2017年8月28日の米国のメディア記事より
カタストロフの意味
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ワード「カタストロフ」が飛び交うこの世の中で
最近、ニュース一覧を見ていますと「カタストロフ (catastrophe)」という単語が非常に多く並びます。北朝鮮関係、ハリケーン関係、他にも、やたらと「カタストロフ 」という単語が見出しにある報道が続きます。下はその一例です。
アメリカに近づいているハリケーン「イルマ」についての9月6日の報道
プーチン大統領の言葉を引用した米国CNNの報道
・Vladimir Putin warns world faces 'global catastrophe' over North Korea
人類史上最悪のコレラの大流行に苦しむイエメンについての報道
このうち、ハリケーン「イルマ」というのは、テキサスに壊滅的な被害を与えた「ハービー」ではなく、その後に「現在アメリカに向かっている」ハリケーンで、その勢力は「史上最強」と言われています。
大型ハリケーン「イルマ」、米南部接近へ フロリダが非常事態宣言 (ロイター 2017/09/06)より
米国立ハリケーン・センターイルマを5段階中最強の「カテゴリー5」に引き上げ、フロリダ州のスコット知事は非常事態を宣言。トランプ大統領にも「上陸前」の非常事態宣言を発令するよう求めたことを明らかにした。
イルマは大西洋で発生するハリケーンとしては過去80年間で5本の指に入る勢力。
こういうものが、週末にかけてアメリカに接近します。仮に上陸すれば、先ほどの報道のように「数十兆円の被害」が出る可能性があるとされているようです。
イエメンのコレラに関しては、夏前から記事にしようとしていて結局できなかったのですが、「文明史上最悪のコレラの流行」が続いています。コレラの感染が疑われる市民は 50万人にのぼっています。内戦の影響で、インフラ、医療、流通すべてが欠如しているため、今後の見通しもあまり立っていません。
他にも数多く「スカタストロフ」の文字が飛び交っている現在ですが、その中で、冒頭の記事を見かけたのでした。
これは、オーストリア出身で今はアメリカ在住の歴史学者が出版した著作に関してのものらしいですが、簡単にいうと、近代社会では、
「社会の不平等は、暴力的なカタストロフだけが解消してきた」
ということが研究で見出されたというものです。
今回のこの記事のタイトルには「四人の騎士」とありますが、それについては、本文を読まれればおわかりになるかと思います。これは本文にはないですが、聖書・ヨハネの黙示録に出てくる「ヨハネの黙示録の四騎士」からの着想だと思われます。
この歴史学者は「現在の社会は過去のように暴力的なカタストロフで社会の不均衡が正されるということにはならないのではないか」と考えているようですが、しかし、この歴史学者が現代社会で唯一の「リセット」があるとすれば、それは核戦争だと述べています。
この記事をご紹介したいと思います。
いろいろと考えることの多い最近の世の中ですが、これまでの歴史もまた、いろいろと考えた末に「暴走して変わった」という部分はあるようです。
Is catastrophe the only cure for inequality?
New Statesman 20107/08/28
カタストロフが不平等を解消する唯一の治療法なのか?
なぜ暴力が「平等をもたらす偉大な存在」であり得るのか
リベラルな論者たちの間で、「不平等」の問題を議論することは通常は避けられない。富裕層と貧困層の間の格差は人(政治などのこと)によって作られ、その格差の解消も人によって消えていくとされる。
しかし、ウォルター・シャイデル(Walter Scheidel)氏の最近の著書『The Great Leveler』(平等をもたらす偉大な存在)にはこう書かれている。
「経済的な平等こそが素晴らしいと考える私たち全員は、稀な例外を除けば、過去すべてにわたって、ひたすら失望の中に生まれ続けている」
本作の中の「石器時代から 21世紀への不平等」の研究の章では、スタンフォード大学の歴史家が、社会の中で重要な平等化をもたらした事象が、これまでの歴史で「四人の騎士(Four Horsemen of Levellin)」によってのみ達成されたことに気付いたことにふれる。
その「平等をもたらした四人の騎士」とは、
・大戦争
・暴力革命
・国家の崩壊
・致命的なパンデミック
だ。
その顕著な例として、2つの世界大戦、ロシアと中国の革命、ローマ帝国の崩壊、そして中世の黒死病(ペストのパンデミック)などがある。
このような混乱の激動の後で各政府は不平等を抑制するためにもがいた。
シャイデル氏がオーストリアからアメリカに移住した1999年には、不平等については、メディアや学界ではほとんど議論されていなかった。
しかし、金融危機(リーマンショック)の後、その議論に「本当に爆発ししたかのように大きな変化がありました」とシャイデル氏は述べる。
シャイデル氏は、研究の中で「暴力と平等の相関関係」を直感し、データを調べているうちに、その無慈悲さに驚いたと述べる。
「暴力と平等には相関関係があるという考えには、必ず強力で合理的な反証を見つかることを私は期待していたのです」(しかし、それはなかった)
四人の騎士(大戦争、暴力革命、国家の崩壊、致命的なパンデミック)のそれぞれを結びつけるのは、騎士たちが「確立されていた秩序をひっくり返した」ことです。
確立されていた秩序は、通常はその時の富裕層や権力のある人たちに有利なように確立されていた傾向があるものです。それを四人の騎士は壊し続けた。
騎士のうち、深刻なパンデミックと国家の崩壊は、それまで何百年、何千年続いていた「秩序」を転覆させた。中世の黒死病の流行の際には、ペストで人々が次々と死亡するために労働力不足に陥り、西ヨーロッパでは多くの労働者の賃金が 2倍または 3倍になった。
その一方で、彼らを雇う家主たちの勢力は低下した。
それらの「平等をもたらしたもの」が通った後、例えば、ローマの貴族たちは国家の秩序が崩壊し、法王からの施しだけで生きのびるしかなくなり、マヤの貴族たちは、庶民と同じものを食べるようになったことをシャイデル氏は例に挙げる。
残りの二人の騎士「大戦争と暴力革命」は、 20世紀の不平等を減らすために行動した。 両方の場合において、国家は大幅に経済的役割を拡大し、私有財産は没収、または破壊された。
大戦争と共産主義革命の亡霊は、政治的、経済的権利の拡大を促した。
シャイデル氏は、古代ギリシャの例を引用した。古代ギリシでは、「強烈な一般大衆の軍事動員」と平等主義的機関が、物質的な不平等を抑制するように働いていた。
1980年代に新自由主義に転換して以来、 ほとんどすべての西欧の国々では、不平等が拡大している。新自由主義には、減税、民営化、規制緩和が含まれる。
しかし、シャイデル氏は別の要因を指摘する。すなわち、 「伝統的で暴力的な《騎士の活動》が現在休止状態にある」と言う。
氏は、今後は「平等をもたらす暴力的なもの」ではない、比較的強い選択肢が見つかるのではないかと考えている。つまり、四人の騎士が登場することのない変化をだ。
現在は、技術的な進歩の結果として、幸いにも大戦争の時代は過ぎ去り、そして、医学的な進歩により、パンデミックのような病気の大流行の時代も過ぎた。
そして現在の国家は崩壊したり暴力的な転覆を起こされにくい。
シャイデル氏は以下のように述べる。
「最近は、気候変動について人々が尋ねることが多いです。気候変動が《第五の騎兵》ではないのですか? と。確かに、気候変動はすでに起きているでしょうが、おそらく伝統的なメカニズムのいくつかを通って進んでいくのではないかと思います。もっとも深刻な気候変動によって、四人の騎士が裏口から戻ってくる可能性はあるかもしれませんが」
シャイデル氏は、雇用を排除することによる自動化(産業の機械化)と民族的・宗教的多様性の拡大や再分配に対する公的支援の削減が不平等を広げるように働く可能性があると警告している。
氏は、この著作の最後の章の文章に以下のように書いている。
「現在の世の中で既存の資源配分を根本的にリセットするのは、熱核融合での核戦争だけなのかもしれない」
現在のアメリカは、ドナルド・トランプの時代となっているが、シャイデル氏の言葉が、ある意味では預言的であることを証明するかもしれないことに気付く。
それについて聞くと、シェイデル氏は、静かにこう答えた。
「そのようなリセットを私は楽しみにはしていません。その文章の前後には将来の戦争について書きましたが、どのような戦争が平等をもたらす効果を持つのかということについて、その唯一のものはおそらく熱核戦争なのです」
「しかし、これは私たちがその時をじっと待たなければならないという意味ではありません」