米国科学アカデミー紀要に発表された論文についての記事より
「老化」とか、あるいは「細胞の死滅」というのは、体の中のさまざまなものが関与しているようなのですけれど、知られている中で最も根幹的なもののひとつとして、染色体の末端部分にある「テロメア」というものがあります。
テロメア
私たちの細胞は、細胞分裂するときには DNA が複製されるのですが、このテロメアという部分は DNA が複製されないのです。
そのために、このテロメアは、細胞分裂のたびに「短くなる」(配列が失われる)ということになり、このテロメアの長さがある短さにまで至ると、細胞はそれ以上、分裂をおこさなくなります。
つまり、テロメアの長さがある一定に達すると、「細胞の寿命」が来て、細胞が死滅するのです。
ちょっとわかりにくい書き方だったかもしれないですので、それを取り扱った記事から抜粋します。
あなたは長い? 短い? 「細胞分裂の回数券」テロメア
IT Media ビジネス 2015/08/28
私たちは、細胞分裂によって新しい細胞を作り、生命を維持しています。
細胞が分裂すると染色体が同じようにコピーされますが、染色体の末端にあるテロメアだけはコピーされず、細胞が分裂するたびに徐々に短くなっていきます。
染色体がヒモだとすれば、テロメアはそれがほどけるのを防ぐ金具のようなものであり、テロメアが短くなると染色体は不安定になり、最終的に分裂をやめてしまいます。
これが細胞の老化の仕組みです。
テロメアの長さには個人差があり、長いテロメアを持っている人は、短いテロメアを持っている人に比べて細胞分裂の限度回数が多いということになります。
このように、テロメアは細胞分裂の回数制限を決めていることから、「細胞分裂の回数券」「生命の回数券」などとも呼ばれています。
テロメアの長さが短くなることで分裂をしなくなる細胞は、私たちが年齢を重ねるにつれて増えていきます。
老化した細胞が増えていくことで、私たち自身にも老化の兆候が出てくると言われています。例えば血管に老化した細胞が増加することで、動脈硬化の発生や進展に影響しているという論文もあります。
テロメアは老化だけではなく寿命にも関係しているとも言われています。
というようなものです。
2009年にノーベル医学生理学賞を受賞したのは、このテロメアの研究に関するもので、それは「テロメアとテロメラーゼ酵素が染色体を保護する機序の発見」という研究でした。
上の記事には、
> テロメアは老化だけではなく寿命にも関係しているとも言われています。
とありますが、この 2009年のノーベル医学生理学賞の研究などでは、単純に書けば、「テロメアの長いヒトは長寿になる」というようなこともわかってきたということにもなっているようです。
また、その論文では、ガン細胞や腫瘍細胞が短いテロメアを持つことにふれていて、「テロメアの短さとガンになりやすさの関係性」も可能性としてはありそうなのです。
まあしかし、このテロメアというものと「老化と寿命」について、難しいことを除外して、ものすごく簡単に書くと、
「テロメアが長い人は老化しにくく、死ににくい」
ということは言えそうです。
そういう中で、今回ご紹介するカナダの大学の研究チームが発表した結果は、とても単純な「真理」を導き出したのでした。
それは、テロメアを長く(老化しにくく、寿命が長い)するために必要なことは、
「幼少期にストレスや困難をなるべく受けないこと」
だということでした。
逆から書けば、
「幼少時代にストレスを強く受けると、テロメアが短くなり、結果として老化が早まり、慢性疾患にもかかりやすくなり、寿命も短い大人になる」
ということになるようです。
今回の研究は、これまで行われたテロメアの長さに関しての調査としては世界で最大規模のものとなっていまして、単純な結果のように見えても、その信頼性はかなり高いと思われ、幼少期のストレスが人の寿命を短くすることについては、ほぼ間違いがないかと思います。
面白いのは、関係するのは幼少期だけで、「青年期のストレス」は関係しないのです。
子ども時代・・・といっても、子ども時代の年齢を記事では明確に区分しているわけではないですが、文中に「最初の数年間を」というような部分がありますので、おそらくは 10歳より下の年齢の時代のことをさすのだと思いますが、
「そのような時期に受けたストレスは、その人が大人になってからの健康と寿命に影響する」
ということになりそうです。
この科学的調査が明らかであるならば、「親」が「子どもの先々の幸せ」を願う場合にすることは、その子どもにどれだけストレスをかけない幼少期を過ごさせられるかということにかかっているかと思います。
・・・けれども・・・現状、世界全体はどうだかわからないですが、日本においての子どもたちはどうなっているか・・・という話はあります。
このことについては、子どもの育児や教育についてのいろいろな考え方が存在すると思いますので、特に何かを書こうとは思わないですが(どう書いても今の時代に批判的になりますので)、私自身の考え方はわりと一貫していて、「小さな子どもは好きに遊ばせとけばいい」という考えだけです。
このあたりは、過去記事の、
・シュタイナーが「子どもへの詰め込み教育は絶望的な社会を作る」といった100年後に、完全なるその社会ができあがった日本。その日本人の生命エネルギーは驚異的なまでに低下しているかもしれない
2015/04/16・世界大学ランキングの日本の大学の順位の急落からさえも思う「もう詰め込み教育から子どもたちを解放させて、遊ばせてやれ!」…の想いは強まるばかり
2015/10/02
などに書いたことがありますが、進路だの大学だの将来だのいろいろと考えることがあっても、そんなのは十代の先の話で、10歳にもなる前の子どもに「詰め込み教育」のようなストレスを強いるのはどうかなと思い続けてきましたけれど・・・まあ、しかし、世の中のいろいろな考え方を否定するつもりもないです。
それにしても、日本でのガンや生活習慣病などの重い病気が、若い世代にもどんどん増え続けている理由も何となくわかるような気がします。
おそらく、この数十年は、幼少期からのストレスがあまりにも強いのだと思います。
その結果として「子どもたちのテロメアが短くなっている」という可能性が考えられ、つまり、日本の子どもたちが高齢者となった頃の寿命は、これからどんどん短くなりそうです。
私の子どもの頃は、10歳に満たない子どもなど、ピーピーキャーキャー遊んでいるだけで、他に何もした記憶にないですが、それでいいのではないのかなとは今でも思いますけれど、社会はもうそうではないですからね。
ちなみに、今の日本の子どもたちにとって、「もっとストレスになっていることは何か」というのは想像されたことがあるでしょうか。
それは「友だちと遊べない」ということなんです。
これは感覚的なことではなく、たとえば、下のような報道にあります。昨年8月の産経ニュースからです。
「友達とあそぶ」に飢える子供たち…NPOが調査した現代っ子の本音
産経ニュース 2015.08.31
子供たちの願いは「何をしたいか」ではなく「誰としたいか」。
全国の小学生に、放課後や夏休みに「何をしたいか」と聞いたところ、4人に1人が「友達と」「みんなで」という言葉を最も多く回答していたことがNPO法人の調査でわかった。
同法人は、背景に「親と過ごす時間が増え、友達同士の時間が少なくなっている」と指摘し、対策を促している。
調査は昨年6月~今年5月、全国の児童約1000人を対象に実施。計1029人が回答した。「放課後などにやりたいこと」として(略)
一方、質問にはあげていなかったものの、回答中で目立ったのは「何を」するかではなく「誰と」するかという希望。
4人に1人が「『友達と』海に行きたい」「『クラスみんなで』思い切り遊びたい」など、「誰」の部分を明確に回答し、中でも「友達と」が圧倒的に多かったという。
今の子どもたちは「友だちと遊ぶこと」という普通のことに対して、それほど飢えています。
「ただ友だちと遊ぶ」ということが「できない」という、私たちの子どもの頃には想像もできなかった社会に生きています。
自分の幼少期の記憶から思えば、このストレス感は、半端ないと思いますよ。
詰め込み教育と共に、テロメアを短くするのに十分だと思います。
どれだけ物質的に恵まれていようと、物質ではカバーできないことが人生にはたくさんあります。
いずれにしましても、そういう問題に加えて、今後、社会全体にストレスが多くなる可能性もあり(様々な要因、あるいは災害などで社会が混乱した場合など)、それらが幼少期の子どもたちにも心の負担になるとすれば、人々全体のテロメアの短縮はさらに加速しそうで、いつの日か、日本は「長寿国」という看板も急速な勢いで失っていくだろうと予測されます。
今回の検証が正しいのならば、「子ども時代に失われたテロメアは、成長した後から取り戻すことはできない」ので、後の人生でどう頑張っても、その人の基本的な老化の速度と寿命を変更するのは難しいことになりそうです。子ども時代の環境と過ごし方がその人の一生にとって、どれだけ大事かということになりそうです。
人間にとって、幼少期の生き方がどれだけ大事かということがわかったという意味では興味深いニュースなのではないでしょうか。
では、カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームによっての研究結果を取り上げた記事をご紹介します。
なお、記事にあるストレスの要因には、「両親の貧困」などもありますが、これは難しい問題で、たとえば、大昔の日本人の家庭は軒並み貧困でしたが、子どもがそれをストレスに感じるなど、あまりなかったはずです。貧困がストレスとなって襲いかかってくる背景には「社会が物質重視になり過ぎている」ことがあるかと思います。
しかし、そういう解釈は別としても、たとえば紛争地域の子どもたちや、中東やアフリカなどの本当の貧困地域の子どもたちの未来に訪れる可能性のある状態というのも、その時がどういう時代であるにしても、ある程度悲しい未来が想像はできるものでもあります。
Sponsored Link
Scientists: burdens in the childhood reduce life at the cellular level
Earth Chronicles 2016/10/04
科学者グループ:子ども時代の負荷は、細胞レベルで人の寿命を短縮する
小児期における離別や悲痛が DNA の損傷に対して保護をする役割を持つ染色体の先端部分にあるテロメアの長さを減少させることが判明した。
テロメアの長さの減少はヒトの細胞の老化を意味する。
研究は、カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームにより行われ、その結果が先日、米国科学アカデミー紀要に掲載された。
テロメアは、人体の各細胞の核にある染色体の末端部分にある部位で、DNA を損傷から保護する働きをもつ。テロメアは、細胞分裂を繰り返すたびに徐々に短くなっていき、短くなると染色体は不安定になり、最終的に分裂をしなくなる。
その時に細胞は死滅する。
つまり、テロメアの長さが短いほど、細胞の死滅が近いということになり、それは老化を意味する。
最近、科学者たちは、テロメアの長さが加齢の状況だけで変化するのではないことを見出した。
加齢だけではなく、うつ状態、経済的困難、そして、ストレスと結びついた構造体の中でのプロセスの結果として、テロメアの長さが変化することがわかったのだ。また、親しい人との離別と孤独は、より強くテロメアを短くすることもわかった。
ブリティッシュ・コロンビア大学のエリ・ピュートマン(Eli Puterman)氏が率いる研究チームは、小児期にストレスが多い状況で過ごした場合、それが、テロメアの長さと細胞の健康に影響するかどうかを確かめる大規模な調査を実施した。
この研究のために、科学者たちは約 4600人のアメリカ人の高齢者を分析した。これは、染色体におけるテロメアの長さと老化の関係を調べるものとしておこなわれた調査としては、アメリカで最大規模のものとなる。
その結果として、興味深い事実として浮かび上がったのは、調査に参加した人たちの中で、幼少期に深刻な状況を経験した人たちや、人生の最初の数年間に困難を乗り越えなければならなかった人たちについてのものだった。
幼少期の困難の理由は事情により様々だ。両親が貧困だった場合や、離婚などによる父親や母親との離別を体験した人たち、あるいは、親がアルコール依存症や麻薬常習者だった場合、あるいは、学校や親族などに関係する様々な問題もある。
また、幼少での犯罪経験や、それと類似したネガティブな問題も含まれる。
そのような子ども時代の問題の追跡に加えて、研究では、彼らが大人になってからの逆境や災難の経験についても追跡した。
この分析は、小児期と成人期における有害要因の、それぞれ一部はテロメアが短くなることと結びつくことを示し、高齢者において寿命を短くさせることを加速させた。
しかし、このすべてのプロセスのほとんどは、成人期より、小児期における有害要因の影響を受けることが見出され、その場合、テロメアが平均で 11%短くなっていることが示された。
興味深いのは、小児期の体験が高齢期のテロメアの長さに影響するのに対して、青年期の体験に関しては、そのプロセスにまったく影響を及ぼさなかったことだ。
科学者たちは、幼少期の社会状況のあり方は、人の余生の長さと人生の質に強力に影響すると考えられるとし、また、ストレスの多い状況では、テロメアが損傷しやすい傾向から、慢性疾患の素因にも影響するかもしれないという。
心臓や血管に関しての慢性疾患や、糖尿病やその他の危険な疾患になりやすいことなどが考えられる。
じきに、同様の調査がヨーロッパにおいてもおこなわれる予定となっている。