21世紀にも20世紀にも経験したことのない欧州の被害
先週書きました記事「4月に入り過去最大の感染確認数を記録する国が続出…」の冒頭で、ヨーロッパが「過去の歴史にないような 4月の寒波に見舞われる可能性がある」ことにふれました。
通常なら北極の上空を循環している極めて冷たい大気が、気圧の異常な配置により一気にヨーロッパに流れることによるものです。
その後、予測されていた寒波がヨーロッパにやってきたのですけれど、その気温の低さは桁外れであり、ヨーロッパ各地で、農産品や果樹などが徹底的に破壊されたことが報じられていました。
4月8日 イタリア・パラゼッタで凍結したリンゴの木を見つめる生産者
Piero Cruciatti AFP
国や地域によっては、過去数十年、あるいは過去 100年などで経験したことのない春の寒波であり、しかも「第二弾がこれから来る」のです。
これらの寒波は、今年のヨーロッパの食糧生産の状況に大きく関わるものとなりそうで、この数年少しずつ破壊され続けている世界の食糧の問題とも直結する話にもなりそうです。
今回はそのヨーロッパの寒波について取り上げます。
いろいろな国が被害を受けていると思われますが、フランスは特に大きな被害を受けたようです。ワイン用のブドウが地域的に「最大 90%が霜により破壊された」ことが報じられています。
以下は、4月11日のユーロニュースの報道です。
「歴史的な」厳寒の攻撃がフランスのワインメーカーの収穫を破壊した
'Historic' bout of frost decimates French winemakers' harvest
euronews.com 2021/04/11
凍結からブドウ畑を守るためにワラに火をつける生産者。4月7日 フランス・トゥレーヌ
フランスの果物生産者たちとワインメーカーは、今年の収穫の大部分が今週の凍結で失われたと警告している。
フランス農業組合連盟(FNSEA)は以下のように強調した。
「今回の凍結で、ビート、アブラナ、オオムギ、ブドウの木、果樹などの被害を免れた地域はフランスにはありません。生産者たちに対してのあらゆる種類の支援を緊急に活性化する必要があります」
この週を通して、フランス中の生産者たちはたいまつとロウソクで畑で火を燃やすことによって、凍結から収穫を救おうとしたが、その努力は報われなかった。
ドロームとアルデーシュの南東部では、4月7日の夜に気温が -8°Cまで下がった。その前の週は、ヨーロッパは温暖な気温に恵まれていたため、たった 10日間で、この地域の気温は 33℃低下した。
地元のワインメーカーと果物生産者たちは、収穫量の約 90%を失ったとフランス農業組合連盟に報告した。
ローヌワインで知られるフランス南部のローヌのワイン生産者協会の会長であるフィリップ・ペラトン氏は、「今年は、過去 40年間で最低の収穫になるはずだ」と述べる。
ペラトン氏は、この地域の約 68,000ヘクタールのブドウ畑のうちの約「 80パーセントから 90パーセント」が凍結で失われたと推定している。
ペラトン氏は、昨年以来の、ブレグジット、アメリカの関税の問題、COVID-19 パンデミックなど、最近フランスのブドウとワインの生産者たちが対処しなければならなかった複数の問題を強調し、そのすべてが販売と輸出に圧力をかけていた。
ワインで著名な地域のひとつであるブルゴーニュには、28,841ヘクタールのブドウ畑があるが、「少なくとも 50パーセント以上の被害を受けた」と、地域の代表者は述べる。
この地域の権威あるシャブリの原産地も荒廃した。シャブリの原産地防衛連盟事務所のフレデリック・ゲグエン氏は、「 80から 90パーセント被害を受けた」と推定している。そして、ゲグエン氏は以下のように懸念している。
「今後回復する見込みのない農場があるのではないかと心配しています」
ブルゴーニュの南部も -8°Cの気温を記録した。
フランス南西部のボルドー地域のワインメーカーも警鐘を鳴らしている。
ボルドーワイン貿易評議会によると、凍結はボルドーのブドウ園の広大な地域を「激しく襲い」、気温が -5°Cを下回ることもあり、111,000ヘクタールのブドウ畑すべてに影響を及ぼした。これは、フランスのブドウ園の 15%に相当する。
ドルドーニュでは、有名なモンバジャックを含むベルジュラックとデュラスのブドウ園があるが、「被害を免れた生産者は一人もいない」と、地元のワイン連盟の会長であるエリック・チャドゥーン氏は述べる。「被害の程度はさまざまだが、芽の 5%から 100%が被害を受けている」と付け加えた。
フランスでは、他の果実も影響を受けており、リンゴとナシのフランス全国協会の会長は、寒波により「今年は桃、ネクタリン、アプリコットが店舗の棚に並ぶことはほとんどないだろう」と述べた。
フランス農業相は、この遅い時期の凍結の例外的な影響を受けた生産者たちに政府は「必要な支援を提供するために完全に動員されている」と述べている。
ここまでです。
「 2021年産のフランス産ワインというものは、ほぼ存在しない」ことが確定的になったようです。
被害を受けた生産者に対して、フランス政府からの補償はなされるようですが、補償はともかく「生産品自体がない」ということになり、ブドウをはじめとするフランス産の果樹全般が今年は流通する見込みはなさそうです。
フランスは、ワインの著名な生産国であるので、このような報道がなされていましたが、実際には「このような凍結と寒波がヨーロッパの広範囲を襲った」ということが問題であり、4月はさまざまな農作物の植え付けなども始まった時期であり、その被害はヨーロッパ全体に広がっているとみられます。
たとえば、他のヨーロッパでも以下のような状態となっていました。
ベルギーでは、ブリュッセルを含む多くの都市の住民が本物の猛吹雪を目撃した。ベルギーの一部の地域では、20cm以上の雪が振った。
バルカン半島もまた 「4月の真冬」を経験した。西ヨーロッパを襲った北極圏の大気は、さらに南東に広がり、ブルガリアとルーマニアの山々での 4月9日の夜、気温は -17°Cにまで下がった。 (iceagenow.info)
スロベニアでは、4月として、過去 100年で最も低い気温が記録されました。
4月7日、スロベニアの多くの地域は、過去 100年で最も寒い 4月の朝を向かえた。公式の気象観測所の記録で、最低気温は -20.6°Cに達し、観測史上で 4月で最も低い気温記録を樹立した。中央および西ヨーロッパの他の地域でも多数の極寒の記録があり、深い凍結と朝の霜は破壊的なものだった。
スロベニアでは、同日、レッジェ市にある気象観測所で -26.1°Cの気温が記録されたが、この観測所は非公式の気象観測であるため、公式な記録にはならない。
過去のスロベニアの公式の最低気温の記録は、1956年4月9日に標高約1350 m にあるポクルジュカで記録された -20.4°Cだった。 (severe-weather.eu)
以下は、そのスロベニアのノバ・バスという場所で -20.6℃が記録された時の、ヨーロッパの気温分布ですが、スペイン、ポルトガルやギリシャなどを除けば、ヨーロッパの全域とも言える地域が、極大の寒波にさらされていたことがわかります。
2021年4月7日のヨーロッパの最低気温の分布
severe-weather.eu
フランスの壊滅的な農産物の被害からですと、他のヨーロッパ諸国も、地域的には壊滅的な被害となっている場所もあると見られます。
しかも、「次の同じような寒波が今、ヨーロッパにやってきている」のです。
ヨーロッパの主要な気象メディア「シビア・ウェザー・ヨーロッパ」は、4月12日の記事で、またも前回の同じような地域に同じような凍結と寒波が襲う事を報じています。
長い記事ですので、その一部をご紹介します。
原文タイトルの最初に「 Oh no (オーノー)」という文字が含まれる記事でした。
Oh no! もう起きないでほしい!今週はさらに別の広範囲にわたる寒波がヨーロッパ中に広がり、アルプス、バルカン半島、ハイタトラ山脈に大雪が降る見込みに
Oh no, not again! Yet another widespread cold wave spreads across Europe this week, with major snow for the Alps, Balkans, and the High Tatras on Tuesday
severe-weather.eu 2021/04/21
ヨーロッパの大部分で劇的な気温低下が起こってからわずか1 週間後、冬の天候とそれに関連する寒波は、脆弱な春の農業植生プロセスに再び重大な脅威をもたらしている。
4月12日から 16日までは、朝、霜が降りる日が増えると予想されている。そして先週の寒波と同様に、バルカン半島の一部であるアルプス全体で、そして今回もハイタトラス全体で大雪が発生する可能性がある。
イースターの週末の直後、膨大な量の北極圏の気団が西ヨーロッパと中央ヨーロッパに広がった。
予測が外れてほしいと願っていたが、残念ながら、その気象モデルの予測の通りのになってしまったため、ヨーロッパの多くの国で破壊的な凍結と霜が発生した。ブドウ園や果樹園では、低温や凍結に対する多くの対策が講じられたが、気温があまりにも低かったため、対策は効果をももたらさず、被害は深刻なものとなり、それは壊滅的でさえあった。
今週、今度は、これらの寒さはバルカン半島にも広がり、ギリシャとトルコからも 4月の降雪が報告されている。ヨーロッパの大部分は、西ヨーロッパと中央ヨーロッパで「再び」凍結と桁外れの寒さがやってくる。気温は、氷点下に押し下げられ、追加の凍結被害を引き起こすと予想される。
先週の寒波と同様に、寒冷前線が4月12日にかけて、最初にイギリス、アイルランド、およびその他の西ヨーロッパ諸国に影響を及ぼし、寒波は徐々に中央ヨーロッパと地中海に向かって広がっている。
ここまでです。
気温分布の予想を見ますと、前回の寒波でそれほど大きな影響を受けなかったギリシャなどのバルカン半島も今回は寒波の影響を直接受けそうです。
前回の寒波で、ヨーロッパ各地の樹木や作物などは、かなり弱った状態となったものも多いとみられますが、現在の寒波がトドメにならなければいいなとは思います。
シビア・ウェザー・ヨーロッパの全体の気圧配置などからの予測では、
「今後しばらく凍結と寒波が繰り返される」
とも予測されています。
このような状態がいつまで続くのかはわからないですが、少なくとも、4月の下旬に入る頃までは、「ヨーロッパに気温としての春は来ない」と見られます。
そして「仮に」ですけれど、「このような上空の大気の流れと気圧配置が定着してしまったら」という懸念はあります。
ここ数年、北極上空の大気である極渦が北米やヨーロッパに進行してくることはたびたびあったのですが、「以前はこんなにはなかった」ことです。
今年の冬や昨年の冬、そして2年くらい前の冬などの気象図を見ていますと、
「どうもこのような気象配置が定着しつつあるのではないか」
という気もしないでもありません。
なお、南半球も異常な寒波に見舞われており、オーストラリアでは、これから秋から冬のシーズンですが、南オーストラリアなどでは、気温が平均より 4℃から 8℃低い状態が続いていて、オーストラリア南部で季節外れの大雪が降っていることが伝えられています。
オーストラリアの気温分布予想を見ますと、「国を真っ二つに分けるように気温の異常な状態の地域がわかれている」ことが印象的です。
簡単にいえば、北部は平年よりかなり暖かく、南部は平年よりかなり寒いということが示されています。オーストラリアでは、このような気温の分布は何だか不思議です。
黄色や赤い地域は平年より暖かく、青は平年より気温が低い、紫は、平年より極めて気温が低いことを示します。
2021年4月15日のオーストラリアの平年との気温の際の予測
GFS Temp Anomalies ( April 15)
その一方で、アメリカでは「過去最悪級の干ばつと水不足」が進行していることが報じられています。
まだ春の早い段階なのに、です。
アメリカ西部などは、干ばつではない場所がほとんどない状態で、半分ほどの土地が「極端な干ばつ」となっていて、三分の一ほどのエリアは「例外的な干ばつ」、つまり、過去にないような干ばつとなっているようです。
アメリカ西部の干ばつの状況 2021年4月8日時点
National Drought Mitigation Center
ヨーロッパの極端な凍結も、アメリカ西部の極端な干ばつも、どちらも「食糧生産には良いとは言えない」状態だと思われ、ただでさえパンデミックでいろいろと混乱させられ続けている生産者の方々は、気候の面でもダメージを受けている場合も多くなっているようです。
食糧価格は、世界全体で見れば、上昇し続けていまして、特に中国の圧倒的な穀物の買い占めにより、穀物や大豆の国際価格は下がることがなくなっています。気象だけではなく、さまざまな要因で、時間の経過と共に食糧の問題やサプライチェーンの問題はやはり起こってくると考えざるを得ません。
半年後や、あるいは 2年後くらいまでに「どんなことが起きるのか」ということについては、もはや、いかなる予測さえできないような混沌とした状況になっています。
そこにワクチンの長期の影響や、あるいはミニ氷河期の到来といったことも含めて、混乱に拍車がかかる可能性がかなり高いように思います。
世界の状況が良い方向に進むという可能性は日々縮小し続けている気がします。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ ご登録へ進む