私たちの体内には複数のゲノムが存在している
今回の記事は、
Two surprising things about our DNA
(私たちの DNA に関しての驚くべきこと)
というタイトルの記事を読んで、少しビックリしましたので、その記事をご紹介したいと思います。
それは、私が知らなかっただけのことなんですが、下のニューヨーク・タイムズに書かれてあることなどについての最新の研究に関しての記事でした。
2013年9月16日のニューヨーク・タイムズの記事より
ここに、「科学者たちは、個人が複数のゲノムを持つことが非常に一般的であることを発見している」とありますが、私などは、
「 DNA は、1人の人間が、その人だけの DNA を体内に持っている」
ものだと思っていましたが、どうやら違うようなのです。
ケースによって、ヒトは自分の体内に「複数の(自分のものではない)遺伝子」を持っていることが多々あるようなのです(特に出産経験のある女性では大半が)。
今回ご紹介する記事の中に、以下のような記述があります。
2012年、カナダの女性の検死解剖で、それらを受けた女性のうちの 63%が自分の神経細胞に Y 染色体を持っていたことが明らかになったケースがある。
これは普通だと変なことなのですが、どこが変なのかといいますと、過去記事、
・「確定的な未来」を想起する驚異的な2つの科学的資料から思うこれからの太陽と地球と女性(そして消えるかもしれない男性)
などでも書いたことがありますが、ヒトの場合、染色体というのは、
・XXなら女性
・XYなら男性
ということになっています。
つまり、「男性」が存在するためには「 Y 染色体が絶対に必要」ですが、逆に、「女性には Y 染色体はない」のです。
そういう、女性にあってはならないものが、見つかったということです。
こういう「同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること」を、生物学用語では キメラと呼び、その中でも、それが一時的ではなく、「少数の細胞が体内に定着し存続している現象」を、マイクロキメリズムと呼ぶのだそう。
ちなみに、「キメラ」という名前は、ギリシャ神話に登場する怪物の名称に由来しているのだそう。
ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ。それぞれの頭を持つとする説もある。強靭な肉体を持ち、口からは火炎を吐く。その火炎によってしばしば山を燃え上がらせていた。
怪物キマイラは生物学の「キメラ」の語源となっている。ここでは、「異質なものの合成」という意味から「キメラ細胞」「キメラ生物」などの用語がつくられた。フランケンシュタインをして「キメラ合成生物」などと表現することもある。
というわけで、とりあえず、そのラップラーの記事をご紹介しておきます。
なお、記事でおわかりになると思いますが、複数の DNA を持つ人は女性が多いと考えられます。
Two surprising things about our DNA
RAPPLER 2015.10.16
私たちの DNA についての驚くべきこと
DNA は本当に私たちの最も基本的な生物学的基盤なのだろうか。
あるいは、私たち自身にある DNA は、本当に自分1人だけに固有のもので、私たちはその1種類の DNA だけを体内に持っているのであろうか。
そして、 DNA は、自分たちの子孫へと遺伝的な特性を伝えていく唯一のものなのだろうか。
赤ちゃんが生まれたとする。
ここでは、女の子の赤ちゃんが生まれたとしよう。
ママとパパの組合せの遺伝子を持つ新しい体を与えられた彼女は、生まれた後は、彼女自身の経験をしていく旅に出ることになる。
そして、彼女が持っているものは、彼女自身のゲノムだ。
彼女の体中の何十兆個もの細胞が、彼女の DNA を運ぶだろう。
この DNA は間違いなく彼女だけが持つもの・・・なのだろうか?
この何十年もの間、科学者たちは、自分自身「以外」の DNA を持っている珍しい例を発見し続けている。
その極めて珍しい例だった、他人の DNA が体内から発見される例は、しかし、ここ数年で、ますます一般的であるということになっている。
研究者たちは、母親が自らの子どもの DNA を体内に残している例を発見し続けている。母親の子宮から運ばれて、そして、母親の体のあらゆる組織から、子どもの DNA が発見されているのだ。(一時的ではなく、永続的に子どもの DNA と同居しているということ)
他人の DNA が混合物するこの種の例は、輸血でも見られる。
2012年、カナダの女性の検死解剖で、それらの女性のうちの 63%が自分の神経細胞に Y 染色体を持っていたことが明らかになったケースがある。
普通、女性は Y 染色体を持たない。
女性は、「 X と X 」染色体により定義され、男性は「 X , Y 」染色体により定義されるため、カナダの女性たちの 63%が Y 染色体を持っていたことは、先ほどの例のように、彼女たちの男の赤ちゃんから来ている可能性もある。
さらに最近、今年 8月に発表された研究では、検死解剖された母親たちすべてから「オスの細胞」が見つかったことが判明した。これらのオス細胞は、心臓や腎臓などの主要な身体器官で見つかった。
論文が掲載されたオックスフォード大学 MHR
・Tissue microchimerism is increased during pregnancy: a human autopsy study
科学的な原因は研究途上であり、未知の領域が多いが、この現象は「マイクロキメリズム( microchimerism )」と呼ばれ、生物学における「同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること」をさすキメラから来ている。
このキメラという用語は、ギリシア神話に登場する、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ伝説の生物「キマイラ」に由来する。
これらの「侵入者 DNA 」たちが、私たちのゲノムにどの程度影響があるものなのかは、まだわかっていない。もしあった場合、それらは DNA ベースの治療に影響を与える可能性があるかもしれない。
DNA ベースの治療は、私たちのゲノムを再起動させている場合にのみ治癒させられることのできる疾患のために開発されている。
さらに、DNA の中で、注目すべきことが最近発見された。
長い DNA 分子を折り畳んで核内に収納する役割をもつ「ヒストン」と呼ばれるタンパク質があるが、最近の研究で、このヒストンもまた、 DNA 同様に、その遺伝的性質を子孫に受け渡している可能性があることがわかったのだ。
これは、DNA 自体が行うのではなく、ヒストンがおこなう。
そして、さらに興味深いことが、このヒストンが「精子のパッケージ」の一部分であるということだ。これが意味することは、私たちはヒストンの形質を父親から受け取っていることを意味する。
これを明らかにした研究では、ヒストンは「環境によって変化しない」ということを初めて明らかにした。
これは、ヒストンの持つ気質が、あなたの父親の系譜の中で成形されるものだということを意味する。父親や祖父の気質、性質、習慣があなたに渡り継がれるということになるのかもしれない。
これら様々な最近の発見は、DNA が定義された時代に生きている私たちにとっては大きな飛躍だと思われる。
DNA は単に「同一の遺伝子」でもなく、単なる「生物学的な荷物の受け渡し」をしているだけの機械的な存在でもないのだ。
ここまでです。
まあ・・・この・・・何といったらいいのですかね。
DNA が単一だとか、そういうことではなかったということ以前に、1人の人間には 1種類の DNA だけが存在すると考えた場合でも、この遺伝の仕組みというのは不思議というか驚異が多いです。
そして、改めて思うエピジェネティクス的な意味での生命のすごさ
その「不思議さ」というものは、たとえば・・・下の米国ロックフェラー大学の生物学が専門のデビッド・アリス博士の研究を説明したサイトの「概要」にある言葉で説明されるかもしれません。
私たち人間の体は、約60兆個の細胞から構成され、そのほとんどが同じ遺伝子( DNA )を持っています。それなのに皮膚、肝臓、脳神経など臓器ごとに違う形と機能を表すのはなぜなのでしょうか。
これなんですよ。
これが不思議で仕方ない。
膨大な塩基配列を持っているとはいえ、その人の中にあるすべての DNA は基本的には「同じ」もの。
↓ これが
骨や皮膚や脳や各臓器や髪や爪などの器官になっていく
・The Human Body: Anatomy, Facts & Functions
これは、DNA が遺伝のすべてを牛耳っているのではなく、「その上にさらに遺伝の指令系統を支配するものが存在している」ということだと考えざるを得ないのです。
これに関しては、上のデビッド・アリス博士の研究の記事の中に次のような表現があります。
DNAの塩基配列が分かれば生命現象のすべてを理解することができるのでしょうか。その答は残念ながら「ノー」です。
ヒトゲノム計画が進んでいた頃、同時に分かってきたのは、DNAの遺伝情報そのものだけではなく、各細胞で遺伝情報の一部が選択的に発現される仕組みが存在しており、しかもそのシステムが生命現象に極めて重要だということです。
例えば、人間の体には約300種類の細胞がありますが、ごく一部の例外を除くと、ほとんどが同一のDNAを持っています。同じDNAなのに皮膚細胞や肝細胞など別々の形と機能を表します。しかも、これらの細胞の特徴は分裂した後もそのまま引き継がれます。
とあり、つまり、人間を含めたあらゆる生物の発現(形として生まれること)と生育には DNA だけが絡んでいるのではなく、DNA の配列変化とは関係のない「生命の成長のメカニズム」が存在しています。
それを研究する学問は「エピジェネティクス」と呼ばれていまして、難しそうな学問なんですが、例えば、『エピジェネティクス入門―三毛猫の模様はどう決まるのか』というタイトルの本があるのですが、たとえば、この本にある「三毛猫」の模様も、猫によって全部違いますよね。これを決定しているのも、DNA の遺伝情報ではなく、そのエピジェネティクス的な原理のようなんです。
三毛猫
・三毛猫の模様はどのようにして決まるのか
あるいは、「花の紋様」。アサガオなども、ひとつひとつが紋様が違いますが、DNA の遺伝情報でこれらが発現するのではないようなんです。
西洋アサガオ
・eestar.at.webry.info
人間を含めた、地球の生物がどのように形成されるのかというのを突き止めているのが現在の生物学の最先端の部分で、この研究は大変に興味深いものである一方で、これまでの科学、生物学、遺伝学などのように「生命を物質やマシンのように捉える」方向で進まないことを願っています。
ただ、何となくですけれど、エピジェネティクスのようなシステムをとことん研究しているような人たちは、むしろ、生命のあまりにも緻密なあり方に「畏敬」を感じるようになるものなのではないかなあとは思います。
そして、今回の記事にも出てきた「ヒストン」というものが、DNA と共に、あるいは、それ以上に「生命の発現と成長」に関係しているのではないかということが、次第にわかってきているようです。
DNA は、そのひとつが伸ばせば2メートルにもなるものらしいんですが、その DNA は、タンパク質のヒストンに下のように巻きついているのですね。
細胞や DNA に関しましては、以前、「単為生殖」(女性単独で妊娠する)についての記事を書いていた頃にも興味深いことを知りました。
・光で語り合う自分の細胞と他人の細胞。そして、人間は「生きているだけで永遠を体現している」ことをはじめて知った日
2013/12/23
という記事では、ドイツ人女性作家のマリアンネ・ヴェックスさんという方が書かれた『処女懐胎の秘密』という本の中にあった、
「光による受精」
というセクションに大変に興味を持ったことを記しています。
その内容としましては、アレクサンダー・グルヴィッチという科学者がおこなった実験の結果として、
・細胞から出ている光線は「他人の細胞に細胞分裂をおこさせることができる」ことがわかった
とあり、ここから私は、
「ひとりの細胞と他人の細胞や DNA との間には光でのコミュニケーションが存在している可能性」
とか、
「自分と他人の DNA の間に光でのコミュニケーションが存在しているのなら、シンクロニシティというものを含めて、人間同士のあらゆるハイパー・コミュニケーションは現実として存在しているかもしれない」
ということなどを考えたりしましたが、ハイパー・コミュニケーションはともかくとしても、普通の体内での生命の発現と形成だけでも、人間を含めた生命というのは考えられないほど偉大な驚異だらけであることを思います。
この
「私たちはものすごい存在である」
ということをたまに思い返すことができれば、いろいろな消極的な気持ちからも少し離れたりすることができるのではないでしょうか。
私たち人間はすごいのです。
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