アメリカ合衆国大統領行政府が作成した「国家宇宙天気行動計画」表紙
・National Space Weather Action Plan
次の10年間で壊滅的な太陽嵐が地球を直撃する可能性は12%とNASAは試算しているけれど
過去の In Deep の記事には、「太陽の脅威」関係の記事がとても多いです。
やはり、2012年頃を中心とした太陽活動の最大期には、大きな太陽フレアが直撃する可能性があることを気にしてのものでしたが、しかし、次第に、
「現在の太陽活動は異常なほど弱い」
ということがあきらかになり、それどころか、2013年には、
・太陽活動が「過去200年で最も弱い」ことが確定しつつある中で太陽活動は復活するか
2013/10/21
というタイトルの記事まで書いたことがあります。
この「 200年で一番弱い」というのは感覚的な話ではなく、1755年から始まった、黒点観測の 260年間の中での比較でのものです。
下は、その記事に載せたものですが、平たく言うと、それぞれの太陽活動サイクルが活動最大期になるまでの黒点数の総量です。
太陽活動サイクル開始後58ヶ月までの黒点の総数の偏差
・Current Sunspot Cycle Weakest In 190 Years
この 260年間で、最も太陽活動が弱かったのは、1823年から 1833年までのサイクル 6ですが、現在のサイクル 24と呼ばれるサイクルは、サイクル 7以来の「 190年間で最も黒点が少ない(太陽活動が弱い)」ものとなっているのです。
そういうこともあり、この頃から「壊滅的な太陽フレアは起きないかも」と思い始めていたのですが、ここに来て、
「アメリカ政府が、全省庁レベルの協調で、太陽嵐の直撃に対しての行動計画を立て始めた」
というニュースを知りました。
今回はそのことを記していました下の記事をご紹介します。
わりと長めの記事ですので、あまりいろいろと前振りは書かずにいきたいと思いますが、記事の中には 1989年の太陽嵐でカナダのケベック州で広範囲で停電が発生したことが書かれていますが、過去に発生したもので最大の太陽嵐といわれているのは、1859年に起きた「キャリントンの太陽嵐」と呼ばれるもので、これが、知られている中では、史上最大とされる規模の磁気嵐を地球にもたらしたものとされています。
このことは、
・1859年の規模の「超」太陽嵐がもし現代の世の中に発生したら
2010/10/20
という記事に書いたことがありますので、ご参照下されば幸いです。
当時の被害は限定的でしたが、この 1859年の太陽嵐で、なぜ世界的にそれほど大きな被害が出なかったかというと、
「まだ電気文明がそれほど広まっていなかった」
からです。
ヨーロッパと北アメリカには送電網はありましたが、電気を使った通信インフラは「電報」くらいで、しかも、電報を使う人など、まだ一部だったのではないでしょうか。そのため、ほとんど影響はありませんでした。
もちろん、ヨーロッパと北アメリカでは、送電線がクラッシュし、すべての電報システムが使用不可能となりました。
これが、非常に電気に依存している現在の社会で発生しましたら、まあ、もうどうにもならないことはどうにもならないのですね。
1859年規模の太陽嵐が地球を直撃した場合に想定されること
・電力送電網のクラッシュによる完全な停電
・通信システムの崩壊
・放送網(テレビ、ラジオ)の崩壊
・飛行機の墜落
・コンピュータシステムの停止
・移動手段(車、電車等)の停止
・コンピュータに依存する軍事システムの停止
・コンピュータに依存する政治システムの停止
・コンピュータに依存する医療システムの停止
・あらゆる物流の停止
・食料供給へのダメージ
・インターネットシステムのシャットダウン
・電気システムに頼るインフラの停止
想定される被害については、2010年に、アメリカ国立科学財団が発表した論文を、
・アメリカ国立科学財団が太陽CMEによるテクノロジー破壊を警告
2010/03/20
という記事でご紹介したことがありますが、そこには、アメリカを直撃した場合の想定として、
変圧器を含む相互接続された送電網の機能を破壊し、停電が最大1億3000万人に影響し、それらによってサポートされている下水システム、電子運輸機構を破壊し、また、システムの崩壊は、飲料水、食物、薬、および燃料の配信を止めてしまう。
とあり、米国科学アカデミーは、その際の被害額は最大で 240兆円に達すると発表しています。日本でも直撃を受ければ、このような「何十兆円」単位の被害になると思われます。
現在の複雑なインフラシステムも、通信システムも、その根底は電気ですから、何というか、「文明の基盤が土台から崩壊する」という雰囲気はあります。
ただ、そんな巨大な太陽嵐が今後発生するかどうかというと、今の太陽活動の状況を考えると、それは想像しくいですが、しかし、
・2012年 7月 23日に地球の文明は太陽によって「終末」を迎えていたかもしれなかった
2012/03/21
という記事に書きましたが、2012年には、1859年の太陽嵐に相当するような磁気嵐が、「ギリギリで地球の方向を向かわず、かすめていった」という出来事もありました。
この時、アメリカのフォーブス誌には
「地球の文明を暗黒時代に戻すことのできるほどの超強力な太陽嵐が地球のすぐ近くを通過した」
というタイトルの記事が掲載されるほどでした。
これほど弱い太陽活動の中でも、そんなと強力な太陽嵐は起こり得るわけで、確かに、「いつ何が起きるか」ということはわからないです。
そして、今になって、アメリカ政府が本気で、しかも、わりと迅速に行動計画を進めているということの裏には、そういうことの起きる可能性も残されているという考えがあるのかもしれません。
でも、対策なんて取れるのだろうか・・・とも思いますが。
ちなみに、今回の記事にも「暗黒時代」という言葉が出てきますが、電気のない生活は本当に暗黒なのかどうかというのは難しいところで、あまりにも電気に依存した私たちの生活を少しただすには、そういうショック療法しか、もう残っていないのかもしれないなあという思いも最近はあります。
心のどこかで、あるいは、潜在意識などの奥底で、人々は「電気に縛られている生活から解放されたい」と、ほんの少しでも思っている部分もあるのではないかなあとも思います。電気に縛られている生活は本来的な人間の生活ではないようにも思います(便利ですが)。
いずれにしても、それらはすべては母なる太陽におまかせするしかないことです。
ちなみに、参考までに、超巨大な太陽フレアの直撃が決定した時(時間的猶予は 10時間以上あります)に行うべきプレッパー的行動については、
・太陽フレア等による電磁パルス(EMP)に見舞われた際の通信手段
2010/12/13
という記事に書いたことがあります。
これは太陽フレアだけではなく、EMP 兵器での攻撃や核兵器での攻撃の際にも、基本的には共通の内容です。
(核兵器に関しては、「核攻撃を受けた際の対処法」という記事も書いたことがあります)
結局、いろいろと書いてしまいましたが、ホワイトハウスが、太陽嵐に無形の準備を始めた件に関しての報道です。
The White House is prepping for a huge solar storm that could kick us back into the Dark Ages
BUSINESS INSIDER 2015/11/07
ホワイトハウスは、私たちの生活を暗黒時代に戻してしまう可能性を持つ巨大な太陽嵐のための準備を始めた
電気と電子機器に囲まれた現代の私たちの生活にとって、太陽は手強い存在だが、ホワイトハウスはそれに対しての保護準備の行動を始めた。
10月29日、ホワイトハウスの国家科学技術委員会( National Science and Technology Council )は、極端な宇宙天気事象への準備のための戦略的計画を発表した。
太陽活動による極端な宇宙天気が発生した場合、人工衛星、宇宙船、および地上の重要な通信システム等が破壊される可能性がある。
これらの電気系統の多くはお互いに依存しているために、災害時には連鎖した被害を受けやすいのだ。
「これらの重要なインフラは、多様化した複雑な相互依存のシステムから構成されており、ひとつの故障が、雪崩のように他のシステムの故障を誘発させかねない」と、国家科学技術委員会の理事会は報告している。
2兆ドル(約 240兆円)を賭けた行動
太陽は、毎秒、時速百数十万キロメートルの速度で、帯電した素粒子を空間に噴出している(太陽風)。
一般的に、太陽風は下の NASA の図で示されるように、地球の磁場を通過する力を持っていない。
しかし、時に、太陽は超強力な太陽風が地球に向かってくることがある。
その場合、太陽からの噴出は私たちの地球の防御壁である磁場を貫通できる可能性がある。
もし、そうなった場合、私たちの電力システムを含めて、「たった数時間のうち」に、私たちの生活は暗黒時代に逆戻りしてしまうだろう。
カナダは 1989年に、これによる「ミニ暗黒時代」を経験した。この年、強力な太陽フレアによる CME (コロナ質量放出)がケベック州を直撃し、ハイドロ・ケベック電力社の送電システムの崩壊を引き起こしたのだ。
太陽風の威力が、この時よりも激しいものだった場合は、ケベックの時より、さらに激しく「電力システムが一掃」される可能性もある。
現代社会では、そのような終末的な出来事は起きてはいないが、専門家たちは、2008年に、そのような「怪物レベルの太陽放射」が起きた場合のアメリカの被害額は、2兆ドル( 240兆円)を超えると想定した。
これは、歴史の中で実際に起きた最も大きな単一の自然災害の 10倍以上の被害額だ。
そして、 NASA は、次の 10年以内にそのような打撃を地球が受ける可能性が 12%あると試算している。
ホワイトハウスは、この 12%という確率を無視しなかった。
カウントダウン:12〜15時間の警報
太陽からの強力な放射が地球に衝突する際に、私たちにできる防御手段は、あまりないが、被害を軽減することのできる手順はある。
まず1つは、太陽からの放射が地球を直撃する可能性がある場合に、それが「いつ」地球を直撃するかという予測を知ることだ。
アメリカ海洋大気庁( NOAA )の宇宙天気センターは、この特定の目的のために、24時間 365日、太陽のモニタリングを行っている。
宇宙天気センターの代表トーマス・バーガー( Thomas Berger )氏は「太陽活動を火山(の噴火の予測)のように考えていただくことができます」と述べる。
「太陽からの噴出の時期を正確に予測するのは困難ですが、その兆候をうかがうことはできるのです」
そして、NOAA は、太陽で爆発が発生した場合、航空会社、人工衛星のオペレーター、そして電力会社などを含む適切な機関に対して、適切な指示を与えることができる。
地球を直撃する 12時間から 15時間前から警告を与えることができるという。
バーガー氏は、NASA による太陽の研究によって、ほぼ確実に将来の警報システムはさらに改善されるだろうと述べた。
しかし、単に太陽からの放射が地球に向かっていることを知るだけでは、まだ十分ではない。その放射が「どのくらいの強さなのか」を予測する必要があると、バーガー氏は述べる。
カウントダウン:15〜 60分間の行動
太陽嵐の強度を決定するためのものとして NOAA は「津波ブイ( tsunami buoy )」とバーガー氏が呼んでいるものがある。これは、現在、地球から地球と太陽の間の約932000マイル( 1,491,200 キロメートル)にある「 L1 」と彼らが呼ぶ宇宙空間内の目には見えない点のことで、以下に示されるものだ。
このブイ衛星は、アドバンスト・コンポジション・エクスプローラ( ACE )と呼ばれており、太陽嵐がこの ACE に当たると、ACE は、太陽嵐の情報を NOAA にリアルタイムで送信する。
ブイ衛星に太陽嵐が当たってから、地球に直撃するまでは、約 15分〜 60分の時間がある。
そのブイの情報から、その太陽嵐が地球にどのような影響を与え、どのような被害を与える可能性があるかを探るのだ。
ACE は稼働が始まってから7年目となり、もうじき、この役割は、気候観測衛星ディープ・スペース・クライメート・オブザーバトリー( Deep Space Climate Observatory / DSCOVR )がおこなうことが予定されている。
この気候観測衛星 DSCOVR は、太陽嵐に対しての、アメリカの主要な警告システムとして機能することになるだろう。
アメリカ内と、その枠組みを超えての協力
国家科学技術委員会の報告書によれば、ホワイトハウスは、24の省庁、機関、および支局にこのことを呼びかけ、次の2年以内に、各機関が基準に達するための呼びかけをおこなうとしている。
これらの基準は、太陽嵐に対しての、脆弱性の評価を設定し、行動をおこなう最小基準を確立しリスクを理解するための「工学的基準を作成する行動に対処」するようにされるとしている。
それにより、報告書によると、(太陽嵐の被害の後の)「応答行動と、復旧計画を強化する」とある。
例えば、アメリカ国土安全保障省は、エネルギー省と共同で、「すべての災害停電後の事故付属文書」を 120日間で作成するとしている。
そこには、極端に激しい太陽嵐に対応し、復旧するための手順が含まれる。
太陽嵐の直撃に備えているのはアメリカだけではない。
極端な宇宙天気は、地球全体に影響を与える可能性があるため、欧州宇宙機関( ESA )は、現在、警報ネットワークの開発に関する欧州 14カ国の科学者と協力していると、11月5日に彼らは報告した。
ESA 宇宙天気局のユハ・ペッカ・ルンタマ( Juha-Pekka Luntama )氏は、 以下のように報告した。
「欧州における宇宙天気予測システムの開発は成功が積み上がり続けており、ほんの数年前には予見することができないことでしたが、これを商業ベースにすることを確約します」
これらのニュースは素晴らしい。
なぜなら、地球は私たちが持つ唯一の家だからだ。
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