アメリカ合衆国国土安全保障省 RUSSIA : EMP THREAT 表紙
EMPが最大の脅威であることは変わらない
思えば、以前は「 EMP(高高度核爆発)」ということについてよく書いていました。この世に存在する攻撃の形態の中で最も恐ろしいと思われるものが、この EMP 攻撃だと今でも思っています。以下は、11年前の記事ですが、当時は北朝鮮が EMP 兵器を完成させたのではないかという報道が、日本の普通のメディアでも報じられていた時でした。
[記事] 北朝鮮はスーパーEMP兵器を完成させたのか?
In Deep 2011年06月27日
この高高度核爆発という言葉には「核」という文字が入っていますが、一般的な核兵器と違って、高度数十〜数百キロメートルなどの非常に高い大気圏で爆発させるために、
「爆発そのものでは誰も殺さない」
攻撃です。
それどころか、高度によっては、地上にいる人々は爆発が起きたことにも気づかないのではないでしょうか。
攻撃により爆発した時には何も起きていないとしか思えない状態だと思います。
その普通の状態の「その次の瞬間」どんなことが起きるかといいますと、これは、2017年の産経新聞の記事のタイトルがわかりやすいかと思います。
「電磁パルス攻撃」の脅威 上空の核爆発で日本全土が機能不全に
産経新聞 2017/08/27
北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルで挑発を続けるなか、もう一つの深刻な脅威として「電磁パルス攻撃」の可能性が指摘されている。上空で核爆発を起こし、広範囲で都市機能を破壊するものだ……
……電磁パルス攻撃は、高度30〜400キロの上空で核爆発を起こして行う。その際に生じたガンマ線が大気を構成する窒素や酸素などの分子に衝突。分子に含まれる電子がはじき飛ばされて雷のような巨大な電流が発生するなどした結果、強力な電波の一撃である電磁パルスが地上に襲いかかる。
電磁パルスは送電線を伝ってコンピューターなどの電子機器に侵入。その電圧は5万ボルトに達するため、機器はIC(集積回路)の機能停止で損壊し、同時に大規模な停電も発生すると予測されている。核爆発に伴う熱線や衝撃波は、地上には届かない。
最近、EMP に関する「ふたつの資料」を知りました。
ひとつは、アメリカ合衆国国土安全保障省「EMPタスクフォース」のロシアの EMP 兵器能力についての資料でした。冒頭の表紙の 23ページの資料です。
以下にあります。
RUSSIA : EMP THREAT
ロシア:EMP 攻撃への脅威
2021年1月の日付けが記載されています。
もうひとつは、2017年10月のアメリカ議会の「 EMP 委員会」による報告書を伝えた当時のアメリカの報道でした。
そのタイトルがなかなか強力で、
「北朝鮮の EMP 攻撃は、すべてのアメリカ人の 90%を殺す」
というものでした。
議会でそのような報告がなされていたということです。
なお、この「死亡」というのは、EMP 兵器の爆発による直接的な死亡ではありません。
その後に起きる停電や通信の停止による影響により、食糧から移動からインフラからすべてが消え去るため「時間の経過と共に生きることが不可能になり」、1年以内などにそのくらいの人たちが亡くなるだろうということです。
その報道をまずご紹介します。
米国議会の報告 : 北朝鮮のEMP攻撃は「すべてのアメリカ人の90%」を殺すだろう
Congressional Report: A North Korean EMP Attack Would Kill “90% of all Americans”
futurism.com 2017/10/16
「したがって、アメリカの国家指導部が EMP の脅威を重大かつ実存的な問題として扱うことが重要だ」
アメリカは EMP に対して脆弱
北朝鮮はアメリカの電力網を破壊することができる武器を持っており、米国議会は現在 、それがもたらす完全な脅威についての報告を受けている。
EMP 攻撃は、最大「アメリカ人の 90パーセント」の死につながる可能性がある。
2017年10月15日に行われた米国下院の公聴会で、元 EMP 委員会のメンバーたちが、電磁パルス(EMP)攻撃が国に与える可能性のある荒廃について議会に通知した。
委託報告書の中で、元 EMP委員会委員長のウィリアム・グラハム氏と元参謀長のピーター・ビンセント・プライ氏は、金正恩の十分に文書化された脅威を引用して、「最悪のシナリオ」として、北朝鮮が EMP を使用した場合について言及した。端的にいえば、「米国は灰に」なる。
議会で以下のように述べた。
衛星発射装置を使用して、南極地域に核兵器を運び、それを爆発させ……米国上空で高高度の電磁パルスを生成する……その結果、米国の電力網は無期限にシャットダウンされる可能性がある。 ……すべてのアメリカ人の最大 90パーセントが、1年以内に死に至るだろう。
EMP 攻撃に対する米国の脆弱性が議論されたのはこれが初めてではない。2014年に、フォーブス誌のピーター・ケリー・デトワイラー氏は、EMP の脅威に対処した場合、比較すれば、 9.11が子供のように見える可能性があると書いている。
「現在の世界は、エレクトロニクス、コンピューター、マイクロエレクトロニクスへの依存度が大幅に高まっています」と、フォーブスとのインタビューでグラハム元委員長は述べている。
「攻撃は決して起こらないかもしれません。しかし、米国がそのような攻撃に対して脆弱であるほど、私たちに対して使用される可能性が高くなります」
必要な措置
グラハム氏とプライ氏によれば、アメリカ政府は北朝鮮の能力に関する懸念をかなり前から無視してきた。過去 6か月だけで、旧 EMP 委員会は、北朝鮮の核兵器に関する情報を提供してきた。
これには、北朝鮮の核兵器の数、小型兵器の製造能力、水素爆弾の開発からの距離などが含まれる。しかし、政府組織は公然と(EMP対策を進めなければならないという)警告を却下した。
EMP 委員会のそれまでの予測が、北朝鮮の最近の権力の行動などによって確認されているわけで、EMP攻撃の脅威は真剣に受け止められるべきだ。
グラハム氏とプライ氏は以下のように述べる。
「したがって、アメリカの国家指導部が EMP の脅威に重大かつ実存的な問題として対処し、指導部が関与し、国を EMP から保護するために必要な措置を講じることを最優先することが重要です」
これは、国土安全保障小委員会に報告された。
北朝鮮の EMP能力に関する議会の議論は、韓国が電力網を破壊する可能性のある独自の爆弾を明らかにしてからそれほど長くはない。
韓国軍は、北朝鮮が行動を起こす準備をしているように見える場合、北朝鮮に対してこれらの「ブラックアウト爆弾」を使用すると述べた。しかし、韓国はそのような準備はまだ観察されていないと述べている。
ここまでです。
この最後のほうにある「ブラックアウト爆弾」は、その頃の報道ですと、以下のようなものです。韓国軍は、核を使用しない停電兵器を開発していたようです。
韓国は電気網を完全に破壊することができる「停電爆弾」を明らかに
韓国は、電力網を標的にして、その地域の電子機器を本質的にまったく役に立たなくすることができる爆弾を開発している最中であることを明らかにした。
「ブラックアウト爆弾」として知られるこれらの装置は、飛行機によって主要な発電所に投下されるように設計されている。衝撃を受けると、電気に依存する近くのハードウェアを短絡および破壊する可能性のあるカーボングラファイト・フィラメントを放出する。
ブラックアウト爆弾は、湾岸戦争中の 1991年に米海軍によって最初に使用され、1999年に NATO によってセルビアに対して使用された。現在、ソウル国防開発庁は、これらの爆弾を北朝鮮の電力システムに対して使用する計画を立てている。
ただ、このような停電兵器は、EMP とは「影響の範囲がまったく異なる」ものです。
EMP はとにかく広い範囲に影響を与えます。
たとえばの例ですけれど、以下は、2021年6月の日本の報道のタイトルです。
「日本全体が1発で麻痺、核より怖い北朝鮮の電磁パルス攻撃」 (JPpress 2021/06/24)
EMP も核兵器ではあるのですが、核爆発のどの影響を主軸にするかという点で異なります。
使用された場合、実際にはどうなるかわからない面はあるとはいえ(EMP攻撃が実際の戦争で使われたことは一度もないですので)、理屈の上では上の報道のタイトルのようになると思われます。
「一発で国を麻痺」
とありますが、ここが重要であり、攻撃者から見ての、この利点がおわかりでしょうか。
「安くすむ」
のです。
通常の核兵器でしたら、日本程度の広さの国土でも、全体を壊滅させるためには、何十発、何百発と必要で、アメリカのような広い国ならさらに大変な数の攻撃が必要となります。
しかし、EMP なら、
「日本程度の国土面積なら一発だけ」
でいいし、アメリカなどの広い国でも、
「二発か三発で十分」
であるはずです。
安い、早い、そして効果はこの世にある武器の中でダントツに最大。
攻撃されたほうは、先ほど書きましたように、攻撃の時点では誰一人亡くなることはありません。攻撃されたことも、高度によっては爆発したこと自体わからないと思います。
それで、攻撃側は次にどうしたらいいかというと、
「何もしない」
だけでいいのです。
EMP 攻撃による停電のダメージは通常の停電とは異なり、根本から破壊されますので、早期の復旧はできません。
それと共に、通常の私たちの今の生活では、たとえば、何かが故障したりして修理する場合には、そのための部品や修理する機器などがあり、それにより修復します。
「それが全部ない」のです。
部品などの生産拠点も根本から破壊されますので、まず部品工場建設、という段階から始まり、やっと部品製造の回復に至るまでだけでも何カ月あるいは何年かかるかわかりません。
工場建設から、とはいえ、すべての車両、航空機、鉄道が破壊されているわけで(蒸気機関車やクラシックカーなど完全に電気を使わないものなら動くと思います)、輸送手段そのものがない状態ですので、どこから復旧していいのかわからなくなるはずです
その間、すべての病院のシステムやすべての食糧輸送・保管のシステムは稼働できなくなるわけで、アメリカ議会での、
「 1年後までにアメリカ人の 90%が死亡するだろう」
というのは、そういうことです。
現代社会は、飲料水ひとつでも電気がなければ手に入りません。食糧も輸送と保管方法がなければ、人々の手に行きわたりません。自動車もすべて動かなくなりますので、移動することも他の地域へと逃げることもできない。
食べるものもなく飲む水もなく、電気もなく暖房もなく、通信手段もなく、結局、日の経過と共に生きていくことができなくなる人が増加していくということになります。
アメリカの EMP 委員会の強い懸念はそのようなことです。
そして、先ほど少しふれました、アメリカ合衆国国土安全保障省「EMPタスクフォース」のロシアの EMP 兵器能力についての資料ですが、2021年1月という、昨年のものだったのが印象的でした。
また、この書類の著者筆頭は、さきほどの米国議会報告を報じていた記事に出てきましたピーター・ビンセント・プライ氏でした。2017年の記事では、「元 EMP委員会参謀長」と「元」とついていましたが、書類では、
「アメリカ合衆国国土安全保障省 EMPタスクフォース 専務理事」
の肩書きとなっていまして、現役に戻ったと同時に、2021年からアメリカ議会は「 EMP 攻撃への対処を真剣に検討するようになった」のかもしれません。
資料で驚いたのは、ロシアは「ソ連時代から EMP 開発を進めていた」ことが明確に書かれてあることでした。
2020年に変更されたロシアの核使用教義
資料では、ソ連が「電磁パルス現象」に気づいたのは、1960年代に数々の核爆発実験をおこなっていたときだったと推定していて、その後に、「実際に EMP のテストをしている」ことについて、6ページに以下のようにあります。
(EMPタスクフォースの資料より)
> 1962年10月22日、ソビエト連邦は高高度EMPテスト(核実験184番目)を実施した。
> カザフスタンの電力網を実験として意図的に高高度EMPにさらした。これらの EMP 試験は、カザフスタンの人口の多い土地で行われた。1962年のカザフスタンは、今と比べれば原始的だとはいえ、高度に工業化され電化されていた。
> この核実験によって生成された高高度EMPフィールドは、カザフスタン全体をカバーした。
>
> (資料) 「核試験184は、Zhezgazghan の真西 180マイルの地点の高度 290kmで爆発した。...カザフスタン中央部の爆発地点から 290kmの高度では、地平線までの距離は 1900kmを超えていただろう。 これはカザフスタン全体に電磁パルスを引き起こし得る」 (RUSSIA : EMP THREAT)
ロシアは 60年前から EMP の原理を(偶然)知り、そして「実際にカザフスタンを使って実験した」ようです。
他にも興味深い部分はたくさんあります。
今は、PDF 書類なども自動翻訳できますので興味のある方はどうぞ。Google 翻訳の入力欄の上に、「テキスト」「ドキュメント」「ウェブサイト」と並んでいますので、「ドキュメント」を選んで書類をアップするだけで機械翻訳ができます。
そういえば……いやまあ、全然どうでもいい話なのですけれど、この書類を Google 翻訳で機械翻訳したのです。アップする時に、その書類データの大きさが表示されます。KB (キロバイト)とかそういうのですね。
それが以下のようになっていました(苦笑)。……666。
「できすぎかよ」とも思いましたが、まあまあ、これは余談でした。
ともかく、ロシアが、今の世界で EMP に関して最も多くの知識と歴史を持っているということがわかりました。
なお、この資料は約一年前のものですが、ページの最後のほうには以下のように書かれてあります。そこを抜粋します。
国土安全保障省 EMPタスクフォース「EMPの脅威」21Pより
(ロシア軍の)アンドレイ・スターリン少将とアレクサンダー・クリャピン大佐は、ロシア軍の公式新聞であるクラスナヤ・ズヴェズダに掲載された記事の中で、(ロシアに)入ってくるミサイルは核と見なされ、核反応を促すと警告した。
このロシアの核教義が発表されてから 2か月後の 2020年8月4日、ウラジミール・プーチン大統領は、この新たなロシアの核抑止政策を承認した。
核抑止と使用に関するこのロシアの新しい教義は、ロシアまたはソビエトの歴史の中で最低点までしきい値を大幅に下げると西側のアナリストによって広く解釈されており、それによってモスクワは核の先制攻撃を開始する可能性がある。
これは、元国防総省の高官であるマーク・シュナイダー博士と元米陸軍大学のスティーブン・ブランク博士を含む、米国の最高の核戦略家の一部の解釈だ。
シュナイダー博士によれば、「...ロシア人は、核力に対する従来の攻撃に対する核の対応以上のものについて話している。その結果、核使用の閾値が低くなる...これにはサイバー攻撃が含まれる可能性がある」と述べている。
これは戦略的核力への攻撃に限定されない。本質的にすべてのロシアのミサイルは核に対応しているので、これはミサイルを持っているロシアの軍事施設へのほぼすべての攻撃に対する核の対応を正当化する可能性がある。これは非常に低い核使用しきい値になるだろう。
ここまでです。
これは、
「ロシアの軍事施設、あるいはロシア領土内へのミサイル攻撃には、即時に核で応じる」
ということを示していまして、そしてロシア軍が示したこの新しい方針を、2020年8月4日に、プーチン大統領が承認したということになります。
「いかなる場合であっても」という解釈でかまわないかもしれません。
また、
> 歴史の中で最低点までしきい値を大幅に下げる
というのは、この 2020年にロシアで承認された新しい核使用の教義は「以前よりはるかに核が使用されやすくなっている」ということを示しています。
そういう意味では、現在とても核使用に近いところに私たちはいるようです。
その使用の場合、それが EMP になるのか、通常の核兵器になるのかはわからないですが、EMP ならどうしようもありません。
なお、EMP 爆発で停電を引き起こす電磁パルスは、巨大な太陽嵐によりもたらされるものと同じですので(過去記事「太陽、食糧、そして準備」)、対処というのは方法としてはあるのですが、しかし戦争では「いつ攻撃されるかはわからない」ですので、地球への到達時間がわかる太陽嵐とは違って、実質的に対処法はないかもしれません。
以前から、軍事力分析組織ディーガルの 2025年の予測というのを取り上げることがありました。
[記事] …人類類史上最大の事象がディーガルの分析した未来予測へと推し進める惨状を見続ける日々
In Deep 2021年6月18日
最近では、以下の記事でも取り上げています。
[記事]アメリカの異常な孤立を見て思う、日本を含めた「対ロシア制裁国」の劇的な人口減少の原因は、戦争よりも凍死や餓死によるものになっていくのではという懸念
In Deep 2022年3月10日
このディーガルの報告書では、特にアメリカなどは、
「 2025年までに今より 2億人以上、人口が減る」
ということになっていまして、「いくらなんでも非常識な」と最初思いましたけれど、コロナワクチン展開の中でも少しいろいろと思いましたが、でも確実にこうなる可能性があるとすれば、やはり EMP なのだろうなと改めて思います。
ちなみに、ディーガルの報告書は、2025年の西側の主要国の人口が以下になると予測しています。
・イタリア 今より約2000万人減少
・フランス 今より約2800万人減少
・カナダ 今より約1000万人減少
・韓国 今より約1400万人減少
・ドイツ 今より約5200万人減少
・日本 今より約2300万人減少
というようになっています。
いろいろと終末じみてはいますけれど、ただ、私自身は、2年前からもうずっと終末の渦中にあると感じています。
これからどうなるのかはわからないですが、先ほどの資料を見ても、本当に微妙な位置に現在あるようです。
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