹介したことがあり、ここでも、「風邪の強制感染実験」をしていて、「誰も風邪を発症しなかった」という結果が示されています。
1927年の論文『風邪』 - 風邪は伝染しない、より
私が最初に反対したいのは、「風邪が急性の感染症である」という概念だ。
私は、急性の風邪をひいた人の分泌物を、風邪をひいていない多くの人々に接種する実験によって、これ(「風邪は急性感染症だ」という概念)を反証することができた。
一般に感染症は潜伏期または初期段階で最も伝染性が高いため、接種には分泌物が最も豊富な時期を選んだ。
しかし、この実験で風邪をひいた例は一度もなかった。
風邪が急性感染症である場合、その起源または原因はほぼ常に確実に追跡できる。しかし、これはかなり難しいことであり、「どこかで風邪をひいたに違いない」という発言で起源が消えているのが一般的だ。
確かに、風邪は家族や社員が密接に関係しているオフィスを介して伝染するが、これは、風邪が他の人との接触によって広がることを証明するものではない。
そして、風邪は「アルカリ性バランスの乱れ」だという結論に達し(重曹水での治療の成功例を示しています)、酸の基本平衡の乱れをただすことで、予防あるいは治療できるとしていたものでした。
当時、読者の方々にも、この内容を検討してみてほしかったので、論文全文を機械翻訳で PDF にしています。こちらにあります (当時の機械翻訳で日本語はやや変です)。
ここにある「確かに、風邪は家族や社員が密接に関係しているオフィスを介して伝染する」ということに、エクソソームによる伝播(ウイルスではなく症状が伝播する)という概念を持ち込むと、密接した空間で、症状が広がりやすいことも何となく理解できます。
そういう意味では、大した症状でもないのに病院などの病人が多くいる場所に行くことは、やや考えものなのかもしれませんね。
毎年、呼吸器感染症が流行する時期には、感染症とは何なのか、ということをよく考えます。
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