10月2日のアメリカの報道より
・Harvard Study Indicates Child Abuse Might Alter DNA
今日は、最近発表された研究発表をご紹介したいと思います。その研究発表というのは、冒頭に貼りました最近のものなのですが、これは、10月3日の AFP の日本語版の記事としても紹介されていました。上の記事では、米ハーバードとありますが、カナダのブリティッシュコロンビア大学などを含めた研究チームによるものです。
この記事の中に「 DNA のメチル化」という言葉が出てきまですが、この言葉は、In Deep の過去記事で「 2回だけ」出てきたことがあります。
それらの過去記事も後に振り返るとして、まずは、その AFP の記事から一部を抜粋して、ご紹介します。
全体をお読みになりたい場合は、リンクからどうぞ。
ここからです。
児童虐待、被害者に残る「分子の傷跡」 研究
AFP 2018/10/03
虐待を受けた子どもは、そのトラウマ(心の傷)を示す物質的特徴が細胞の中に刻み込まれている可能性があるとする研究論文が2日、発表された。
研究は、トラウマが世代間で受け継がれるのか否かをめぐる長年の疑問解明への一歩ともなり得る。
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学などの研究チームは今回の研究で、児童虐待の被害者を含む成人男性34人の精子細胞を詳しく調べた。
その結果、精神的、身体的、性的な虐待を受けたことのある男性のDNAの12の領域に、トラウマによる影響の痕跡がしっかりと残されていることが分かった。
研究チームは、未来の児童虐待容疑の捜査において、「メチル化」として知られるこのDNAの改変を捜査当局は調べることになるだろうと予想する。
ブリティッシュコロンビア大遺伝医学部のニコル・グラディシュ氏は、AFPの取材に「遺伝子を電球とみなすと、DNAメチル化はそれぞれの光の強度を制御する調光スイッチのようなものだ。そしてこれは細胞がどのように機能するかに影響を及ぼす可能性がある」と語った。
「ここで得られる情報から、児童虐待が長期的な心身の健康にどのように影響するかをめぐる、さらなる情報が提供される可能性がある」
遺伝子をめぐってはかつて、受精時において既にプログラムが完了しているものと考えられていたが、現在では、環境要因や個人の人生経験によって活性化・非活性化される遺伝子も一部に存在することが知られている。
精神医学専門誌「トランスレーショナル・サイキアトリー(Translational Psychiatry)」で論文を発表した研究チームは、メチル化が個人の長期的な健康にどのような影響を与えるかについてはまだ不明だとしている。
ここまでです。
簡単にいいますと、
「子どもの頃に虐待を受けた男性の遺伝子 DNA は変化していた」
ということがわかったというものです。
先ほど、過去記事に、この「 DNA のメチル化」という言葉が出てきたと書きましたが、それは以下のふたつの記事です。
まずは、「人間はストレスにより、DNA そのものが変化している」ことが判明した 2017年のネイチャーに発表された論文をご紹介した以下のものです。
もうひとつは、赤ちゃんのときに「親との肉体的接触が多いか少ないかで、その人の DNA かそれぞれ変化する(接触が多い方が良い方向に変化)」という、ブリティッシュ・コロンビア大学の医学部が発表した研究をご紹介した以下の記事です。
赤ちゃんは「抱っこ」など肉体的接触を数多くされるほど「DNAが良い方向に変貌する」ことをカナダの研究者たちが突き止める。その影響は「その人の健康を一生左右する」可能性も
この後者の記事は、昨年 12月のものですが、この研究では、単に赤ちゃんの時だけの健康の状態ではなく、「それがその人の一生の肉体的条件を左右する」という可能性を示したもので、記事では以下のように書いています。
他の実験などと照らし合わせた時に、「子どもの時に生じる DNA の差異は、その人の健康に一生影響するかもしれない」というところにまで可能性が及んでいます。
つまりは、
「自分の子どもをできるだけ健康にしたいのなら、生まれてすぐの頃に、できるだけ肉体的接触をたくさんもってあげること」
ということになりそうなのです。この「健康」には、肉体的なものだけではなく、精神的、心理的な健康も含められます。
前者の記事では、「 DNA のメチル化」という言葉が全面に出てきますが、これはとても難しい概念で、今も私にはうまく説明できないのですが、DNA のメチル化とは、図でいえば、 DNA の下の部分などが「変わってしまう」ことです。
そして、このメチル化というもの自体は、良いとか悪いとかというようなものではないのですが、ただ、以下のように重要な意味を持っているようです。
・DNA のメチル化が発ガンに関わっている
・人間の記憶の保持は DNA のメチル化によって制御されている
・DNA のメチル化が精神神経系の病気と関係している
つまり、ガンになったり、精神系やメンタルの病気になったりする理由の根幹に、この DNA のメチル化があるようなのですが、しかし、今のところ、この DNA のメチル化がどうして起きるのかというのは「わかっていない」のです。
しかし、上の前者の記事のように、アメリカの大学の研究者たちの実験によって、
「 DNA のメチル化はストレスによって起きる」
ことが明らかになったのでした。
もちろん、ストレスだけが原因ではないでしょうが、「何も原因がなく起きているわけではない」と。
そして、これらの問題は、体の何かの部位に影響があるというのではなく、「 DNA 」そのものを変えてしまうということであるわけです。
DNA とは「遺伝」子であり、つまり一般的には「受け継がれていく」ものです。
今のところ、「変わってしまった DNA 」が、後の世代に遺伝として伝わっていくのかどうかは不明ですが、しかし、普通に考えれば、
「変わってしまったものであろうと何だろうと、 DNA なら遺伝する」
というようには思うのです。
そして、今回の、「子どもの時に虐待を受けていた人たちの DNA も変化してしまっていた」という事実。これまでの研究などから見れば、それはおそらくは「良い変化ではない」と考えられます。
たとえば、さきほどの「ストレスは DNA で変化する」ことを取りあげた記事でご紹介した医薬系メディアの内容には、以下のような記述があります。
ストレスに応答する異常な DNA の変化は、DNA 結合タンパク質を異所的に生成されること(本来発現する場所以外で遺伝子が発現しタンパク質が生成されること)によって精神神経的疾患の発症に寄与すると推測されている。
というように、「 DNA が変化してしまったから」「精神神経的疾患の発症にいたってしまった」という人たちは、少なからずいると思われるのです。
精神的なものだけではなく、さまざまな肉体的な疾患の増加も関係していると考えられています。
さて。
本題としては、ここからですが、つまりは、今回の冒頭に示しました研究は、「子どもを虐待することは、その人の DNA を悪い方へと変化させる」と共に、
「それは、人類全体としての遺伝子の質の低下につながるのかもしれない」
というように私は思うのです。
そこで改めて見てみる「現在の日本の児童虐待の現状」をあらわした下のグラフです。
日本の児童虐待の相談対応件数の推移(1990年-2014年)
過去 20年くらいで、何倍……なのかはよくわからないですが、ものすごい増加を示しています。
もちろん、これはあくまで統計であって、現実をうつしだしているものではないかもしれないですが、現実としての数字はともかくとして、「子どもへの虐待がものすごく増えている」ことは事実だと思われます。
そして、このグラフで棒線として示されているのは、数ではなく「人間の子ども」であり、その子どもたちは、全員ではないだろうにしても、
「それぞれ DNA に傷を受けて、それは基本的に一生修復されない」
のです。
体に受けた傷と違って、DNA のメチル化で変わってしまった DNA は(その研究はまだないにしても)もう元には戻らないと考えられます。
そして、その「悪く変わってしまった DNA 」が、
「人類の遺伝子のひとつして、この世に定着していく」
ということになっても不思議ではないのです。
次の世代に伝わり、また次の世代に伝わっていく傷ついた DNA ……。あるいは、劣化した遺伝子。
そういう状況が、さきほどの「日本の児童虐待の件数」のように、飛躍的に増えているという現状があります。
「人間は遺伝子を持ち、その遺伝子は受け継がれる」という基本的な輪廻から考えても、今の時代は、過去にないほどの「破壊の時代」だと私が考える根幹はこのあたりにもあります。
まったくカタストロフだとは思いますが、だからといって、もはや何かを責めるというような特定の対象も思い浮かびはしないわけで、人類みんなで「 DNA の劣化した人類」へ退行進化し続けている現状を見るだけです。