2019年3月2日の英国の報道より
聖地から聖地へ向けての大進軍
童謡の「ちょうちょう」は、
ちょうちょう ちょうちょう
菜の葉にとまれ
菜の葉に飽いたら
桜に止まれ
桜の花の 花から花へ
というように、蝶が花から花へと渡り飛ぶ様相を歌に託したもののようですが……しかし、それにしても、蝶も見なくなりましたねえ。
年に数匹見るかどうか。
ある程度、近くに畑や森林などがある場所でこれですから、都市部では見られることはほぼないのではないですかね。
そんなわけで、もはや蝶が花から花へと渡り飛ぶ光景は、あまり見られなくなっているのですけれど、中東では、
「イナゴが、聖地から聖地へと渡り飛んでいる」
ということが起きています。
サウジアラビアの聖地メッカを襲ったイナゴの大群が、その方向を聖地エルサレムに向けているのです。
これは、今年 1月に以下の記事でご紹介させていただきました「サウジアラビアの聖地メッカがイナゴに占領された」という出来事の際のイナゴの発生が、「今なお拡大」していることによって、今後イナゴたちはイスラエルに向かうと国連の専門家たちが警告しているのです。
2019年1月4日 イナゴに占領されたサウジアラビア・メッカの聖モスク
これらのイナゴくんたちは、アフリカやアラビア半島から次第にイスラエルに向かって移動いるようなのです。
まずは、現在までの簡単な状況を、冒頭の英国デイリースターの記事からご紹介します。
Biblical 'Plague of LOCUSTS' will hit Israel during Passover marking escape from Egypt
dailystar.co.uk 2019/03/02
エジプトから移動している聖書のような「イナゴの厄災」が、過ぎ越し祭の間のイスラエルを直撃する可能性がある
聖書の記述にあるようなイナゴの大群が、ちょうどユダヤ教で最も重要な祭事のひとつの最中にイスラエルを直撃する可能性が出ている。
この数カ月、イナゴの大群が中東と北アフリカに出現し続けていた。
国連の専門家たちは、このイナゴの大群が、ユダヤ教で最も重要な祭事のひとつである「過ぎ越し」の祭の渦中のイスラエルを襲う可能性が高いと警告した。
イナゴが最初に出現したのは、昨年 12月で、エリトリアとスーダンの紅海沿岸で群が発生し始めた。
国連食糧農業機関(FAO)は、過去 2週間で、紅海の両側に沿って第二世代の孵化と大群の形成が拡大していると報告している。
1月の終わりには、1つの巨大な大群がイランに到達した。
エジプトとサウジアラビアでは、イナゴの国内への侵入を防ぐために、空と陸地と両方での、イナゴ侵入のための阻止作戦をおこなってきた。
しかし、そのような努力にも関わらず、1月には、イナゴはサウジアラビアで最も神聖な街であるメッカに到達したことが報じられている。
国連食糧農業機関は、「大群の規模(面積)は、しばしば数十平方キロメートルに及びます」と声明の中で説明する。
イナゴの大群は、たとえば、たった 1平方キロメートルの規模のイナゴの大群でも、1日に「 3万5000人の人間が食べる量と同じ作物を食べる」という。
ここまでです。
「聖書に出てくる厄災」というような響きは印象的ではあるとはいえ、現実として、イスラエル当局が懸念しているのは、上の記事にあります、
> 1平方キロメートルの規模のイナゴの大群でも、1日に「 3万5000人の人間が食べる量と同じ作物を食べる」
という「膨大な農業被害」に対してでして、イスラエル国内の報道では、2週間くらい前から、そのことについての報道が多数なされています。
イスラエルの報道より
デイリースターの記事から単純に考えれば、1平方キロメートルのイナゴの大群が 3万5000人分の作物を食べてしまうというのなら、国連食糧農業機関が言う、今回のようなイナゴの大群は、
「数十平方キロメートルにおよぶ可能性がある」
ということで、要するに、
「 1日に、数十万人分の食糧となる作物が消えていく」
ということになります。
もちろん、イナゴの被害は 1日で終わるわけもなく、過去の例を見ますと、かなり長期間に渡って続きます。
あるいは、気候や気温が「イナゴの繁殖に適したものであるならば」さらに大群は拡大していく可能性もあります。
イナゴの繁殖に適したもの、というより、多くの昆虫類に適した環境というのは、
・温暖で湿潤
ということになると思いますが、本来のエジプトやサウジアラビアやイスラエルなどは、基本的には砂漠の気候ですから、イナゴなどが大繁殖するような場所ではないのですが、
「中東が完全に異常気象に陥っている」
ことから、砂漠だったような場所においても、どんどんイナゴが繁殖しているようなのですね。
下の図は、2018年12月に、サウジアラビアとスーダン、エリトリアで、イナゴが確認された場所です。
紅海沿岸のデルタ地帯でイナゴが発生するのはわかりますが、砂漠のど真ん中でも、イナゴの成虫が確認されていることがわかります。
2018年12月の時点でイナゴの発生が確認された場所
・FAO
これは、昨年以来中東の砂漠で繰り返された洪水により、「砂漠が緑化」したことによるものだと思われます。
以下の記事でご紹介していますが、2月のサウジアラビアの砂漠は、同時期の雨量だけなら、今年とても雨が少なかった東京などより雨が多かったのです。
このような条件の中で、通常イナゴが繁殖できないような砂漠などでもイナゴの繁殖が続き、次第にイナゴの大群は拡大していき、エジプト、そして、サウジアラビアのメッカに至り、その後、イナゴたちは、「イスラエルに方向を定めた」ようです。
そして、今回のイナゴのイスラエルへの直撃で印象的なのは、
「ユダヤ教の最重要祭事である《過ぎ越し》の祭の渦中にやってくる」
可能性が高いのです。
といいますか、正確には、
「イスラエルがイナゴの大群に見舞われている中で、《過ぎ越し》の祭が始まる」
ということになる可能性が高いです。
このことの何が興味深いかといいますと、
「過ぎ越しは、神による厄災を避けるための祭事」
であるのに、その厄災を避けるための祭事が、
「十の厄災のうちのひとつの厄災の中で始まる」
というところですね。
この過ぎ越しの祭というものの意味は、Wikipedia などの公的な説明を読んでも、よくわからない部分がありますので、過ぎ越しについて、過去記事の
・春の満月と同時に始まるユダヤ教の犠牲の祭典「過越」に突入した日に、国力衰退の象徴「無敵艦隊」がアメリカから朝鮮半島に向けて出発した
In Deep 2017年4月12日
に記させていただいた部分から抜粋します。
2017年4月12日の In Deep 記事より
過越というのは、一般的な説明では下のようなものです。
過越 - Wikipedia
過越(すぎこし)またはペサハとは、聖書に記載されているユダヤ教の祭り。
特に、最初の夜に儀式的なマッツァー(酵母の入らないクラッカー状のパン)等のごちそうを食べて、その後、お祝いする。
というものですが、この祭事が始まった「本当の意味」を書きますと次のようになります。
ユダヤ教の「過越」は、神が与えようとした十の厄災のうちの「最後の災い」を避けるために「犠牲」を捧げる祭
なのです。
十の厄災とは、旧約聖書『出エジプト記』に出てくるもので、下のような厄災が順次訪れるというものです。
聖書に記述されている「十の災い」
1. 水を血に変える(川や海が赤くなる)
2. カエルの大群を放つ
3. ぶよを放つ
4. アブを放つ
5. 疫病を流行らせる
6. 腫れ物を生じさせる
7. 雹(ひょう)を降らせる
8. イナゴを放つ
9. 暗闇でエジプトを覆う
10.初子(長子)をすべて殺すいろいろとあるのですが、そのいろいろとある後の最後の災いが、
> 10.初子をすべて殺す
となっているのです。
これは「すべての家の最初に生まれた子どもを殺す」という意味です。
それは本当に困るということで、その回避方法が聖書に出ているのですが、その記述が過越の祭の「本当の意味」です。
旧約聖書からその部分を抜粋いたします。
出エジプト記 12章 21-24節
モーセは、イスラエルの長老をすべて呼び寄せ、彼らに命じた。「さあ、家族ごとに羊を取り、過越の犠牲を屠りなさい。
そして、一束のヒソプを取り、鉢の中の血に浸し、鴨居と入り口の二本の柱に鉢の中の血を塗りなさい。翌朝までだれも家の入り口から出てはならない。
主がエジプト人を撃つために巡るとき、鴨居と二本の柱に塗られた血を御覧になって、その入り口を過ぎ越される。滅ぼす者が家に入って、あなたたちを撃つことがないためである。
あなたたちはこのことを、あなたと子孫のための定めとして、永遠に守らねばならない。
モーセは、「さあ、家族ごとに羊を取り、過越の犠牲を屠りなさい。 」と言っています。これはつまり、家族のために羊を自らの手で殺しなさいと。
そして、「その羊の血をドアの鴨居(かもい)に塗りなさい」と。
鴨居に殺した羊の血を塗る様子
・A Survey of the Old Testament Law--"You shall keep the Passover"聖書には、
> 主がエジプト人を撃つために巡るとき、鴨居と二本の柱に塗られた血を御覧になって、その入り口を過ぎ越される
とありますが、この「過ぎ越される」は、神が、
「災いを与えずに通り過ぎていく」
という意味で、そこから「過越 (pass over)」という言葉となりましたが、要するに、「入口に羊の血が塗られている家の子どもは殺さない」ということで、そのためには、
「神に犠牲の証拠を見せなければならない」
ということになるのでしょうかね。
聖書の世界では、自分の子どもの命を守るために、「他の命(たとえば羊)を犠牲にしなければならない」という神の命令が描かれているようです。
ここまでです。
要するに、過ぎ越しというのは「犠牲祭」的なものであることが起源のようです。家族を守るために、他の命を犠牲にする。
そういえば、旧約聖書の出エジプト記に出てくる十の厄災で、イナゴと共に出てくる「雹(ひょう)」ですけれど、そのエジプトが、先日、とても印象深い雹に覆われていたことを思い出します。
2019年2月17日 雹で覆われたエジプトのダバー市
かつては、エジプトの砂漠やサウジアラビアの砂漠に雪や雹が降るのは異例のことでしたけれど、今では普通に…とまでは言わなくとも、非常に頻繁に雹や雪が、このような地域で見られます。
聖書に出てくるということもあり、何となく「神がかり」的な響きのある十の厄災ですけれど、気候の変化ということだけでも、かなりの部分が、それによって起き得るということも思います。
最後のほうの、
> 9. 暗闇でエジプトを覆う
というのも「巨大な砂嵐」に見舞われれば、起き得ることですしね。
実際、2018年からは、世界各地で強大な砂嵐の発生が非常に増えています。
エジプトでも、今年 1月に巨大な砂嵐で「風景がすべてオレンジに染まった」という出来事がありました。
こちらのリンクに一覧がありますが、2018年は、実に砂嵐の多い年でもありました。
地球の環境や、気候の変化が極端になってくると、「聖書の世界が浮かび上がりやすくなる」・・・ということなんですかね。
いずれにしましても、今年のイスラエルの過ぎ越しは、「厄災の中で、厄災を避けるための儀式がおこなわれる」という形のものとなりそうです。
そして、宗教的な意味とは別に、イナゴの大群はイスラエルに深刻な食糧問題をもたらす可能性もないではありません。
今年の過ぎ越しは、4月19日に始まり、4月27日に終わります。