21世紀になってからの病原体
米ゼロヘッジの「米国は人類に対する生物兵器の研究、生産、使用においての世界的リーダーだ」という記事を読んでいました。その中に以下のような下りがあり、「ハッ」と思ったのです。そう思ったのは後半の1行で、他はどうでもいいのですが、そこだけの抜粋ではわかりにくいですので、前後を抜粋します。
1999年に書かれた「ゲノム戦争:アメリカの記録」という報道によると、その年の時点で、アメリカ政府は、フィリピン、プエルトリコ、ベトナム、中国、北朝鮮、ラオス、カンボジア、キューバ、ハイチに対して、化学生物兵器(CBW)を配備していた。近隣のカナダに対しても配備していたことがわかっている。
もちろん、アメリカ国民自身も、モルモットとして何度も使われており、数多くのアメリカ人が政府によって有毒な病原体や致命的な化学物質にさらされている。しかし、これはほんの一部に過ぎないことに注意してほしい。アメリカは代理戦争の手段を用いて、イラクやシリアで起こったような有毒化学物質や病原体を拡散させることでもよく知られている。
1999年以降、いくつかの異なるウイルスの発生が世界中で継続しているが、そのほとんどは人為的であると推定されている。
私がハッとしたのは、この中の、
> 1999年以降、いくつかの異なるウイルスの発生が世界中で継続しているが、そのほとんどは人為的であると推定されている。
という部分で、この何年間かずっとよくわからなかったことに対して、「あるいは、そういうものなのかもしれないなあ」と感じたのです。
それは何かといいますと、まずは、そもそも私は「パンスペルミア説」という、地球の生命あるいは生命の素材は宇宙からやってきているという理論の信奉者です。スヴァンテ・アレニウスからフレッド・ホイル博士まで多くの科学者たちが幅広く唱えてきた理論です。つまり、地球上のウイルスも基本的には、すべて宇宙からやってきていると。
しかし、私は、あまりにも「すべてがパンスペルミア説」と考えがちになっていたのかもしれません。
ウイルスの流行というのは突然起きます。それまで地球で一度も感染が発生したことのない病気が突然流行する。
記録が残る過去何千年で一度もなかったような感染症が突然世界的に流行する。
たとえば、以下の 2016年の記事では「1984年になって、地球は突然、ウイルスの攻撃を受けるようになった」ことを取り上げています。
・開き続けるパンドラの箱:アメリカ国立感染症研究所の感染症マップが示す、この30年間が「異常な病気の出現の時代」であったこと。そして、人類とウイルスの「歴史」が同一に見えること
以下の地図は、2016年2月の米ワシントンポストに載せられていた「世界で出現した新たな感染症」を「 1984年」と「 2015年まで」で比較したものです。
まずは 1984年ですが、これは最初に書いてしまえば、この時の公衆衛生上の最大の懸念は HIV (エイズ)だけでした。
1984年に新しく出現した病原菌
・Washington Post
そして次に、「 1984年以降」のマップです。2015年までの約30年間で、世界で出現した新たなウイルスの状況はどのようになったか。
1985年以降に新しく出現した病原菌
・Washington Post
このうちの「赤いマーク」は、完全に新しく出現した感染症(新型インフルエンザや SARS 、O157 など)、「青いマーク」は、過去に流行していて再び流行した感染症(コレラ、ペスト、黄熱病など)となります。
マップを文字で書きますと、疾患は以下のようになります。
1984年の時点で世界で新たに出現した病原菌
・HIV (エイズ)
1985年-2015年の間に世界で新たに出現した病原菌
[新たに地球上に発生した感染症病原体]
・ハンタウイルス肺症候群( Hantavirus pulmonary syndrome )
・腸管出血性大腸菌O104 ( E.coli O104 H4 )
・腸管出血性大腸菌O157 ( E.coli O157 H4 )
・C型肝炎ウイルス( Hepatits C )
・変異型クロイツフェルト・ヤコブ病( vC JD )
・ライム病( Lyme disease )
・ラッサ熱( Lassa fever )
・サイクロスポーラ( Cyclosporiasis / 原虫による感染症)
・重症急性呼吸器症候群( SARS )
・中東呼吸器症候群( MERS )
・重症熱性血小板減少症候群ウイルス( SFTSV bunya virus )
・変異型インフルエンザA型 H3N2v
・インフルエンザA 2009 H1N1
・鳥インフルエンザA H7N9
・鳥インフルエンザA H5N1亜型
・ニパウイルス感染症( Nipah virus )
・ヘンドラウイルス( Hendra virus )
・エンテロウイルス( Entero virus 71 )[かつて流行していた再び流行が発生した感染症病原体]
・ペスト
・コレラ
・エボラ出血熱
・マールブルグ出血熱
・黄熱病
・サル痘( Human monkeypox )
・デング熱
・リフトバレー熱
・耐性菌マラリア
この登場の勢いはものすごいものです。
しかも、その多くが 21世紀に入ってからのものです。
先ほどのゼロヘッジの、
> 1999年以降、いくつかの異なるウイルスの発生が世界中で継続しているが、そのほとんどは人為的であると推定されている。
という一文を読んで、この壮絶としか言いようのない過去三十数年の地球での新たな感染症の発生を思い出したのです。
これはもう、パンスペミアとかの問題ではないということを薄々悟るわけでした。
上の中のいくつかは自然発生したものだとしても、過去の比較として、あまりにも短期間に新規で出現する種類が多いのです。
ただ、私自身は、ゼロヘッジの言うような「ほとんどは人為的」という意味を生物兵器的なものとしてとらえているわけではないです。
そういう性質のものもあるでしょうけれど、どちらかというと、
「近年の科学研究の中で科学者たちがウイルスを改変し続けた結果、流出などを含めた拡散で、自然界のウイルスの世界の環境が破壊された」
というニュアンスに近いものを感じます。
さて、ところで、今は「新型コロナウイルスが人為的だという主張を陰謀論だとする動きがメジャーメディアで普通となっている」のはどうしてなのだろうと、よく考えます。その意味は何なのだろうと。
ごく単純に考えれば、人為的な流出の可能性のほうが著しく高いのに、なぜ? とは思います。
生物兵器というような極端なことを言う人もいますが、私のように、そう言っているわけではなく、「研究中のミスで流出した」ということさえ否定されてしまうのはなぜなのかと思っています。
かつて、武漢にバイオセーフティレベル4の研究所ができる前に、北京の研究室からは、少なくとも、 SARS ウイルスが 2回流出していることは事実としてあるのに、武漢だけでは「絶対にそんなことがあり得ない」と主張され続けているのはなぜなのか。
……とか何とか書きながらも、実はその理由が最近わかるようになりました。でも、そのことにはふれません。この記事を書いたのは、人を非難することが目的ではないです。
今回は、実際には、「新型コロナウイルスは人為的なものではない」と強く主張する人たちの意見の中にこそ、「人為的な可能性ばかりが浮かび上がってくる」ということをご紹介したいと思います。
科学的な分析ではないですので、読みやすい内容だと思います。
新型コロナウイルスの「年齢」は20歳から70歳
10日ほど前に、「新型コロナウイルスは武漢の研究室で遺伝子組み換えされていないことが判明した」という内容の記事が、世界中で配信されました。
最初は、米ファイナンシャルタイムズの記事で、それはロシアのメディアでも紹介され、日本でも東洋経済が「新型コロナウイルス「生物兵器論」は本当なのか」という記事の中で紹介しています。
その内容は、米ワシントン大学医学部とゲノム科学部の教授のトレバー・ベッドフォードさんという科学者による新型ウイルスのゲノム解析により、このウイルスが自然由来だと判明したという内容です。
ファイナンシャルタイムズには以下のようにあります。
トレバー教授は、新型コロナウイルス COVID-19 の遺伝子分析に基づいた最も可能性の高いシナリオは、ウイルスがコウモリによって 20年前から 70年前に別の哺乳類に伝染したというものだ。この中間宿主の動物はまだ確認されていないが、新型コロナウイルスが武漢市の人間に最初に感染したのは、2019年11月下旬または12月上旬だとわかった。
この「コウモリ」の種類は、中国雲南省に生息するキクガシラコウモリという種類のコウモリで、中国科学院の研究者も以下のように述べています。
新型コロナウイルスは、どう見ても天然のもので、人工のものである可能性はない。その根拠としては、新型コロナウイルスの全配列の分析によって、その遺伝子配列が雲南キクガシラコウモリに存在する RaTG13 コロナウイルスと最もよく似ていることが明らかとなっており、その一致率が 96%に上ることが挙げられる。
ということで、この新型コロナウイルスは、「キクガシラコウモリから人に自然に感染したことは確実だ」とわかったようです。
さて、この「キクガシラコウモリ」。
さぞや武漢や湖北省にたくさん生息していると思われるかもしれないですが、実際には、以下の中央日報の記事にあるように、
・湖北省にはいない
・武漢の市場でも販売されたことはない
ものです。
以下は報道からの抜粋です。
中国の教授「コロナ、武漢市場近くの実験室から流出」
中央日報 2020/20/17
中国広東省広州の華南理工大学生物科学と工程学院の肖波涛教授はグローバル学術サイトに論文を発表した。論文は新型コロナがコウモリから中間宿主を経て人に伝染した可能性よりも、湖北省武漢の実験室2カ所から流出した可能性を提起した。(略)
肖教授は実験室からの流出とみている理由について、新型コロナの天然宿主である「キクガシラコウモリ」は武漢から900キロメートル離れた雲南省・浙江省などに棲息していて、食用としては特に使われていない点を挙げた。また、武漢市政府の報告書や武漢市民の証言を総合すると、華南水産市場でこのようなコウモリは扱われていなかったという。
反面、武漢疾病予防管理センターは2017年と2019年、実験用に多くのコウモリを捕まえた。2017年には湖北省・浙江省などで約600匹のコウモリを捕まえたが、この中には重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスを持つキクガシラコウモリも含まれていた。当時、同センターの研究員は、勤務中にコウモリに噛まれたり尿をかけられたりしたと話した。
このように、キクガシラコウモリというのは、武漢から 900キロ離れた場所にしかおらず、あるいは他の報道では、生息域は武漢から 1200キロ離れているというものもありますが、いずれにしても、この距離は北海道から関西くらいの距離であり、そして「中国ではキクガシラコウモリは食用とされていない」ために、普通なら武漢にいるわけはないのです。
そういう中で、武漢では一般の人は誰もキクガシラコウモリなどというものとふれたことはないはずです。武漢でコウモリと日々ふれていたのは、武漢疾病予防管理センターや武漢ウイルス研究所の研究員たちだけであり、彼らはコウモリを使って、コロナウイルスの研究をしていました。
しかも、先ほどの報道にありますように、
「勤務中にコウモリに噛まれたり尿をかけられたり」
したりしているのです。このことは、論文を書いた教授が、武漢の研究者たち本人から聞き取りをしています。
こういう流れの中で、「新型コロナウイルスは人為的なミスで流出した」と考えることが、そんなに陰謀論となってしまうのでしょうか?
ファイナンシャルタイムズで見ました先ほどの米ワシントン大学のトレバー・ベッドフォード教授の他の言葉も印象的でした。
ベッドフォード教授は、「新型ウイルスは、コウモリによって 20年前から 70年前に別の哺乳類に伝染した」と述べています。
解析からのこの新型ウイルスの年齢は最も若くて 20歳、最も古くて 70歳だということがわかったのですが、教授はこう述べています。
「今までウイルスがどこにいたのかはわかりません」
つまり、20年前から 70年前に「コウモリから他の哺乳類に感染が起きていた」ことがわかったわけですが、
「数十年間ウイルスはどこにいた?」
という話なのです。
中間宿主のような存在があると考えると妥当な話にもなりますが、今のところ、そのような可能性は示されていません。
新型コロナウイルスは宿主の体を出ると「長くても数日で死滅する」のです。どんなウイルスでもそうです。宿主の体を出ると長くは生きられません。
それが数十年間どこかにいた。
直接関係のある話ではないにしても、思い出しますのが、以下の記事で書きました、武漢ウイルス研究所の周鵬という科学者の研究の主要なテーマです。
https://indeep.jp/one-chinese-scientist-could-be-linked-global-coronavirus-pandemic/
周博士の研究の主題は、「コウモリの免疫機構」を調べることですが、その中には、論文からですと、
「コロナウイルスを無毒化して保存する方法の研究」も含まれていた
と思われます。
つまり、「コロナウイルスを生体の中で保存しておく」方法を模索していたようにも考えられます。
ともかく、武漢ウイルス研究所と武漢疾病管理予防センターには「コロナウイルスに感染したコウモリが数多くいた」ということは事実です。
だったなら、そこからミスか何かでウイルスが流出したと考えることは、むしろ、調査項目として普通のことになるのでないでしょうか。
それにしても、今、上にリンクした過去記事を読み直していまして、「コロナウイルスの免疫の研究」という文字と、以下の報道が結びついてしまいます。
新型コロナウイルスの感染から回復した人が再び感染 中国
times.abema.tv 2020/02/21
中国で新型コロナウイルスの感染から回復した人が、再び感染したことが明らかになった。
中国・四川省で新型コロナウイルスに感染し入院していた患者は10日に退院し、10日間、自宅隔離となっていた。おととい、検査を行ったところ、再び新型コロナウイルスの感染が確認され、家族とともに入院した。
感染が確認された後、自宅があったアパート一帯はすべて消毒されたという。
しかしなぜ再び感染したかは明らかになっていない。
中国政府の衛生当局は、きのうまでに1万8264人が退院したとしているが、回復したとされる人も再び感染する可能性が明らかになった。
この記事を読んだ時には、以前少し不安に感じた「この新型コロナウイルスは、感染しても免疫を獲得できない性質とかを持っているのではないだろうな」という懸念を思い出させてくれます。
そういえば、本日、中国の研究者による新しいゲノム解析による研究が、中国などで広く報じられていました。
その内容は、
「新型コロナウイルスは、武漢の市場で発生したものではない」
ということを示したものでした。
また、注目すべき点は、この新型コロナウイルスは「感染源が複数ある」ことを示していることです。
この報道は、中国政府に近い報道メディアであるグローバルリサーチでも報じられていましたので、その記事をご紹介して締めさせていただきます。
中国の新しい研究は、新型コロナウイルスが武漢の華南海産物市場で発生したものではないことを示した
New Chinese study indicates novel coronavirus did not originate in Huanan seafood market
Global Times 2020/02/23
中国の研究者による新しい研究では、新型コロナウイルスは、武漢の華南海産物市場以外の場所から 11月下旬に人から人への感染を開始した可能性があることを示した。
中国の科学研究者向けのオープンリポジトリで公開された研究は、新型コロナウイルスが武漢以外の場所から華南海産物市場に導入され、市場で人から人へ急速に広まったことを明らかにしている。この調査結果は、4大陸の 12か国から収集された新型コロナウイルス 93サンプルのゲノム全体のデータ、感染源、および拡散経路の分析の結果から得られた。
12月8日に初期の感染が発生し、12月上旬または 11月下旬に人から人への感染が開始され、その後華南海産物市場に到達したときに感染が加速した可能性がある。
また、研究では、オーストラリア、フランス、日本、米国からの患者では少なくとも 2つの感染源があり、特に米国は 5つの感染源を報告していると述べている。ただし、他の国の限られたサンプルに基づいて、ほとんどの感染源は同じであると見られる。
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