英国のデイリーメールを見ていましたら、「専門家たちが明らかにする、一般的な治療としておこなわれるが、実は効果が認められないこと」というタイトルの記事がありまして、少し読んでみましたら、わりと面白かったのでご紹介しようと思います。
これは、
・シロップの咳止め薬
・膝の不具合の際の関節鏡検査
・軽度から中程度のうつ患者への抗うつ剤の処方
・歯のフロッシング
・骨を強化するためのカルシウムのサプリメント
・腰痛に対しての鍼治療
・心臓のための魚油サプリメント
・中耳炎に処方される抗生物質
・腰痛 / 関節炎へのアセトアミノフェン
などが「医学的に効果があるという証拠がない」ということを、論文や医学者の談話として記しているものです。
これらは、「医学に批判的な立場から医学を見た」ものではなく、「正当な医学研究での結果からのもの」だということで、医学的見地から、
「歯のフロッシングの歯周衛生へのメリットは見当たらなかった」
とか、
「魚油サプリメントが心臓に良い影響を与える証拠はなし」
といったようなことが書かれてあります。
まあ、いろいろな意見があるのでしょうけれど、最近の私は、以前、
・「私は素晴らしい世界に生まれて、その世界に生きている」 (2016/04/25)という記事でふれました、アメリカの成形外科医サーノ博士の著作『心はなぜ腰痛を選ぶのか―サーノ博士の心身症治療プログラム』という本で知り得た「多くの痛みと症状は”脳が作り出している”」、つまり「思い込み」だという説に強く惹かれまして、現在も、自分自身の様々な症状や、恐怖症などに適用させようとしています。
もちろん、この「自分の心身に対する思い込み」には自分の行動に立脚する部分もあります。
つまり、「ものすごく身体に悪い生活をしていたら、自分でどうやっても、自分の健康に自信を持つ思い込みはできない」ということで、自分で思い込むためには、ある程度の実際の行動も必要であると思っています。
まあ、そういう「自分の中に良い思い込みを作っていく」という意味では、上に並べました「エビデンスなし」と言われているようなものでも、
「自分が本当にいいと思っていのなら、本当によく作用する」
という可能性があるとも思います。
それを前提として、つまり、記事では否定されているものも、私自身はどれも全否定するつもりはないということで、今回の記事をご紹介したいと思います。
今回ご紹介する記事そのものが大変に長いものですので、早速入りたいと思います。途中いくつか注釈を入れさせていただくと思います。
それでは、英国デイリーメールの記事をご紹介させていただきます。
Why you don't need to bother flossing! Cough syrup is a waste of time and fish oil doesn't help hearts. Experts reveal popular treatments that don't make a difference
Daily Mail 2016/05/09
歯のフロッシングが必要のない理由は何か。咳止めは飲むだけ時間の無駄で、魚油サプリメントは心臓に何ら有益に働かない。専門家たちが明らかにする「一般的な治療としておこなわれるが、実は効果が認められないもの」
あなたが薬を服用したり、あるいは何らかの検査を受ける際には、それらが何かしら良いことだとしておこなっていると思われる。しかし、それらの中には、医学的、科学的な見地からはエビデンス(証拠)がまるで確立されていない治療法が数多くある。
それでも医師があなたにその治療をしたり、薬を処方することもあり、その中で、それが良い治療だと確信してしまうことがある。
ここでは、いくつかの日常的な処方や治療の中で、ほとんど医学的証拠のないとされているものを見てみたい。中には、あまりにも一般的なものの中に「何の医学的根拠もない」場合もあり、驚かれるかもしれない。
シロップの咳止め薬
毎年、イギリスだけで 400万ポンド(約 6億2000万円)の鎮咳去痰薬が薬局で購入されている。それだけ咳止めを求める人が多いということだが、2014年、権威あるコクラン共同計画(質の高い治療法に関する情報を評価し普及させるためのイギリスの機関)による鎮咳去痰薬に対しての主要な評価がある。
その評価によれば、市販の咳止め薬からは、咳の期間を短縮したり、回復を早めるという十分な証拠が得られなかった。
これは、急性の咳症状(咳の続く期間が8週間未満)を持つ 5000人の患者に対しての試験結果を分析したもので、通常は、ウイルスによって引き起こされる上気道感染症(いわゆる、かぜ)に起因する。
英国ハル大学の教授であり、呼吸器内科の専門家であるアラン・モリス(Alyn Morice)氏は、「咳止め薬は消費量がとても高いにもかかわらず、そのエビデンスは乏しいです」と述べる。
「この 30年間、急性の咳に対しての新薬は一切認可されていません」
モリス博士は、デキストロメトルファンを含む咳止め薬で咳を抑制できる可能性はあるかもしれないが、メーカーの推奨する 60mg の投与量では低すぎるという。しかし、服用されたものに他の薬が含まれている場合、高い濃度の咳止め薬の服用は危険を伴うことがあると警告する。
抗ヒスタミン剤のジフェンヒドラミンを含む医薬品は、アレルギーによって誘発されている咳を減らすことはできるが、アレルギー性ではない咳の場合、咳止め薬を購入することは、お金の浪費に過ぎないかもしれないとモリス教授は述べる。
膝の不具合の際の関節鏡検査
(訳者注) 「関節鏡検査」とは、関節用の内視鏡を関節腔内に挿入し、モニターで映像を確認しながら関節内の状態を直接調べる検査法。
イギリスでは、多くの人々が関節鏡検査を受ける。
これは、外科医が小型カメラで膝の内側を調べ、また、同時に破れた軟骨を切り落とし、膝の痛みに対処する治療法で、一般的な膝の痛みへの処方だ。
しかし、英国リーズ大学の筋骨格医学の教授であるフィリップ・コナガン(Philip Conaghan)氏は、
「医学的証拠が示すところは、関節鏡検査は、一般的に意味がありません」
と述べる。
それは、痛みは骨の下から来ており、また、組織は、軟骨より関節の内側を覆っているために、この処方は痛みに対して機能しないという。
「関節鏡検査は、それらのいずれにも影響を与えないのです。しかし、問題は、満たされていない痛みを必要としている人々がたくさんいることなのです。」と教授は言う。
しかし、半月板が断裂している場合には、関節鏡検査はとても効果的だという。
軽度から中程度のうつ患者への抗うつ剤の処方
イギリスでの抗うつ薬の処方箋が発行された数は、この 10年で倍以上に伸びており、2014年には、5710万通の抗うつ剤の処方箋が出され、英国国民保健サービス(NHS)の中の大きな比率を占めるようになっている。
しかし、ロンドン大学の上級講師であり、精神科医でもあるジョアンナ・モンクリー博士(Dr Joanna Moncrieff)は、抗うつ剤がうつ病患者に与える効果はとても小さいと述べる。
モンクリー博士は、抗うつ剤の使用が広範囲に広がっていることに疑問を呈する臨床論文を記している。
「抗うつ薬は、軽度から中等度のうつ病には、有用な部分はないと思わざるを得ませんし、ブラセボ(臨床試験で使われる偽薬)と差もほとんどありません」と博士は言う。
「この抗うつ剤の処方の問題の中核にあるものは、私たち医師が、うつ病を内科的疾患だと見ていることにあります。しかし、実際は、うつ病は、人生で置かれている状況に対しての感情的な反応なのです」
しかし、英国王立精神科医学会(Royal College of Psychiatrists)では、中程度から重度のうつ病患者では、抗うつ剤の処方で、3か月後に 50%から 65%が症状の改善が見られると主張する。
一方、うつ病に対しての英国国家の主流治療法である認知行動療法(CBT)は、その効果が長期的に持続しないという証拠もある。心理学者のオリバー・ジェームズ(Oliver James)氏は、患者のうつ的な思考を変えようとする対話型のセラピーは、問題の根本原因に対処していないと述べる。
ジェームズ氏は、英国政府のうつ病の対処法は、精神力動的な治療に焦点を当てるべきだと考えている。
(訳者注) 「精神力動的な治療」とは、フロイトが主張した「意識と無意識の相互作用を主とする精神世界のダイナミズムのゆがみやアンバランスな状態が、精神疾患や心理的不適応の原因であると仮定する」としたもので、つまり、治療法としては、
「無意識にある葛藤や欲求不満、怒り、自分にとって必要なメッセージを、患者自身が意識化して洞察できるようにできる解釈を与えること」
だそうです。
これは、先ほどもリンクしました過去記事、「私は素晴らしい世界に生まれて、その世界に生きている」 でふれた、サーノ博士の「無意識に目を向けることで痛みを取り去る」という理論と似たものです。
また、うつ病に関しては、過去記事の、
・「肯定的記憶」の役割 : ノーベル賞受賞学者・利根川進 MIT 教授が発表した「幸せな記憶を呼び起こすことがうつ病を好転させる」こと
2015/06/30に、米国マサチューセッツ工科大学( MIT )の教授であり、ノーベル生理学・医学賞を受賞している日本の科学者、利根川進さんが、
「繰り返し、楽しい記憶を活性化すると、海馬の中にある歯状回と呼ばれる部位の一部に新しい脳細胞の形成を引き起こす」
ことを突き止めました。
つまり、「幸せな記憶を呼び戻すことで、うつ症状が完全に改善するこことがほぼ明らかになった」という事実があります。
このあたりが、うつ病治療の最先端の科学的知見ではないでしょうか。
歯のフロッシング
最新の研究は、歯のフロッシングに意味がないことを示している。
英国歯科医師会の科学顧問ダミアン・ワルムズレイ教授(Professor Damien Walmsley)は、歯科専門誌のレビューで、フロッシングについて以下のように結論づけた。
「これまでのフロッシングに関しての研究の大半は、フロッシングが歯垢の除去および歯肉の炎症を低減することに有効であると証明することに失敗している」
しかし、そのような結論となったのにも関わらず、ワルムズレイ教授自身は、フロッシングを続けていることを認めた。理由を聞くと、「気持ちいいのですよ」とのこと。
もちろん、フロッシング自体が何らかの害を引き起こすということもないので、正しくおこなう分には、おこなって問題はない。
フロッシングにあまり意味がないことがわかったのとは対照的に、1日2回歯を磨くことは、歯垢と虫歯予防によいことが研究で示されている。
骨を強化するためのカルシウムのサプリメント
骨密度を高め、高齢時の骨折を防ぐために、カルシウムのサプリメントを摂取している人は多い。
しかし昨年、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(イギリス医師会雑誌 / BMJ)に発表された二つの主要な研究は、カルシウムのサプリメントが正しく働くエビデンスはないと結論づけた。
「ヨーグルトや牛乳、チーズを含む、正常な食事をとっている場合は、追加のカルシウムは必要ありません」と、英国リーズ教育病院の心臓専門医、クラウス・ヴィッテ(Klaus Witte)医師は言う。
「カルシウムのサプリメントに関しての、ほぼすべての研究が、それが無意味だということを示しています」
中には、多くのカルシウムを吸収させるために、より多くのビタミンDが必要な人はいるかもしれないが、カルシウム単体での恩恵を示す証拠はないという。
それよりも、カルシウムのサプリメントを大量に服用すると、それが動脈内に堆積されることにつながる可能性があるという示唆があり、心臓発作や脳卒中のリスクを上昇させる懸念がある。
「骨粗鬆症の高齢の患者に多く処方されるカルシウムのサプリメントに私は懸念を持っています。カルシウムのサプリメントは、実際には、血管の疾患を促進させてしまっている可能性があるのです」とヴィッテ氏は言う。
しかし、イギリス国立骨粗鬆症協会のデビッド・リード(David Reid)名誉教授は、確立した骨粗鬆症には、骨強化のためのビタミンDとカルシウムの薬剤の補給が必要な場合があると述べている。
腰痛に対しての鍼治療
腰痛治療に対してのエビデンスの見直しの中で、鍼治療は、もはや、プラセボ(偽薬)以上の効果は見いだせず、イギリス国民保健サービスは、腰痛の治療として推奨していない。
サウサンプトン大学の保健研究の教授、ジョージ・ルーイス(George Lewith)氏は、この結論に達した方法、特に同じデータが他の国では異なる解釈をされるという点で「途方に暮れている」と述べている。
心臓のための魚油(オメガ3を含む魚油サプリメント)
イギリスでは、狭心症や心臓発作などの既往歴のある心臓病患者に、多くの場合、オメガ3を含む魚油サプリメントが処方される。
ロンドンブリッジ病院の心臓専門医のサンディップ・パテル(Sundip Patel)博士は、「魚油サプリメントは心臓の健康に有益であると考えられ続けてきました」と言う。1か月に 21ポンド(約3300円)ほどのコストがかかるこの魚油のカプセルは、血中脂肪(トリグリセリド)のレベルを低下させる助けになると考えられていた。
アメリカ医師会ジャーナルの 2012年の研究で、2年間の期間、魚油 1.5グラムのカプセルを毎日服用した人と、プラセボ(偽薬)を服用した 68,000人の結果を分析した。その結果、魚油 1.5グラムのカプセルを毎日服用した群に統計的に心臓発作が少ないという結果にはならなかったのだ。
オメガ3脂肪酸化合物が冠状動脈性心臓病を防止する役に立つという証拠は現在存在しない。
パテル博士は、「魚油サプリメントに心臓を助けるメリットもないことが証拠として示された後も、患者の皆さんは魚油サプリメントを求めます」と言う。
中耳炎に処方される抗生物質
4人に1人の子どもが 10歳までに耳の感染症(中耳炎)にかかる。
英国サウサンプトン大学で行われた調査では、子どもの耳の感染症は、開業医によって抗生物質が処方される最も一般的な理由であることがわかった。
実際には3分の2の耳の感染症は、抗生物質が効かないウイルス感染によって引き起こされると耳鼻咽喉の専門家であるトニー・ネルラ教授(Professor Tony Nerula)は語る。
抗生物質が効く細菌によって引き起こされるものは3分の1に過ぎない。
「問題は、医者が、その中耳炎がウイルスによるものか、細菌によるものかを知る方法がないことです。なので、ほとんどの場合、漫然と抗生物質を処方している」とネルラ教授は述べる。
心房細動患者に処方されるアスピリン
イギリスでは 100万人ほどの人々が、心房細動、不整脈、心臓の動悸などを持っている。
これらは、心臓内で形成する血餅のリスクを高める可能性があり、脳卒中の原因となる場合がある。
心臓病患者に対してアスピリンが処方されることがあるが、研究では、アスピリンは、心房細動患者において有益ではないことが示されている。
しかし、それにも関わらず、今でもそれを与えられている場合があると心臓専門医クラウス・ヴィッテ氏は述べる。
「アスピリンは抗凝血効果を持っているが、これは、心房細動における脳卒中を引き起こす血餅の種類の予防には効果がありません」
英国の心房細動協会の調査では、2015年に 20万人の心房細動患者がいまだにアスピリンを処方されていることを示した。
これらの患者には、アスピリンではなく、ワルファリン、アピキサバン、ダビガトランなど抗凝固剤を処方するべきだという。
腰痛 / 関節炎へのアセトアミノフェン
イギリスでは、何百万人もの人たちが、日常の痛みのためにアセトアミノフェン(イギリスでの名称は「パラセタモール」)に依存している。しかし、それは時に、時間の無駄となることがある。昨年、イギリスの医学雑誌に発表された 13の臨床試験の見直しでは、背中の痛みにアセトアミノフェンが無効であったことが示された。
また、腰痛と膝の変形性関節症では、アセトアミノフェンの臨床的な効果が非常に小さかったことも明らかになった。
それどころか、シドニー大学の専門家によれば、アセトアミノフェンは肝臓障害を引き起こす可能性があると警告している。
今年3月に医学誌ランセットに発表された、最近のより包括的な研究では、アセトアミノフェンには、変形性関節症の関節痛の治療での「効果」が見つからなかった。
フィリップ・コナガン教授は、こう言う。
「この結果は残念なものですが、しかし、私たちは長年、変形性関節症の患者さんたちが、アセトアミノフェンで痛みが和らいでいないことを訴え続けていたことを聞いていました」
変形性関節症の関節痛には、非ステロイド性抗炎症剤がより効果的であると思われるが、コナガン教授は、「これらは重大な副作用を持つため、長期間使用することはできません」と述べた。
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