2016年5月3日の英国ガーディアンの報道より
・Global water shortages to deliver 'severe hit' to economies, World Bank warns
水不足についての機密文書
前回の記事、
・カナダの前代未聞の山林火災から浮かぶ「カタストロフィック」という言葉…
2016/05/08
の中で、ウィキリークスからリリースされた「危機的な水不足の予測についての機密文書」に関しての報道記事についてふれましたが、今回はその内容をご紹介したいと思います。
というのも、この数日、「危機的な水不足」についての報道が多いのです。
先月、
・世界は想像を絶するすさまじい干ばつと水不足の世紀に入ったかもしれない
2016/04/28
というタイトルの記事を書いたことがあるのですが、その後、現状もですが、将来についての水不足の予測に関しての多くの記事が出ています。
冒頭に貼りましたのは、今回ご紹介する記事ではなしいですが、英国ガーディアンの記事で、世界銀行が、今後の水不足が「世界経済への打撃になる」ということを発表したものを報じたものです。
具体的には、2050年までに、
・中東は水不足による原因で GDP が 14%落とされる
・中央アジアでは GDP が 11%落ちる
・東アジアでも、旧態依然の水の管理体制のままの場合、 GDP が 7%削ぎ落とされる可能性がある
・深刻な水不足は、東アフリカ、北アフリカ、中央アジア、南アジアの一部で発生することが予測され、北米とヨーロッパでは深刻な水不足の予測はない
・それらの地域では、部分的に現在の3分の2まで使用可能な水量が減少する
・また、一部の国では老朽化した水道管により3分の2以上の水が漏れて無駄になっている
というようなものです。
このすごさは、これらの GDP の低下は「水不足による原因での低下のパーセントだけ」を挙げた予測だということです。つまり、他の要因、例えば、中東なら石油価格の問題での GDP の低下ですとか、あるいは単に世界的な金融危機による GDP の低下だとか、そういうことがあった場合、たとえば中東なら「その下がった GDP から、さらに 14パーセント下落する」ということになっていて、もし予測が少しでも正確なら、わりと大変なことではあります。
何年も前から極限に近づきつつある地球の「水」の消失
上の世界銀行の予測に「東アジア」という表記もあり、その中に、日本が入るのかどうかはわからないですが、日本の場合は、通常通りに梅雨があり(北海道なら冬に雪が降り)、通常通りに秋に台風や悪天候が大雨をもたらすという「自然の循環」が途絶えない限り、国全体が深刻な水不足にはなる可能性はないはずです。
逆にそれらがなければ、わりと簡単に水不足に陥ることは、毎年のようにどこかで水不足が発生していることでもわかります。
こう考えますと、台風というのは、災害どころか、それのお陰で日本人は日本の地で生きてこられたということが改めてわかります。
あり得ないことですが、たとえば、「もし2年間、台風が日本に一度もやってこなかった場合」、日本は滅亡するはずです。幸い、そんなことはあり得ないわけですけれど、梅雨や台風は本当に恵み以外の何ものでもないことを私たちは深く感謝するべきだと思います。
日本、あるいはその文化や生活形態は、台風があり、地震があり、火山の噴火があるという自然環境の中でこそ発展し続けてこられたもので、それらのまったくない日本はもう日本ではないということになりそうですが、地震や火山はともかく、台風に関しては、偏西風を含む「地球の大きな大気の流れ」が完全に変化して、さらに、海流や海水温度が完全に変化した場合には、「台風が消滅する」という可能性は(もちろん遠い未来ですが)ないではないのかもしれません。
そして、その時こそ日本が終焉を迎える時だと思います。
まあしかし、そんな極端な話はともかくとしても、気候や天候の変化はすでに日々感じられる状態になっていて、以前の記事で書きましたように、現実に自然災害は増加しています。
ところで、「東アジア」といえば、最も影響力のある(単に人口が多いという意味です)国は中国ですが、ここの水事情もなかなか厳しいようで、先月、下のような報道がなされていました。
中国の地下水、8割以上が飲用不可
NTDTV 2016/04/12
中国水利部は今年1月に公開した「地下水動態月報」で、2千以上の井戸の水質を検査し、80.2%の地下水が深刻に汚染されているとの結果を明らかにしました。
総合硬度、マンガン、鉄、フッ化物などの主な汚染指標のほか、重金属と有毒有機物汚染も部分的に認められました。
北京環境保護・民間水専門家の張峻峰氏は「農作では大量の除草剤や化学肥料 農薬を使用します。田舎も同じような汚染状況が現れています」と述べる。
専門家は、都市の地下水は農業関連汚染の他、工業廃水やゴミ等の汚染が重なっていると指摘しました。
張峻峰氏は「浄化するのには、少なくとも数百年、あるいは千年以上かかります」と言う。
こういう状況を考えていますと、「水戦争」などという言葉がよぎります。
これについては、すでにどのくらいのところまで来ているかということについて、今から3年前の CNN の記事などでもわかる部分があります。
最も重要な資源は水? 「水戦争」は起こるのか
CNN 2013/03/17
中東にある「死海」ほどの大量の水が消えてなくなることを想像してほしい。まるでSF映画のような話に聞こえるかもしれないが、そうではない。これは実際に起きている出来事で、そのことが分かったのも、つい最近だ。
米航空宇宙局(NASA)と米カリフォルニア大学アーバイン校が行った研究によれば、中東地域では真水が失われつつあるという。2003年から09年にかけて144立方キロメートルの水が失われた。
「水が失われる」ということはどういうことだろうか。水の多くは地表よりも下からやってきており、岩の間などに蓄えられている。干ばつの時期になると、井戸やポンプを作り、水を求めて穴を掘る。
しかし、大地からの供給には限りがある。NASAの科学者によれば、水をくみ上げることは銀行の預金を取り崩すことに等しい。そして、その預金残高は減りつつある。
と記事は始まりますが、歴史上では、水を巡る紛争が 200回以上起きてきたことなどが書かれています。
ちなみに、2013年の時点で、WHO によれば、
> 7億8000万人以上の人々がきれいな水を手に入れられずにいる。そして、水不足によって300万人を超える人々が毎年死んでいる。
とのことです。
そして、この数は、おそらくですが、すでに去年と今年で上回ってきているように思います。なぜなら、アフリカでも南インドなどでも、3年前よりはるかに激しい干ばつと水不足に見舞われているからです。
上の記事には、
世界について語るとき、核を持つ国と持たない国という言い方をよくするが、水がある国とない国という世界のほうが、より一層危険かもしれない。
という表現などもありました。
ところで、先ほどの世界銀行の予測では、中東はこれから水不足により、経済的に大きな打撃を受けることについて書かれていますが、そういうことへの「対処」のひとつなのかどうなのか、アラブ首長国連邦(UAE)では、
「人工の山を建造して、アラブ首長国連邦に雨が降りやすい気候を作り出すためのプロジェクト」
が検討されていることが、アラビアン・ビジネスという経済メディアで報じられていました。
2016年5月1日の中東英字メディアの報道より
・UAE mulls ‘man-made mountain’ in bid to improve rainfall
山には大気を上昇させ、雲を作りやすくするという性質があるそうなのですが、そのような「山」を人工的に作り、雨の降りやすい環境を作ろうという、まあ、一種の「人工的な天気環境操作」のたぐいではあります。
しかしまあ・・・現実として、これは無理だろうと思います。
気候に影響を与えるほどの巨大な山といえば、つまり、巨大なピラミッドよりもさらに大きな山を作らなければならないということになり、あれらの数倍、数十倍という山を人工的に作るのは、ほぼ不可能なような気もするのですが、しかし、何ともいえない面もあります。
何より、そんな一見不可能そうなことを、国家が考える(すでに、研究だけに 4000万円以上の費用が投じられているそうです)ところが、やはり、中東の将来の水不足が深刻なものになることの予測を持っているからかもしれません。
最近は中東の砂漠にも、よく洪水などが起きていて、長期的に気候そのものが世界的に変化、あるいは移動したりした場合は、「雨の多い豊かな中東」という未来もあるのかもしれませんが。
それについては、過去記事の、
・「水の意味」: かつて緑豊かだったサハラ砂漠の「大河」の位置と大きさがわかり、イエメンに連続して上陸したサイクロンのことなどに思う「地球は水によって変化している」こと
2015/11/13
という記事に書いたことがあります。
下はその記事に載せました「緑にあふれた中東オマーンのサララという場所の様子」です。モンスーンの一時だけ、このような緑に覆われる地域があり、そして、その時期が終われば、「また砂漠に戻る」場所です。
それ以外の時期のサララ
・Monsoon Salalah Khareef
中東も、あるいは他の多くの国々も、将来的に上のどちらに転ぶかですよね。
上の写真が大体同じ場所の違う時期だと考えますと、その国の風景なんて数ヶ月で変わってしまうものなのかもしれません。
というわけで、ここから、英国エクスプレスのウィキリークスについての記事をご紹介したいと思います。
ちなみに、この記事で紹介する機密文書が主張しているのは「世界的に増大し続ける肉食」が壊滅的な水不足を招くことです。
肉食は、アメリカやヨーロッパの場合は、もともと食肉消費量が多いので、この数十年同じような推移ですが、それ以外の国の増加がすごいのです。
世界の肉消費の動向(1961年から2002年)
1961年に 7000万トンくらいだった肉消費が、2002年には、25000万トンとかになっていて、その後もまだ増え続けているはずです。
気づけば、「人類はものすごい肉食になっていた」のでした。
そして、水にしても他の資源にしても、現代社会のシステムには、どこか根本的に変えなければいけない部分があるということを再び思わせてくれる記事でもありました。
Earth to RUN OUT of water by 2050: Leaked report shows 'catastrophic' fate facing world
Express 2016/04/30
地球の水は2050年までに枯渇する:流出した報告書は、世界が「壊滅的な」運命に直面することを示す
地球は 2050年までに極端な水不足に陥る可能性があり、それは「壊滅的」な道のりだと極秘文書は警告する
ウィキリークスによってリリースされた機密文書は、世界中のより多くの人々が肉を食べるようになると共に、世界は文明が崩壊するような水不足に陥る可能性が極めて高いことを述べる。
ほんの 1ポンド(約 450グラム)の肉を作り出すためには、その動物を育てるための作物を維持するための大変な量の水が必要となる。
そして、インドや中国などの大国では、肉の消費が増加し続けており、じきに、アジアのそれらの国の肉の消費量はヨーロッパでの消費量を超え、あるいは、アメリカの肉の消費量も超えると見られている。
食品メーカー「ネスレ」は、世界的な肉の消費量の増加に懸念を持っており、これが「ツアー D ホライゾン」と呼ばれるネスレによる調査での機密報告書につながった。
もはや世界金融危機のことは忘れてもいい。それよりも、世界は「真水が不足してきている」ことこそ忘れてはいけないことなのだ。
報告書は以下のように述べる。
「肉は、同じカロリーの穀物を作ることと比べて 10倍の水が必要だ」
「世界の中産階級クラスが今よりさらに多くの肉を食べるようになった場合、地球の水資源は危機的なほど枯渇に近づく」
水不足は、2025年までに世界人口の3分の1に影響を与え、その後も、より悲惨な状況となり、2050年には壊滅的になっていると考えられると報告書は述べる。
また、報告書は、アメリカでの食肉消費量の多さを強調し、これはすでに持続可能なレベルではないことを指摘する。
そこに加えて、世界の人口の 37%を占める中国やインドのような大国が、そのアメリカの食肉消費量に追いつきつつあるのだ。
報告書は、さらに以下のように述べる。
「現在のアメリカの食事は、一日あたり平均 3600キロカロリーだが、その多くを肉のカロリーが占める」
「もし、全世界の食肉消費量がこのレベルに移行していった場合、60億人分の人口分の水資源しかなくなる。今世紀半ばには人口が 90億人を超えると予測されている中、60億人以外は水を利用できない可能性がある」
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