嶋中雄二著『太陽活動と景気』(1987年)より
太陽活動や地磁気活動は、ヒトの精神活動を乱すことが知られており、統合失調症の患者数は、約 10年の周期的変化を繰り返していることがわかっている。また、もしも、地磁気と生体膜の透過性との間に何らかの関係があるとするならば、中枢神経系への地磁気の直接的な影響の可能性が理解できる。
冒頭に挙げさせていただいた文章は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券参与で、エコノミストの嶋中雄二さんが、かつて記した名著『太陽活動と景気』からのもので、嶋中雄二さんは歴としたエコノミストでありながら、「景気循環のサイクル」を調べる中で、太陽活動と経済活動の関連を考えざるを得ないということで、徹底的な資料のもとに書き下ろされた著作ですが、その中には、上のように「人間の精神への太陽の影響」についてふれられている章があります。
「景気」というのは人間が作り出すものですので、その人間自身の変容によって、いくらでも変わっていくものですが、景気の循環(良くなったり悪くなったり)に、わりと厳密な「時間軸としてのサイクル」が存在するのはどうしてなのだろうかというような疑問から始まったもののようです。
このあたりについては、過去記事の、
・人類のボスは誰ですか?
2014/03/26
などに記したことがありますが、人間はこの社会を「私たち人間自身が作りあげて、その営みを続けている」と考えますけれど、「その背後」もまた人間なのかどうかはよくわからないことです。
統計的に、人間社会が太陽の影響を受けてきている以上、宇宙や太陽に「操られている」部分がある存在なのかもしれないのです。
まあしかし、これは「太陽の影響を受ける」というようなざっくりとした書き方をするよりも、太陽から発せられる「磁力の影響」を人間は受けているという理解でいいのだと私は考えています。
人間は細胞からできていますが、そこに流れる「血液」とは何かということが、このことと関係することです。すなわち、血液というものは結局、鉄であるということが言えまして、人間の血液(他の動物もそうです)そのものが磁場や磁力に敏感に反応し続けているということが言えそうなのです。
先ほどの、『太陽活動と景気』にも、
血液中のヘモグロビンは鉄と色素の複合体であるヘムと蛋白質であるグロビンから成るが、グロビンは「反磁性」とされているから、本質的には鉄の科学的状態が血液の磁気的性質を発生させていると考えられるのである。
という記述がありますが、「血」というのは、
・鉄(ヘム)
・たんぱく質(グロビン)
から成っているもので、人間(および血液を持つすべての生物)は、常に磁力から、行動、あるいは精神に対して影響を受け続けているということが言えそうなのです。
また、ロシアの科学者だったアレクサンドル・チジェフスキー博士は、20世紀初頭に「太陽活動と社会的変動に相関関係がある」ことを初めて示しました。
このことは『太陽活動と景気』にも書かれています。
『太陽活動と景気』 チジェフスキーと太陽生物学より
1915年から24年にかけて、ロシアの科学者で歴史家でもあったA・L・チジェフスキーは、紀元前 600年にまで遡り、戦争、民族大移動、革命、流行病のような社会的大変動に及ぶ資料を72の国から集め、これら地球上の人間活動と太陽活動との関係を徹底的に調べた。
(略)
こうして、チジェフスキーは、地球上のあらゆる生物の発達は、太陽宇宙因子の直接的影響下に進んだものであり、人類もその例外ではないと考えた。
彼は、戦争や革命など人間の不穏状態に関する徴候、あるいは「大衆の興奮も太陽の周期に従っている」とした。
チジェフスキーによって先鞭をつけられたこの「太陽生物学」(ヘリオ・バイオロジー / Helio-biology )は、その後ロシアの科学者の間で支持され、研究が盛んとなっていったのだが、西欧やアメリカではあまり受け入れられず、今日に至ってもなお、受け入れられていない。
とはいえ、あまりにも斬新で意表をつくような彼の研究は、当時のソ連でも反発を買い、彼自身はスターリンによりシベリアへ送られ、フルシチョフの時代にやっと釈放されている。
これは、チジェフスキーの説が正しいとすると、歴史の大変動の背後にあるものは、唯物弁証法よりもむしろ太陽であることになってしまうからであった。
そんなわけで、チジェフスキー博士の「太陽がすべてを牛耳っている」という主張は、スターリンの反発を買って、博士はシベリア送りにされてしまうわけですが、この「太陽がすべて説」が、指導者たちに嫌われる理由は、上には、
> 歴史の大変動の背後にあるものは、唯物弁証法よりもむしろ太陽であることになってしまうから
とありますが、要するに、「歴史を決めるのは指導者の力ではなく、太陽」ということになってしまうためで、どんな巨大な指導者が登場して、成功したように見えても、その背後には「太陽がある」というような理由が為政者たちに好かれることは今も昔もないと思われます。
ともかく、この「太陽の存在」が、地球の人間、あるいは、あらゆる生物たちに影響を与え続けていたことは間違いないことです。
戦争、革命、クーデター、宗教対立、暴力の多発、病気の流行、精神性疾患の流行などの多くが、太陽活動に伴って増えたり減ったりしてきたのです。
その相関関係は、チジェフスキー博士の論文のグラフを見ると、曖昧ではない明白なものではあることがわかります。
下のグラフはチジェフスキー博士が 1922年に発表したものです。
1840年から1920年までの世界の戦争と暴力行動
ここまで明らかな相関関係が統計上見られる以上、このことを否定するのは難しいです。
ところが、しかし、もはや太陽はとてもおとなしいのであります。
黒点は昨日再びゼロになり・・・。
地球の磁気の乱れもなし・・・。
・NICT
なのに、世界全体は、荒れ模様のままです。
一体どんなことが関与しているのか。
まあ・・・そんなこと、わかるわけもないんですが、そうしましたら、下のような古い論文を見つけたのでした。
1989年に米国ミズーリ大学から出された論文「気温と攻撃性」
「気温と攻撃性の関係ねえ」と思いながら、ここ 100年間ほどの地球全体的な気温の上昇と、そして、このつい最近も、世界のあちらこちらで見られる「極端な猛暑」のことを考えます。
東アジアの猛暑から出てきた「セロトニン」のこと
それにしても暑いですねえ(本心じゃないだろ)。
はい・・・そうなんです。
西日本は大変な暑さに見舞われている中、関東は、梅雨明けはしたそうなのですが、相変わらず時間帯によっては、むしろ涼しい日々が続いています。
今は午後2時くらいですが、気温は下のようになっています。
夏日は夏日ですが、風が涼しいために、まったく暑くはないです。
こんな程度の気温でも、テレビの天気予報を見ますと、「熱中症に厳重にご注意ください」と必ず言います。
最高気温 29℃程度のたびに厳重に熱中症に注意しなければならないというのは、もはや形而上的な世界ですが、それでも「奇妙な熱中症の連呼」は毎日続いています。
まあ、それでも今日明日あたりからは関東などでも「ある程度は夏っぽい」ような天気になるようですが、それにしても、予報ではずっと先まで熱帯夜もないですし、こんなに気温の低く感じる夏は久しぶりな気がします。
しかし、関東や東日本ではそうでも、日本の西日本などを含めて、東アジアは全体としては、現在、「灼熱」というようなことになっているようです。
2016年7月25日の中国の報道より
台湾の7月27日午後1時の気温分布
中国南部から中部の非常に多くの範囲で高い気温に包まれているようで、中国最大の都市である上海でも 40℃を記録したそうです。
上海では、あまりの暑さに家や外にいられない人々が、地下鉄の駅構内に殺到している様子が報じられていました。
上海の地下鉄の駅構内 7月25日
台湾も 38.5℃を記録したことが報じられていまして、どこも大変な暑さに包まれているようです。
韓国もこの夏は気温が高いようなんですが、その中で、韓国の東亜日報に下のような記事がありました。
猛暑に煮えたぎる地球
東亜日報 2016/07/26
地球が煮えたぎっている。「ヒートドーム(Heat Dome)現象」のためだ。これは、大気圏の中上層で発達した高気圧が停滞したり、徐々に動いたりしながら熱を閉じ込めているために、まるで熱いドームの下に大地が閉じ込められているような異常高温現象を起こすことをいう。
26州に猛暑警報が出されているアメリカでは、最高気温 46.1度を記録している。また、上海を始めとして、浙江省や福建省など、中国東南部の海岸地域の気温も 40度に達しているという。
世界気象機関(WMO)は7月27日、「今年は気象観測史上、最も暑い年になるだろう」と発表した。
韓半島(朝鮮半島)も同じだ。今年5月の平均気温は 18.6度と、気象観測開始以来最も高く、6月の平均気温は 22.3度で、史上3位の高さだった。
7月に入ってから 20日までの平均気温は 24.3度で、平年の 23.8度よりも高かった。温暖化やスーパーエルニーニョに太平洋の高温多湿な空気が高気圧に乗って韓半島に押しあがってきているために、蒸し暑さが続いている。熱くなった大地を冷やす梅雨の知らせもない。
と、現在の状況を記している部分があるのですが、注目すべきは、この記事のここから続くの部分でした。抜粋します。
英サウスウェールズ大学のランス・ワークマン博士は、熱気が脳のセロトニン分泌を促進させ、暴力性を増加させることを明らかにした。
脳が熱くなれば、体温を調節する視床下部からアドレナリンの分泌が増えるという報告もある。
これが、普段なら見過ごすようなことに対しても、腹が立つ理由でもある。
歴史上の大半の暴動は、平均気温が 23℃から 31度の時に起きた。米国で最近、白人と黒人との間に衝突が起きたのも、猛暑と無縁ではなさそうだ。
しかし、31度を超えると、戦うことすら億劫になるからなのか、事件事故もなかなか起きない。
要するに、「暑くなると暴力性が増加する」ということのようなんですが、ただ、
> 熱気が脳のセロトニン分泌を促進させ
とありますが、セロトニンってのは、「幸せホルモン」とか言われて、一般的には「セロトニンが不足すると暴力性が増す」のではなかったでしたっけね。
たとえば、よくある説明として、こちらのサイトには、
セロトニンは、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑え、心のバランスを整える作用のある伝達物質で、セロトニンが不足すると精神のバランスが崩れて、暴力的(キレる)になったり、うつ病を発症すると言われています。
とあります。
何だかわからなくなったので、ちょっと調べてみますと、中国科学院 行動生物学研究室の段雲峰博士の「腸脳:暴力傾向と腸脳」というタイトルの論文が翻訳されているものがありました。
下は、その中のセロトニンの部分の抜粋です。
カッコ内は私のほうで入れた注釈です。
「腸脳:暴力傾向と腸脳」より
セロトニンは、暴力傾向に影響する最も重要な神経伝達物質であり、他の神経伝達物質の多くは、セロトニンへの影響を通じて暴力傾向に影響を与える。
予想外なのは、人の脳で作用するこの種の物質の95%が腸内のクロム親和性細胞(内分泌細胞の一種)に由来し、血小板に蓄えられることである。
抹消血中(カラダの末端=各細胞での血液)のセロトニンは、脳内のセロトニン含有量と機能に影響し、抹消血中のセロトニン含有量が多くなるほど暴力傾向が顕著になる。
セロトニンが血液中で増加するにつれて、中枢神経のセロトニンニューロン(セロトニン神経系)に転送されるセロトニンの量が減少し、中枢神経のセロトニンニューロンの機能が低下して、最終的に人の行動に影響する。
上記のような異常行動についても、抹消血のセロトニンレベルを検査することで間接的に大脳内の対応するセロトニン濃度を評価できる。
このように、セロトニンの多くは腸脳で作られ、頭脳の行動決定に影響を与える要素の一つである。
脳の作用に部位に影響を与えているセロトニンの9割以上が「腸内」にあるというのは意外でしたが、それはともかく、理屈として、この理解で合っているかどうかわからないですけれど、
・細胞内の血液にセロトニンが増えると、中枢神経のセロトニン神経系に転送されるセロトニンの量が減少する。
・結果として、血中のセロトニンの量が増えれば増えるほど、脳内のセロトニンの分泌が減少することで、人は暴力的になる。
まあ、ちょっと何だか変な方向に行ってしまいましたが、「暑くなると、暴力性が増す」ということについては、こういうような理屈ではともかく、統計上ではどうやら事実です。
気温と暴力性には強い関係性があるけれど
下は、アメリカ国立衛生研究所の国立生物工学情報センター(NCBI)が 2012年に発表した「テキサス州ダラスにおいての気温と暴力犯罪:気候変動の関係と意義」というタイトルの論文にあるグラフです。
気温と凶悪暴行事件の相関(テキサス州ダラス 1993-1999年)
・Temperature and Violent Crime in Dallas, Texas: Relationships and Implications of Climate Change
「気温が上がると、凶悪な暴力事件が増える」ということが、わりと顕著に出ていまして、気温が氷点下前後の時には1日に 80件程度だった凶悪な暴力犯罪が、気温が 26℃を超えたあたりでは、1日 120件前後に跳ね上がっていまして、誤差の範囲とはいえない上昇となっています。
これは、他にもいくつかの同じような研究の統計やグラフを見ましたが、気温が高くなると人間の暴力性が増すということは、ある程度は事実のようです。
ただ、面白いのは、上のグラフでも、31℃くらいを頂点として、その後は「やや下がっている」という部分です。
どうやら、「暑すぎると、むしろ暴力性は萎縮する」のかもしれません。
さきほどの韓国の東亜日報にも、
> 31度を超えると、戦うことすら億劫になるからなのか、事件事故もなかなか起きない。
とあり、まあ、億劫になるからかどうかはともかく、確かに、気温 35℃とかの中では、暴力行動すら忘れてしまうという側面はあるかもしれません。
そういう意味では、今の上海の 40℃とか、東アジアの多くを見舞っている 35℃以上というのは、暴力性の観点からはむしろいいのかもしれないですね。
中国も最近はいろいろ荒いですので、ずっと気温 40℃のままだと平和かもしれません。
なお、先ほどのロシアのチジェフスキー博士は、「社会的暴力」が「太陽黒点」と関係あることを見出しまたが、気温の観点からの研究は今もさかんで、「気候変動と社会変動」、あるいは、「気温と政治的暴力」の関係の研究などが続いているようです。
オープンアクセスの世界最大の科学雑誌 PLOS ONE には、昨年、「政治的暴力に温度が及ぼす影響:地方政府レベルに見られる全世界的な証拠(The Effects of Temperature on Political Violence: Global Evidence at the Subnational Level)」という論文が載せられまして、気温と政治的な暴力というようなものが関係があるというようなことになっているようです。
今では、このようなことも「数式」であらわすことができるようで、下のような、「気温と暴力」に関しての数式が載せられていました。
┐(´Д`)┌
この数式を見た途端、またイラッ・・・と。
そして、現在の気温を見れば、攻撃性がマックスに達するとされる気温 29℃・・・。
ともかく、太陽活動は人間の暴力行動と関係しているということに加えて、気温も人間の暴力行動に関係している・・・ということはわかりました・・・けれど、しかし、ふと考えると、「暴力が多発する根幹」は、それではないことは明白です。
その時代に起きている「すべてのこと」は、その時代に生きている人間が作りだした社会に全体として通底する概念が発生させているのだと思っています。
テロなども含めて、いろいろな事件や出来事が起きると、今の時代は、メディアも私たちも、おこなった方への糾弾だけをしていれば安心してしまって、「自分を振り返る」ことをあまりしようとしません。
自分とは全然関係ない出来事ではあっても、「今起きていることは本当に自分とは関係ないのだろうか」と最近思うことが多いです。
理想的なことを言うような人々がよく言う「世界全体はひとつ」であるというような言葉は、単なるうわごとなのだろうかと。
すべてがひとつであるなら、起きている凶悪な出来事も、犯罪や狂気もすべて自分と共通の何かの中で起きているのではないかと。
今、自分がイライラしやすいのは、その矛盾を解消するのは容易ではないことに気づいてしまっているからかもしれません。
まあしかし、そのあたりの面倒くさい話はともかく、気温が社会的な暴力性なんかと関係しているというのは興味深くはあることではあります。
考えてみれば、「感染症の流行」も気温と非常に密接に関係していて(気温が高いと流行しやすいものと、その逆のものがあることなど)、場合によっては、それが社会的に大混乱を引き起こすわけですから、気温というトリガーも、世界全体で大きく変化していくと、「地球全体の変化」というものとも関係してくるものなのかもしれません。
世界の平均気温がここから短期間で急速に上がっていった後の数年で急激に下がっていくというようなことがあれば、もう世界は大混乱です。
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