欧州から始まる第三次世界大戦への警告
ここ数日、ヨーロッパの多くのメディアが、ドイツ軍の最高司令官のひとりが書いた「機密文書」の流出について大きく報じています。
その内容は、
「ロシア軍が警告なしにヨーロッパに侵攻する可能性がある。それまでの時間は長くはない」
というもので、さらに文書では、「その場合、ロシア軍はドイツを地図から消し去る可能性がある」とまで書かれているものです。
最初、ドイツで発行されているヨーロッパ最大のメディア「シュピーゲル」によって報じられました。
シュピーゲルの報道の冒頭は以下のように書かれています。
(シュピーゲルの記事「強制的戦争の準備」より)
> 機密の戦略書の中で、軍首脳はドイツ連邦軍が困難な年に直面することを確信していることがわかった。ロシアとの衝突の可能性が高まっている。ドイツ軍は、攻撃に対する防御に完全に集中しなければならないと文書は述べる。 (spiegel.de)
今回は、この内容について、他の情報なども含めて詳しく報じていましたドイツのメディア DW の記事をご紹介させていただこうと思います。
それにしても……。
こういう文書が実際に出てきていることと、ウクライナ侵攻がここまで長引いているということについて、「ロシアは単に待ち続けていたのでは?」という考えがよぎります。
というのも、
「今のドイツには戦争のための弾薬がない」
からです。
もともと生産システムなどの構造上の問題を持っていた上に、「ウクライナに武器を送りすぎて弾薬がなくなってしまっている」ようなのです。
以下は、スウェーデンの報道メディアによる 10月11日の記事で、こちらに翻訳したものの一部です。
ドイツは弾薬が尽きた
nyadagbladet.se 2022/10/11
防衛産業とドイツ議会の情報筋によると、ドイツ軍の弾薬備蓄は現在、最大 2日間の戦争に十分なほどしか残っていないという。この問題は「何年も前から」知られていたが、ウクライナ危機によってさらに悪化した。
ドイツのビジネスインサイダーによると、ドイツ政府は、約30日間の戦闘に備えて弾薬の備蓄を維持するという NATO の要件に大きく遅れをとっている。
情報筋によると、この問題は新しいものではなく、たとえば、ドイツ軍の演習では、数年間弾薬の供給不足に悩まされてきたが、ドイツが他の西側諸国とともに武器と弾薬をウクライナに送り始めた後、備蓄はさらに枯渇した。すべてドイツ政府独自の情報によるものだ。
現在、主要なドイツ軍は自国の防衛能力について深く懸念している。
ロシアではなくとも「どのような敵対勢力が侵攻してきても、現状では、最大で 2日間しか戦えない」ようです。
この「ウクライナへの支援による武器の減少」は、ヨーロッパ全体で起きているようでして、ハンガリーの報道メディアは以下のように伝えていました。
(10月24日のハンガリーの報道より)
> ヨーロッパ諸国は自国の武器の大部分をウクライナに送っている。
>
> エストニアは、国防予算の 3分の1相当をウクライナに与えたと国防相は述べた。ドイツのキールにある IFW 研究所によると、ノルウェーは自国の榴弾砲の備蓄の 45%以上をウクライナに送り、スロベニアは自国の戦車のほぼ 40%、チェコ共和国は、ロケットランチャーの約 33%をウクライナに送った。 (rmx.news)
これについては、以下の記事でハンガリーの報道をご紹介しています。
[記事] ウクライナへの支援を続ける中で、ヨーロッパ諸国が「武器の枯渇に直面している」という報道。このままではNATO諸国は、自衛さえできない状態に
地球の記録 2022年10月26日
このような武器の減少率は、実際の戦争時以上のものと思われ、また、弾薬や兵器は、独自の生産システムを持っていたとしても備蓄に時間がかかるものですが、ヨーロッパにはそのような生産システムがあまりありません (ドイツにはあります)。
結局、武器や兵器の生産は、アメリカなどに頼るしかないのですが、そのアメリカも「著しい兵器の減少」に見舞われています。
最近は、CNN でさえ、アメリカの武器の残存量が減少していることを報じていました。
(報道) ウクライナ向け兵器の残存量手薄に、製造能力にも問題 米 (CNN 2022/11/19)
また、アメリカは、ウクライナに提供していた「ハイマース (HIMARS)」と呼ばれる高性能のロケット砲システムが「枯渇してしまい」、ウクライナに供給できなくなったと、軍事分析メディアのディーガルが報告していました。以下に翻訳があります。
(報道) 米国は、ハイマースロケットを使い果たし、ウクライナへの供給を停止した (Deagal 2022/10/23)
欧米全体で、
「ウクライナに提供しすぎて、武器がなくなっちゃっている」
ようなのです。
このようなシュールな展開について、単にブレインデッドな話なのか、それとも「何らかの意味があるのか」はわからないですが、ただ、以前以下で記事にしたことがありますが、「アメリカはドイツに衰退してほしいと考えている」ことは、どうやら間違いないようですので、「何らかの意味がある」ほうである可能性もあり、ここまで「欧州の枯渇作戦」を導いていたのかもしれません。
[記事] 米シンクタンク、ランド研究所から漏洩したとされる文書は「ヨーロッパを滅ぼすことを計画した主体はアメリカである」ことを示す…
In Deep 2022年9月18日
現在の状況のまま、何らかの敵がドイツに侵攻した場合、ドイツは「 1日か 2日しか戦えない」ことになり、他のヨーロッパ諸国も「援助したくても武器がない」状態となっていまして、結局、何らかの敵対勢力に攻め入れられた場合、
「なす術がない」
という状態が現在です。
ロシアにしてみれば、数ヶ月待って、この「 NATO の武器の枯渇」に至ったわけであり、「自滅してくれている NATO 」を眺めているという感じだったのでしょうか。
どの NATO 諸国も、完全に自国の防衛能力が消えるのは避けると思われますので、そのうち欧米も、ウクライナへの武器供給があまりできなくなってくるはずです。
11月に入り、ロシア軍トップが発表した作戦が、この「待つ」作戦でした。
ロシアのプラウダが報じていていたものを以下で記事にしています。
[記事] ロシアが軍事作戦を「枯渇戦」へと移行。ウクライナが冬を越せる可能性がさらに低くなる模様
地球の記録 2022年11月12日
もうすでに、ロシアの対ウクライナという姿勢はあまり重要ではなくなってきているのかもしれません(定期的にインフラを攻撃し続けるだけでウクライナは国家として機能不全に陥るため)。
ウクライナ軍の戦い方にもかなりの問題があり、膨大な武器を欧米から供与され続けているにも関わらず、ウクライナ軍は壊滅的な状況となっているようです。最近では、アメリカ軍の元上級将校たちが、「もはやウクライナがロシアに勝つ可能性はない」と公に述べ始めています。
(報道) 「ウクライナ軍は10万人以上死亡している」:元米陸軍大佐のダグラス・マクレガー氏 (2022/11/20)
なお、文書によれば、ロシア軍がウクライナ戦に投入している軍勢は「全体の 60%」だそうで、残るうちの、特に空軍と海軍の戦闘能力は「未知だ」と述べています。
このような事態の中で、ふと思い出しましたのが、10年くらい前に書きました「予言」でした。
ふと思い出す「予言」の世界
ここで予言を引き合いに出すのもどうかと思いますが、ドイツ軍将軍の文書の内容を知り、その予言の内容に「臨場感」が出てきた気がしたのでした。
[記事] アロイス・アールメイヤによる「第三次世界大戦の予言」の壮絶な描写
In Deep 2013年04月10日
わりと長い内容ですが、アロイス・アールメイヤさんというドイツ人預言者が、1950年代に以下のように述べていました。
(アールメイヤ氏の第三次世界大戦についての予言より抜粋)
> 彼らは突然やって来る。農民や市民たちがパブでカードゲームに興じている時に、窓の外に外国の軍隊の姿が映る。まだ外が真っ暗なうちに彼らは「東」からやって来る。
>
> すべては突然に、そして急速に起きる。私は数字の「3」を見た。しかし、この数字が3日という意味なのか3週間という意味なのかわからない。
>
> 巨大な軍隊が東からベオグラードに入ってくる。事前通達なしに、ドナウからドイツのライン川まで一気に進む。
>
> これらのことはまったく予想されていなかったことなので、人々はパニックを起こして避難する。多くの人々が家にいる時間で、みんなが車で逃げようとして、道路は渋滞する。一般の道路にも高速道路にも戦車が通過していく。逃げようとした人々も結局ほとんどが戻るしかなくなる。
>
> 私には、あるはずのドナウ川の橋が見えない。そして、大都市フランクフルトは見る影もなくなっている。ライン渓谷の空気はよどんでいた。
>
> 私は3本の槍が迫ってくるのを見た。ロシア軍だ。
>
> 彼らはどこにも止まらず進軍する。昼夜を通して進行し、ルール地方に到達する。彼らの目的はルール地方の獲得だ。
この後に、
> 黄色いドラゴンがアラスカに侵攻し、またカナダにも同時に侵攻する。
と続き、この意味はよくわからないですが、予言では、何らかの新しい兵器により、状況は壊滅的になり、大変な死傷者が出るというあたりまでの言及となっています。
ロシアとドイツの間には、ロシアの友好国ベラルーシをはさんで、「ポーランド」があります。ここを通過できないと、ロシア軍がドイツに入ることはできません。
バルト海から海岸経由、あるいは「北極から北海経由で来る」というルートもないではないのかもしれませんが。
以下の記事では、中国とロシアが積極的に北極に軍事基地を設置し続けていることについての AP 通信の記事をご紹介しています。
[記事] ノルドストリームへの攻撃の周辺で起きていること。そしてどうやら「北から来る」模様
In Deep 2022年9月28日
NATO のストルテンベルグ事務総長は以下のように述べたことが、この報道で伝えられています。
「ロシアが新しい北極司令部を設置し、深海港や飛行場を含む数百の新しい旧ソ連時代の北極軍事基地を開設した」 (AP)
ロシアが淡々と北極での軍事開発を続けている中、ドイツあるいは NATO は「兵器を枯渇させていっている」という状況となっています。
来年にかけて、かなり緊迫した事態もあり得るのかもしれない状況となってきました。
機密文書の流出についてドイツのメディア DW の記事からご紹介します。
なお、この機密文書を書いたとされるのは、ドイツ連邦軍総監のエーベルハルト・ツォルン将軍です。
しかし一方で、この書類からは、ドイツ国民の統制のために危機を煽っているという感じも漂わないわけではなく、現実のところは今後起きていくことでしかわからないとは思います。
ドイツ:「課せられた戦争」への準備
Germania: Pregătiri pentru un ”război impus”
DW 2022/11/19
ドイツ連邦軍は、「警告なしに行われる」、「重大な、それはドイツの存亡にさえ影響を与える」攻撃の準備ができていなければならないと軍陸軍参謀総長が機密文書に記していた。ドイツ軍は大改革の必要性に直面している。
「ドイツ軍作戦ガイドライン」と題された機密文書の中で、最高位の大将エーベルハルト・ツォルン氏は、ロシアのウクライナ侵攻に対してドイツ連邦軍の戦略の根本的な変更が必要であると述べている。
シュピーゲルが参照した 9月のこの文書で、ツォルン将軍は、ロシアとの差し迫った紛争の観点から、連邦軍のより強力な位置付けを予測している。
「ヨーロッパでの戦争は再び現実のものとなった」とツォルン将軍は、文書の冒頭で述べている。
このような状況では、ドイツは、ロシアが NATO の東の国境に侵攻した場合、「米国の支援を待つことはできないため、即戦力となる部隊を提供しなければならない」という事実にドイツ連邦軍は備えなければならない。
NATO は、「攻撃が発生した後でのみ、計画を立て、部隊を編成することを開始する」ことを許可することができるとツォルン氏は警告した。 (※ 敵から突然の攻撃を受けても、すぐに NATO が即応することはできないということだと思います)
ドイツ連邦軍の参謀総長は、「ドイツへの攻撃は警告なしに行われる可能性があり、それにより大きな損害が発生し、場合によってはドイツの存在が危ぶまれる可能性さえあるだろう」という事実に注意を向けている。
このような背景から、ドイツ連邦軍の防衛能力と作戦訓練は、国全体にとって「不可欠」だという。
この 68ページの報告書は「ドイツ連邦軍の大規模な改革」を概説しており、それ以外への言及はないとシュピーゲルは述べている。
ドイツ軍の改革の重要な柱の 1つは、国防力と西側同盟へのより強い焦点だ。
「目に見えて信頼できる抑止力を含む同盟防衛が、ドイツの軍事行動を支配するだろう」と将軍は述べ、具体的には、ドイツ連邦軍は「課せられた戦争のために」武装しなければならないと主張する。
NATO 東部領域での紛争が再び起こり得る
シュピーゲルは、分析された情報で「抑止力」という用語が繰り返し使用されていることに注目する。
「強力なシナリオに向けて訓練された展開可能な軍隊は、この抑止力のバックボーンを構成する」と文書は述べている。NATO の東側の側面での直接的な衝突が「再び可能性が高まった」ため、ドイツ連邦共和国は「ヨーロッパで主導的な役割」を担い、軍隊を強化しなければならないと述べる。
ツォルン氏は、小規模で特殊な部隊を海外に派遣するだけではもはや十分ではなく、北大西洋同盟には「いつでも展開して戦う準備ができている大規模な部隊」が必要であると強調している。
今年 9月、ツォルン氏は、ロシアが「第二戦線」を開くのではないかという懸念を表明し、カリーニングラード、バルト海、フィンランド国境、グルジア、モルドバ、は攻撃される可能性がある場所だと指摘した。
将軍は、プーチン大統領はその実行に必要な能力を持っていると主張している。現在、ロシアの地上部隊の約 60%がウクライナでの戦争に従事しているが、残されたロシアの陸軍、あるいは特にロシアの海軍と空軍の能力は未確定の要素が強い。プーチン大統領が総動員を命じるとしても、現在のロシアでは人的不足の問題は抱えていないと将軍は述べた。
再び議題となるドイツ連邦軍の適切な軍備
先週、アルフォンス・マイス陸軍監察官は、ドイツ連邦軍の戦闘能力の急速な強化を求めた。ロシアによるウクライナ侵攻の日、マイス陸軍監察官はドイツ軍は「多かれ少なかれ無力」であると宣言して報道の見出しを飾った。
「同盟国を支援するためにドイツの政治家に提供できるオプションは非常に限られている」とマイス氏は語った。
その 3日後、オラフ・ショルツ首相は、連邦軍の武装のために 1,000億ユーロ (約 14兆円)の特別基金の設立を発表した。
5月、エバーハルト・ツォルン参謀総長は、ドイツ連邦軍はパンデミック後にの深刻な訓練不足に直面する可能性があると警告した。彼はまたこの時期に、ドイツ兵は戦術協力について十分な訓練を受けておらず、この欠点を改善するには 1年半はかかると警告した。
防衛予算は大幅に増加している
ドイツ連邦議会の予算委員会によって最近承認され、来週正式に採択される来年の連邦予算は、通常の予算から約 501億ユーロ (約7兆円)、さらに 1,000億の特別基金から 84億ユーロの防衛資金を追加で提供する。
ドイツは来年、プーマ歩兵戦闘車、F126フリゲート艦、CH-47重輸送ヘリコプター、新型戦闘機 F-35等を、 この 1,000億ユーロのプログラムの資金で導入する予定だ。後者は、とりわけ、いわゆる核の共有に使用され、必要に応じて、ビュッヘルに保管されているアメリカの核爆弾を配備場所に輸送するために使用される。最近の情報によると、核爆弾は今年、アップグレードされた B61-12 バリアントに置き換えられる予定だ。
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