8月3日のロシア・トゥディより
・Cryptic fireball streaking over US base in Greenland puzzles NASA scientist
昨日、ロシアとアメリカの報道で、いっせいに、
「グリーンランドにあるアメリカ軍基上空で《謎の飛翔体による小型の核爆弾並みの爆発》が発生」
ということが伝えられました。
しかし、その後、その「謎の飛翔体」は、隕石か流星だということになり、最近よくある天体の爆発事象ということになるのですが、それにしても、どんな記事を見ても、見出しや本文の中に、それが宇宙関係のニュースサイトであっても、
「核(nuclear)」
という言葉が必ず出てくるのです。
たとえば、下はスペースウェザーの今日の記事と、アメリカの天文メディアの記事のタイトルです。
8月4日のスペースウェザーの記事より
・spaceweather.com8月3日のバッド・アストロノミーの記事より
・syfy.com
ふだん「核兵器」とか「核戦争」などという言葉が出ることもない天文関係のメディアで、どうしてこんな言葉が飛び交っているのかと思いましたが、その後、
「もしかすると、この隕石と思われる物体がロシアからの核攻撃と《誤認》され、核戦争に発展する可能性が、たとえほんのわずかでも《あった》かもしれない」
というようなことがわかってきたのです。
少なくとも、人々に心理的にそういうことを想起させたことは事実です。
なかなか複雑な話なのですけれど、まずは、冒頭に示したロシア・トゥディの記事を最初にご紹介しておきます。起きたことと、それに対してのアメリカ側の反応や対応が漠然とながら、おわかりになるかと思います。
ここからです。
Cryptic fireball streaking over US base in Greenland puzzles NASA scientist
RT 2018/08/03
グリーンランドの米軍基地上空で飛来した謎の火球がNASAの科学者を当惑させた
グリーンランドのアメリカ空軍基地から遠くない場所において、小さな核爆弾ほどの威力の正体不明の火球が爆発したことが NASA によって報告された。
NASA の科学者のひとりは、SNS 上に「これはロシアからの攻撃ではない」と平静を呼びかける書き込みをした。
この興味深い報告は、7月下旬に、NASA ジェット推進研究所のロン・バアルケ( Ron Baalke )氏によってツイッターに書き込まれた。
バアルケ氏は、「その火球は、グリーンランドの上空高度 433キロメートルで、アメリカ政府の探知センサーによって 7月25日に探知された」と書いている。
火球の爆発のエネルギーは 2.1キロトン(2100トン)と推定された。
この謎の飛翔体については、米国科学者連盟 核情報プロジェクト(Nuclear Information Project for the Federation of American Scientists)の責任者、ハンス・クリステンセン(Hans Kristensen)氏によっても報告された。
クリステンセン氏は、「"流星"が、チューレ空軍基地のミサイル早期警戒レーダー上で爆発した」と書いた。グリーンランドのチューレ空軍基地は、1940年代からアメリカ軍が活動してきた地球の最北端の米軍基地だ。
同時に、クリステンセン氏はツイッター上に、「これはロシア人がやった」というジョークを書く機会を逃さなかった。
続けて、氏は、「我々には、約 2,000の核兵器があり、発射準備は整っている」とも書いたのだ。
このツイッターへの書き込みから、当惑した氏のフォロワーからはさまざまな意見が書き込まれた。たとえば、あるフォロワーは次のように書いている。
「私の理解が間違っていなければ、その流星が(核攻撃だと)間違って同定された場合、 2000発の核兵器の発射につながったかもしれないということですか?」
また、他のフォロワーは以下のように記した。
「いつか我々はみんな死ぬことになるんだ。間違いでね」
また、他のフォロワーは下のような写真を載せた。
ここまでです。
このロシア・トゥディの記事は 8月3日のものですが、「謎の飛翔体」とありますように、この時点では、天体とも隕石とも同定はされていませんでした。
というか、現時点での「隕石」という結論も推定でしかないですが。
2キロトン級の爆発が何によるものなのかは、隕石などの天体「ではない場合」は非常に複雑な話となりますので、問答無用に隕石などにするというのが慣例です。
その「謎の飛翔体」が、2キロトンのエネルギーの爆発を起こしたグリーンランドのチューレ空軍基地は下の場所にあります。
ロシア・トゥディの記事の流れを簡単にまとめますと、
・グリーンランドの米軍基地上空で謎の爆発が起きたことを米軍のミサイル早期警戒レーダーが捕獲した
・そのことを NASA の科学者がツイッター上で報告した
・その後、「米国科学者連盟 核情報プロジェクト」の責任者であるハンス・クリステンセン氏という人が、「ロシア人がやった」という冗談をツイッターに書いた
・さらにこの人は、「2000発の核兵器がいつでも発射できる状態にある」と書き込んだ。
・それから、インターネット上がザワつき始める
というようなことだったようです。米国科学者連盟 核情報プロジェクトは、アメリカの核運営や核情報には比較的大きな権限を持っているものだと思われます。
その責任者の書き込みに、なぜ「ザワついた」かというと、人々は(私も)このニュースを見て、
「《誤認》が 2000発の核兵器の発射につながる可能性が、たとえほんの少しでも、いつでもあるのだなあ」
ということを思ったからではないでしょうか。
以前、「アメリカとソ連は《誤認》から全面核戦争の一歩手前まで行ったことがある」ことが、アメリカ地球物理学連合の研究で判明したことを記事にしたことがありました。
見てみますと、ちょうど 2年前の今頃で、2016年8月10日の以下の記事でした。
この記事に、「 1967年の太陽嵐は、アメリカを戦争の瀬戸際まで連れて行った」というタイトルのアメリカ地球物理学連合のニュースリースを訳したものを載せさせていただいていますが、どんなことが起きていたのかを簡単に書きますと、以下のようになります。
それは、1967年5月23日のことでした。
1967年5月 米ソ全面核戦争勃発寸前となった後に、それが回避された経緯
・5月23日、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の「弾道ミサイル早期警戒システム」のレーダーが電波妨害を受ける
・アメリカ軍司令部は、これをソ連の戦争行為と判断し、核兵器を搭載した警戒飛行隊に「攻撃の起動準備」を命令。全面核戦争の一歩手前の状況に
・しかし、同日、アメリカ航空宇宙防衛司令部の太陽予報官が、「早期警戒レーダーの妨害は巨大な太陽フレアにより発生した磁気嵐によるもの」だと軍上層部に伝達
・当時のジョンソン米大統領を含むアメリカ政府最高メンバーにまで太陽活動の影響についての情報が伝えられる
・それにより、弾道ミサイル早期警戒システムのレーダー妨害は、ソ連によるものではなく、太陽活動によるものだと政府と軍上層部も理解する
・アメリカ軍による核攻撃は中止され、米ソ全面核戦争は回避された
というものです。
これは 1967年の出来事ですが、アメリカ軍は 1950年代から太陽の研究を進めていて、たとえば、上に「太陽予報官」という言葉が出てきますが、アメリカ軍には 1960年代にすでに、太陽活動の予報官がいたのです。
その太陽予報官や軍の太陽科学者たちの磁気嵐に関しての知識があったからこそ、ソ連への核攻撃は回避されたのですが、もし、この時、アメリカ軍に「太陽フレアやそれによる磁気嵐に関しての知識がなかったとしたら」核戦争は勃発していました。
あるいは、逆に「ソ連軍のレーダーが太陽嵐によって攪乱された」場合にも、同じことが起こり得たのかもしれません。
今回のグリーンランドで起きたことにザワついた背景にあるものは、
「誤認」
でしたが、1967年に起きたことの背景にあったものは、
「知識の欠如」
でした。
この、
・誤認と知識の欠如
により、「数千万人、あるいはそれ以上が死亡するかもしれない事象が勃発する可能性がないとはいえない」ということが、1967年、そしてその 51年後の現在まで続いているということを私たちは知るわけです。
「ちょっとした間違いで、場合によっては数億人がこの世が消える」
そういう世界に住んでいるということを、改めて実感した昨日の報道でした。
1967年も、今年の 7月も、それぞれ何も起きずに済んでいますが、未来永劫に「誤認」と「知識の欠如」による「間違い」が起こらないと断言できる人はこの世にはいないと思われます。
これは誰がいいとか悪いとかというような話ではなく、私たちはそういう世界に住んでいると認識すれば、それでいいのだと思います。というか、そう認識して生きていく必要があるということなのかもしれません。